航続距離を伸ばすEV版エコドライブの秘訣。ガソリン車とは真逆のテクも

エコドライブテクニック

今やガソリン車の燃費を意識した運転“エコドライブ”はすっかり定着しました。EVの普及が進む昨今、航続距離を伸ばすEV版エコドライブにも注目が集まりそうです。実はEVにおけるエコドライブは、ガソリン車とは少し違うアプローチもあります。モータージャーナリストの石井昌道さんから学んでみませんか?

 

EV充電設備

 

2000年代に入ってから始まった、エコドライブの歴史

2021年はガソリン価格の高騰が大きな話題になりましたが、実は15年ほど前にも同じようなことがありました。2005年あたりから徐々に価格が上がりはじめ、2008年にはレギュラーガソリン1リットルが180円を超えるピークを迎えます。ちょうどそのころ、私はモータージャーナリストとして活動しながら、財団法人省エネルギーセンターの依頼でエコドライブのインストラクターを務めていたのですが、ガソリン価格の高騰とともに、エコドライブが大きく注目を集めていったことを覚えています。

省エネルギーセンターの目的は、CO2排出量削減のためにエコドライブを世の中に広めていくことでしたが、まずはどういった運転をすれば燃費が良くなるのか? そこで一般道やテストコースで実験走行を繰り返し、燃費の計測をしました。
たとえば発進時はエネルギーを多く必要としますのでアクセルの踏み方を工夫してみたり、アイドリングストップの効果を測ったり、載せる荷物の重さで燃費が変わるのかなど、多岐にわたって試しました。
そこで得た結果をもとに、実際の交通の流れに無理なくのっていける走り方を考え、エコドライブとして多くのドライバーに伝えたのです。

当初は一般的なガソリン車で実験走行していましたが、後に、同じ方法でEVも走らせました。そこでわかったのは、EVにもエコドライブの効果があること、ガソリン車とはちょっと違うところもあることです。そこで、EVに乗られている方、これからEVに乗ってみたいと思っている方に向けて、EVならではのエコドライブを解説します。

EVエコドライブポイント①
余計な荷物は降ろす&タイヤの空気圧を適正に保つ

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まずは運転ではなく、クルマに乗る前の準備などですが、余計な荷物は降ろしておく、タイヤの空気圧を適正に保っておく、というのはガソリン車と同じく鉄則です。

重量は燃費や電費に大きく影響します。ガソリン車の実験では110kgの荷物を積むと3~5%ほど、270kgだと6~10%ほど燃費の悪化が見られました。

ガソリン車は満タン時と空タン時で重さが変わり(50リットルタンクなら約37kgの差)、それも燃費に影響しましたが、EVにはあてはまりませんね。バッテリーの重さは充電状態がどうであれ変わりませんから。

タイヤの空気圧の適正化は安全面からも必須です。適正空気圧は運転席ドア付近などに表示されており、250kPa(キロパスカル)などの表記となっています。

空気圧の測定および調整はガソリンスタンドで行うのが一般的ですが、EVはどうすればいいのでしょう? ガソリンスタンドでも洗車などをすれば、ついでに見てもらえるでしょうし、空気圧が心配だからエアゲージを貸してくださいとお願いすれば、快く対応してくれるところもあるようです。もっとも確実なのはクルマを購入したディーラーで行うことですね。

また、多くのクルマにはタイヤがパンクしたときのためにパンク修理キットが積まれています(スペアタイヤが積まれているクルマにはありません)。そのなかのポンプを使えば空気を充填することが可能です。ちなみに、タイヤメーカーは月に1度の空気圧測定を推奨しています。

 

EV充電設備

 

EVエコドライブポイント②
冬場のエアコン暖房はほどほどに

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エアコンの使用は燃費や電費に影響を及ぼしますが、EVの特徴は冬にエアコンの暖房を使うと電費の悪化が顕著なことです。

ガソリン車は暖房を使ってもほとんど燃費は変わりません。なぜなら、ガソリン車は熱が余っているからです。常にラジエターと呼ばれる冷却装置でエンジンを冷やしながら走っているくらいですから、車内が寒いときはその熱を利用すればいいだけです。
冬場にはありがたいことですが、エンジンがガソリンの持つエネルギーの30〜40%くらいしか走行等の力に変えられていない証でもあります。一方、EVのモーターはバッテリーに貯めた電力エネルギーの80~90%を力に変えているともされ、たいへん効率が良く優秀です。その反面捨てている熱が少ないので、車内を暖めるためには新たに熱を作り出す必要があるのです。

暖房使用による電費の悪化率は、外気温などにもよりますが、概ね10~30%程度といわれています。対策としては、やや原始的ですが厚着をすること。EVのオーナーは同乗者向けに膝掛けを用意している人もいるようです。もちろん、健康に影響しない範囲内でというのは当然ですね。
また、EVのなかには冬の寒さ対策のためにシートヒーターやステアリングヒーターを備えているものも。エアコンよりも省エネなので、これを賢く使うのも効果的でしょう。最近のEVのエアコンには従来のPTCヒーター式以外に、効率の良いヒートポンプ式のエアコン暖房も採用されるようになってきました。技術の進歩を期待するとともに、EVを購入するときには、こういった寒さ対策にも注目したいですね。

EVエコドライブポイント③
急発進を繰り返すと電費に1割もの違いが出るのでご注意を

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発進加速は、燃料を多く消費します。重たいものを動かすときにも、最初の動き出しに力を多く必要とする実感があるでしょう。頻繁にストップ&ゴーを繰り返す街中において、ガソリン車のテストでは全体の燃料消費のうち約40%を発進加速で使うといわれています。ここで上手にエコドライブすることは効果が大きいのです。

停止状態から発進し、50km/h程度まで加速していくテストでは、普通に発進させた場合とちょっと気を使った場合とで燃料消費に差が出ます。具体的にはアクセルペダルを勢いよく踏まずに徐々に踏み増していくようなイメージで操作し、スムーズに加速していきます。後続車の邪魔にならない程度に、普通の発進に比べ少しゆっくりと。
これで計測するとガソリン車の場合は9%ほどガソリンの消費が少なくなりました。EVで同じテストをしてみると少なくなった電力消費は4%強といったところでした。ちなみに急発進させると逆に10%ほど電力消費は増えます。

エンジンに比べてモーターは低回転から大きなトルク(タイヤを回転させる力)が出せるので、発進加速は得意であり、気を使って運転してもガソリン車に比べると効果が少ないという結果になります。とはいえ、電費改善効果があるのは確かですから、発進加速時にちょっと気を使うことは有効なエコドライブといえます。

 

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EVエコドライブポイント④
ブレーキは50~100m手前からゆっくりと

エコドライブテクニック ブレーキ

 

EVの大きな特徴が回生ブレーキです。減速時のエネルギーを電力に変換してくれるのですから、これを有効活用すれば電費改善効果が高くなります。

回生ブレーキで得られる電力量はモデルによって異なりますが、テスト車両では50km/hから停止する場合に、減速(アクセルオフ)を停止地点の50~100m手前で行うと概ね25〜28Whでした。かなりの急ブレーキになる25mで計測してみると5Wh程度しか得られません。
回生ブレーキはモーターが行っていますが、その能力を超えて減速しようとすると一般的な機械式のブレーキを働かすことになりますので、減速エネルギーはローターとパッドの摩擦熱に変換されて大気に放出、つまり捨てることになるのです。

また、早めに減速を開始するに越したことはありませんが、減速区間の距離が50mよりも100mのほうがちょっとだけ回生量が多かったものの、大きな差はありませんでした。ただし、減速開始が遅くなれば50km/hで巡航している区間が長くなるわけで、そこで電力を使っていますから、100mで減速開始したほうが全体の電費としては有利になります。

実際の交通の流れのなかで運転してみると、100m以上の減速区間をとると後続車両に迷惑をかけることになりかねません。ですので、停止地点の100m手前程度から緩やかに減速を開始するのがおすすめ。状況によってはもう少し先、50m手前ぐらいにしても大差はないことになります。

EVエコドライブポイント⑤
ガソリン車と逆。街中より高速道路の方が電費は悪いことを意識

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クルマを走らせる速度域は燃費や電費に大きく影響します。テストでは、10km/h〜110km/hまで、10km/h刻みで定速走行した場合の燃料消費量を測っています。
加速や減速は無視して、たとえば50km/hなら50km/hに速度を上げた状態で計測開始地点から計測終了地点までずっと同じ速度で走るのです。すると、ガソリン車とEVで大きな違いがありました。

ガソリン車は60km/hがもっとも燃料消費量が少なく、それ以上でもそれ以下でも悪化します。対するEVは、基本的には速度が低いほど電力消費量が少なく、速度が上がれば増えていきます。

ガソリン車は、ギアが高くなってエンジン回転数が低い状態が燃料消費量は少ないわけで、それが60km/h付近なのです。トランスミッションが6速ATだったとして、60km/hは6速に入っているけれど、速度が低くなれば5速、4速、3速、2速とギアは低くなります。
ギアが低いと、エンジンが回転している割に走行距離が伸びていかないということになりますので、燃料消費量が多くなってしまうのです。エンジンは回転数が0~1000rpm程度では有効なトルクがほとんど出せませんので、低いギアを使わないと0~50km/h程度は走れないのですね。

一方、EVのモーターは0rpmから最大トルクを出せるのが大きな強みであり、ギアはほとんどの場合1つで済みます。そのため60km/hよりは50km/h、50km/hよりは40km/hと速度が低いほどモーターの回転数も低く、電力消費量も少ないということです。ただし、10km/hと極端に低い速度では20km/hや30km/hに比べてやや電力消費量が増えるという結果がテストでは出ていました。これはモーターやバッテリー、その他電気系の内部抵抗によるものです。

60km/h以上になってくるとガソリン車もEVも同じように燃料消費量が増えていきます。エンジンやモーターの回転数が上がり、走行抵抗も増えていくからです。とくに高速域では空気抵抗が飛躍的に増していきます。

ガソリン車では、高速道路よりも街中のほうが燃費は悪いことが多いと、経験則から知っている人もいるでしょう。半ば常識ですが、ゆっくり走ったほうが速く走るより燃料を沢山使うなんて、腑に落ちないというか、もったいない現象というか。街中はストップ&ゴーが多いのでその影響もありますが、エンジンは特性として低いギアで走ると燃費が伸びないということです。

よくEVはシティコミューターに向いていると言われますが、速度域が低ければエネルギー消費もそれだけ少ないという効率の良さがあるからなのですね。

実はガソリン車よりもシンプル。EVエコドライブのコツ

以上がEVならではのエコドライブの解説でした。エンジン車に比べれば加速を緩やかにすることによる効果が薄いものの、それでもやはり加速が強いより弱いほうが電力消費は少なくなります。また、速度域は高いより低いほうが電力消費は少なくなります。つまり、仕事量と電力消費の関係が素直でシンプルなのです。

電費を良くしたいと思ったら、自分の力で歩いたり走ったり、あるいは自転車に乗るように、体がなるべく疲れないように移動することをイメージするといいでしょう。最新のテクノロジーが搭載されているEVは複雑に思えるかもしれませんが、実際はシンプル。いたわるように乗ることが、航続距離を伸ばすポイントといえるかもしれませんね。

 

この記事の著者
石井昌道
石井昌道

モータージャーナリスト。内閣府SIP自動運転 推進委員 構成員。自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。ジャンルを問わない執筆活動を展開。また、モータースポーツへの参戦も豊富で、以前には省エネルギーセンターのエコドライブインストラクターを務め、現在では自動運転の国家プロジェクトに参画。自動車が抱える社会的責任である環境問題や安全問題へも積極的に取り組む。