小さいけどスゴい!TEPCO発「進化したEV充電器」の実力は?

多台数対応普通充電器

EV(電気自動車)の利用を考えている人にとって、充電環境は最も気になることのひとつでしょう。マンションや勤め先の駐車場、商業施設に充電設備がもっと増えれば…と思う人も多いのでは? そこで注目したいのが、TEPCOから発売された複数台対応のEV充電器です。充電設備の拡充がより手軽に行える画期的な製品と期待されているそうですが、どこが凄いのでしょうか? 開発担当者に話を聞きました。

充電設備をもっと増やすポイントは「設置にかかるコスト抑制」

現在、全国ではEVを充電できる施設が数多く存在します。しかし、会社や商業施設の駐車場のように、複数台が同時に充電できる設備をつくる際には、これまで“とある課題”があったのだとか。はたしてその課題とは何なのでしょうか?

 

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東京電力ホールディングス株式会社 EV推進室 事業開発グループ 大森 淳さん

東京電力ホールディングス株式会社 EV推進室 事業開発グループ 大森 淳

 

大森「会社や商業施設の駐車場など、EVの充電器を複数台設置する場合に課題となっているのは、電気にかかるコストの問題です。イメージしやすいように、個人宅の電気代を例にしながら説明していきましょう。

東京電力の家庭向け電気料金プランの場合、電気代は使用した電気の量による電力量料金と電気契約容量(契約アンペア)の大きさによる基本料金等で構成されています。電気契約容量とは、要するに同時に使用できる電力の契約上限のこと。エアコンに電子レンジ、ドライヤーというように、電気をたくさん使う家電を同時に使った際にブレーカーが落ちた経験は、どなたにでもあるでしょう。

もし、家電を同時にたくさん使いたいのであれば、想定される電力の最大値にあわせて電気契約容量を増やせばよいのですが、そのぶんだけ基本料金が高くなってしまいます」

〈図〉個人宅の電気契約

〈図〉個人宅の電気契約

 

なるほど。確かにブレーカーが落ちるのは不便ですが、電気代が高くなってしまうのも困りものですね。

大森「そうですね。法人のお客さまは契約の仕組みは違うのですが、電力の最大値が上がると基本料金も上がるという構造は同じなんです。

たとえば、一般企業や集合住宅の場合、帰社時間や帰宅時間は同じ時間帯ですから、EVが一斉に充電する場面はよく起こるでしょう。そうすると、同時に使用される電力の最大値はかなり大きくなってしまいます。そうすると、基本料金を決定する最大電力も上がってしまうのです

〈図〉法人の電気契約(高圧の場合)

〈図〉法人の電気契約(高圧の場合)

一般的に高圧で契約する場合、至近12カ月の実績の中で、ピーク時の最大電力をもとに契約電力が決まる。

 

大森「しかし、EVの充電は常時行われるわけではありませんよね? つまり、EVを“同時に”充電すると、事業所全体で余計なコストがかかってしまうのです

必要以上に電気代を上げたくはないですよね…。これは確かに悩ましい問題です。

 

東京電力ホールディングス株式会社 経営技術戦略研究所 リソースアグリゲーション推進室 プロジェクト推進グループ 高島遼史

東京電力ホールディングス株式会社 経営技術戦略研究所 リソースアグリゲーション推進室 プロジェクト推進グループ 高島遼史

 

高島「これに加えて、場合によっては初期費用も大幅にかかるケースもあるんです。そもそも会社や商業施設、集合住宅に設置されている変圧器などの電気設備には物理的に流せる電力の上限があります。EV充電器の設置により、使用電力がその上限を上回るならば、設備改修の必要性があるのです」

つまり複数台の充電設備を導入する際、ランニングコストと初期コストの問題があり、この問題を解決するためには、なるべく小さい契約電力で複数台の充電を可能にする仕組みが必要だった、というわけなのです。

「多台数対応EV普通充電器」にはコストを抑える工夫が盛りだくさん!

そこで登場したのが、今回ご紹介する「多台数対応EV普通充電器」です。いったい、どのような仕組みになっているのでしょうか?

 

多台数対応EV普通充電器

 

高島「この製品のいちばんの特徴は、複数の充電器で使用する電力の合計値を調整する『デマンドコントロール』機能を備えていることです。

デマンドコントロール機能を持たない(一般的な)充電器の場合、単純計算すると10台なら10倍というように、設置した台数に比例して電力の合計値が増えていきます。

一方、デマンドコントロール機能を持つこの製品は、上限電流を設定することで、その範囲内で充電器が自律的に充電電流をコントロールします

たとえば、会社の駐車場に複数台の充電設備をつくる場合で考えてみましょう。

通常、会社の契約電力は、営業時間中に使用する照明やエアコン、OA類などが消費する電力の合計値にあわせて設定されています。そこにEVの充電器に使用される電力が加わると、単純計算では下の図のように現在の契約電力を超える時間帯が生まれてしまうことになります。

〈図〉一般的な充電器を導入した場合の電力負荷イメージ

〈図〉一般的な充電器を導入した場合の電力負荷イメージ

 

もちろん契約電力を増やせば問題は解決するのですが、図を見ればわかるように従来の契約電力を超える時間帯は限られており、余分なコスト増につながるわけです。

しかし、これは一般的な充電器を導入した場合のこと。デマンドコントロール機能があるこの製品なら、現在の契約電力を変えずに、上限に対する空き容量でEVを充電することが可能になります。

〈図〉デマンドコントロール機能のある充電器を導入した場合の電力負荷イメージ

〈図〉デマンドコントロール機能のある充電器を導入した場合の電力負荷イメージ

 

大森「一般的な利用シーンでは、社用車の充電は営業時間外となる夜間がメインと考えられます。翌朝、社用車に乗る前までに充電が完了していれば問題ないという考え方です。一方、社内の設備は夜間には稼働しないことが多いわけですから、デマンドコントロールを上手に活用すれば、従来の契約電力の範囲内で、複数台の充電器を運用することも不可能ではありません

さらに今回の「多台数対応EV普通充電器」なら、導入にかかるコストも抑えることができると言います。

 

送信機(親機:写真左)と充電器(子機:写真右)

送信機(親機:写真左)と充電器(子機:写真右)で構成されており、1台の親機に複数台の子機が接続できる。価格は送信機が6万円、充電器が16万円/台。

 

高島「今回の製品は送信機(親機)と充電器(子機)で構成されており、施設全体が使う電力を観察する『親機」が、その使用状況を『子機』である各充電器に無線で伝え、それによって充電器が充電電流を制御するシステムです。

その際の通信にWi-Fi(ローカル無線方式)を使っている点もメリットのひとつです。親機と子機が有線でつながるタイプの製品の場合、通信線を引くための工事が別途必要になりますがWi-Fiなら工事が不要なので導入だけでなく、子機を増設する際のコストも抑えられるからです」

〈図〉多台数対応EV普通充電器の仕組み

〈図〉多台数対応EV普通充電器の仕組み

 

デマンドコントロール機能により、複数の充電器全体で使う電力の合計値を調整するというと、「1台に割り当てられる電力量が減って、必要な充電量を確保できないこともあるのでは?」と心配する方も多いでしょう。しかし、その点の対策もちゃんと考えられているのだと言います。

大森「今回の製品の導入にあたっては、事前に車両の使い方を伺い、必要な充電量を考慮し、適正な契約電力をご提案しています。空き容量が少ない時間には、1台当たりの充電量が少なくなる可能性がありますが、空き容量が増える時間には、割り当てられる電力も増えることになります。また、昼間にEVの充電を優先したい場合などにも対応できるよう、特定の子機だけデマンドコントロールの対象から除外する設定も可能です」

 

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業務車両へのEV導入の経験が開発につながった

初期コストやランニングコストをなるべく抑えつつ、複数台に対応する充電設備を設置できる「多台数対応EV普通充電器」。その開発・販売を東京電力ホールディングス株式会社(以下、「東京電力HD」)が行うことになった理由には、自社での経験が大きくかかわっています。

 

大森さんと高島さん

 

大森「複数台の充電設備をつくる際にかかる設備増強によるコストがEV導入の障壁となることは、当社が1970年代から業務車両としてEVを導入してきた中で、大きな課題として認識してきました。2019年5月には、車両のゼロ・エミッション化を目指す国際イニシアティブ『EV100(※)』に加盟しています」

 

※非営利団体The Climate Group主導のもと、自社車両のEV化や充電インフラ整備などを推進する企業が集結する国際イニシアティブ。東京電力グループは2030年度までにすべての業務車両約3600台(緊急用や工事用の特殊車両などを除く)の電動化を目指している。

 

高島「現在、業務車両の電動化を進めていますが、その過程で課題となったのが充電設備の問題でした。また、当社は法人のお客さまへEV導入における設備増強も提案しているのですが、複数台のEV充電器を設置した場合に、契約電力が増えることを懸念する声をいただくこともあります。そこで開発したのが今回の『多台数対応EV普通充電器』というわけなのです」

 

多台数対応EV普通充電器

 

つまり、自社でEVを導入する際の課題に対する解決策として開発・完成した製品というわけですね。「東京電力が、なぜEVの充電器を販売するの?」と不思議に思っていた人も、これで納得ではないでしょうか。

ちなみに製品化にあたっては、東京電力HDで取り組んできた研究の成果をベースに、EV用普通充電器の開発・製造を行う株式会社ジゴワッツと協力して製品化したのだそうです。

導入利用者に直撃! 新しいEV充電器の採用理由と感想は?

企業、商業施設や集合住宅における充電設備導入のハードルを下げてくれる東京電力HDの「多台数対応EV普通充電器」。ここで、実際に製品を導入した方々の声をご紹介しましょう。

【導入事例①】イナバボックス「EVガレージ」(イナバクリエイト株式会社)

まずご紹介するのは、全国236箇所でレンタル収納スペース「イナバボックス」を展開するイナバクリエイト株式会社の事例です。イナバクリエイトでは「イナバボックス」のラインナップとして、EVの格納・充電が可能な「EVガレージ」を新設。その第1弾として、フラッグシップモデルとなる『OREGA(オレガ)』に、多台数対応EV普通充電器を導入しました。

 

OREGA(オレガ)

 

「『OREGA』は、“男の趣味の隠れ家”をコンセプトとする、鑑賞にも適したガレージとラグジュアリーな滞在スペースをセットにしたレンタルのデザインガレージです。以前からEVの充電器を設置してほしいというご要望を、お客さまから頂いていましたが、工事にかかる費用やランニングコストを考えると、なかなか実現に踏み切れないというのが正直なところでした。そこで採用したのが、多台数対応EV普通充電器です」

こう語るのは、イナバクリエイト株式会社の井上陽平さん。コストを抑えることができることはもちろん、設置工事の簡単さにも魅力を感じたそうです。

 

イナバクリエイト株式会社 設計本部 井上陽平さん

イナバクリエイト株式会社 設計本部 井上陽平さん

 

「今回は2台の充電設備を設置しましたが、契約電力は従来の契約から少し増やす程度で済んでいます。設置に立ち会って感じたのは、工事の簡単さでした。特に充電器については、通常のコンセントの設置とほとんど変わらないため特別なスキルを持った業者に頼む必要がなく、今後各地にEVガレージを設けるにあたっては、コスト面でも大きなメリットになると思いました」

 

『OREGA』内に設置された多台数対応EV普通充電器の子機

『OREGA』内に設置された多台数対応EV普通充電器の子機。

 

親機(送信機)

充電器を管理する親機(送信機)は施設の分電盤周りに設置する。

 

現在は1店舗での導入ですが、需要に応じて、今後も「EVガレージ」の数を増やしていきたいとのこと。EVの充電ができるガレージを探している人なら、今後の発展に期待してしまいますね。

【導入事例②】時間貸駐車場「タイムズ西池袋第14」(パーク24株式会社)

続いてご紹介するのは、2022年3月1日より時間貸駐車場「タイムズ西池袋第14」に東京電力HDとの実証研究として多台数対応EV普通充電器を導入した事例です。

パーク24株式会社は、1996年から月極駐車場にEV充電器の設置を始めたほか、1998年からは時間貸駐車場に駐車料金だけでEVを充電できる「パーク&チャージ」というサービスも提供するなど、EV普及に対応するべく取組みを続けています。

 

多台数対応EV普通充電器導入の実証実験を開始した「タイムズ西池袋14」(豊島区)

多台数対応EV普通充電器導入の実証実験を開始した「タイムズ西池袋14」(豊島区)

 

「現在はEVの普及が進んでいる最中なので、普及状況と駐車場における充電ニーズを見極めながら充電器の設置を進めています。現状、ひとつの駐車場に最大4台の充電器を設置しているケースもありますが、複数の充電器を設置するには、その都度、契約電力を増加させる必要がありました。」

 

パーク24株式会社 モビリティ研究所 東日本グループ 三輪 輝さん

パーク24株式会社 モビリティ研究所 東日本グループ 三輪 輝さん

 

そこで紹介を受けたのが、今回の多台数対応EV普通充電器でした。

「東京電力さんとは充電器に関する現状や展望を議論する機会があり、その中で多台数対応EV普通充電器を紹介いただいたのをきっかけに、『タイムズ西池袋第14』で実証研究をすることになりました。『タイムズ西池袋第14』では、当社の駐車場では最大数となる6台のEV充電器を設置しましたが、契約電力は通常の普通充電器1台分プラスアルファ程度の増加で済んでいます。これまでに比べ、契約電力を大幅に増やすことなく、複数の充電機会を提供できることは大きな魅力ですね」

 

設置された多台数対応EV普通充電器

設置された多台数対応EV普通充電器

 

また、タイムズパーキングの場合、EV充電器を設置することにより、需要が少ない夜間の利用増が期待できるそうです。

「ご存知のように需要の関係上、時間貸駐車場は昼間に比べ、夜間の料金が低く設定されている駐車場が多数あります。ですから、パーク&チャージに登録している方なら、夜間の最大料金を設定している駐車場に停めて充電すれば、夜間の駐車料金だけでEVの充電ができるわけです。駐車場を運営する側としても、夜間の利用者が増えれば収益も高まりますから、ウィンウィンの関係が築けることになります」

ちなみに「タイムズ西池袋第14」の夜間最大料金は550円。これでEVの充電ができるのなら、かなりおトクと言えるのではないでしょうか。

「当社は現在、2025年以降にオープンする時間貸駐車場に、EV充電器を設置するという目標を掲げています。今後のEV普及の経過と時間貸駐車場における充電ニーズの見極めは必要ですが、今回の多台数対応EV普通充電器はEV普及の過渡期において大きな力になってくれると期待しています」。

EVのユーザーにとっても、充電ができる時間貸駐車場が増えるのはうれしいこと。パーク24の取り組みに、今後も注目したいところですね。

 

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利用シーンで選べば、EVの充電設備はもっと便利に!

自社の取り組みをきっかけに製品化が実現したという、東京電力HDの多台数対応EV普通充電器。開発に携わった担当者によれば、利用シーンを考えて賢く利用することにより、大きなメリットが得られるといいます。

 

大森さんと高島さん

 

大森「EVの充電シーンは、自宅や会社のように長時間駐車する場所で行う『基礎充電』と、移動中に行う『経路充電』、目的地で行う『目的地充電』の3つに分類することができます。今回の多台数対応EV普通充電器は、長時間の利用が想定される場所でより効果的な充電器ですので、このうちの『基礎充電』や『目的地充電』での利用を想定した製品となります。

たとえば会社で使う社用車の場合、営業時間外となる夜間に充電しておくという運用を基本にすれば、普通充電器で十分ですよね。また、商業施設の場合でも、たとえばホテルやテーマパークのように、利用者が長時間駐車するシチュエーションが想定される場所では、今回の製品が役に立つでしょう」

高島「EVの充電設備を賢く増やすためには、充電シーンと費用対効果を考えながら普通充電器と急速充電器を上手に組み合わせることが重要。『カーボンニュートラル社会の実現」という観点でEVの普及を考える際にも、今回の多台数対応EV普通充電器は、意義のある製品だと思っています」

 

多台数対応普通充電器

 

導入や運用にかかるコストを抑える工夫がたくさん詰まっている、東京電力HDの多台数対応EV普通充電器。一見地味な製品に思えるかもしれませんが、そこには近い将来のEV普及を担う大きなポテンシャルが込められているのです!

 

この記事の著者
EV DAYS編集部
EV DAYS編集部