トヨタbZ4X。EVの不満点を“カイゼン”した、日常を変える世界戦略車

bz4x

世界最大級の自動車メーカーとして知られる日本のトヨタが、いよいよEVに本格参入します。先陣を切るのが世界戦略車として期待されるbZ4X。メディア向けのプロトタイプ試乗会を、モータージャーナリストのまるも亜希子さんがレポートします。注目のEVの出来映えはどんなものなのでしょうか。

2021年12月。それまでEVには否定的と思われていたトヨタが、ついに本腰を入れてEVを世に送り出していくことを宣言し、世界を驚かせました。

トヨタ「bZ4X」

撮影:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY

 

バッテリーEV専用車「bZシリーズ」第一弾となるのが、ミッドサイズSUVのbZ4Xです。今回はまだ量産車になる一歩手前のプロトタイプに、クローズドコースで試乗。細かなスペックや仕様は正式発表を待ちますが、まずはトヨタが最新EVに込めた想いや、既存のEVと比べてどんな違いや魅力があるのか、チェックしてお届けしたいと思います。

トヨタ「bZ4X」

 

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●Check1:エコノミカル

ソーラールーフとヒートポンプを採用し、電費を効率化

電気の使い方とやりくりを工夫することで、維持費の節約にもつながるのがEVの魅力のひとつですが、同じ距離を走っても季節によってバッテリー消費量が変わったり、バッテリーの劣化により性能が落ちたりしてしまうなど、ユーザーの使い方の問題だけではどうにもならない弱点がありました。

トヨタ「bZ4X」

 

そこに着目し、エアコン使用によるバッテリー消費量をできる限り減らす工夫や、プリウスPHVと比べて大幅に発電量がアップしたソーラールーフの開発、初の水冷式を採用し10年経過後も90%の性能保持を目指したというリチウムイオン電池の搭載など、従来のEVの弱点をクリアしてきたのがbZ4Xです。

エアコンには外気の熱を暖房に利用する高効率なヒートポンプ式を採用し、乗員の周囲のみを温める「ALL AUTO(ECO)」で無駄をカット。トヨタ初採用となる「輻射ヒーター」は無音・無風の遠赤外線で足元を温め、冬場のバッテリー消費を減らすことができるようになっています。最新家電にも通じるカーエアコンの効率化は、今後のトレンドになるかもしれません。

トヨタ「bZ4X」

 

充電は、6.6kWまで対応の普通充電と、最大150kWまで対応の急速充電があります。充電時間の目安などは未発表ですが、将来的に増えることが予想される高出力の充電器に対応しているのはうれしいところです。

参考値ですが、家庭で充電する場合の電気代は、1kWhあたり31円(全国家庭電気製品公正取引協議会の公表情報参照 )と考えると、500km走行するのに約2000円(FWDの場合)となります。

※電力量料金のみの金額です。基本料金・燃料費調整額・再生可能エネルギー発電促進賦課金は加味していません。

●Check2:プライス

販売方法はサブスクリプションのみ。月額費用は未定

現時点では未発表ですが、KINTOによるサブスクリプションでの販売がメインとなるそうです。その場合の月額設定は未定とのことですが、新しい購入方法がどんなものになるか注目が集まります。購入しやすいプランの導入に期待したいところです。

 

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●Check3:ユーティリティ

ゆったりとした室内空間と先進的な操作系統

bZ4Xのボディサイズはトヨタ・RAV4と同じようなサイズ感ですが、全長は4690mmでRAV4より90mm伸長。最大の特徴はRAV4より160mm長いホイールベースで、それによって室内空間がゆったりとした広さになっています。家族でも使いやすいサイズ感といえます。

トヨタ「bZ4X」

 

インテリアは太いアーチ状のセンターコンソールが運転席と助手席を分かつようにデザインされ、下段に収納スペースを確保しつつ、スッキリとして洗練された印象。Aピラーがかなり傾斜していても圧迫感はなく視界は開放的で、フードがなくコの字型に囲まれた斬新なデザインのメーターがスッと視線を捉えます。

トヨタ「bZ4X」

 

残念ながら試乗車のステアリングは従来の丸型でしたが、bZ4Xの目玉のひとつが、左右に大型のグリップがついたような、未来的なデザインの「ワンモーショングリップ」。

トヨタ「bZ4X」「ワンモーショングリップ」

 

見た目はゲーム機のような印象で、ワインディングでの俊敏な操作感や、Uターンや車庫入れで持ち替え操作が不要となるなど、新感覚の運転体験を提供するといいます。正式発売以降、装着車が設定される予定(時期未定)となっています。

トヨタ「bZ4X」

 

また、シフトは小ぶりなダイヤルを押しながら右に回すと「D」、左に回すと「R」に入るタイプ。真ん中に戻すと「N」で、「P」は独立してダイヤルの上部にスイッチがあり、すぐに慣れて使いやすいと感じました。

トヨタ「bZ4X」

 

荷室も十分な容量があり、開口部も大きい。ホイールハウスのあたりの出っ張りはありますが、後席が6:4分割でほぼフラットに倒せるので、大きな荷物も積載OK。大きなお買い物からキャンプなどのアウトドアシーンまで、幅広く使えそうな印象です。またリアゲートが電動で自動開閉するパワーバックゲートの設定もあります。女性にはうれしい装備ですよね。

●Check4:エモーショナル

乗り味はスポーティ! 高い運動性能と航続距離を両立

bZ4XにはFWDモデルと4WDモデルがあり、どちらも印象的なのはピタリと路面に張り付くような安定感と、思い通りにカーブを描いてくれるコントロール性の高さです。今回トヨタは、バッテリーEV専用のプラットフォームを新たに開発して、前後左右の重量配分が均等になるよう、システムを配置。床下に敷き詰めたバッテリーパックも骨格の一部として活用して、高いねじり剛性を確保しているのです。

トヨタ「bZ4X」

 

そして、搭載されるバッテリー容量は71.4kWhで、これはアウディe-tron50とほぼ同じです。e-tron50は0-100kmh加速が6.8秒と公表していますが、bZ4Xプロトタイプをフル加速した印象も背中をドンと押されるような怒涛の加速で、負けず劣らずのパワーを秘めているのではと感じました。

トヨタ「bZ4X」

 

また下り坂でアクセルペダルの力をゆるめると、シフトダウンをした時のように強めの減速感が得られます。クローズドコースだったので一般道では印象が変わるかもしれませんが、違和感は小さく、ダイレクト感のある運転が楽しめるような、スポーティな印象を受けました。

乗り比べなければわからない程度ですが、全体的にFWDモデルは軽快感があり、4WDモデルはドッシリとした重厚感が強まります。今回、SUBARUと共同開発されており、4WDモデルにはSUBARUのAWD技術である「X-MODE」が搭載されているので、雪道やライトオフロードでも頼もしい走りが期待できそうです。

トヨタ「bZ4X」

 

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●Check5:ハウスベネフィット

充電可能なソーラールーフを活かすために、屋外での駐車も視野に

bZ4Xの充電口は、急速充電用が左フロントフェンダー、普通充電用が右フロントフェンダーに設置されています。これから自宅に充電器を設置する場合には、位置を考慮するといいですね。

トヨタ「bZ4X」

 

また今回、新たに開発されたソーラールーフは、1年間で約1800km相当分(※)の発電が可能とのこと。搭載する場合には、シャッターガレージのように屋根のある駐車スペースよりは、日光を取り入れやすい屋外の駐車スペースがオススメです。

トヨタ「bZ4X」

 

AC100V/1500Wのコンセントがインパネとラゲッジに1個ずつ設置されています。昨今のキャンプブームやテレワーク需要の高まりなどで、電源のニーズは高まっています。車内でデジタルツールや家電への給電ができるのは大きなメリットといえるでしょう。

EVなどの大容量バッテリーを家の蓄電池として使えるV2Hにも対応。容量が大きいため、活用の幅は大きく広がり、災害時にも心強いですね。

※名古屋市の日射データをもとにしたソーラーパネル発電量(シミュレーション値)。約224kWh/年×WLTCモード電費7.94km/kWh≒1780km/年

出自よし。使い勝手よし。地道に開発した真面目なEV

未来的で斬新なエクステリアデザインが、EVの楽しさを語りかけてくるようなbZ4X。でもその中身は、トヨタがこれからEVに乗る人たちのことを親身に考え、弱点をコツコツとクリアしてきたようなとても真面目なクルマという印象を受けました。今後展開されていくbZシリーズの第一弾ということで、私たちをアッと驚かせるような飛び道具的なものがあるかもと期待していた人には、少し物足りないかもしれません。

トヨタ「bZ4X」

 

でも、グローバルモデルということで、どの国の人にも便利で楽しいクルマでなければいけない、EVならではの新しい価値を感じてもらい、たくさんの人に乗ってほしい、という想いがしっかり詰まった1台。日本ではボディサイズがやや大きめの部類に入りますが、エンジンがないことで前輪が大きく切れるため、小回り性能はRAV4同等というのもうれしいポイント。EVならではの豊富な電源も備えており、活用の幅も広がりそう。日常で使っていくうちに、新たな発見やかつてない体験ができそうです。

●家庭と暮らしのハマり度 総合評価

トヨタ「bZ4X」評価

 

【ギャラリー】

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トヨタ「bZ4X」

 

 

※本記事の内容は公開日時点の情報となります。

 

この記事の監修者
まるも 亜希子
まるも 亜希子

カーライフ・ジャーナリスト。映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツに参戦するほか、安全運転インストラクターなども務める。06年より日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。女性パワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト」代表として、経済産業省との共同プロジェクトや東京モーターショーでのシンポジウム開催経験もある。