電気自動車(EV)の販売台数は年々増加し、マーケティング企業の富士経済の発表によれば、海外では2022年にハイブリッド車を上回ることが予測されています。国内でもEVがさらに身近な存在になっていくことでしょう。そうなると、気になるのはEVの性能です。EVはエンジン車に比べて、航続距離(1回のエネルギー補給で走れる距離)が短く、日常利用に不安を感じる人もいるでしょう。実際のところ、EVは1回の充電でどれくらい走行できるのでしょうか。EVの「走行距離(航続距離)」に関する疑問にお答えします。
- EVの走行距離は短いの? まずは基本情報をチェック
- 実際、走行距離はどのくらいあればいい?
- EVの走行距離を車種別にチェック!
- それでも“電欠”の心配はある! 電欠で困らないためには…?
- 長く付き合いたいけど…EVの寿命ってどれくらい?
- EVの可能性は無限大。今後のさらなる進化に注目
EVの走行距離は短いの? まずは基本情報をチェック
「EVは、充電1回あたりの走行距離が短いから不便そう」と不安に思う人もいるでしょう。しかし、近ごろは大容量バッテリーを搭載し、エンジン車とそれほど遜色ない距離を走れる車種も登場しています。
EVは「電費×バッテリー容量」という計算方法で走行距離を算出します。まず基礎知識として、「電費」の単位と「バッテリー容量」の単位について知っておきましょう。
走行距離の基礎知識① 電費の単位
エンジン車におけるエネルギー効率を表す数値を「燃費」と言いますが、EVでは「電費(でんぴ)」と言います。
燃費がガソリン1Lあたりの走行距離を「km/L」と表記するのに対して、電費は1kmの距離を走行するのに必要な電力を「Wh/km」と表記したり、1kWhの電力量で走行できる距離を「km/kWh」と表記したりします。
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走行距離の基礎知識② バッテリー容量の単位
kWhは「キロワットアワー」と読み、1kWhは1kWの電気を1時間使ったときの電力量のことです。当然ながら、車が搭載するバッテリーの容量が大きいほど多くの電気を貯めることができます。
走行距離の長さはバッテリー容量に比例する
多くの電気を貯めることができれば、その分だけ走行距離も長くなります。つまり、EVにおける走行距離の長さは、車が搭載するバッテリー容量に比例するのです。
また、EVのバッテリーはエンジン車における燃料タンクのようなものですが、その役割はまったく同じというわけではありません。たとえば単三電池を直列につなぐと、電力量が2倍になるだけではなく、出力も2倍になります。EVでは「バッテリー容量が大きい」=「パワーが出せる」ということでもあるのです。
実際の走行距離は「カタログ値の7割程度」
エンジン車の燃費がそうであるように、EVの走行距離もカタログ値(WLTCモード)通りにはいきません。
どの車種を選んでも、実際の走行距離は感覚的にはカタログ値の7割程度だと考えたほうがいいでしょう。なぜなら、冷暖房の使用やオーディオの再生などにも電気を消費するからです。
たとえば、走行距離がカタログ値(WLTCモード)で「450km」のEVの場合、実際の走行距離は315km程度になると考えられるでしょう。
EVのエネルギー補給「充電」の基本をチェック
走行距離を考えるうえでエネルギー補給は重要なポイントです。当然ですが、補給するエネルギーの量によって、走行できる距離は変わります。
エンジン車とEVの大きな違いのひとつに、エネルギーの補給方法があります。エンジン車はガソリンや軽油をエネルギーとしているので、基本的には外出先でガソリンスタンドを探して給油する以外にエネルギーを補給する方法がありません。
一方、EVのエネルギーは電気なので、充電設備さえあれば自宅で充電ができるほか、コンビニエンスストア、ショッピングモール、サービスエリア、自動車ディーラーと、外出先のさまざまな場所でもエネルギー補給を行うことが可能です。この充電には大きく分けて「普通充電」と「急速充電」の2つがあるので、それぞれ簡単に説明します。
日常利用なら「普通充電」
普通充電とは、おもに家庭の電気(単相交流100Vまたは200V)を使う充電方法のことを指します。一般家庭で多い充電用コンセントの出力は3kW(200Vの場合)程度で、ひと晩(8時間)充電した場合、およそ24kWhを充電することができます。普通充電・急速充電ともに、充電量は「充電器の出力(kW)×充電時間(h)=充電量(kWh)」で表されます。
EVを購入して日常利用するなら、この自宅での普通充電が基本となります。通勤や買い物程度の利用なら、外出先の充電スポットを使わなくても自宅充電で十分です。
遠出するなら「急速充電」
急速充電は、コンビニエンスストア、ショッピングモール、サービスエリア、自動車ディーラーなどに設置されている急速充電器(3相200V)を用いる充電方法で、その名の通り充電の速さが違います。
充電器によって出力が20~50kWと異なり、一般的に充電をする時間は30分程度です。単純計算ですが、出力50kWの急速充電器なら、30分で最大25kWhの充電ができるわけです。
日常的な充電を自宅の普通充電器で行うとすれば、急速充電は遠出するときに利用するイメージになります。料金は電力量ではなく、充電時間に応じた時間課金となります。
注意してほしいのは、最新の90kWなどの高出力充電器に車が対応していないことがある点です。また、表示される数値以下の出力しか出ない場合もあります。
実際、走行距離はどのくらいあればいい?
「EVは走行距離が短いから実用的ではない」という声をよく聞きますが、これは本当でしょうか。
監修者自身、これまでさまざまなメーカーのEVに試乗し、自分でも数台のEVを乗り継いできましたが、走行距離に不安を感じたことはありません。個人的には「まったく問題ない」とさえ言えます。
では実際のところ、どの程度の走行距離があればEVを不自由なく使うことができるのでしょうか。2つのシチュエーションを設定して、目安となる走行距離について見ていきましょう。
シチュエーション① 通勤や買い物の日常利用
通勤や買い物、子どもの送り迎えなどにEVを利用するだけの場合、目的地との往復に費やす距離は長くても20~30km程度ではないでしょうか。仮に購入したEVの走行距離が200kmだとしても、1度に走る距離が20~30km程度であれば走行距離に対する不安はありません。
自宅に普通充電器を設置すれば、スマートフォンなどと同様に毎日帰宅後に充電することができます。20~30km程度の移動なら、走行距離で困ることはないわけです。
シチュエーション② 休日に遠方までドライブ
ただし、遠方までEVを走らせるなら話は変わってきます。仮に、走行距離がカタログ値(WLTCモード)で「450km」のEVの場合、前述のように実用上は315km程度と考えたほうがいいでしょう。315km程度の走行距離であれば、片道100km程度のドライブなら外出先で充電しなくても帰ってくることが可能です。
しかし、東京と大阪を往復するようなシーンでは、片道500km程度となるので外出先で充電が必要になります。往復で1000km程度となれば、走行距離が315km程度の場合、5回ほどの充電が必要になるでしょう。たとえば、行きのサービスエリアの急速充電器で2回充電を行い、目的地で普通充電(100%まで充電)、帰り道の途中でも2回充電を行う、といったことが考えられます。
このように、利用シーンによって不自由なくEVを使うための走行距離の目安は違います。日常的な街乗りのみの利用なら200km程度あれば十分だと思われますが、頻繁に遠出をするなら、もっと長い走行距離の車の方が便利でしょう。
遠出するときは事前に充電計画を立てておく
また、遠出をする際には事前に充電計画を立てておくことが重要です。サービスエリアやパーキングエリアの急速充電器は設置台数が限られていて、多いところで3台分、少ないところでは1台分しかない場合もあります。そのため、休日には充電スポットで充電器待ちの「渋滞」が発生することがあります。
そんな事態を回避するためにも、EVで遠方まで出かけるときは、事前に「どのあたりで充電するか」「どこに充電器があるか」を調べて計画しておく必要があります。
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冷暖房の使い方でも走行距離は変わる
エンジンの熱を暖房に利用するエンジン車と違い、EVは暖房も冷房もすべて電気でまかないます。そのため、冷暖房をオフにするだけでも走行距離が変わってきます。
特に注意が必要なのが、窓ガラスのくもりを取りながら車内を暖めたいときに使う「除湿暖房」モードです。除湿暖房は冷房と暖房を同時に作動させるようなものですから、知らず知らずのうちに多くの電力を使います。除湿暖房をオンにすると、メーターに表示される航続可能距離が大きく下がることもあります。
走行距離を少しでも長くしたい場合、春先や秋口などの過ごしやすい季節には冷暖房をオフにするといいでしょう。
EVの走行距離を車種別にチェック!
街乗りのみの利用の場合なら200km程度の走行距離で十分とお話しましたが、現在販売されているEVの走行距離はいったいどれくらいなのでしょうか。現在日本で購入可能なEVのうち、価格が1000万円以上の超高級車を除く、おもな車種の走行距離を「国産車」「輸入車」に分けてそれぞれ紹介します。
おもな国産EVの走行距離
車種 | 走行距離 |
日産「リーフ」 1) | 458km(WLTC) |
日産「アリア」 2) | 610km(推定) |
ホンダ「Honda e」 3) | 283km(WLTC) |
マツダ「MX-30 EV MODEL」 4) | 256km(WLTC) |
レクサス「UX300e」 5) | 367km(WLTC) |
※メーカー50音順。数値は各車種のもっとも走行距離の長いグレード・仕様のものです。
参考資料
1)日産自動車公式サイト
2)日産自動車公式サイト
3)Honda公式サイト
4)マツダ公式サイト
5)レクサス公式サイト
おもな輸入EVの走行距離
車種 | 走行距離 |
テスラ「モデル3」 6) | 580km(WLTP) |
プジョー「e208」 7) | 403km(JC08) |
プジョー「e2008」 8) | 385km(JC08) |
メルセデス・ベンツ「EQA」 9) | 422km(WLTC) |
※メーカー50音順。数値は各車種のもっとも走行距離の長いグレード・仕様のものです。
参考資料
6)テスラ公式サイト
7)プジョー公式サイト
8)プジョー公式サイト
9)メルセデス・ベンツ公式サイト
ご覧のように、大半の車種がカタログ値では十分な走行距離を持っています。EVの性能はどんどん上がっているのです。
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それでも“電欠”の心配はある! 電欠で困らないためには…?
エンジン車では走行中にガソリンや軽油がなくなることを「ガス欠」といいますが、同じように、EVのバッテリー残量がなくなることを「電欠(でんけつ)」といいます。
通勤や買い物などの日常利用なら電欠の心配はほとんどありませんが、遠方まで長距離を走る場合、いくら充電スポットの数が増えたといっても電欠する不安はあるでしょう。
次のサービスエリアで充電しようと考えていても、前述したように充電スポットが渋滞していて長時間待つこともありますし、もともと充電スポットが少ない地域もあります。
特に充電スポットの渋滞はEVユーザーが苦労している部分です。そこで、「電欠に陥らないようにする方法」「電欠になったしまった場合の対処法」をそれぞれ紹介します。
電欠を避けるには「常に3カ所の充電先を考えておく」
電欠を回避するポイントは、起こりうる事態を事前に予測し、それに対応できる体制をあらかじめ整えておくこと。つまり「リスクヘッジ」です。
たとえば、東京から名古屋まで東名高速道路を使って行く場合、多くの人は中間地点の静岡あたりのサービスエリアで充電する計画を立てると思います。このとき、そのサービスエリアが渋滞などで使えなかった場合に備えて、前後のエリアの充電スポット情報を事前に調べておくと安心です。「あてが外れても大丈夫」という状況を作っておくのです。
より具体的にいうと、そこで充電しようと考えていた「目的の充電スポット」に加え、「周辺の充電スポット2カ所」の計3カ所を調べておけば困ることはないでしょう。
万が一、電欠になっても「近くの充電スポットまで運んでもらえる」
万が一、電欠になった場合には自分で車を押して動かそうとせず、JAFや自動車保険のサービスを手配して近くの充電スポットまで運んでもらいましょう。
EVは電欠になると駆動輪がロックされ、「ギアをニュートラルにして押す」ということができません。前輪駆動の日産「リーフ」の場合、前輪を持ち上げてレッカー移動しなければなりません。そのため、第三者に充電スポットまで運んでもらう必要があるのです。
長く付き合いたいけど…EVの寿命ってどれくらい?
車の乗り換えサイクルは人それぞれですが、統計ではガソリン車やハイブリッド車の平均使用年数は約13年です10)。それでは、EVの乗り換えのタイミングはどれくらいなのでしょうか。EVの場合、モーターなど、バッテリー以外の部分に重大な問題が起こることはほとんどありません。基本的には「EVの寿命=バッテリーの寿命」となります。
そうすると、バッテリーはどれくらい使用することができるのでしょうか。「バッテリーの寿命」「バッテリー交換」などについてそれぞれ紹介します。
バッテリーが劣化するのは新車購入から何年後くらい?
スマートフォンを使っていると、バッテリーの性能が低下した結果、充電の頻度が増してきたことを実感する瞬間があります。EVも同じです。徐々にバッテリーの性能が低下していき、それにしたがって走行距離が落ちていきます。
とはいえ、バッテリーが劣化したことを実感するのは、新車購入から8年程度が経ってからのことが多いと言われています。それも、実用上不便を感じるのは走行距離が短い車種の場合程度です。
最近では満充電で600km以上走る車種も出てきました。その場合、仮にバッテリーの劣化で走行距離が20%減ったとしても、まだ500km程度は走れるわけですから、実用上は問題ないといえるでしょう。
急速充電器の利用でバッテリーの劣化を実感する
バッテリーの劣化で不便さを感じるのは、急速充電器を利用するときかもしれません。バッテリー性能が低下すると急速充電性能が落ち、同じ30分でも充電される電力量が少なくなります。ただし、3年や5年で急激にバッテリーが劣化することはほとんどないでしょう。
古いバッテリーは交換できるの?
仮にバッテリーの劣化を感じても、「バッテリー交換をすればいい」と思うかもしれません。しかし、バッテリー交換は可能ですが、そのコストは数十万円に上ります。バッテリーの劣化を実感するのは新車購入から8〜10年後が多いと言われているので、バッテリー交換に数十万円をかけるよりも、そのまま乗り続けるか、新車や中古のEVに乗り換えるという選択肢もあるでしょう。
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EVの可能性は無限大。今後のさらなる進化に注目
日本を含めた先進国では、2030年代から2040年代にガソリン車やディーゼル車の新車販売を禁止する方針を打ち出しています。ボルボやジャガーのように、早い時期にEV専門ブランドとなることを宣言している車メーカーもあります。今後はますます世界各国で「EVシフト(エンジン車からEVへの転換)」が進むことでしょう。
そうしたなかで、今後のEVはどのようになっていくのでしょうか。まず走行距離に直結するバッテリーが進化すると予測されます。それは性能面だけではなく、コスト面も同様です。すでに中国などでは従来のリチウムイオンバッテリーから、より低コストのリン酸鉄リチウムイオンバッテリーへの転換が始まっていて、EVの低価格化が進んでいます。
ここまでお話してきたように、現在のEVはバッテリー性能が向上し、走行距離は実用上問題ないレベルに達しています。そうなると、EV普及のハードルはコストのみといっても過言ではありません。国内の車メーカーもリン酸鉄リチウムイオンバッテリーを搭載する低価格EVの開発を進めており、それらが発売されればEVはさらに身近になるでしょう。