エンジン車と電気自動車(EV)の大きな違いのひとつに「動力」があります。ガソリンなどを燃料にエンジンで走るエンジン車に対して、EVは電気をエネルギーに「モーター」で走ります。それでは、EVに使われるモーターにはどんな違いやメリットがあるのでしょうか。この記事では、モーターとエンジンの違いについて解説します。
モーターとエンジンの違いは?
モーターもエンジンも車の動力である点は変わりません。EVもエンジン車も、一見すると同じ車に見えます。ところが、この2つには、実にさまざまな違いがあるのです。はじめに、具体的にモーターとエンジンはどう違うのか、EV時代の到来に向けて理解しておくべきポイントを解説していきましょう。
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エンジンとの違い① エネルギー効率がいい
エンジン車の主流となっている「レシプロエンジン」と呼ばれるエンジンは、シリンダー(筒)のなかでピストンが往復する運動の作用によって、燃料がもつ熱エネルギーを動力に変えます。そのため、「圧縮」「燃焼」といった複雑な過程が必要です。
このとき動力として使われるエネルギー効率は、燃費のいいエンジンでも40%程度で、残りの約60%は動力として使われず廃熱や摩擦などとなり失われてしまいます。
〈図〉エンジンとモーターの効率の違い
それに対して、モーターは電気エネルギーの約90%を直接、動力に変えることができます。また、エンジンのように「大きいほど効率がいい」と言うことはなく、どんなサイズのモーターでも効率よくエネルギーを使うことができます。この省エネルギー性能の高さは、モーターの大きな特徴と言えます。EVはランニングコストが安いというのも、モーターの効率のよさが大きな理由のひとつになっているのです。
※ここでいうエネルギー効率とは、モーターおよびエンジンの機器単体の効率のことであり、車全体の一次エネルギー効率のことではありません。
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エンジンとの違い② 音が静かで振動が少ない
エンジンの動作をもう少し詳しく説明しましょう。一般的なエンジンは筒状のシリンダーの内部で、ピストンが「吸気」「圧縮」「燃焼」「排気」といった過程を経て往復運動を繰り返しています。エンジン車は音や振動、臭いが気になると言う人がいますが、それは内部で往復運動が行われ、燃料が爆発・燃焼しているためです。
〈図〉レシプロエンジンの仕組み
一方、モーターはエンジンのような往復運動を行わないので、EVの走行音は非常に静かで、振動もほとんどありません。また、電気がエネルギーなので、化石燃料が燃焼する際の臭いや排気ガスもありません。
エンジン車のうち超高級車に搭載されることの多い12気筒エンジン(シリンダーの数が12あるエンジン)は、静粛性が高く、乗り心地がよいことで知られています。しかし、EVはグレードと関係なく、モーター1個で12気筒エンジンと同じか、それ以上の静かさと乗り心地のよさを実現することができます。
エンジンとの違い③ 減速時もエネルギーを無駄にしない
前述のように、エンジンは燃料を動力に変える過程で多くのエネルギーを失っています。それはフットブレーキやエンジンブレーキをかけて減速する場合も同じです。エンジン車が速度を落とすには、運動エネルギーを熱エネルギーなどに変換して棄てる以外に方法がありません。
〈図〉エネルギーの回生について
しかし、EVは速度を落とすときに運動エネルギーをモーターで電気エネルギーに変換し、車に搭載しているバッテリーに充電することができます。これを「回生」と言います。
エンジン車もEVも、運転中にアクセルから足を離すと駆動力がなくなりますが、EVの場合クラッチが無いので、車が停止するまでモーターが回転し続けます。この回転する力を使ってモーターで発電するのです。これはHV(ハイブリッド車)やPHEV(プラグインハイブリッド車)も同じです。
たとえば、富士山の五合目など標高の高い場所からEVで道路を下るときには、エンジンブレーキの代わりに回生ブレーキが強く長く働くので、バッテリー残量が数十%(バッテリー容量が小さなEVの場合)ほども増えることがあります。下り坂では回生の充電によって、電池残量が増えていくのです。EVのモーターは、減速時でさえエネルギーを無駄にしないと言うことがわかります。
エンジンとの違い④ 構造がシンプルで部品が少ない
エネルギーを動力に変える過程が少ないということは、必要となる部品も少なくて済むということです。たとえば、エンジン車は効率的に加速できる回転数の幅が限られていて、「変速機(トランスミッション)」や「クラッチ」が必要ですが、モーターは加速力を保てる回転数の幅が広いので、多くのEVは変速機のない固定ギアを採用しています。
ただし、サーキットなどでの高速走行を重視したスポーツタイプのEVには、高速走行用の2速トランスミッションを採用している車種もあります。とはいえ、一般的にはEVに変速機は不要です。
構造がシンプルで部品が少なければ、故障が少なくなり、生産コストも低く抑えることが可能になります。現状では、バッテリー価格などの問題からエンジン車よりEVのほうが車両価格は高くなっていますが、この点は将来的に改善されていくでしょう。
エンジンとの違い⑤ 低回転からの加速がいい
なぜ一般的なEVには変速機がついてないのか、もう少し詳しく説明します。
〈図〉エンジンとモーターのトルク曲線イメージ
エンジンには、ゼロからある回転数まで、ほとんどトルク(駆動力)が発生しない回転域があります。さらにトルクの高い回転域が狭いことがエンジンの弱点といえます。変速機はこの弱点を補うためのもの。マニュアル車ではクラッチ操作やギアチェンジによって人間が、オートマチック車ではトルクコンバータと自動変速ギア等が、エンジンの弱点をカバーしているのです。
一方、モーターはゼロ回転や低回転からでも、アクセルを踏めば、その瞬間に最大トルクを発揮できます(市販EVではコントローラーで走りやすく制御されています)。マニュアルのエンジン車で言うと、2速発進のようなイメージで、一定の速度までパワフルな加速力を維持できるということです。一般道や高速道路を走る速度域では十分にトルクを維持できるので、EVでは基本的に変速機が必要ないのです。
コラム:そもそも「トルク」って何?
車のカタログや記事には「トルク」という用語がよく出てきます。トルクは「加速力」と考えて問題ありません。より正確にいえば、「加速力」はエンジンやモーターが発生した回転力を減速して増やした上でタイヤが地面を押す力、つまり「駆動力」のことです。地面を押す力が大きいほど、当然ながら加速も速くなります。ですから、エンジンやモーターそのものの「トルク」だけでは、加速を比べることは本来できません。タイヤまでの減速比も考慮して加速のよさを判断するべきです。
しかしながら、低回転(ゼロ回転)から高いトルクを発揮できるのは、別の言い方をすると「運転がしやすい」と言うことです。実際にEVを運転してみれば、アクセルを踏んだ瞬間にドライバーが思ったとおりに加速していく、つまりトルクが出る感覚を実感できるでしょう。
たとえば、広い交差点の右折レーンに入り、対向車の流れを見ながら右折するタイミングをうかがっているとします。このとき軽のエンジン車に乗っていたりすると、なかなか加速しないので怖い思いをすることがあります。しかし、トルクの高いEVなら、こうしたシーンでもスムーズに右折できるはずです。
EVに使われているモーターとは?
エネルギー効率、機械的な特性、静かさ、駆動力など、同じ自動車の動力であってもモーターとエンジンは大きく違うことが理解できたかと思います。それでは、EVに使われているのはどのようなモーターなのでしょうか。モーターといっても、家電やPCに使われているものなどさまざまな種類がありますので、「EVに使われている主なモーター」に絞って紹介します。
EVのモーターの構造は? ローターには永久磁石タイプとコイルタイプがある
一般的に、EVのモーターは下の図のような構造になっています。外側はケースで覆われ、内側はおもに「ステーター」と呼ばれる動かない部分と、「ローター」と呼ばれる回転する部分で構成されています。
〈図〉モーターの構造
ローターには、「永久磁石※」を採用したタイプと「コイル」を採用したタイプがあります。コイルとは鉄心の周りに巻かれた、電流を流すための電線のことです。これらの組み合わせによって、モーターの名称が変わってきます。
※外部から磁場や電流の供給を受けることなく、自発的かつ定常的に磁場を発生させる物体。
EVのモーターは大きく分けると3種類
モーターの動力源となる電気には、直流(DC)と交流(AC)があります。EVに使用されているモーターは交流(AC)が主流です。また、交流(AC)モーターのなかでも現在EVでよく使われるものが大きく分けて、3つあります。
ローターに永久磁石を使用する現在主流の「永久磁石型同期モーター」、ローターに永久磁石の代わりに界磁用コイルを設けた「巻線界磁型同期モーター」、ローターに誘導電流を生じさせる非同期の「誘導モーター」です。バッテリー同様モーターも日進月歩で進化しており、今よりさらに効率や特性のよいモーターの登場も期待できるでしょう。
〈表〉現在EVに使われている主な交流(AC)モーターの種類
モーター種類 | 永久磁石使用有無 | 特徴 |
永久磁石型同期モーター | 有 | 効率がよく出力密度も高い |
巻線界磁型同期モーター | 無 | 高効率領域を広く取れ、永久磁石を使用しない |
誘導モーター | 無 | 構造がシンプルのため安価で高寿命 |
EVとエンジン車の車選びの違い
じつは、EVはエンジン車ほど動力であるモーターが注目されていません。EVの登場以前はエンジンが車メーカーのアイデンティティで、ユーザーも車選びの際はエンジンを重視しました。そこには、メーカーが自社で設計して動力をつくっているという前提がありました。
しかし、EVの場合、自社でモーターをつくっているのは日本の車メーカーだけと言ってもよく、欧州車は同じ企業グループに属するブランド同士で共用しています。
現状の日本の自動車ユーザーで、テスラが使用するモーターに注目する人はあまり多くないと思われます。テスラの強みはモーターの種類や性能ではなく、ブランドが掲げるビジョンやライフスタイルだからです。
とはいえ、今後はモーターの種類や性能も車選びの要素のひとつになっていくかもしれません。たとえば、日本企業にもEV用の動力システム(モーターやコントローラーなどを一体化した動力システム。「eアクスル」とも呼ばれます)の開発に注力する会社が登場しています。こうしたメーカーが増え、魅力的な特長を備えたモーターの選択肢が増えていけば、いずれEVが搭載するモーターの個性が問われる時代になっていくことでしょう。
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まずはモーターのメリットを体感してみよう
いくらモーターのほうがエンジンよりも効率的で、多くのメリットがあると言われても、「EVは車種が少ない」「エンジン車に比べて車両価格が高い」と躊躇する人もいるかもしれません。
しかし、世界の自動車メーカーの動向をみれば、EVは日本でもあと数年で本格的な普及期に入り、車種の選択肢が増え、価格も下がっていくことが予想できます。そういう時代がまもなくやってくるのは、欧州市場を見ても間違いありません。EVに慣れるという意味では、まずは外部充電が可能なPHEVにて、エンジンとモーターの違いを知り、「充電して走る」ことを体感するというのも選択肢のひとつではないでしょうか。
この記事の監修者
森 修一
一般社団法人日本EV理事、拓殖大学 工学部 機械システム工学科 助手。1970年代から環境エネルギー問題に興味を持ち、学生時代「水素エンジンのターボ過給」の研究に携わるも、1994年日本EVクラブのイベント参加を機に、EVへのコンバートにのめりこみ、以来トヨタスポーツ800をはじめトヨタ2000GTなど7台をEVにコンバート、電動レーシングカート10数台を製作し、これらの電気自動車を使ったイベントの開催にも携わっている。これらの経験を若者に伝えるために2012年、メーカー系自動車大学校に日本初の電動車両を専門に学ぶ、スマートモビリティ科を設立。国家1級小型自動車整備士。