ラグジュアリーカーの代名詞といえば、やはり“スリー・ポインテッド・スター”のメルセデス ベンツ。エンジン駆動で静粛性・安定感を極めた同メーカーも、ついに電気自動車(EV)へのシフトを始めています。今回注目するのは、コンパクトSUV「EQA」。モータージャーナリスト・まるも亜希子さんがその真価に迫ります。
この夏、メルセデス・ベンツは2030年までに全新車販売を完全電動化すると宣言しました。日本では2019年に発売されたEQCに続く第二弾のEVとして、「ちょうどいいサイズ」を謳うEQAが発売されたばかり。
「EVファースト」から「EVオンリー」へと舵を切ったメルセデス・ベンツの本気度は、このEQA250にどう表れているのでしょうか。使い勝手も含めてレポートしたいと思います。
●Check1:エコノミカル
回生ブレーキを手動調整。好みの強度でエコドライブにも
季節や天候などによって、同じ距離を走る場合でも使う電力量が大きく変わるのが電気自動車(EV)です。充電をするタイミングやバッテリーが持つ性能によって、同じ時間で充電できる電力量にも差が出てきます。
そのため最新のEVでは、ドライバーの意思で走行中の回生ブレーキの強度を変えられたり、賢いドライブをすることによって余計な電力消費を抑え、効率よく走れるような工夫が凝らされるようになりました。
EQA250にも、航続距離を延ばすために大型の高電圧バッテリーを搭載して効率的な回生制御を採用するだけでなく、回生ブレーキの強度が5段階で手動設定できるようになっています。
充電は、高速道路や街中に設置されている急速充電器(100kWまで対応可能)と、自宅にも設置できる6kWまでの200Vの普通充電器が使用可能。満充電までの充電時間は50kWタイプの急速充電器で約1.3時間、90kWタイプなら約45分、6kWの普通充電器で約11時間が目安となっています。
購入後1年間は、全国約21000基の提携充電ネットワークでの充電が無料(2021年4月1日現在、メルセデス・ベンツ調べ)。その後は月額基本料金5720円(税込)、急速充電での利用料16.5円/分(税込)となる「Mercedes me Charge AC&DC」が利用できます。
自宅で充電する場合の電気代は、1kWhあたり31円(全国家庭電気製品公正取引協議会の公表情報参照 ※)と考えると、500km走行するのに約2100円となります。ガソリン代と比べると、ランニングコストもかなり抑えられるのではないでしょうか。
※電力量料金のみの金額です。基本料金・燃料費調整額・再生可能エネルギー発電促進賦課金は加味していません。
●Check2:プライス
特別感はひとしお。ただ、補助金・税制優遇を考慮すれば悪くない
EQA250の価格は640万円(税込)です。同じような車格のガソリンモデル「GLA」が495万円〜(税込)でラインアップしていることを考えると、やや割高に感じるかもしれませんね。
でも、EVはクリーンエネルギー車(CEV)として補助金が受けられます。交付条件を満たす必要はありますが、EQA250の場合、国(環境省)から80万円、さらに東京都の場合は環境省補助併用時に60万円が交付されるなど、国や自治体の補助金を合わせると最大100万円以上になることもあります。
さらに、購入時と1回目の車検時にかかる重量税が免除されるほか、購入翌年度の自動車税が75%減税となります。
また65歳以上であれば、対歩行者衝突被害軽減ブレーキ機能とペダル踏み間違い急発進抑制装備機能がついた車両が対象となる「サポカー補助金」で10万円が交付されますので、活用したいですね。2021年8月時点での納期は、最速で11月中旬頃となっています。
●Check3:ユーティリティ
インテリアは当然ハイセンス。AI搭載で使い勝手も◎
EQA250のインテリアはとてもモダンでスタイリッシュ。運転席前からセンターパネルまでつながる大きな液晶パネルに、ジェットタービンをモチーフとした特徴的なエアコンアウトレットがアクセントとなり、助手席前のインパネには、バックライトで美しく光るスパイラル調のインテリアトリムがデザインされています。
センターコンソールやドアトリムなどのアンビエントライトと合わせて、夜間やトンネルの中などでムーディーな空間を演出。64色から好きな色が選べ、数色を自動で切り替えるなど様々なパターンが楽しめます。
そして小物トレイにもなるワイヤレスチャージャー、カップホルダーや深さのあるセンターコンソールボックスなど、収納も十分。USBはType-Cがセンターコンソールに備わります。前席はフルパワーシートでシートヒーター、電動ランバーサポート付き。後席のスペースも広く、ファミリーでもゆったりと過ごすことができるはずです。
さらにメルセデス・ベンツはコネクテッド機能にも力を入れており、対話型インフォテインメントシステム「MBUX」が標準装備。話しかけるだけで、エアコン調整や天気予報のチェック、充電ステーションを探したりナビを設定したり、あらゆる操作や検索、設定ができます。
AI搭載で学習機能があるので、乗り続けるうちにオーナーの好みや行動パターンを覚えてくれるというから驚き。クルマとだんだん親しくなれるなんて、まさに近未来のカーライフが体感できそうです。
●Check4:エモーショナル
走りに継承された「伝統」。馴染みやすい加速とハンドリング
EVだからといって、特別な走行フィーリングを期待してEQA250を走らせると、最初はちょっと拍子抜けするかもしれません。
というのも、メルセデス・ベンツは「従来のクルマから乗り換えても違和感のないように」という理念でEVの乗り味をつくっているからです。
確かに、発進直後にSUVならではの重さを感じるところや、穏やかに加速していく感覚などは、本来なら瞬時にフルトルクが出せるはずのモーター走行らしくない、身体に馴染んだフィーリングで安心します。
これこそ、内燃機関で走るクルマの生みの親であるメーカーとして、その伝統であり哲学をEVにも継承していくのだ、という信念の表れではないかと感じました。
でも、走り続けるうちにその丁寧な加速フィール、静かで振動の少ない上質感がじんわりと包み込むような乗り味をもたらすのは、まさに新世代のラグジュアリーSUV。
66.5kWhのバッテリーを床下に、モーターをフロントアクスル(前輪の車軸)に搭載したことで、モーターからの振動や騒音が車内に伝わらないよう配慮。従来のEVよりさらに静粛性が高まっているとのことでした。
最高出力190PS、最大トルク370N・mという十分なパワーを発揮するEQA250は、高速道路でのクルージングも余裕たっぷり。贅沢なドライブに癒されたのでした。
●Check5:ハウスベネフィット
自宅設置の充電器を無償提供中。購入検討中ならお早めに
EQAの充電口は、右リヤフェンダーに急速充電用、右リヤバンパーに普通充電用が設置されています。これから自宅に充電器を設置する場合には、位置を考慮するといいですね。
現在、メルセデス・ベンツでは6kW(200V・30A)対応の普通充電器本体を無償提供するほか、設置にかかる費用のうち10万円をサポートするキャンペーンも実施中です(予告なく終了する場合あり)。
また、暮らしに馴染むという意味で、出発時刻やプリエントリークライメートコントロール(スマホなどでエアコンなどが操作可能な機能)の設定、最大充電電流の設定といった専用のプログラムがMBUXに用意されている点もポイント。暑い日や寒い日などに、あらかじめ自宅で操作し、出かける時間に合わせて快適な車内環境にしておけるのはうれしいところです。
なお、災害時に自宅が停電した際などに、クルマのバッテリーに貯めた電気を家に給電し、電化製品などを使えるようにする「V2H」には、残念ながら対応していません。また、車内にコンセント(AC100V・1500W)も装備されておりません。
ちなみに、4月のワールドプレミアで発表されたラグジュアリーEVセダン「EQS」は、V2Hに対応しています。
【あわせてチェックしたい】EV用充電設備をもっと知りたい方へ
▶︎EV充電用設備の種類、V2Hシステムの災害時のメリットも解説(︎TEPCOホームテックのページ)
余裕ある大人のロングドライブに最適な1台
遠くから見てもキラキラと光るような美しさのあるEQAのデザインは、メルセデス・ベンツのデザイン思想である「センシュアル・ピュリティ(官能的純粋)」をさらに先進的に表現する「プログレッシブ・ラグジュアリー」がコンセプト。
コンパクトといいつつ、全長が4465mm、全幅が1835mmあるので日本の狭い道ではちょっと気を遣う場面もありますが、その分、ゆったりとした室内で上質なドライブを堪能することができる、新世代のラグジュアリーSUVとしてとても魅力的だと感じました。
メンテナンスや補償、充電費用などのサポート体制がしっかりと整えられているのも、さすがメルセデス・ベンツ。EVデビューする人にも安心の1台だと感じました。
●家庭と暮らしのハマり度 総合評価
【過去の記事はこちら】
「連載:モータージャーナリスト・まるも亜希子の私と暮らしにハマるクルマ」
※本記事の内容は公開日時点の情報となります。
この記事の監修者
まるも 亜希子
カーライフ・ジャーナリスト。映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツに参戦するほか、安全運転インストラクターなども務める。06年より日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。女性パワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト」代表として、経済産業省との共同プロジェクトや東京モーターショーでのシンポジウム開催経験もある。