地震や台風など、大規模な災害が発生したときに心配なのが停電の問題です。冷暖房だけでなく通信や水の供給とも深いかかわりを持つ電気が絶たれてしまうと、生命の危機にさらされる可能性が出てくるからです。そこで知っておきたいのが、大規模な停電が起きた場合の備えです。いますぐできる停電対策の基本から、生活に必要な電気を備蓄する「新たな停電対策」の方法まで、防災・危機管理ジャーナリストの渡辺 実さんに語っていただきました。
災害時における「停電」の本当のリスクとは
地震や台風などの大規模災害が発生した場合には、さまざまな被害が想定されます。その中でも、見逃せないトラブルは、ライフラインのひとつである電気が使えなくなる「停電」です。
たとえば、2011年の東日本大震災では、震源地付近だけではなく日本全体に大きな被害が及びました。電気のトラブルでいえば、首都圏を含む東京電力サービスエリア内でも最大約405万戸が停電し、すべての停電が解消されるまでには約1週間を要したのです。
また、2019年9月に千葉県で起きた台風15号が原因となる大規模停電も、記憶に新しいところでしょう。このときは千葉県を中心に東京電力サービスエリア内で最大約93万戸が停電し、すべて復旧するまでに約2週間を要することになりました。
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大規模停電が起きると他のライフラインにも影響が
照明やエアコンといった家電類が使えない不便さや、テレビやスマートフォンなど情報を入手するための機器が使えなくなることに対する不安は、皆さんもある程度想像できると思います。くわえて、人工透析や人工呼吸器などの医療機器も電気で動いています。これらが長時間停電により使えなくなれば、災害によるケガはなくても、生命の危機にされられることは言うまでもありません。
大規模かつ長期間の停電が発生した際のリスクは、それだけではありません。
特に、忘れてはならないのが「水道」の問題です。蛇口をひねれば水が出るのは、実は貯水池から家庭まで水を運ぶ際に、いくつかのポンプ場で水圧をかけて水を送り出しているからです。このポンプ場は電気で動いているので、長時間停電になれば水を送ることができなくなってしまうわけなのです。
さらに高層の集合住宅では、電動ポンプで上層階に水を送り出し、そのシステムも電気で動かしているため、ポンプ場が被害を受けなくても、停電すれば水道が使えなくなってしまう恐れがあります。
水道が使えないということは、飲料水だけでなくトイレの水も使えなくなることを意味します。実際、過去の大規模災害でも、飲料水は給水車などで供給できても、その他の生活用水までには手が回らず、不便を強いられた事例が多く見られました。
このように現代の暮らしにおいては、たとえ家屋倒壊など住環境に大きな被害が出ていない場合でも、ライフラインとなる電気を絶たれることが、まさに命にかかわる問題になり得るのです。そのため、災害時における電気の確保は、私たちの身を守ることにも繋がるのです。
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まずはできるところから。身近な「停電対策」
電気や水道などのライフラインが止まってしまうと、日常生活をいつものように過ごすことはできなくなります。少しでも災害時にいつもの環境を維持するために、身近な停電対策から始めましょう。
先ほども言及したように、大規模な停電が発生すると、水道の供給が絶たれてしまう恐れがあります。災害に備えて、食料や医薬品の備蓄は必ずしましょう。また災害時の停電対策という観点でいえば、優先順位が高いのは水の確保と言えるでしょう。
ペットボトルなどで非常用の飲料水は備蓄していても、トイレや洗濯などに使う生活用水まで備蓄している家庭は、まだ少ないはずです。これからは飲料用とは別に、生活用水の備蓄も心がけてください。
基本的なところでは、お風呂の水を常時貯めておくといった対策がありますが、それとは別に、ペットボトルなどの容器に水道水を入れて保管しておくのもおすすめです。飲料用ではないので水道水で十分です。
ちなみに私の家では、空いたペットボトルには水道水を入れて保管しておくというルールを設けています。保管場所の問題もありますが、できるだけ多く備蓄するようにしましょう。
「エコキュート」ならいつでも貯水
空気の熱でお湯をわかす自然冷媒CO2ヒートポンプ給湯機「エコキュート」を設置していれば、停電時や断水時でも貯湯タンクに貯まっているお湯・水を生活用水として利用することが可能です。
370Lのエコキュートなら、お風呂約2杯分の生活用水を確保できます。日頃から意識せずとも自然と貯水ができ、こまめに保管する手間も省けるため、防災の一つの選択肢になります。
スマートフォンの電源確保にも使える乾電池の備えも忘れずに
水に次ぐ停電対策としては、スマートフォンの電源確保も重要な課題となります。スマートフォンは重要な通信手段であるほか、情報を入手するツールにもなるからです。本体のバッテリーだけでは、節約しながら使ってもせいぜい2日程度しか持たないので、予備の電源を用意しておきましょう。
日常でもモバイルバッテリーを利用している人は多いと思いますが、それとは別に避難袋にモバイルバッテリーを準備しておくといいでしょう。もちろん、なるべく大容量の製品のほうが安心です。
ここで忘れてはならないのが、モバイルバッテリーとスマートフォンとをつなぐ充電ケーブルです。モバイルバッテリーがあっても、ケーブルがなければ充電ができないからです。さらにいえば、充電ケーブルがあっても、端子の形状が異なれば充電はできません。
そこで、私が用意しているのが、あらかじめ複数の充電ケーブルを内蔵しているタイプのモバイルバッテリーです。これなら、ケーブルを忘れたりなくしたりする心配もありませんし、様々な機種のスマートフォンを充電することができます。
充電式のモバイルバッテリーは、充電が切れれば使えなくなってしまいます。さらに万全を期すために、乾電池式の充電器を必ず用意しておきましょう。モバイルバッテリーとは違い、停電中でも乾電池を補充すれば何回でも充電できるからです。
もちろん乾電池は、懐中電灯やラジオなどの機器にも使えるので、用途に応じた種類を、なるべく多く備蓄しておきましょう。最近は乾電池の性能も向上しているので、液漏れの心配は少なくなっていますが、長期保管を前提とするなら、マンガン電池よりもアルカリ電池のほうが安心と言えます。
災害発生時に必須となるのは「ブレーカーを落とす」こと
停電に備え備蓄すべき物品のほか、いざ災害が発生した際に、まずすべき電気周りの対処があります。それは、家屋から避難する前にブレーカーを落とすことです。
1995年に発生した阪神淡路大震災では大規模な停電が発生しましたが、時期が真冬だったこともあり、家屋に放置されていた電気ストーブなどの機器が、停電の復旧により再び熱を持ち、それが原因で火災を招くという事例が多くみられました。
その教訓から現在では、大きな地震が発生し家屋から避難する際には、必ずブレーカーを落とすことが推奨されています。揺れの大きさに応じて自動的にオフになる感震ブレーカーも登場していますが、あまり普及していないのが現状です。二次災害を防ぐためにも、ぜひ避難の前にブレーカーを落とすことを忘れないでください。
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災害時の停電は、最大1週間程度と考える
東京都が出した、将来起こる可能性がある「東京湾北部地震(M6.9)」による被害想定の報告書1)によれば、停電から復旧するまでの期間は発災当日をのぞいて6日間となっています。
これらを考慮に入れると、災害による大規模停電が発生した場合には、復旧までに最大1週間程度かかると考えておくべきでしょう。
そこで問題となるのが、電気の備蓄という問題です。懐中電灯やラジオ、スマートフォンの電源は乾電池やモバイルバッテリーで備蓄できたとしても、家電や医療機器を動かすほどの電気は、当然乾電池で賄うことはできません。
最近では、災害時の停電対策にも使えるという、家庭用蓄電池も普及し始めていますが、数日間の使用に耐える大容量の製品は、まだまだ高価です。そこで注目されているのが、EVやPHV・PHEVの存在です。
※以降は便宜上、EVやPHV・PHEVの総称を「電気自動車」とします。
より安心・安全に。電気自動車で変わるこれからの「停電対策」
二酸化炭素を排出しないことから、環境にやさしいモビリティとして普及が推進されている電気自動車ですが、その一方で、近年、そのバッテリーを家庭の停電対策に活用するという用途にも注目が集まっています。
一般的な家庭用蓄電池の容量は5kWh〜10kWh程度ですから、電気自動車のバッテリーは言うまでもなく遥かに大容量です。たとえば、『日産リーフ e+』に搭載されているバッテリー容量は60kWhです。一般家庭における一日あたりの使用電力量を約10kWh/日と仮定すると、単純計算で約6日分の電気を、電気自動車のバッテリーで賄うことができることになるわけです。
このことから、電気自動車は移動手段というだけでなく電気を備蓄することができ、大規模災害時の停電対策にも役立つアイテムとなることがわかるでしょう。
電気自動車と家をつなぐ「V2H」システム
現在、電気自動車を家庭用の電源として利用するための、もっとも一般的な方法は「V2H(Vehicle to Home)」というシステムを導入し、電気自動車のバッテリーから家庭に電気を供給することです。高機能モデルなら停電時でも、エアコンやIHクッキングヒーターを始め、冷蔵庫、テレビなど家中の電気を利用することが可能になります。
またV2Hを導入すると、電気自動車から家庭に電気を供給できるだけではありません。通常時の電気自動車の充電が、充電用200Vコンセントと比べて最大2倍ほどの速度で可能になります。電気自動車を頻繁に利用する人にとってもメリットがあるのです。
V2Hに必要な機器の購入と設置工事などをあわせると約90~130万円ほどの費用がかかりますが、国や自治体の補助金が利用できるので、実際にはそれ以下の費用で導入が可能です。
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太陽光発電システムとの併用でV2Hはさらに便利に
さらにV2Hは、太陽光発電システムと連携させることも可能です。V2Hと連携させることで、災害時には電気自動車のバッテリーだけでなく、太陽光発電システムで発電した電気も併用できるようになります。家に大きな損壊がなければ、停電時でも自宅で発電ができ、その電気を電気自動車へ充電することもできるため、その点も大きな備えとなるでしょう。
また、通常時には太陽光発電システムで発電したエコな電気を電気自動車の充電にあてたり、余剰電力を売電したりすることができるというメリットもあります。
なお、太陽光発電システムも、導入にあたり国や自治体の補助金を利用することが可能です。
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車中避難にも便利。直接電気の供給ができる電気自動車も選択肢に
現在のところ、電気自動車を家庭用の電源として利用するためにはV2Hを利用するのが一般的です。しかし専用機器が必要になる、導入費用が高額になるなど、V2Hにはいくつかのデメリットもあります。
そこで、私が注目しているのは、V2Hを介さずに電気の供給ができるタイプの電気自動車※です。
なかでも「PHV・PHEV」は、長期停電を含む災害の備えとして魅力的な機能を備えていると言えるでしょう。
たとえば三菱自動車の「アウトランダーPHEV」は、車内に家庭用と同じ形状のAC100Vコンセントを2つ装備しており、直接家電を繋いで使用できるようになっています。実際、この車を使い家庭内の家電がどれくらい使えるのかを実験したのですが、一つの部屋でエアコン、テレビ、照明、冷蔵庫といった家電を普段通りに使っても、1週間十分に過ごすことができました。
※一部のハイブリッド車でも車載コンセントが装備されている車種があります。
車から直接電気が得られるということは、家屋が倒壊し住む場所がなくなった場合でも、車中避難やテント生活をしながら、電気を利用できることを意味します。
またPHV・PHEVはハイブリッド車でもあるため、ガソリンエンジンで発電し、バッテリーを充電させることも可能です。バッテリー切れの際にはガソリンで車両を動かせるほか、ガソリンエンジンで発電できる点も、災害時には心強いPHV・PHEVの特徴でしょう。
V2Hを介さずに電気の供給ができるPHV・PHEVは、ガソリン車と比較するとやや高価ではありますが補助金もあり、V2Hの導入費用が不要であることや、車中避難にも使えることなどを考えれば、魅力的な選択肢となるのではないでしょうか。
最新の「停電対策」によって改善が期待される災害時の生活環境
電気自動車は、すでに災害発生時の停電対策に役立っています。たとえば、千葉県で起きた大規模停電の際には、EVやPHEVといった電気自動車が被災地に多数派遣され、病院や公共施設の電源として活躍しました。
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主に環境対策の観点から世界的に普及が推進されている電気自動車ですが、ここまでにお話したように、災害対策においても、とても有効な存在となります。
仮に、国内の自家用車がすべて電気自動車に置き換わり、それらが単体でも給電できる仕様になれば、各家庭で大規模災害に備える電気の備蓄ができるようになるわけです。そうすれば、病院など必要な施設への電気を優先して復旧させるなど、国としての災害対策もより万全になると言えます。
首都圏でも、近い将来に発生すると言われている大地震や、年々被害が深刻になる台風・豪雨などで起こる停電への備えとしても、電気自動車の導入をおすすめします。
【おすすめ情報】EVを利用した災害対策を行うなら、電気のプロへご相談ください
東京電力グループのTEPCOホームテックでは、EVと家をつなぐV2Hの設置工事はもちろん、必要に応じ電気契約容量の変更提案、補助金の申請などもワンストップで行うことができます。
同社では、導入方法も選ぶことができ、一括購入のほか、初期費用0円で導入することができる「エネカリ」というサービスもあります。エネカリでは月額定額支払いにできるため、まとまった費用のお支払いに不安がある場合にはぜひご相談ください。
参考資料
1)東京湾北部地震(M6.9)による被害想定の報告書