「V2H」は、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV・PHEV)の大容量バッテリーを、自宅の電源として活用できるシステムとして注目されています。このV2Hの導入を検討する際に、まず知りたいのが導入費用でしょう。V2Hに必要な機器の種類や設置工事の手順とともに、導入費用の目安を紹介します。
- V2Hのメリットを簡単に解説!
- V2H導入に必要な機材は?
- V2Hを導入するための4ステップ
- V2H機器を選ぶ際のポイントは?
- V2H機器の設置費用の相場を機種別で紹介
- V2Hを賢く導入する補助金の基本
- V2H導入は意外と簡単。まずは相談してみよう
注:本記事で「EV」と表現する場合、「BEV(Battery Electric Vehicle)」を意味しており、PHVやFCVとは区別しています。
V2Hのメリットを簡単に解説!
V2Hとは?
V2H(Vehicle to Home)とは、EVやPHVの大容量バッテリーを、家庭で有効活用するためのシステムや考え方を指す言葉です。
具体的には、専用のV2H機器を介して、EVと家の電気を行き来させたり、EVやPHVの大容量バッテリーに蓄えておいたりします。これにより、家庭で電気を効率的に使うことができるようになります。
〈図〉V2H導入時の電気の流れ
V2Hの4つのメリット
V2Hを導入する4つのメリットを簡単に解説します。
(メリット1)災害時の非常用電源を確保できる
V2Hを導入することで、EVやPHVの大容量バッテリーを家庭の非常用電源として活用できるようになります。EVやPHVのバッテリーは大容量なので、車種によっては数日分の電気を供給することも可能です。
また、太陽光発電を設置している場合なら、停電していても昼間に発電された電気をEVやPHVのバッテリーに蓄えておき、夜間に家庭へ給電することもできます。
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(メリット2)電気代の節約が期待できる
夜間の時間帯が安い電気料金プランに加入している場合、夜間にEVやPHVに充電しておき、その電気を昼間に家庭で利用すれば、電気代の節約が期待できます。また、EVやPHVの走行コスト節約にもつながります。太陽光発電を設置している場合なら、余剰電力をEVやPHVに蓄えて利用すると、おトクになります。特に卒FITの家庭なら経済的でしょう。
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(メリット3)EVやPHVの充電時間が短くなる
多くのV2H機器では、EVやPHVの充電時間を大幅に短縮することができます。通常の家庭用200Vコンセントと比較した場合、最大2倍の速度で充電できるので、EVやPHVを頻繁に使う方は重宝するでしょう。
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(メリット4)太陽光発電の余剰電力を賢く使える
太陽光発電で作られた電気を家庭で使いきれない場合、V2Hを導入すれば余剰電力の使い道を自動で切り替えてくれます。余剰電力が発生したらEVやPHVに充電し、満充電になったら自動的に売電に割り振るという使い分けをすれば、節約だけでなくエコロジーにも貢献できるでしょう。
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V2H導入に必要な機材は?
環境にやさしく、経済性もよいV2Hを導入するためには、専用の機器が必要になります。必要な機材、あるとよい機材は次の3つです。
Ⅰ.V2H機器
EVやPHVの大容量バッテリーに蓄えられた電気は、乾電池と同じ「直流」という種類です。一方、家庭用の電気は「交流」です。つまりEVやPHVの電気は、そのままの状態では家庭で利用できません。そこで、「直流から交流」「交流から直流」に変換するための機器が必要になります。それがV2H機器です。
〈図〉V2Hによる電気の変換
また、V2H機器は、電力会社から送られる電気や、自宅の太陽光発電で作られた電気を、条件にあわせて賢く振り分けることもできます。
Ⅱ.V2Hに対応するEVまたはPHV
現在のところ、すべてのEVやPHVがV2Hに対応しているわけではありません。また、V2H機器の機種によって、接続できるEVやPHVの車種が異なります。導入するときには注意しましょう。
〈表〉V2H機器に対応するEV・PHVの一例
日産自動車株式会社 | リーフ、リーフe+、e-NV200 |
---|---|
三菱自動車工業株式会社 | エクリプスクロス(PHEVモデル)、アウトランダーPHEV、i-MiEV、MINICAB-MiEV VAN、MINICAB-MiEV TRUCK |
トヨタ自動車株式会社 | プリウスPHV |
本田技研工業株式会社 | Honda e |
※ニチコン(EVパワー・ステーション)対応車種の場合
(+α)太陽光発電システム
V2H導入の必須条件ではありませんが、V2Hのメリットをフル活用するためには、太陽光発電との連携が推奨されています。太陽光発電で作られた電気を利用することで、エコロジー(環境保全)への貢献や、電気代の節約が期待できるからです。
逆に言うと、すでに太陽光発電を利用している家庭は、V2Hの導入がおすすめです。また、V2Hの導入をきっかけに太陽光発電の設置を検討しても良いでしょう。
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V2Hを導入するための4ステップ
V2Hを導入する際、特に注意が必要になるのは、V2H機器の購入と設置です。
屋内配線が複雑なだけでなく、V2H機器を設置するためには電力会社からの承諾が必要になるため、V2H機器の販売・施工を行っている施工業者に依頼するのが基本となります。なお、住宅を新築する場合は、ハウスメーカーが建設時に対応してくれることもあります。
V2H機器を自宅に設置し利用するまでの手順は、以下のとおりです。
〈図〉見積り依頼から設置までの流れ
(ステップ1)施工業者に依頼し、V2H機器を決定
V2H機器は特殊な機械ですから、一般には販売されていません。また、設置して配線を接続するためには電力会社からの承諾が必要です。そのため、設置には施工業者に依頼を行い、機器の種類を決めます。
(ステップ2)施工業者による現場調査
施工業者が現場(自宅)を訪問し、工事費用の見積もりを行います。その際の打ち合わせで、V2H機器の設置場所や配線の経路などが決まります。
(ステップ3)工事契約(各種の申請)
現場調査が完了し工事の契約が結ばれると、V2H機器を家庭で使用するための申請を行います。申請は、施工業者側で代行してくれる場合がほとんどです。申請が完了するまでの期間は、すでに太陽光発電を設置しているかどうかで大きく変わります。
〈表〉各種申請期間の目安
太陽光発電が設置されていない住宅 |
必要な申請:電力申請 申請期間:約1~2カ月 |
太陽光発電が設置されている住宅 |
必要な申請:電力申請、事業計画変更申請 申請期間:約5~6カ月 |
(ステップ4)設置工事/配線・結線の電気工事
機器の設置は、基本的に各種の申請が完了した後で実施されます。工事が完了すれば、V2Hを利用することができます。
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V2H機器を選ぶ際のポイントは?
V2H機器は、製品によって性能が異なります。価格の違いは、主に性能の違いによって生じるといってよいでしょう。製品のスペック表を見る際に、チェックすべきポイントを紹介します。
〈表〉代表的なV2H機器「EVパワー・ステーション(ニチコン)」のスペック例
スタンダードモデル (VCG-663CN3) |
プレミアムモデル (VCG-666CN7) |
|
税込本体価格 | 43万7800円 | 87万7800円 |
---|---|---|
タイプ | 系統連系型(JET認証済) | |
停電時の電力供給 | 特定負荷型 | 全負荷型 |
停電時定格出力 | 3kVA未満 | 6kVA未満 |
倍速充電 | 対応 | |
グリーンモード | 対応 | |
リモート操作 | ×(本体スイッチのみ) | 〇(スマホアプリによる操作が可能) |
補償期間 | 2年 | 5年 |
Ⅰ.タイプ
V2H機器のタイプは、「系統連系」型と「非系統連系」型の2種類あり、「系統連系」型のV2H機器が市場では主流となっています。
①「系統連系」型
V2Hで扱う電気の系統はEVやPHV(のバッテリー)、電力会社(から送られる電気)、太陽光発電(で作られる電気)の3つです。
「系統連系」型のV2H機器では、3つすべての系統を同時に利用することができます。
〈図〉系統連系のイメージ
停電時にも、太陽光発電からEVやPHVに充電ができるため、昼間に発電された電気をEVやPHVに貯めておき、夜間に家庭へ給電することで、停電が続いても電気を使い続けることが可能になります※。
※ただし、VCG-663CN3は系統連系型ですが、停電時に太陽光発電の余剰電力をEV・PHVに充電することができません。
②「非系統連系」型
一方「非系統連系」型は、EVやPHV(のバッテリー)、電力会社(から送られる電気)、太陽光発電(で作られる電気)という、3つの系統を同時に利用できません。
たとえば、電気を家庭に給電する際に、「非系統連系」型のV2H機器では3つの系統のうち、ひとつしか選ぶことができません。
〈図〉非系統連系のイメージ(EVから家に給電する場合)
EVやPHVから家庭に給電しているときには、電力会社や太陽光発電からの電気が利用できないということになります。また、「非系統連系」型のV2H機器は、停電時に太陽光発電からEVやPHVに充電ができない点にも注意が必要です。
Ⅱ.停電時の電力供給
V2H機器の機種によって、EVやPHVの大容量バッテリーに蓄えられた電気の使い方が異なる点にも注意が必要です。電気の使い方は「特定負荷型」と「全負荷型」の2タイプがあります。
①特定負荷型
「特定負荷型」とは、停電時に使用したい電気の通り道(回路)をあらかじめ決めておくタイプのことです。回路が限定されるので、たとえば停電時には照明や冷蔵庫には電気が供給されるが、エアコンやクッキングヒーターには供給されないということになります。回路の中にコンセントが含まれていれば、延長コードを使い家電に給電することもできます。
②全負荷型
「全負荷型」は、家全体の回路すべてを電気の通り道にしておくタイプです。停電時は家のコンセントもそのまま利用することができますが、プラグが差しっぱなしの家電があると待機電力がかかってしまうため、利用しない家電はプラグを抜いておく必要があります。
Ⅲ.停電時定格出力
停電時に、V2H機器が安全に達成できる最大出力のことです。3kVA、6kVAなど機種によって差があります。数値が高いほうが、より多くの電気を使用できます。
Ⅳ.倍速充電
V2H機器の機種によっては、EVやPHVの充電時間を大幅に短縮することができます。通常の家庭用200Vコンセントと比較した場合、最大2倍の速度で充電ができます。また、家庭の電力消費を常時モニターし、使用電力に合わせ充電可能な電気を調整するため、ブレーカーが落ちる心配もありません。
Ⅴ.グリーンモード
太陽光発電の自家消費を優先するモードのことです。家庭の電気使用量が太陽光発電の発電量より多い場合は電力会社から電気を購入し、逆に太陽光発電より少ない場合は余った電気をEVやPHVに充電したり、電力会社へ売電したりという切り替えを自動で行ってくれます。
Ⅵ.リモート操作
通常時にV2H機器を操作する機会はほとんどありませんが、機種によって停電時には動作を手動で切り替える必要があります。その際に注意したいのが操作パネルの場所です。
操作パネルを家の中に設置できる製品もあれば、操作パネルが屋外のV2H機器本体についている製品もあります。たとえば台風が来ているときに停電してしまった場合、危険な屋外に出て切替操作をしなければならないのでは、V2Hのメリットが減ってしまいます。停電時の操作方法と操作パネルの場所も導入を検討する際に考慮しましょう。
なお、最新機種のなかにはスマホアプリでV2H機器を操作したり、稼働状況をモニタリングしたりできるものもあります。
V2H機器の設置費用の相場を機種別で紹介
Ⅰ.購入する場合
V2H機器の設置工事にかかる費用は、設置する機種や配線の長さ、さらに太陽光発電の有無によって変わります。駐車場が隣接している一般的な戸建て住宅の場合なら、機器代・工事代含め総額は約80万円以上になります。駐車場が自宅から離れておりV2H機器と自宅とを接続するためケーブルの長さが余分に必要な場合などは、追加の費用がかかります。
ここでは、参考例としてニチコン「EVパワー・ステーション」の設置工事費用を紹介します。
〈表〉設置工事費用の一例
スタンダードモデル (VCG-663CN3) |
プレミアムモデル (VCG-666CN7) |
|
本体価格 | 43万7800円(税込) | 87万7800円(税込) |
---|---|---|
工事費 | 約30~40万円(税込) |
なお、新規に太陽光発電システムを導入する場合には、太陽光発電パネルの本体費用に加え、設置工事費用等が別途必要になります。
【あわせてチェックしたい】「太陽光発電の設置」に興味がある方へ
▶︎「太陽光発電を初期費用0円で導入する方法、光熱費シミュレーションも紹介」(︎TEPCOホームテックのページ)
Ⅱ.定額利用する場合
V2Hを導入する際に、機器購入のほかに定額利用するという選択肢もあります。
たとえば、TEPCOホームテックが提供する省エネ機器の定額利用サービス「エネカリ」を利用すれば、工事費を含む導入の初期費用が0円になるので、リーズナブルにV2Hを導入することができます。
〈表〉設置工事費用の一例
スタンダードモデル (VCG-663CN3) |
プレミアムモデル (VCG-666CN7) |
|
利用料※ | 月額9070円(税込) | 月額1万3500円(税込) |
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※10年間契約の場合
10年間の利用料と比べると、V2H機器を購入したほうが安価になりますが、購入の場合は自然災害による故障がメーカーの保証対象外になる場合があるのに対し、エネカリなら自然災害による故障でも保証されるというメリットがあります。
V2Hを導入する際には、購入とエネカリ両方のメリット・デメリットを比較したうえで、目的にあった選択をすると良いでしょう。
【あわせてチェックしたい】「エネカリ」をもっと知りたい方へ
▶︎省エネ機器のスマートな定額利用サービス「エネカリ」(︎TEPCOホームテックのページ)
V2Hを賢く導入する補助金の基本
現在のところ、V2H導入における最大のハードルは機器の購入や設置工事にかかる費用です。しかし、V2Hは省エネやエコロジーに貢献できるシステムであることから、一定の条件の下、国や自治体からそれぞれ補助金が交付されています。次の基本を確認した上で、申請を検討しましょう。
Ⅰ.国の補助金
国の場合、V2H導入の補助金は経済産業省と環境省が、個別に用意しています。補助金の上限額は、下記のとおりです。
〈表〉補助金の上限額
経済産業省 | 環境省 | |
V2H機器の購入費 | 上限75万円 | 上限75万円 |
---|---|---|
設置工事費 | 上限40万円 | 上限40万円 |
補助金の申請ができるのは、どちらかの事業のみで、経済産業省と環境省の両方から補助金を受給することはできません。また、交付条件もそれぞれ違う点に注意しましょう。
Ⅱ.地方自治体の補助金
また、自治体で独自の補助金を交付している場合もあります。多くの場合、経済産業省や環境省の補助金と併用できるので、こちらもぜひ活用しましょう。
たとえば東京都の場合は、V2H導入の補助金として、上限30万円までの交付が受けられます。ただし、こちらも国の補助金と同様に交付の条件があるので、ご注意ください。
補助金の申請と聞くと難しいイメージがあると思いますが、設置を請け負う施工業者が代行してくれるケースが多いので、導入の際に相談してみると良いでしょう。
なお、基本的に各種の補助金は予算上限に達すると受付終了となります。現在、申請を受け付けているのかどうかなど、詳細情報については以下の記事をご覧ください。
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V2H導入は意外と簡単。まずは相談してみよう
V2Hは普及が始まって間もないため、EVやPHVを所有している人にとっても難しいイメージがあるかもしれません。
しかし基本を理解すれば、意外と簡単に導入できることがわかるのではないでしょうか。初期費用についても、補助金を利用すればコストを抑えることが可能なので、ぜひこの機会に導入をご検討ください。