加速度的に普及が進み、いろいろなタイプのEVが登場する中で、デザインや性能や高級感などクルマとしての本質的な魅力を追求したハイエンドモデルがいくつも見受けられるようになりました。今回取り上げるのは、スポーツカーメーカーとして名を馳せるポルシェが送り出した「タイカン」。その最上級モデルである「ターボS」をモータージャーナリストの岡本幸一郎さんがレポートします。
ハイエンドEVの世界で異彩を放つタイカン
EVの世界で、以前には誰も予想しなかったことが起きている。プレミアムブランドと呼ばれるメーカーを中心に、高い付加価値を身につけた高価格帯のEVが続々と世に現れ、アーリーアダプターと呼ばれる層をはじめ富裕層に支持されて急速に販売を伸ばしている。
ただし、絶対数としてはまだまだ限られるため、一般ユーザーにとっては、たとえ興味があっても実車に触れる機会を得るのはなかなか難しいのが実情だ。そこで今回は、既存の内燃エンジン車にはない新たな魅力を備えたハイエンドクラスのEVがどのようなものなのか、その魅力をわかりやすく伝えていきたいと思う。
中でも、あのポルシェが送り出したEVとして注目度も高く、走行性能の高さにかけても、強豪が居並ぶ中でもひときわ存在感を発揮しているのがタイカンだ。
販売的にも急激に伸長しており、これまで高級EV市場でひとり勝ちだったテスラを脅かすほどの勢いを見せている。
そんなタイカンの中でもっとも高性能な、トップエンドのハイパフォーマンスモデル「ターボS」を、本企画の初回を飾るに相応しい存在としてピックアップした次第である。
スポーツカーメーカーたるポルシェとしての矜持
長らくスポーツカー専門メーカーだったポルシェは、21世紀に入ってほどなく送り出したSUVのカイエン・マカンをはじめ、セダンのパナメーラやシューティングブレークの同スポーツツーリスモを加えるなど、2ドアクーペ以外のラインアップの拡充を図ってきた。また、それらをベースとした本格的なプラグインハイブリッド車を早い段階から手がけてきた。
そのかたわらで純粋なEVとして企画されたのがタイカンだった。2015年にコンセプトカーの「ミッションE」が発表され、2019年のフランクフルトモーターショーで量産モデルが初公開された。
より多くのユーザーに訴求すべく4枚のドアが与えられたものの、SUVタイプではなく車高の低いスポーティー4ドアクーペとされたのは、スポーツカーメーカーとしての矜持を保つことはもとより、ポルシェの名のもとに送り出すEVとしての高い走行性能を発揮させながらも、ユーティリティと航続距離を確保する上で有利であることを念頭に置いてのことと思われる。
本稿掲載時点で日本に導入されているのは、後輪駆動のベーシックな「タイカン」と、4WDの「4S」、高性能版の「ターボ」と、さらなる高性能版の「ターボS」の4モデルで、0-100km/h加速タイムの公表値は、それぞれ5.4秒、4.0秒、3.2秒、2.8秒となる。標準のリチウムイオンバッテリーの容量は、タイカンと4Sが79.2kWhで、ターボ系が93.4kWhとなる。
むろんEVゆえターボチャージャーが搭載されるはずもないが、ポルシェはこれまで「ターボ」という名称を特別な存在と位置づけてきた。EVのタイカンにも「ターボ」というグレード名を用いたのは、その高い性能を象徴的に表現するためにほかならない。
タイカンが画期的なのはそれだけではない。通常のEVの約2倍にあたる800Vのシステム電圧を市販EVで初めて採用したことにも注目だ。急速充電に関しても、国内最大級の150kW出力の充電器に対応し、わずか10分程の充電で100kmの走行が可能となる。テスラ同様独自の充電ネットワークの構築にも取り組んでいるが、もちろんe-Mobility Powerネットワークの充電設備も利用可能だ。
すべてはあくまでポルシェらしく
利便性を確保すべく4枚のドアを持ちながらも、非常にスポーティーな印象のスタイリングを呈している。ひと目見て誰もがポルシェだとわかるデザインは、パナメーラとも似て非なるもので、リアから眺めたときのボリューム感にはリアエンジンの911系との共通性も見て取れる。
いたずらに華美さを追求せず、シンプルにまとめられたインテリアもポルシェらしい。比較的高級な素材を用いながらも、インテリアが意外とシンプルに見えるのは、他の一連のポルシェ車にも共通している部分である。走りにあまり必要ないことはあえてやらない。ポルシェとはそういうブランドだ。そんな走りに徹するポルシェの姿勢に共感する人は多い。
眼前にはポルシェの伝統である5連メーターを想起させるフル液晶のワイドディスプレイが置かれ、往年の911を彷彿とさせる水平基調のインパネには、小ぶりなシフトセレクターが、すべてドライバーを中心にレイアウトされている。ただし、タイカンのために新たにデザインされたユーザーインターフェースは、スイッチやボタン類が大幅に削減されている。
シート等にもレザーを一切使うことなく、インテリアが革新的なリサイクル素材で構成されているのもタイカンの特徴で、エレクトリックスポーツカーとしての持続可能なコンセプトを示している。荷物を積むためのラゲッジコンパートメントは、フロントに81リッター、リアに366リッターと実用上は問題ない容量が確保されている。
ポルシェだからこそ、ここまでやった
ポルシェのEVとなれば、やはり走りに期待せずにはいられない。ましてやトップエンドのハイパフォーマンスモデルである「ターボS」となれば、なおのことだ。0-100km/h加速タイムで3秒を切った市販車というのは、世界中探してもそうそうない。さらにタイカンは、EVが不得手とする最高速度についても、リアアクスルに2段ATを搭載することで、260km/hというEVとしては驚異的に高い最高速度を実現している。その点も性能をウリとしながらも変速機を持たない他のEVとは一線を画する部分だ。日本の公道では試せる場所がないとはいえ、スペック上はそんなことができるのもタイカンならではである。
アクセルワークに呼応して発せられるエンジンのようなサウンドも、クルマがどのように応えてくれるのかを直感的に乗員に伝えてくれる。任意でON/OFFを設定できるのだが、多くの人にとってはONにしたほうが積極的に走りを楽しめるはずだ。
こうしたギミック的なことをやるのはポルシェらしくないと最初は思ったものだが、音を出したほうがドライバーにとってもリズムを掴みやすいそうだ。たしかにサウンドの表現の仕方も非常に凝っていて、いろいろな走らせ方を試しても絶妙にクルマがどういう状態にあるかを音が的確に伝えてくれる。採用の理由があくまで走りのためというのは、むしろポルシェらしいことだったわけだ。
車検証の記載によると、車両重量は2380kgとそれなりに重く、前軸重が1170kg、後軸重が1210kgと、ややリアよりの前後重量配分となっているが、とにかくこれほどの重量物が、操作したとおり遅れることなく、極めて正確に応答するハンドリングの仕上がりにも感心する。
小さな舵角でぐいぐいと曲がり、立ち上がりでは適宜フロントにも駆動力を配分しながら、路面にすいつくようにオンザレールでコーナーをクリアしていく。低偏平で剛性の高いタイヤを履かせているのも、その感覚を損なわないため。それでいて、ひきしまっていながらも絶妙なしなやかさを併せ持った足まわりにより、乗り心地も快適に保たれているあたりは、さすがというほかない。
計10個もの対向ピストンを備えた、見るからに効きそうなブレーキも、重量級の車体を高い車速域から制動させるのに全然不安がない。十分なキャパシティを備えている上に、まるで爪先で直接ディスクを挟むかのようにダイレクトなコントロール性を実現している。
このどこにも隙がなく、緻密で正確なドライブフィールをひとたび味わってしまうと、もう他のクルマには乗りたくなくなってしまいそうだ。だからポルシェを乗り継ぐ人は多く、これまでエンジンを積むポルシェを愛車としていた人も、タイカンであればなんのストレスもなく乗り替えできる。
タイカンもしかり、とにかくポルシェはもうどこまでいっても走りが命なのだとつくづく思った次第。ポルシェが作るとEVもこうなる。ポルシェだからこそEVもここまでできる。見た目をあくまでポルシェらしく、走りはそれ以上にポルシェらしく。ターボSならなおのこと。タイカンとはそういうクルマである。
〈スペック表〉
全長×全幅×全高 | 4965mm×1965mm×1380mm |
ホイールベース | 2900mm |
車両重量 | 2330kg |
バッテリー容量 | 93.4kWh |
モーター システム最高出力 |
460kW(625PS) ※ローンチコントロール時 560kW(761PS) |
モーター システム最大トルク | 1050Nm |
交流電力量消費率(WLTCモード) | 260.0Wh/km |
駆動方式 | 4WD |
最高速度 | 260km/h |
0-100km/h加速 |
2.8秒 ※ローンチコントロール時 |
0−200km/h加速 |
9.8秒 ※ローンチコントロール時 |
タイヤサイズ | 前265/35ZR21、後305/30ZR21 |
税込車両価格 | 2468万円(本稿掲載時点) |
〈ギャラリー〉
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