多くの電気自動車(EV)に採用される「ワンペダル」は、アクセルペダルだけで車速をコントロールし、一部の車種では完全停止までできる機能です。しかし、ガソリン車のユーザーにはワンペダルに不安を感じたり違和感を覚えたりする方もいるでしょう。そこでワンペダルの仕組みや使い方、メリット・デメリットなどについて、自動車ジャーナリストの山本晋也さんが解説します。
- 【図解】ワンペダルとは? 仕組みや特徴を解説
- ワンペダルの活用シーンと使い方のコツは?
- ワンペダルのメリットを3つのポイントで解説
- ワンペダルのデメリットを3つのポイントで解説
- 【コラム】なぜ完全停止できるワンペダルが少なくなったの?
- ワンペダルを採用する国産車のEV・PHEV一覧
- EVらしい滑らかな走りのワンペダルを試してみよう
注:本記事で使用している「ワンペダル」という呼称は、あくまでも通称であり、この機能の正式名称は自動車メーカーによってそれぞれ異なります。
【図解】ワンペダルとは? 仕組みや特徴を解説
ガソリン車のユーザーにはワンペダルドライブ(以下、ワンペダル)に馴染みのない人が多いはずです。EVをはじめとする電動車に採用されることが多いワンペダルとはどんな機能なのでしょうか。最初にワンペダルの仕組みや特徴について解説します。
アクセルペダルだけで加減速を自在にコントロール
ワンペダルとは、特定の走行モードでアクセルペダルだけの操作により加減速をコントロールする機能です。2017年に発売された2代目日産「リーフ(ZE1)」に国産車のEVでは初めて搭載されました。モーター駆動ならではの特性を活用し、アクセルの踏み加減で車速を調整します。
ガソリン車におけるオーソドックスな運転では、車の速度を落とすときにアクセルペダルから足を離し、その後にブレーキペダルを踏むという動作を行います。こうしたペダルの踏み替え動作を頻繁に行うと、意外にドライバーの体に負荷がかかります。また、アクセルとブレーキを踏み替えるときに必要以上に強く操作すると、車の動きがギクシャクすることもあります。
このようなブレーキペダルへの踏み替え頻度を低減し、EVらしい滑らかな走りを実現するのが、アクセルペダルの操作だけで車速をスムーズにコントロールすることができるワンペダルです。
【あわせて読みたい記事】
▶【図解】5分でわかる!電気自動車(EV)の仕組み│どうやって動く?エンジン車との違いは?
電動車ならではの回生ブレーキが強い減速力を生む
EVをはじめとする電動車には、モーターで発電することにより車を減速させる「回生ブレーキ」という仕組みがあります。ワンペダルはこの回生ブレーキを利用して車速をコントロールします。そのため、ハイブリッド車(HEV)でもワンペダルは可能ですが、モーター出力やバッテリー容量の大きいEVやPHEVのほうが、ワンペダルの効果が大きくなる傾向にあります。
ガソリン車にもアクセルペダルから足を離すことで作動する「エンジンブレーキ」と呼ばれる仕組みがあり、長い坂道を下るときや高速道路で減速するときなどに活用が推奨されています。
しかし、販売比率で圧倒的多数を占めるAT車の場合、エンジンブレーキを効果的に使いたいのなら高速道路を走行時にはO/D(オーバードライブ)ボタンをオフに、一般道であれば「2」もしくは「3」レンジにシフトダウンする必要があります。このときAT車はエンジンがギュイーンと大きく唸り、強いショックが発生しがちです。
その点、電動車が搭載するモーターは緻密な制御が可能なため、エンジンブレーキのようなショックが生まれにくく、大きな音や振動も発生しません。アクセルを小さく戻せば弱く減速、大きく戻せば強く減速し、車種によりますが、回生ブレーキによってAT車のエンジンブレーキの3倍程度の減速力を発生させます1)。
〈図〉ワンペダル搭載車とガソリン車のアクセルオフ時の比較
なお、ワンペダル搭載車の多くは、加減速はコントロールできても完全停止まで行えません。国産メーカーのEV・PHEVでは唯一、日産「リーフ」が完全停止まで行える仕様となっています2)。
参考資料
1)日産「e-Pedal Step」
2)日産「リーフ」
【あわせて読みたい記事】
▶【図解】回生ブレーキとは?減速や発電の仕組みからEV車種別の操作までを解説
ワンペダルの活用シーンと使い方のコツは?
ワンペダルを使いこなすにはある程度の慣れやコツが必要になります。ワンペダルを活用したい使いどころ、ワンペダルを使うときのコツなどについても簡単に紹介しましょう。
ワインディングロードもアクセル操作だけで走れる
ワンペダルをうまく活用したいシーンのひとつは、曲がりくねった道が続くような場所です。たとえば、自然豊かな観光地のワインディングロードを走行することを想像してみてください。
このような道路では、コーナーが近づいてきたらアクセルペダルを戻してブレーキを踏み、曲がるのにちょうどいい速度になったらハンドルを適切に操作、そしてコーナーの出口で再びアクセルペダルを踏み込みます。こうした一連の動作において、ワンペダル搭載車はアクセルペダルを操作するだけでいいのです。
ワンペダルをうまく使えるようになるには、人によって多少の時間を要するかもしれませんが、ガソリン車の運転でエンジンブレーキを意識して使っていたようなドライバーであれば、おそらくあっという間にワンペダルに慣れることができるはずです。
【あわせて読みたい記事】
▶【EVの回生ブレーキを検証】富士山の五合目から下ると充電量は何kWh増える?
ワンペダルを使う・使わないはドライバーの自由
とはいえ、EVに乗るなら必ずワンペダルを使わないといけないというわけではありません。EVもガソリン車と同様にアクセルペダルとブレーキペダルの両方を操作して運転することができます。
そもそも、国産メーカーのEVにはワンペダルがデフォルトになっている車種はありません。メーカーによってワンペダルの呼び名は異なりますが、多くのモデルでは専用スイッチをオンにすることでドライバーが意識的にワンペダルを使えるようになっています。ワンペダルを使う・使わないはユーザーの自由です。
また、加速・減速だけでなく、完全停止まで可能なワンペダルを採用する車種は近年減少しており、多くのEVは赤信号などで停止するときにはブレーキペダルを踏む必要があります。
なお、EVにかぎらず、近年はEPB(電動パーキングブレーキ)を自動的に作動させるオートホールド機能をもつ車が増えているので、ブレーキペダルを踏み続けて信号待ちをせずに済みます。
【あわせて読みたい記事】
▶【2024年版】おすすめの電気自動車(EV)を紹介!「価格・航続距離」を徹底チェック
ワンペダルのメリットを3つのポイントで解説
アクセルペダルの操作だけで加減速をコントロールできるワンペダルには、そのほかにどんなメリットがあるのでしょうか。ワンペダルのメリットを3つのポイントに絞って紹介します。
メリット①ドライバーの疲労が軽減される
完全停止まで行わないワンペダルドライブでは、前述のように信号待ちでブレーキペダルを踏む必要があります。しかし、街乗りでも微妙な速度調整は必要ですから、ワンペダルを活用することでペダルを踏み替える回数を圧倒的に減らすことができます。
こうした微妙な速度コントロールの機会が多くなるのは、比較的信号の少ない道路交通環境です。また、雪道でもワンペダルでの速度調整はスムーズで安定した運転につながりやすいもの。つまり、地方都市や雪の多い寒冷地域などではワンペダルを利用することで運転時の疲労が軽減されることが期待できます。
【あわせて読みたい記事】
▶︎電気自動車(EV)のメリットとは?購入前に知っておきたいことを解説
メリット②ペダル踏み間違い事故を予防できる
日産「リーフ」は回生ブレーキと摩擦ブレーキを協調制御するワンペダルを採用しており、前述のように停止までワンペダルでコントロール可能です。ワンペダルの運転に慣れると「アクセルペダルから足を離せば車が減速・止まる」という感覚になります。
ペダル踏み間違え事故は、右足がアクセルペダルの上にあるにもかかわらず、なぜかブレーキペダルを踏んでいると誤認して起きることが多いといわれています。しかし、ワンペダルに慣れると、停止するときは「アクセルペダルから足を離す」と体が認識し、踏み間違いが起こりにくくなることでしょう。
【スペック確認はこちら!】
▶EV車種一覧ページ 日産「リーフ」
メリット③燃費(電費)の向上が期待できる
ワンペダルドライブは回生ブレーキを積極的に活用する乗り方ということもできます。前述のように、回生ブレーキはモーターで発電することにより減速する仕組みで、発電した電気は車の駆動用バッテリーに蓄えられます。つまり、回生ブレーキをうまく活用すれば、EVの航続距離を伸ばすことにつながるわけです。
したがってワンペダルの使用で電費がよくなる可能性は十分にあります。ただし、EVにはブレーキペダルを踏んで減速するときにも回生ブレーキを機能させてエネルギーを有効活用する回生協調制御をしているモデルが多く、ワンペダルを使用することによる電費改善効果が圧倒的かというと、それほどではないかもしれません。
【あわせて読みたい記事】
▶電気自動車(EV)は燃費(電費)が良い?確認方法や走行距離をチェック
ワンペダルのデメリットを3つのポイントで解説
「疲労が軽減される」「ペダル踏み間違い事故が予防できる」などと聞くといいことばかりに思えますが、ワンペダルにもデメリットがあります。3つのポイントからデメリットを紹介します。
デメリット①操作に慣れるのに時間がかかる
ペダルを踏み込んだ後に戻すとき、足をパッと離すような操作をしていたドライバーは、アクセルペダルを戻す量で減速力を調整するワンペダルに慣れるのに時間がかかる場合があります。
その一方、ガソリン車でもアクセルペダルの戻し具合によって速度を微調整していたドライバーなら、ワンペダルはそれほど難しいものではないでしょう。ただし、ペダル操作をオン・オフ的に捉えているドライバーはコツをつかみづらい面もあります。
もっとも、コツがつかめなければ無理にワンペダルを使って走行する必要はありません。慣れない運転をするのはかえって危険と感じたのであれば、ワンペダルを使わなければいいのです。
【あわせて読みたい記事】
▶【オーナーの声】電気自動車のデメリット、リアルな実情は?
デメリット②微速で走行するのがむずかしい
ワンペダルの仕様はメーカーごとに異なるため一概にはいえませんが、多くの場合、ワンペダルは通常モードより回生ブレーキが強めに作動するような制御になっています。そのため、道路が渋滞したときなどの微低速の走行では、むしろワンペダルを使うほうがギクシャクしてしまうケースがあるかもしれません。
そういう場合はワンペダル機能をオフにするのもいいですし、また、高速道路などの自動車専用道路であれば、ACC(アダプティブ・クルーズコントロール)機能を利用して先行車に追従することで車に速度調整を委ねるのもひとつの手といえます。
デメリット③満充電に近いときは使用できない
バッテリー容量が満充電に近い状態のときやバッテリーの温度が低いとき・極端に高いときなど、車種によってワンペダルを使用できない場合があるのはデメリットといえます。
たとえば、トヨタ「bZ4X」の場合、公式サイトの取扱説明書に駆動用バッテリーの充電量が多いときは回生ブレーキが制限されることがあり、ワンペダルを使用できないと書かれています3)。
回生ブレーキは発電抵抗によって減速し、その電気をバッテリーに充電する仕組みです。そのために理論上、満充電に近い状態のときなどバッテリー残量が非常に多いと回生ブレーキを使えないケースがありますので注意が必要です。
【コラム】なぜ完全停止できるワンペダルが少なくなったの?
EVの回生ブレーキと摩擦ブレーキを協調制御すれば、ワンペダルで加速・減速をコントロールするだけでなく、完全停止まで行うことも難しい話ではありません。しかし、近年の国内自動車業界においては、ワンペダルで車速のコントロールのみを行い、停止までカバーしないのがトレンドになっています。
その理由として、極低速域ではAT車のガソリン車と同じような「クリープ現象」があったほうが駐車時などに運転しやすいという点が挙げられます。クリーブ現象とは、セレクトレバーが「P」「N」以外に入っていると、アクセルペダルを踏まなくても車がゆっくりと動き出す現象のこと。また、ドライバーとしても、ブレーキペダルを踏むことで車が停止したことを認識するほうが安心する、といった声もあるようです。
ワンペダルを採用する国産車のEV・PHEV一覧
ガソリン車からEVやPHEVに乗り換えることを検討しているなら、どんなモデルがワンペダルを採用しているのか具体的に知りたいことでしょう。以下に、2024年6月時点で販売中のワンペダルを採用しているおもな国産EV・PHEVを紹介します。
なお、前述のようにワンペダルの正式名称はメーカーごとに異なり、日産では「e-Pedal Step」、三菱では「イノベーティブペダル オペレーションモード」、スバルでは「S PEDAL DRIVE」、トヨタでは「回生ブースト」と呼んでいます。
〈表〉ワンペダルを採用するおもな国産車のEV・PHEV ※メーカー50音順
メーカー | ワンペダル名称 | 採用車種 |
スバル | S PEDAL DRIVE | ・ソルテラ(EV) |
トヨタ | 回生ブースト | ・bZ4X(EV) |
日産 | e-Pedal Step | ・リーフ(EV)※1 ・サクラ(EV) ・アリア(EV) |
三菱 | イノベーティブペダル オペレーションモード | ・eKクロス EV(EV) ・アウトランダー(PHEV) |
※1:「リーフ」のみワンペダルで停止まで可能な「e-Pedal」を採用
EVらしい滑らかな走りのワンペダルを試してみよう
2010年代後半にワンペダルが登場したころは、アクセルペダルの操作だけで完全停止まで可能なモデルが将来的に主流になるといわれていました。しかし、2020年代も半ばに差しかかり、クリープ現象を残すなど、ガソリン車から乗り換えたユーザーでもコツをつかみやすい仕様としてワンペダルは進化しています。
アクセルペダルだけで加減速をコントロールしたことのないドライバーには、ワンペダルは「怖い」「危ない」と感じるかもしれませんが、回生ブレーキの有効活用はEVらしい滑らかな乗り味を高めてくれる側面もあります。まずは安全な場所でワンペダルを試し、そのメリットを確認してみてはいかがでしょうか。
※本記事の内容は公開日時点での情報となります