フォルクスワーゲンは、京都議定書の後継となるパリ協定に初めてコミットした自動車メーカー。地球環境のみならず、そもそも“使う人”にやさしいクルマ作りで知られています。ユーザー目線で徹底的に作り込まれたEV専用モデルは、勘どころを押さえた上質な作りでした。モータージャーナリストのまるも亜希子さんがレポートします。
2030年までにライフサイクルでのCO2排出を40%削減し、2050年までにカーボンニュートラル化を達成することを宣言し、いち早く電動化を進めてきたメーカーの1つが、フォルクスワーゲンです。
そんな同社が現在力を入れるのは、「EVをすべての人々に身近なものにするテクノロジー」。長い航続距離と広々とした室内空間を持つ、快適なモビリティを目指しているのです。今回は、EV専用となるまったく新しいアーキテクチャー「モジュラー エレクトリックドライブ マトリックス(MEB)」を採用し、フォルクスワーゲン初のフル電動SUVとして登場したID.4(アイディ フォー)をレポートします。
●Check1:エコノミカル
航続距離435kmと618kmの2グレード設定。毎月90分の急速充電が1年無料
日本で販売されるID.4は2種類のバッテリー容量と異なるモーター出力を組み合わせて構成されています。エントリーグレードの「ID.4 Lite」がバッテリー容量52kWhで最高出力/最大トルクは125kW/310Nm、航続距離が435km(WLTCモード)。上位グレードとなる「ID.4 Pro」がバッテリー容量77kWhで同150kW/310Nm、航続距離が618km(WLTCモード)となっています。ご近所で乗ることが多いならLite、ロングドライブが多いならProと、ライフスタイルに合わせて選べるのがいいですね。
どちらも、200Vの普通充電とCHAdeMO規格の急速充電に対応。充電時間の目安は、0%から満充電まで6kWの普通充電でLiteが約9時間、Proなら約13時間。急速充電の場合は、バッテリー警告灯が点灯してから80%まで、Lite、Proともに90kW器で約39分となっています。
このID.4導入にあたり、全国246拠点のフォルクスワーゲン正規販売店のうち、ID.4を取り扱う158店舗に90kW以上の急速充電器が順次設置され、ユーザーなら原則24時間・365日利用可能というのが頼もしいところ。また、同じフォルクスワーゲングループのアウディ、ポルシェのディーラーでの急速充電器が利用できるサービス「プレミアム チャージング アライアンス(PCA)」にも加盟しており、多くのディーラーで充電が可能です。
基本料金が月額1800円(登録料金2000円別途必要)で、90kWの急速充電が45円/分、150kWが75円/分で利用できる「月額会員プラン」と、基本料金0円で90kWの急速充電が120円/分、150kWが200円/分で利用できる「都度会員プラン」が利用できます。加えて、e-Mobility Powerの日本全国の充電ネットワークが利用できる「Volkswagen充電カード」の「普通・急速充電器併用プラン(急速充電料金90分相当額無料付帯)」の月会費が1年間無料で提供される購入特典もあります。
●Check2:プライス
ライバルよりも良心的な514万円からのプライスレンジ
ID.4の価格は、Liteが514万2000円~、Proが648万8000円~となっています。スペック的にライバルとなるアウディ・Q4 e-tronが638万~728万円程度なので、良心的な価格と感じられます。初めてEVを購入する方にもトライしやすいよう、買取価格保証型残価設定ローンの「フォルクスワーゲン ソリューションズ」も用意しており、3年と5年のどちらかを選べ、月々の支払い額を調整できます。
また、EVはクリーンエネルギー車(CEV)として補助金が受けられます。条件を満たす必要はありますが、ID.4の場合は国から65万円(令和5年度)、さらに地方自治体が独自に補助金を設定している場合もありますので、購入時にはお住まいの自治体に問い合わせてみるといいですね。
さらに、購入時と1回目の車検時にかかる自動車重量税が免除されるほか、購入翌年度の自動車税が75%減税となります。
●Check3:ユーティリティ
インテリアはVWのシンプルな印象から一変! それでも使い勝手はさすが
今までのフォルクスワーゲンに質実剛健というイメージを持っていた人は、ID.4のインテリアに驚くかもしれません。
ダッシュボードに物理的なボタンはほとんどなくなり、ディスプレイが中央に置かれたモダンでエレガントなデザインとなっています。
ドライブモードセレクターは、ステアリングの前にあるメーター右脇のレバーをカチカチと回して操作。シートに座ってブレーキペダルを踏めば、自動的に発進可能な状態になるので、スタートボタンもありません。
そのペダルに、オーディオの「PLAY/PAUSE」マークのあしらいが施してあるのはちょっとした遊び心。モダンになっても、少し茶目っ気を感じさせるのは、その昔、ビートルに一輪挿しが備わっていたことを思い出させるような、どこか心豊かになる演出です。
そして気になる収納スペースも、ラゲッジルームは5人乗車時でも543Lの大容量を確保。後席は6:4分割で倒せるようになっており、すべて倒せばやや傾斜は残りますが1575Lの巨大スペースに拡大するので、旅行やアウトドアレジャーの大荷物にもしっかり対応します。
走行中に揺れてもドリンクがしっかり固定される工夫が施されたドリンクホルダーや、小物を分けて収納できるセンターコンソールボックスなど、使い勝手も優秀です。
●Check4:エモーショナル
小回りが利き、視界も良好。ガソリン車ライクなドライブフィール
ID.4は最高速度が160km/hに制限され、試乗したProは0~100km/h加速が8.5秒(欧州発表値)と、速さをウリにしたモデルではないことがわかります。とはいえ発進から落ち着いた上質な走りで、踏みはじめからビュンと違和感のある加速をすることがなく、ガソリン車を運転しているのとあまり変わらない感覚。
それこそが、フォルクスワーゲンが注力する「EVをすべての人々に身近なものにするテクノロジー」の一環ではないかと感じます。運転する人だけでなく、一緒に乗る人にも心地よいEVとして、ロングホイールベースの恩恵でもある乗り心地の良さ、静かさや見晴らしのいい視界。そうした魅力がID.4には溢れているのです。
とくに静粛性に関しては、防音フロントガラスなど車体の高度な防音対策をはじめ、ほとんどノイズを発生しないモーター特性、ドアミラーハウジングの形状など細部までのこだわりによって、EVの中でも特別に静かな室内を手に入れています。
そして、リヤモーターによる後輪駆動の、いわゆる“RR”となるID.4は、最小回転半径5.4mという取り回しの良さを実現。理想的な50:50に近い前後重量バランスとなっており、高速道路での安定性はもちろん、カーブを曲がる際にも低重心でバランスの良いハンドリングを感じることができるので、運転ビギナーにも走りを楽しみたい人にもちょうどいいのではないでしょうか。
●Check5:ハウスベネフィット
V2Hには非対応。しかしバッテリーはロングライフ設計
充電ポートは普通充電、急速充電ともに運転席側のリヤフェンダーあたりに設置されています。これから自宅に充電器を設置する場合には、位置を考慮するといいでしょう。なお、アクセサリーコンセント(100V)の装備はなく、車両のバッテリーから家庭への電力供給ができる「V2H」には、残念ながら対応していません。
とはいえバッテリーはロングライフ設計。ID.4のバッテリーはアンダーボディにあり、冷却水回路が組み込まれていて、バッテリーに負荷の掛からない約25℃に温度管理されます。このことでバッテリーの寿命が長く保たれ、安定した高出力や充電時間は新車時のコンディションがキープされるとのこと。バッテリーは8年/16万km(どちらか早い方)走行後も容量の70%維持を保証しています。
派手さはないものの、ユーザー目線の丁寧な作りで、日常の相棒にふさわしい一台に
第一印象としては、あまり目立った特徴のないコンパクトSUVのように感じて試乗しました。でも、どことなく人間の目線を意識したようなデザイン。フロントのLEDマトリックスヘッドライトは、LED18個(片側)のうち11個は個別にスイッチを切り替えて、周囲の人やクルマを眩惑することなく、一方で可能な限り明るく照らすことができるスグレモノです。
さらに万が一追突事故が起こった際に、むち打ちのリスクを軽減する先進の安全技術が詰まったフロントシートに加え、パワーユニットが冷却用のエアを必要とする時だけ開く、フロントの電動ラジエーターブラインドなどもあります。よくよく見ていくとこうした最先端技術が当たり前のように搭載され、結集しているのがID.4だとわかりました。
人間中心の設計による、広く快適な室内空間。EVビギナーでも運転しやすい走行フィール。派手さはないかもしれませんが、日々の相棒として長く愛用できるのがフォルクスワーゲンの真骨頂。EVにも、同じ哲学が貫かれています。コンパクトながら旅行などの長距離移動もこなす万能感。あらゆるユーザーとニーズへの対応力が、ID.4のスキのないクルマ作りから見て取れます。
撮影:宮門秀行
●家庭と暮らしのハマり度 総合評価
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「連載:モータージャーナリスト・まるも亜希子の私と暮らしにハマるクルマ」
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この記事の監修者
まるも 亜希子
カーライフ・ジャーナリスト。映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツに参戦するほか、安全運転インストラクターなども務める。06年より日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。女性パワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト」代表として、経済産業省との共同プロジェクトや東京モーターショーでのシンポジウム開催経験もある。