卒FIT後の余剰電力はどうする? EV活用や蓄電池など自家消費を増やすための対策も紹介

太陽光発電の家

自宅に太陽光発電を導入している人にとって、「卒FIT」後の余剰電力をどうするかは重要な問題です。売電収入が大きく減ってしまう中、余剰電力を今後も単純に電力会社に買い取ってもらうのがよいのか、それとも自家消費を増やすべく何か対策したほうがよいのか、迷っている人も多いのではないでしょうか。この記事では、卒FIT後の余剰電力の使い道について、ふたつの選択肢を紹介。それぞれのメリット・デメリットを確認しつつ、卒FITに向けたおすすめの対策も解説します。

※この記事は2021年7月13日に公開した内容をアップデートしています。

 

 

注:本記事で「EV」と表現する場合、おもに「BEV(Battery Electric Vehicle)」を意味しています。PHEVやFCVとは区別していることをご認識ください。

 

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今さら聞けない…「卒FIT」とは?

家のギモン

画像:iStock.com/takasuu

 

太陽光発電を設置してから時間が経っている場合、そもそも「卒FIT」と言われてもいまいちピンとこない人もいると思います。まずは卒FITとはどのようなものなのか、改めておさらいしましょう。

大前提として、太陽光発電で作った電気の使い道は、自宅で消費するだけではありません。使い切れなかった余剰電力を、自分の住む地域の電力会社に買い取ってもらうことができます。

〈図〉太陽光発電の使い道

太陽光発電の使い道

 

そこで登場するのが「FIT」です。正式名称は「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(Feed-in Tariff)」といい、再生可能エネルギーの普及を目的として創設されました。FITは、太陽光発電や風力発電、水力発電といった再生可能エネルギーで発電した電気を、電力会社が一定価格で一定期間買い取ることを国が約束する制度です。

簡単に言うと、太陽光発電で作った電気のうち、自宅で使いきれなかった余剰分を、電力会社に買い取ってもらえるわけです。

〈図〉FIT制度の仕組み

ただし、FITには買取期間が設けられており、一般家庭に設置されることが多い容量10kW未満の太陽光発電の場合、期間は「10年間」と定められております。「卒FIT」とは、その期間を過ぎてFITの適用期間が終了することです。卒FIT後は、一般的に買取単価が非常に安くなってしまうため、余剰電力でこれまで通りの売電収入を出すことが難しくなり、場合によっては家計にも大きな打撃を与えます。

 

「卒FIT」後の余剰電力はどうする? 選択肢はふたつ

では、卒FIT後の余剰電力はどのように活用すればいいのでしょうか。選択肢は大きく分けて以下のふたつです。

 

① 電力会社との契約を続けて余剰電力を買い取ってもらう
② 余剰電力をなるべく多く自家消費できるよう対策する

 

それぞれの概要とメリット・デメリットを解説します。

 

選択肢①:電力会社との契約を続けて余剰電力を買い取ってもらう

選択肢①:電力会社との契約を続けて余剰電力を買い取ってもらう

 

ひとつめの選択肢は、電力会社(小売電気事業者など)との契約を継続し、これまでと同じように余剰電力を買い取ってもらう方法です(違う電力会社と契約し買取ってもらうことも可能です)。ただし、この場合の買取価格は、FIT適用時より大幅に下がってしまいます。実際にどれくらい買取価格が変化するのか、FIT適用時と卒FIT後で比較してみましょう。

まずはFIT適用時の買取価格ですが、これは自宅の太陽光発電にFITが適用された年度によって異なります。資源エネルギー庁のデータによると、各年度の買取価格は以下の通りです。このうち、適用年度が2009〜2012年度の方および2013年度の一部の方はすでに卒FITとなっています。

〈図〉FIT適用年度と買取単価

適用年度 買取価格(税込、1kWhあたり)
2009~2010年度 48円
2011~2012年度 42円
2013年度 38円
2014年度 37円
2015年度 33円
2016年度 31円
2017年度 28円
2018年度 26円
2019年度 24円
2020年度 21円
2021年度 19円
2022年度 17円
2023年度 16円

※10kW未満、太陽光単独、出力制御対応機器設置義務なしの場合

 

一方、卒FIT後の各電力会社の買取価格は、各社のサービスや条件などにより異なるため一概にはいえませんが、ひとつの目安としては7円~9円前後になります。ちなみに、東京電力エナジーパートナーの場合は、8.5円(再エネ買取標準プラン、税込)となっています。詳細は各社の公式サイトなどでご確認ください。

FIT適用時の買取価格も年々低くなってはいるものの、2023年度のFIT適用時の買取価格と卒FIT後の買取価格を比較すると、およそ1/2程度になってしまうことがうかがえます。電力会社との契約を単純に継続しただけでは、何だかとても損した気分になってしまいますね。

逆にこれまでと同じ電力会社と契約を継続する場合のメリットとしては、手間が少ないことが挙げられます。契約が自動更新になっている電力会社も多いため、手続きが一切必要ないケースもあります。東京電力エナジーパートナーに売電しているお客さまの場合、新たな手続きは不要です。卒FITを迎える前に、自分の契約内容に改めて目を通しておきましょう。

ちなみに、東京電力エナジーパートナーには買取プランの付帯サービスとして、環境対策に取り組んでいる企業を応援できる「再エネ企業応援プラン」もありますので、卒FIT後の余剰電力を効率的に活用したい人は、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。

▶「再エネ企業応援プラン」について詳しく知りたい方はこちら

 

 

選択肢②:なるべく多く自家消費できるよう対策する

選択肢②:なるべく多く自家消費できるよう対策する

 

ふたつめの選択肢は、これまで売電していた余剰電力をなるべく多く自家消費できるよう対策する方法です。これにより電気の自給自足が進み、電力会社から購入する電気量が少なくなり、毎月の電気代を抑えられます。ちなみに、対策を講じても余剰電力は多少なりとも発生しますので、ひとつめの選択肢である電力会社との契約は継続しておくことが前提となります。その点はご注意ください。

余剰電力を自家消費するメリットは、電力会社に電気を買い取ってもらうよりも経済的であることです。その理由はシンプルで、電力会社の設定している余剰電力の買取価格よりも、電力会社から購入する価格(電気代)のほうがかなり高いからです。たとえば、東京電力エナジーパートナーの一般的な料金プラン「スタンダードS・L」の場合、1kWhあたりの電気代は以下の通りです。

 

「スタンダードS・L」の電気料金単価(税込、1kWhあたり)
最初の120kWhまで 29.80円
121 kWh〜300kWhまで 36.40円
上記を超過した場合 40.49円

※燃料費調整単価、再生可能エネルギー発電促進賦課金は除く

 

▶東京電力エナジーパートナーの料金プランについて詳しく知りたい方はこちら

一方で、東京電力エナジーパートナーの余剰電力の買取価格は、1kWhあたり8.5円です。つまり、同じ1kWhの余剰電力が手元にあるなら、電力会社に8.5円で売ってしまうよりも、自家消費によって29.80〜40.49円分の電気代を節約したほうが、実質的にはおトクになります。

余剰電力を自家消費するには、太陽光発電が稼働している昼間の電気使用量を増やせばいいのです。たとえば、洗濯や掃除など電化製品を使う家事は晴れた日の日中にまとめて行うのがいいでしょう。また、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)の充電に使うと、エコなうえ自家消費量はもっと増えることでしょう。

さらに自家消費量を増やすためには、蓄電池やEV、PHEVの大容量バッテリーに充電しておいて、太陽光発電ができない夜や雨の日に、家に電気を戻し、使用する、といった方法も考えられます。

〈図〉電気の自家消費量を増やす方法

〈図〉電気の自家消費量を増やす方法

 

ただし、当然ながら蓄電池やEV、PHEVを所有していなければ、これらを導入するための高額な初期費用がかかります。また、EVやPHEVを蓄電池として使用する場合には、V2H機器を導入する必要があることも念頭に置いておかないといけません。

 

 

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余剰電力の自家消費増加に有効な「蓄電池」or「EVリフォーム」。それぞれの仕組みや違いは?

家の電気のシステム EVリフォーム

画像:iStock.com/metamorworks

 

このように、卒FIT後の余剰電力の使い道は、売電よりも自家消費のほうが経済的です。そして、余剰電力をできるだけ多く自家消費するためには、電気を貯めておくことが有効です。これにより太陽光発電を稼動できない夜間や、発電量が少なくなる曇天・雨天時にも、余剰電力を使用することが可能になります。

前述の通り、代表的な蓄電の方法はふたつあります。ひとつは蓄電池を設置すること、もうひとつは、EVやPHEVをすでに所有している人や購入を検討している人はEVリフォームをし、蓄電に必須となるV2H機器を導入すること。ここからは、それぞれの方法が一体どのようなものなのか、仕組みや違いを見ていきましょう。

 

蓄電方法①蓄電池の導入


蓄電池とは、充電して何度も使用できるバッテリーのことです。身近な例を挙げると、スマートフォンにも内蔵されています。蓄電池の容量や定格出力は商品によって異なり、大容量の定置型蓄電池を設置すれば、充電した電気だけでさまざまな電化製品を十数時間、同時に使い続けることも可能です。

貯めておいた電気を夜間や停電時などに使用できるほか、地震や台風といった災害時にも非常用電源として役立ちます。しかし、定置型の場合、設置したら原則動かすことはできないので、EVやPHEVのようにほかの用途で使用するという選択肢はありません。

なお、当然ながら、太陽光パネルで発電した電気だけでなく、電力会社から供給される電気でも充電することが可能です。この機能を利用して、電気料金プランによっては、電気代が安い深夜帯に充電しておく、といったこともできます。

〈図〉蓄電池の仕組み

〈図〉蓄電池の仕組み

 

 

蓄電方法②EVリフォーム(V2H機器の導入)


前述の通り、EVやPHEVに電気を貯め、それを家に戻すためには、専用のV2H機器を導入しないといけません。V2Hとは「Vehicle to Home」の略称で、EVやPHEVなどに搭載されている大容量バッテリーに蓄えられた電気を、家に戻して有効活用する考え方を指したもの。V2H機器は、そのためのハブのような役割を担っています。なお、すべてのEVやPHEVがV2Hに対応しているわけではありませんので、事前に対象車種の確認が必要です。

 

 

EVやPHEVと自宅をV2H機器でつなぐと、お互いの電気を行き来させることが可能になります。つまり、日中に使い切れなかった余剰電力をEVのバッテリーに貯めておき、それを自宅の電気として夜間や雨天時に使ったりできるのです。蓄電した電気はEVやPHEVの駆動力にもなるため、走行コストの節約にも役立ちます。

〈図〉 V2H導入時の電気の流れ

〈図〉 V2H導入時の電気の流れ

 

それに加えて、近年のEVやPHEVのバッテリーは、数百kmもの長距離走行にも耐えうるほどの容量を備えています。そのため、一般的な蓄電池の容量が3〜12kWhであるのに対し、EVやPHEVのバッテリーは約10〜100kWhと、数倍から数十倍の差がつくことも。車種によっては、家庭で必要になる電気を最大5日分も供給できるので、非常用電源としても蓄電池に比べ極めて優秀です。

〈表〉V2Hを利用した場合の給電可能時間例

メーカー 車種 バッテリー容量 放電可能時間※1
トヨタ bZ4X 71.4kWh 128時間
日産 アリア 66kWh 118時間
日産 リーフ 40kWh 72時間
ホンダ Honda e 35.5kWh 63時間
三菱 アウトランダーPHEV 20kWh 36時間※2
三菱 エクリプス クロス(PHEV) 13.8kWh 24時間※2

※1 条件:1時間あたり400Wh使用、全電池容量の80%を使用、V2Hの充放電効率90%で試算。
※2 バッテリーのみを使用した場合の時間です。エンジンでの発電・充電を組み合わせると放電可能時間は大幅に増加します。ただし、エンジンでの発電・充電時はV2Hによる放電(同時使用)はできません。

 

また、V2H機器は家庭用の200Vコンセントと比べて、最大2倍ほどの速度で充電できるのも大きなメリットです。たとえば、外出前にEVのバッテリー不足に気づいた場合も、状況によっては充電が間に合うかもしれません。

このようにEVリフォームを行うと、蓄電池よりも多くの余剰電力を貯められるほか、車の走行コスト削減などの恩恵も受けられます。EVやPHEVを所有している人、これから購入を検討する人なら、蓄電池の導入よりもEVリフォームのほうが理想的な選択肢と言えるでしょう。

 

▼「EVリフォーム」について詳しく知りたい方はこちら

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補助金を利用できるケースも。導入費用は「EVリフォーム」がおトク

車と家のおもちゃとブタの貯金箱、お金

画像:iStock.com/SB

 

では、実際に蓄電池の導入やEVリフォームを行う場合、費用はどれくらいかかるのでしょうか。それぞれの金額の目安と、コストを抑えるのに役立つ補助金についても紹介します。

 

蓄電池の導入費用

ソーラーパネルとバッテリー

画像:iStock.com/Madmaxer

 

一般家庭で使用する定置型蓄電池(機器本体価格)の相場は、容量にもよりますが100万円以上のものが多く、容量1kWhあたりおよそ20万円前後が目安となっています。これに工事費用が上乗せされます。コストを左右する主な要因は蓄電池の容量で、当然ながら、容量が大きいほど価格も高くなる傾向にあります。

 

EVリフォームの費用

一軒家と充電をする電気自動車(EV)

画像:iStock.com/sl-f

 

EVリフォームの費用は、設置するV2H機器の機種によって異なりますが、主要となっている機器の本体価格は約50万円~100万円ほど。そこに30〜40万円の工事費が上乗せされます。参考として、ニチコン「EVパワー・ステーション」の導入費用の目安は以下の通りです。

 

  スタンダードモデル (VCG-663CN3) プレミアムモデル (VCG-666CN7)
本体価格 54万7800円(税込)

98万7800円(税込)

工事費 30〜40万円

 

 

コラム「蓄電池・EVリフォーム、どちらも初期費用が気になる場合には…」

蓄電池にしても、EVリフォームにしても、どちらも初期費用はそれなりにかかってしまうことは事実です。東京電力グループのTEPCOホームテックが提供する省エネ機器の定額利用サービス「エネカリ」では、機器代や工事費といった初期費用は0円になります。このように、蓄電池やV2Hの導入を検討する場合、こういうサービスもうれしいですね。

▼「エネカリ」について詳しく知りたい方は以下をクリックしてください。

エネカリ

 

国や自治体による補助金も利用可能

一万円札

画像:iStock.com/Atstock Productions

 

日本政府では近年、環境やエコロジーの観点から、EV普及や再生可能エネルギーによる発電などを推進しています。そのため、蓄電池やV2H機器を導入する際には、国や自治体の定めた条件のもと、補助金を受け取れるケースもあります。

 

国によるV2H補助金


2023年度について、国の場合、経済産業省がV2H機器の導入に対する補助金を用意していました。補助金の上限額は以下の通りです。

〈表〉V2H機器の導入に対する国の補助金の上限額

設備費 機器購入費の1/2(上限75万円)
工事費 上限40万円

 

しかし、2023年5月段階で予算超過のため、申請受付を終了しています。なお、追加予算に関するアナウンスはまだされていません。最新情報はこちらよりご確認ください。

 

自治体によるV2H補助金


また、蓄電池やV2H機器の導入に対する補助金を、各自治体が独自に交付しているケースもあります。そのため、補助金の上限額や交付条件は、自治体によってさまざまです。仮に都道府県で補助金が用意されていなくても、市区町村では用意されているかもしれないので、しっかりと確認しておきましょう。

補助金の申請は、蓄電池やV2H機器を設置する販売・施工業者にサポートしてもらえるケースが少なくありません。まずは販売・施工業者へ相談するのもおすすめです。

なお、基本的に各種の補助金は予算上限に達すると受付終了となります。現在、申請を受け付けているのかどうかなど、詳細情報については以下の記事をご覧ください。

 

 

「卒FIT」後の余剰電力をどうするかはとても重要。早めに対策を考えよう

家と車のおもちゃとメモをとる人

画像:iStock.com/Sargis Zubov

 

卒FIT後の余剰電力をどうするかは、太陽光発電を導入している人なら誰しもがいつかは向き合う問題です。これまでと同じ要領で売電するのもひとつの手ですが、太陽光発電をより効率的に運用するなら、自家消費を最大化するような対策も検討してみましょう

なかでもEV所有者なら、蓄電池を導入するよりもEVリフォームを実施したほうが利便性は高まります。EVを所有していない場合でも、いっそのことEVの購入を検討してみてもいいかもしれません。卒FITをきっかけに、経済的で環境にも優しいエコな暮らしを目指してみてはいかがでしょうか。

 

▼「EVリフォーム」について詳しく知りたい方はこちら

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※本記事の内容は公開日時点での情報となります。

 

この記事の著者
EV DAYS編集部
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