イタリアの名車、チンクエチェント。EVになっても変わらない、圧倒的魅力

フィアット500e

EVもいろいろなタイプが出てきました。趣味性への期待にも応え、楽しさを与えてくれる選択肢が増えています。そこには、実用性やスペック一辺倒ではない“日常を豊かにしてくれる魅力”が備わっているのです。日本に上陸してまもないフィアット500eは、その典型といえるかもしれません。モータージャーナリストの岡本幸一郎さんが、その魅力をひもときます。

往年の名車「NUOVA 500」のちょうど生誕50周年となる2007年に登場し、翌年導入された日本でも人気に火がつき、コンスタントに売れているのが現代の「500(チンクエチェント)」。チンクエチェントとはイタリア語で500を意味する。時代が求めるトレンドをいち早く取り入れ、人々を惹きつけてきた一台といえる。その次世代版として、100%EVとなって登場したのが「500e」だ。

 

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とにかくカワイイ! そのひと言に尽きる魅力

街で見かけない日はないほど日本でも人気の「500」も、登場から大分時間がたった。次期型がどうなるのかと思っていたら、こうなったわけだ。見た目の雰囲気はそのままに、EVになって現れた。まさかそこまで思い切ったことをするとは、恐れ入る思いだ。

フィアット500e

 

これほどユニークな容姿のクルマが存在する理由は、1950年代のイタリアにまで話がさかのぼる。歴史的な話はここではあまりしないでおくが、けっこうおもしろいので、興味のある人はぜひお調べいただきたい。

目の前にある「500e」は、とにかく誰の目にも「カワイイ!」。このクルマとすごした数日間、どこへ乗って行っても誰からも、第一声は「カワイイ!」だった。自宅の駐車場に止めておいたら、見知らぬ親子連れにも言われたほどだ。たとえ降りてきたのが筆者のような中年男性でも、クルマが「カワイイ!」と言われればそれは悪い気はしない。むしろオジサンは、このクルマに似合うようにしなければと身だしなみに気をつけるようになる。それはよいことだ。

フィアット500e

 

グレードにはクローズドボディの「ポップ」と「アイコン」もあるが、写真の「オープン」というグレードなら、こんな感じでルーフをアレンジできる。撮影の日も、曇りときどき雨のち快晴という不思議な天候だったのだが、雨がふり出したら即座に電動ソフトトップをワンタッチで閉じて雨をしのぐことができ、晴れたらまた開けてオープンエアドライブを楽しむことができた。

実は貴重な、EVのオープンカーでもある

そういえば、EVのオープンカーというのはあまり心当たりがない。カワイイだけでなくその点でも貴重な1台となる。ただし、このクルマの場合は一般的なオープンカーと違って、ルーフを支えるすべてのピラーが屋根付きモデルと同じで、ルーフ前端からリアウインドウまでをソフトトップとしたスタイルを採用しているのが特徴だ。

フィアット500e

 

実はそれ、往年のチンクエチェントのオープントップモデルと同じ手法だったりする。当時はリアに搭載されたエンジンの音が騒々しいことをあまり感じさせないようにするための苦肉の策として屋根を開けたという逸話が残るのだ。いまやEVになって音の心配はなくなったわけだが、伝統を大事にしているのはもちろん、このほうがオープン化による車両重量の増加も小さく抑えられているのも好ましい。ボディ剛性は高いままなので走りへの影響もなく、横転時の安全性も高いままとなるなどいろいろメリットがある。

フィアット500e オープンカー

 

ソフトトップをスライディングさせると、リアシートの頭上まで開いていったん止まる。そこからさらにボタンを押すと全開になり、ソフトトップは最後端のトランクフード上に畳まれるという仕組み。全開にしたほうが開放感は高まるが、リアのガラスウインドウの位置でソフトトップが畳まれるので後方視界はよろしくない。ハーフ状態のほうが風の巻き込みも格段に少なく現実的だ。

フィアット500e オープンカー

 

開放感については、フルオープンにできるクルマのほうが上回ることには違いないが、いまどきの女性は、あまりオープンカーを好まないという話も耳にすることだし、むしろこれぐらいのオープン具合のほうが臆せず乗れるんじゃないかと思う。

フィアット500e フロント

 

オープンにしていようがいまいが、このクルマで街を走っていると、どんな人が乗っているのかとけっこう見られる。外見もガソリンの500に対してグリルが変わり、ヘッドライトにも特徴的な意匠が備わった500eは、微妙にキュートな感じになった印象を受ける。とはいえなぜか男性がひとりで乗っている分には、やけに絵になるように感じさせるのも不思議なところだ。

フィアット500e 内装

 

よくオープンカーはインテリアもエクステリアの一部といわれるが、そのインテリアもガソリンの500から大きく変わって、よりオシャレになっているのもうれしい。EVになったことで必要な情報を表示するためにメーターまわりも変わっている。そのあたりは日本のEVほど凝っておらず、いたってシンプルなものではあるものの、このクルマには似合っている。

フィアット500e 運転席

 

航続距離確保のため空調への負荷を減らすべく、シートヒーターが標準装備されている。カーナビも標準で付く。意外と日本語で表記されているものが多いことにも驚いた。先進運転支援装備も充実している。ガソリン車の500があまりそうではなかったのからすると、いろいろ進化している。

また、「イタリアのクリエイティブスピリットが創造した」という、独特の500eサウンドを乗るたびに楽しめるのもポイントのひとつだ。外部に車両接近を知らせる音響と、電源スタート/ストップ時に車内に響く音に、それぞれ独自のチューニングが施されている。どんなサウンドかは公式HPでも再生できるので、興味のある人はチェックされたし。

 

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ガソリン車の500にあったネガを、ことごとく払拭

全長が日本の軽自動車なみのコンパクトなサイズゆえ実用性はそれなりではあるが、このサイズだからこそ機動性はバツグンだ。それでいて操縦安定性にとって重要なトレッドはそれほど狭くなく、EVになってバッテリーを積んで重心が低くなったことで、コーナリングも安定している。流行りのワンペダルドライブも付いており完全停止まで対応する。

フィアット500e 走行の様子

 

加速力だって、いまどきのゲキハヤ系ほどではないにせよ、モータードライブならではの俊敏なレスポンスと力強い低速トルクで、街中をスイスイ走れる。ゼロ発進から流れに乗るまでが爽快なので、ぜんぜん飛ばさなくても気持ちよく走れる。

フィアット500e 走行の様子

 

それはまさしくガソリンの500が不得手としていた部分に違いない。乗ると楽しいけれどひとクセふたクセあって、シングルクラッチのデュアロジックだとどうしてもつながりがスムーズでなく、発進でもたつきシフトチェンジでひと呼吸おく感じだったのは否めず。そのあたりがEVになったことでまるっきり払拭されている。だから500のデザインは好きだけど走りがどうしてもなじめなくて購入を躊躇していたという人にも勧められる。

フィアット500e 充電の様子

 

充電は200Vの普通充電と、専用のアダプターを用いることで、日本国内に設置されているCHAdeMO(チャデモ)規格の充電器での急速充電が可能。ただしバッテリー容量は42kWhとそれほど大きくなく、航続距離もWLTCモードで335kmとなる。それでも不思議と許せてしまう雰囲気を持っていて、日々の生活の中で使っていて乗るたびにニンマリできて、日常の中で非日常を楽しめる。500eとはそういうクルマだ。

フィアット500eと岡本さん

 

とにかくこのデザインが秀逸すぎる。このまま変えることなく延々と作り続けてもらえるといいのに。おそらく10年たっても20年たってもずーっと「カワイイ!」と言われ、毎日に楽しさを与え続けてくれることだろう。

〈スペック表〉

全長×全幅×全高 3630mm×1685mm×1530mm
ホイールベース 2320mm
車両重量 1360kg
駆動方式 FWD
最小回転半径 5.1m
バッテリー容量 42kWh
モーター最高出力 118ps(87kW)/4000rpm
モーター最大トルク 220Nm/2000rpm
一充電走行距離(WLTCモード) 335km
交流電力消費率(WLTCモード) 128Wh/km
税込車両価格 495万円

 

【ギャラリー】

フィアット500e

フィアット500e 後方

フィアット500e

フィアット500e オープン

フィアット500e

フィアット500e

フィアット500e

フィアット500e 後部座席

フィアット500e 後方

フィアット500e メーター

フィアット500e ハンドル

フィアット500e

 

この記事の著者
岡本幸一郎
岡本 幸一郎

1968年富山県生まれ。父の仕事の関係で幼少期の70年代前半を過ごした横浜で早くもクルマに目覚める。学習院大学卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作や自動車専門誌の編集に携わったのちフリーランスへ。これまで乗り継いだ愛車は25台。幼い二児の父。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。