フェラーリといえばご存じ世界有数の超高級スポーツカーメーカー。高価でありながら人気は高く、日本での販売も好調です。そのフェラーリが、いまやプラグインハイブリッド車(PHEV)をラインアップしています。最新モデルの「296GTB」が見せてくれた新感覚の走りを、モータージャーナリストの岡本幸一郎さんがレポートします。
ひとあし先に登場した「SF90」に次ぐ2台目のPHEVとして登場した「296GTB」は、フェラーリの名のつくロードカーとして初めてV6エンジンを搭載したことも特徴。車名の「296」は往年の規則どおり、2992ccの6気筒エンジンを搭載していることを意味する。F1由来のハイブリッドシステムと外部電源から充電できる機構を備え、インテリジェントに制御して走行性能と効率を両立した、次世代のスーパースポーツである。
EVモードでも走行が可能なフェラーリ
小学生時代にスーパーカーブームの洗礼を受けた世代である筆者にとって、その主役級に君臨していたフェラーリというのは、ずっと特別な存在でありつづけている。いつだってフェラーリに触れられる機会は心躍る思いだ。そんなフェラーリの最新モデルを、EVを扱う本WEBメディアで取り上げることのできる日がこんなに早くやって来るとは思いもよらなかった。
フェラーリのロードカーとして2番目(後輪駆動では初めて)のPHEVである「296GTB」は、ミッドリアにV6ツインターボエンジンを搭載し、F1でも使われているMGU-K(モーター・ジェネレーター・ユニット・キネティック)に由来するハイブリッドシステムを組み合わせている。
初のPHEVである「SF90」が前後に計3基のモーターを搭載していたのに対し、296GTBはリアのエンジンとトランスミッションの間に1基が配されており、クラッチを切り離すことでEV走行も可能だ。
このおかげで早朝や深夜に走り出すときでもご近所さんに気を遣わなくてすむ。コンクリートの壁や柱で音が反響して、ただでさえ大きなエキゾーストサウンドが爆音になる地下駐車場でも周囲を驚かせずにすむ。フェラーリなのにそんなこともできるのには、ちょっと不思議な感じもする。
フル電動モードでMAX25kmの距離をEV走行することができる。モーター単体でも最高出力が167ps(122kW)、最大トルクが315Nmというスペックなので、かなり速いしけっこう粘る。「25km」を十分と思うか短いと思うかは人それぞれだろうが、個人的にはフェラーリなのにゼロエミッションでそれだけの距離を走れて、EV走行のままでも想像以上に加速性能が高いことに驚いたというのが率直な印象だ。
7.45kWhのバッテリーを搭載し、アースの付いた100V電源コンセントでの普通充電に対応する。充電ケーブルはフェラーリの刻印が入ったオリジナル。このパーツだけでも欲しがるファンは少なくないだろう。
1960年代へのオマージュ
それにしても、あまりにスタイリッシュでホレボレする。ボディサイズは、過去10年に送り出されたどのフェラーリよりもコンパクトで、ホイールベースも短めとされている。一筆書きされたようにシンプルでありながら変化に富んでいて、どの角度から眺めてもスキがない。リアバンパーの中央から覗くエキゾーストエンドも特徴的だ。
ご参考まで、このスタイリングはシンプルかつ機能的な1960年代の車両へのオマージュから生まれたもの。
中でも1963年に初披露された当時のフェラーリとしては珍しいミッドシップの「250LM」に由来するモチーフがいくつかあるそうだ。
コクピットは、走りに徹したというほど極端でないが、いまやフェラーリもデジタルインターフェイスを積極的に構築している中でも、やはり走りに関するものが優先的に目に飛び込んでくるようにレイアウトされた印象を受ける。
登場時期の違いで別モデルとは設計コンセプトや操作ロジックが異なるが、最新版となる296GTBはインフォテイメント系も含め整理されていて使いやすい。走りにかかわる大半の機能はステアリングホイールのコントローラーで操作する。助手席のダッシュにもコ・ドライバーのためのディスプレイが配されていて、視覚的にもパフォーマンスを共有できるようになっている。
シートポジションはグッと低く、ドアミラーに映る盛り上がったリアフェンダーも印象的。シート後方にもわずかながら荷物を置けるスペースがあり、リアウインドウまわりのつくりがトンネルバックスタイルに回帰したのも特徴だ。
独自の「eマネッティーノ」
現在のフェラーリは走りを統合制御する「マネッティーノ」と呼ぶ電制デバイスを搭載していることで知られ、そのダイヤル式のコントローラーがステアリングホイールの右手側に配されている。さらに296GTBの場合は、その反対の左手側にハイブリッドのモードを選択できる「eマネッティーノ」が備わる。こちらはダイヤルではなくタッチセンサー式となっている。
eマネッティーノは下から、電気のみで走るeDriveモード、両方を効率よく使い分けるHybridモード、充電しながらエンジンを常に稼働する走り重視のPerformanceモード、エンジンもモーターも全力でフルに走りに充てるQualifyモードという4つが選べるようになっている。それとは別に、最大限に動力性能とトラクションを引き出して猛スタートダッシュを実現する、うかつに使うことは許されないローンチコントロールのスイッチがセンターコンソールに配されている。
チャージモードを選択すると、SOC(State Of Charge)、すなわち充電率が一定値より低い場合はエンジンをかけてバッテリーを充電する。何度か試してみたところけっこうな勢いで充電されて、みるみるEV走行可能距離の数字が増えていくことも印象的だった。
V6エンジンで得た数々のメリット
一方で、F163型というフェラーリブランドとして初めてのV6エンジンも、これまたなかなかに印象的な仕上がりだ。新構造により等間隔爆発が可能となり、エキゾーストマニホールドとシングル・テールパイプが圧力波を増幅して得られたサウンドは、V8とは異質の独特の味わいがある。開発時には「ピッコロV12(=小さなV12)」の愛称で呼ばれていたというだけのことはある。加えて、特許取得済みのホットチューブシステムが後処理システムの上流から車内に直接エンジンサウンドを取り込んでくれる。
動力性能も相当なもので、強烈なターボパワーは排気量が大きいV8ラインアップにもぜんぜんひけをとらない。気筒数が減るのは残念なことではないということを思い知った。それにハンドリングにおいては、むしろよいものをもたらしている。
296GTBで大いに感心したのが、驚くほど乗りやすいことだ。ステアリングの操舵力は軽くスッキリとしていて、正確性にも富む。微塵のストレスも感じさせることなく素直に回頭し、行きたいところに意のままに行けるハンドリングを実現している。これにはミッドリアに搭載するエンジンが120度のV6であるおかげで、よりコンパクトで軽く、重心が低くマスが集約されていることも効いているに違いない。イナーシャが小さいおかげで応答遅れがなく走りに常に一体感があり、操縦安定性にも優れている。
そうしたフットワークのよさにも恵まれ、電気とエンジンのコラボで低速から高速まで扱いやすく、しかもいざとなればめっぽう速く、飛ばさなくても味わい深い。PHEVとはいえ性能重視の側面が大きいあたりはフェラーリなればこそだろうが、いざとなれば25kmはまったくCO2を排出することなく走行でき、一連の所作にインテリジェンスを感じさせるあたりも、これまでのフェラーリとは一線を画する。
たしかに296GTBは、コンセプトに掲げる“DEFINING FUN TO DRIVE=(新しい)運転の楽しさを定義する”を象徴するかのような、次世代スーパースポーツであった。
〈クレジット〉
撮影:小林岳夫
〈スペック表〉
296GTB
全長×全幅×全高 | 4565mm×1958mm×1187mm |
ホイールベース | 2600mm |
車両重量 | 1470kg(乾燥重量 ※車検証には1660kgと記載) |
エンジン種類 | 120度 V6 DOHCツインターボ |
エンジン排気量 | 2992cc |
エンジン最高出力 | 663cv(488kW)/8000rpm |
エンジン最大トルク | 740Nm/6250rpm |
モーター最高出力 | 167ps(122kW) |
モーター最大トルク | 315Nm |
システム最高出力 | 830cv(610kW)/8000rpm |
バッテリー容量 | 7.45kWh |
EV走行距離 | 25km |
電気エネルギー消費量 | 140Wh/km |
トランスミッション | 8速DCT |
駆動方式 | MR |
最高速度 | 330km/h |
0-100km/h加速 | 2.9秒 |
タイヤサイズ | F 245/35ZR20 R 305/35ZR20 |
税込車両価格 | 3710万円 |
〈ギャラリー〉
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