EV初心者が長距離走行するときに心配なのは、やはり電欠です。そのため、充電計画を立てることが推奨されますが、どのような点に注意して計画すべきなのでしょうか? 別記事「EVロングドライブ7つの疑問を解消!1400km走行で実証してみた」で長距離走行をするにあたり、さまざまな車種でロングドライブを行ってきた寄本好則さんに“効率的な充電計画の立て方”を教えてもらいました。
【実際のロングドライブを通じての発見やデータなどは以下をご覧ください】
▶︎EVロングドライブ7つの疑問を解消!1400km走行で実証してみた
【今回、お話を聞いた方】
コンテンツ制作プロダクション三軒茶屋ファクトリー代表。一般社団法人日本EVクラブのメンバー。2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成。ウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開。電気自動車情報メディアや雑誌特集などに多く寄稿している。著書に『電気自動車で幸せになる』(Kindle)など。
▶︎WEB
▶︎Twitter
EV初心者が、充電計画を立てるときのポイントは?
そもそも、充電計画ってどうやって立てるの?
EV DAYS編集部「今回、東京から紀伊半島を一周する1400kmのロングドライブを計画しているのですが、とくに充電が不安です。どうすればいいでしょうか?」
寄本さん「初めての長距離はドキドキしますよね。ちなみに、どの車種を利用するんですか?」
EV DAYS編集部「日産のアリアです。長旅ですし、少し大きめの車の方がいいと思いまして」
寄本さん「なるほど! それなら1000km超えのドライブも恐るるに足らず、へっちゃらだと思いますよ。バッテリー容量の小さいEVだと充電頻度が多くて、苦労することがあるのですが、バッテリー容量が66kWhのアリアなら、全く問題ないでしょう」
EV DAYS編集部「そうですか! それはホッとしました」
寄本さん「とはいえ、知っておくべき点はいくつかあります。たとえば、ゴールデンウィークや大型連休などの混雑する日程だと、高速道路のサービスエリア・パーキングエリア(SA・PA)の急速充電で待つ可能性はありますね。私は毎年GWかお盆の時期に、東京から郷里の兵庫県へ帰省するのですが、時々充電待ちをすることがあります。とくに都市部に近く、急速充電器が1基しかないSA・PAでは空いていないことがあります。しかし、そういう場合でもきちんと計画していれば、そこまで苦労することはありませんよ」
EV DAYS編集部「それは少し安心です。そもそも充電計画はどうやって立てればいいのでしょうか?」
寄本さん「バッテリー残量がギリギリにならないように、立ち寄るべき充電スポットを調べておくということに尽きますね。また、事前知識として自分が乗る車種のスペック、EVの充電性能も把握しておいたほうがいいでしょう」
EV DAYS編集部「でも、充電スポットって、調べてみるとたくさんあるんですよね。どこに寄ればいいかわからなくなってしまいます」
寄本さん「確かに、街中の充電スポットはたくさんあります。ただ、ロングドライブで特に注目すべきは高速道路の充電スポットです。高速道路だとSA・PAで充電するのが効率的なので、適した充電スポットを通り過ぎてしまうと、バッテリー残量が少なくなってヒヤヒヤしたり、最悪の場合、機を逸して電欠することになります。といっても、実際には東名高速や新東名高速、名神や新名神などの路線は充電スポットが充実しています。とくに注意すべきは地方の高速道路を長く走るときですね」
充電計画を立てるときのコツ・注意点は?
EV DAYS編集部「なるほど。高速道路の充電スポットを選ぶコツはあるのでしょうか?」
寄本さん「『高出力の急速充電器』を優先することです。急速充電は基本30分と決まっていますから、高出力の充電器を使うほど充電量も増え、効率よく充電できます」
EV DAYS編集部「1回の急速充電で多くの充電量を確保できるのですね」
寄本さん「そのとおり。ただ、車種ごとに最大受入出力が変わる点には注意しましょう。アリアの最大受入出力は130kWですから、現時点での高速道路のSA・PAの最大出力となる90kWの急速充電器を選べるといいですね。たとえば、東京から新東名高速で大阪方面へ行く場合は、愛知県の長篠設楽原PA(下り線のみ)がいいでしょう」
【最大受入出力について詳しくは以下の記事を参照してください】
▶︎電気自動車の充電時間はどのくらい?普通充電・急速充電の目安を解説
寄本さん「また、SOC(State of charge:充電率)が10%を切るようなギリギリまで充電を我慢しないでください。電費チャレンジをしているわけでもないですし(笑)。ある程度バッテリー残量が少なくなってきたら、充電スポットのあるSA・PAに寄りましょう」
EV DAYS編集部「たとえば、どのくらいのSOCを目安に充電したらいいですか?」
寄本さん「アリアB6なら30〜40%程度を基準にするといいのではないでしょうか。SOCが30%あれば、電費が6.0km/kWhだったとしても120kmくらいは走れます。もし予定していたSA・PAで充電待ちが発生していても、次のSA・PAまで余裕で行けるでしょうからね」
EV DAYS編集部「充電計画はどのくらい詳細に立てた方がいいのでしょうか?」
寄本さん「そこまで細かく考える必要はありません。高出力器のあるSA・PAと、その前後のSA・PAにどのくらいの出力の充電器があるのかを確認する程度でOKですよ。充電スポットを探すときに一緒にSA・PAの名物もリサーチしてみると、楽しんで充電計画を立てることができます。充電計画をアトラクション化してしまいましょう。ただ、充電スポットが少ない山間部などに行く場合は、一般道でも事前に確認した方がいいですね」
宿泊地での充電、何を考慮しておくべき?
EV DAYS編集部「今回は2泊する予定です。宿泊地での充電を考えるにあたり、何か気をつけることはありますか?」
寄本さん「やはり普通充電ができるホテルを選びたいですよね。そして、アリアなら到着するときにSOC50%は残しておきたいです。バッテリー容量が66kWhということは、SOC0%→100%までには22時間以上かかってしまう。これでは泊まっている間に満充電にできません。SOC50%→100%なら、11時間で完了しますから、夕方から充電すれば翌朝には満充電にできるでしょう。旅行の場合、翌日も長距離を走ることが多いでしょうし、朝イチは、やっぱり満充電でスタートするのが気持ちいいですからね。もし、ホテルに到着する時間に余裕があって50%に足りなければ、どこかで50%超えるくらいを目処にして、少し急速充電しておくのもいいですね」
ロングドライブ前にEVの知識はある程度知っておこう
EV DAYS編集部「ここまではアリアをベースに教えていただいたのですが、バッテリー容量が小さいEVの場合、充電計画を立てる際の違いはありますか?」
寄本さん「基本的な考え方は同じです。充電スポットがあるSA・PAなどをあらかじめ確認しておいて、あまりギリギリまで我慢しないで早めの充電を心掛けるのがいいですね。充電の頻度は大容量のバッテリーを持つ車種よりは多くなりますが、たとえば日産・サクラのようにバッテリー容量の小さなEVでも、慣れればそんなに不安を感じることなくロングドライブができるはずです。
ただ、先ほどもお話ししたように、車種によって充電の受入出力が異なります。たとえば、リーフ(40kWhモデル)の最大受入出力は50kWですし、日産サクラや三菱eKクロスEVは30kWです。つまり、急速充電器側が90kWでも50kWでも30分で入れられる電力量は変わりません。そのため、わざわざ90kWの充電スポットを優先的に選ぶ必要はないんです」
EV DAYS編集部「なるほど。効率よく充電するためには、ある程度EVの充電性能について知っておくべきですね。ほかには何かポイントはありますか?」
寄本さん「充電計画を立てる場合、車種の航続距離をもとに計算しますが、念のため、公表されている航続距離の8割程度で計算しましょう。これは、エアコンや上り坂など、季節や場所によって著しく電力を消費する可能性があるためです。また、SOC80%を超えると急速充電では充電速度が遅くなる点も覚えておくといいでしょう。たとえば充電スポット検索アプリの『EVsmart』には、車種や条件に応じてロングドライブの充電計画を提案してくれる機能もありますから、そうしたアプリを活用するのもオススメです」
EV DAYS編集部「うーん、奥が深いですね…」
寄本さん「慣れないと戸惑うかもしれませんが、まずはやってみましょう。経験に勝るものはありません」
EV DAYS編集部「ありがとうございました。教えていただいたことを踏まえて充電計画を立ててみたいと思います!」
1400kmドライブの充電計画を立ててみた!
寄本さんのお話をまとめると、下準備と計画立案に分けて、それぞれ以下のような手順があるようです。
■充電計画の手順
<下準備>
① ドライブで使う「車種のスペック」を把握する
② 充電スポットに立ち寄る「目安のSOC」を決める
③ 宿泊地に「到着するときのSOC」を決める
<計画立案>
① 充電できる「高速道路のSA・PA」を探す(今回の場合、高出力器を優先)
② ①の「前後にある充電できるSA・PA」を確認する
③ 一般道にある充電スポットを確認する
そこでこちらをもとに充電計画を立ててみました。なお、寄本さんには「そこまで細かくなくてもOK」と言われましたが、モノは試しということで、Excelを使って詳細に作成しました。
今回は、東京から紀伊半島を一周するルート
まず、そもそものルートを確認しましょう。
1日目は、東京駅を出発して新東名・京阪高速を通って大阪府内で宿泊。2日目は、紀伊半島の南端を経由して世界遺産・那智の滝に立ち寄った後、三重県伊勢市まで走ります。そして3日目は朝から伊勢神宮に参拝して、日本のモビリティ文化の原点・鈴鹿サーキットを訪れ、東京駅まで戻る予定です。
なお、2泊とも普通充電器の設置されているホテルを予約しました(予約まで少し苦労することになったのですが…。宿泊地予約の注意点については、以下の記事をご参照ください)。
【あわせて読みたい記事】
▶︎EVロングドライブ7つの疑問を解消!1400km走行で実証してみた
1、3日目はほとんどの時間、高速道路を走ることになり、2日目は高速と下道が半々程度の道のりです。では、ここから実際の充電計画を立てる工程に入っていきましょう。
まずは充電計画の下準備を行う
まずは下準備を行っていきます。「①車種のスペックの確認」「②充電スポットに立ち寄る目安のSOC」「③宿泊地に到着するときのSOC」という3点を出せばOKです。以下にこれらをまとめました。
項目 | スペック | |
① | バッテリー容量 | 66kWh |
一充電走行距離 | 470km | |
電費 | 6.0km/kWh(166Wh/km) | |
最大受入出力 | 130kW | |
充電時間(3kW普通充電) | 25.5時間 | |
② | 立ち寄り目安のSOC | 30% [19.8kWh、航続距離118.8km] |
③ | 宿泊地到着時のSOC | 50% |
立ち寄り目安と宿泊地到着時のSOCは、寄本さんのおすすめどおりに設定してみました。
計画立案①高速道路で充電できるSA・PAを探す(高出力器を優先)
さて、ここからが本番です。経路上の高速道路にある高出力器を有するSA・PAを探します。今回充電スポット探しに利用したのは、e-Mobility Powerが提供する「充電スポットMAP」です。
「充電スポットMAP」では、充電器の種類のほか、出力でも検索することができるため、まずは「急速充電器」と「急速(高出力) (>60 kW)」を検索してみると、以下のような画面になりました。
1日目の1つ目の充電スポットは、寄本さんのおすすめだった「長篠設楽原PA」を探してみます。⑨と書かれた愛知県付近を調べてみると……ありました!
たしかに出力が90kWであることが確認できるほか、「時間帯別利用状況」も記されていて、ピークの利用時間帯が昼過ぎであることもわかりました。
ちなみに、出発地である「東京駅」から「長篠設楽原PA」までは263km。航続距離が399.5km(公表スペック値の85%)であると仮定すると、単純計算で到着時のバッテリー残量は約34%になります。
立ち寄り目安のSOCは30%としているので、何かがあると少し心配なのですが……そのため、次の工程で安全策をとることになります。
計画立案② ①の「前後にある充電できるSA・PA」を確認する
「長篠設楽原PA」の前後にある、高出力器を有するSA・PA(下り線)を探したのですが、90kW器はありませんでした。そのため、検索で出力の範囲を広げて調べたところ、どちらも50kW器を備える「浜松SA」と「岡崎SA」を発見しました。
今回の場合、バッテリー容量が想定より減りすぎている事態に備えるので、どちらかというと「浜松SA」を優先することになるでしょう。「浜松SA」は「長篠設楽原PA」よりも24km手前なので、もし予想以上にバッテリーを消費していても問題なさそうです。
①と②を繰り返し、ホテル到着時SOC50%以上になるように設定する
1日目に関しては、ほぼ高速道路のみを走行することになります。そのため、目的地の中間にある充電できるSA・PAを探し、同じく前後を確認していくと、以下のような充電計画ができました。
なお、走行距離やSOC、航続距離などをまとめたExcelは以下になります。
2、3日目も同様の作業を繰り返します。2日目は「③一般道にある充電スポットを確認する」も行いつつ、計画を立てていくのですが、“高出力器を優先する”というポイントを考慮していれば、あまり迷うことはありませんでした。最終的に出来上がった充電計画は以下のとおりです。
今回、Excelで充電計画を完成させるまでに要したのは約1時間半です。SA・PAや充電スポットを探すだけであれば、サクッと調べられるのですが、バッテリー容量や走行距離を計算しながら旅程を組むのに少し時間がかかってしまいました(失敗したくない…という気持ちが強く、慎重に、精緻につくってしまったこともありますが…)。
ともあれ、これで準備は万端! こちらの充電計画を使って実際にロングドライブに行ってきました。
【実証】実際に走ってみたところ…ほぼ計画どおりに実行できた!
計画どおりに進むかな…と心配していたのですが、結論としては、大きな狂いはなく(もちろん電欠もなく)、1400kmを走破することができました。
立ち寄りやホテルでの充電は、計画通りに行うことができ、実際に行った充電記録は下記のとおりとなりました。
ただ、トータルとしては非常によかったのですが、スタート地点・東京駅から誤算がありました。というのも、前日に充電する時間がなく、SOC84%から出発せざるを得なかったのです。
結論としては、「長篠設楽原PA」に到着したときにはSOCは11%に…。しかし、「浜松SA」があることはわかっていましたし、バッテリー容量や航続距離の計算をしていたことで焦ることはなく、冷静に対応することができました。(結論として、渋滞もなく十分辿り着けることがわかっており、充電器も空いているのを確認していたため、「長篠設楽原PA」で充電する判断をしました)。
ちなみに、急速充電を行ったとき、予想外だったのは90kW器であるにもかかわらず、実際に充電すると出力が90kWに届かない充電スポットがあったこと(3日目:遠州森町PA)です。
これは1基の充電器に2つの充電コネクタが設置している場合、先客がいると電気を分け合ってしまうため、90kW÷2=45kWとなり、低い出力でしか充電ができない現象が起こってしまったのです。充電待ちの後続EVはいなかったので、おかわりで2回充電することになりました。
また、計画では急速充電器の最大出力で充電量を計算したのですが(たとえば、50kW器の場合は30分で25kWh充電可能)、実際は車両のSOCなど様々な要因によって理論値どおりの充電量を充電することはできませんでした。
充電スポットや充電器の仕組みを理解し、利用状況を確認しながら寄る余裕があると、これらの点にもう少しうまく対応できたかもしれません。
心配しすぎる必要なし。ただし、安心なドライブに充電計画は必要
初心者の方にとって、初めてのロングドライブは楽しみでありつつも、ドキドキすることでしょう。ただ、今回ご紹介したような手順を踏み、充電スポットをしっかりと確認していけば、心配しすぎることはありません。
また、過去記事「EVロングドライブ7つの疑問を解消!1400km走行で実証してみた」でもご紹介していますが、EV自体にも充電スポットを示すナビゲーションが付いている場合も多いため、よほど不測の事態や準備不足がない限り、電欠の心配はないように思います。
とはいえ、心配する方は心配するでしょうが……。案ずるより産むが易し。興味がある方はぜひ一度、試してみてはいかがでしょうか?