ヨーロッパの電気自動車の普及率は?EV販売が減速しているって本当?

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電気自動車(EV)の普及にもっとも積極的とされてきたヨーロッパでEVの販売が鈍化しつつあります。そもそもヨーロッパ市場のEV普及率はどれくらいなのか、普及が鈍化している原因はどこにあるのでしょうか。ヨーロッパ市場のEV普及率や最新動向などを自動車ジャーナリストの佐藤耕一さんが解説します。

 

 

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ヨーロッパのEV普及率はどれくらいなの?

画像:iStock.com/Elif Bayraktar

まずヨーロッパ(EU+EFTA+UK)における2024年1〜9月のEVの普及率を見ていきましょう。

欧州自動車工業会(ACEA)の発表によると、ヨーロッパの自動車市場は、2024年1〜9月の新車販売台数が977万9605台(前年同期比0.97%増)と、わずかに前年実績を上回りました1)

そのうち、EVとプラグインハイブリッド車(PHEV)の販売台数は、EVが前年同期比2.6%減の143万3225台、PHEVが同3.8%減の69万4215台と、それぞれ微減傾向にあります。販売シェアはEVが前年同期比0.5ポイント減の14.7%、PHEVが同0.4ポイント減の7.1%となっています1)

〈図〉ヨーロッパのEV・PHEV販売台数とシェアの推移

※ IEA(国際エネルギー機関)の公表データより作成 地域「ヨーロッパ」選択 2)

 

これまで順調に推移していたEV・PHEVの販売台数およびシェアが2024年に入り微減していることから、ヨーロッパではEV市場の成長率が鈍化していることが明らかになりつつあります。

一方で、簡易的なマイルドハイブリッドを含むハイブリッド車(HEV)は前年同期比19.2%増の300万8233台、販売シェアは前年同期比4.8ポイント増の30.8%と、大きく増加しました。

全体としてEV・PHEVがそれぞれ微減し、HEVがICE(エンジン車)のシェアを奪って成長しているという構図です。

 

 

 

ヨーロッパ主要市場のEVシフトの進み具合は?

ヨーロッパは中国に次いでEV・PHEVの保有台数が多く、EVシフトにもっとも積極的な地域とされてきました。そのヨーロッパ市場でEV普及が鈍化しているとすれば、原因はどこにあるのでしょうか。域内の主要市場の事情を紹介します。

 

補助金終了でEVシェアが低下する最大市場のドイツ

画像:iStock.com/ MarianVejcik

 

ドイツはヨーロッパにおける最大の市場であり、これまでヨーロッパのEV普及を牽引してきました。しかし、2023年12月にドイツ政府がEV購入時に支給する補助金を1年前倒しして停止したこともあり3)、EVの販売シェアが低下しています。

2024年1~9月まででEV販売台数は27万6390台となっており、これは前年同期比28.6%のマイナスです。国内の販売シェアも前年同期比5.0ポイント減の13.1%と大幅に減少しました1)

また、ウクライナ紛争やコロナ禍以降のインフレを起因とする景気減速の影響からエンジン車の販売も減速しており、自動車メーカー各社の主要工場の稼働率が低下しています。

これを受けて、ドイツを代表する大手自動車グループのフォルクスワーゲンがドイツ国内の工場閉鎖を検討していると伝えられており、現実になれば同社の創業以来初めてとなる事態です。

景気回復の見通しが立たないことに加え、EU(欧州連合)が中国製EVに対する関税強化を決定したことによって、テスラ、BMW、ボルボなど各メーカーの中国生産モデルの値上げも見込まれており、今後もドイツのEV販売は厳しい状況が続きそうです。

 

 

イギリス、フランス、イタリアのEV販売台数は?

画像:iStock.com/ Starcevic

 

そのほかのヨーロッパの主要市場では、イギリスのEV販売が比較的好調です。2024年1~9月で前年同期比13.2%増の26万9931台となり、ドイツの販売台数に近づいています。国内の販売シェアも前年同期比1.4ポイント増の17.8%と上昇しました。

フランスも増加傾向にあり、前年同期比6.0%増の21万6841台、国内販売シェアも同1.2ポイント増の17.1%となりました。

また、イタリアは前年同期比5.4%増の4万8217台となっており、国内販売シェアは同0.1ポイント増の4.0%とほぼ前年並みです1)

 

 

 

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ヨーロッパのEVメーカーの最新動向をチェック

ヨーロッパにはフォルクスワーゲン・グループ、BMWグループ、メルセデス・ベンツグループといったドイツ自動車大手をはじめ、EV普及に力を入れる自動車メーカーが本拠地を置いています。これらのメーカーの最新動向はどうなっているのでしょうか。

 

【フォルクスワーゲン】苦境に直面、国内工場の閉鎖も…

新型コンパクトEVコンセプト「ID.2オール」(画像:フォルクスワーゲンAG)

 

前述のとおり、フォルクスワーゲン・グループはドイツ国内工場の閉鎖を検討していて、苦境ぶりが伝えられています。この背景には同社のEVシフトへの傾倒が影響しています。

2015年に発覚したディーゼルエンジン制御に関する違法行為、いわゆる「ディーゼルゲート」によって、フォルクスワーゲンはカーボンニュートラルへの技術的な裏づけを失うことになり、残された道としてEVにシフトすることを目指しました。

それ以来、EVへの先行投資を繰り返し行ってきましたが、EVの普及が想定通りに進まず、投資の回収が遅れ、さらには欧州の経済不況や稼ぎ頭である中国事業の業績悪化も重なり、ドイツ国内工場の閉鎖を検討せざるをえなくなっている状況です。

フォルクスワーゲンは電動化目標について、2030年までにヨーロッパにおける年間販売台数の70%以上をEVにするとしていますが、EV販売が好調だった2023年でも全世界の販売比率は8.3%、PHEVは2.8%にすぎません4)。このままでは目標の変更もあり得る状況です。

厳しい状況にあるフォルクスワーゲンですが、2025年には期待の新型コンパクトEV「ID.2オール」の発売を予定しています。同社の人気モデル「ゴルフ」と同等の室内空間をもちながら、価格はコンパクトカーの「ポロ」と同程度に抑えられるとしています。

 

 

【メルセデス・ベンツ】「2030年完全EV化」を撤回

2023年9月に公開された「コンセプトCLA」(画像:メルセデス・ベンツAG)

 

メルセデス・ベンツグループは、2021年7月に「2030年までに“市場が許す限り”すべての新型車をEVのみとする」という“2030年完全EV化”を掲げました。しかし、2024年2月にはその目標を早々に撤回。「2020年後半までにEV・PHEVの販売シェアを50%まで引き上げる」という計画に修正しています。

その背景には、ヨーロッパの経済不況はもちろん、大きな収益源である中国事業の減速、そしてなにより、EVの製造コストがなかなか下がらずメルセデス・ベンツのような高級車でも収益化がまだ難しいこと、PHEVが好調なことなどが挙げられます。

2023年のメルセデス・ベンツの全世界販売台数に占めるEVの比率は11.8%で、PHEVは7.9%でした4)。このような厳しい状況で無理してEVだけに注力すべきではないという判断でしょう。

なお、メルセデス・ベンツは2023年9月に発表した次世代EVを象徴するニューモデル、「コンセプトCLA」を2025年に発売することを計画しています。同社における第2世代目の新型プラットフォームは、EV専用ではなく、マイルドハイブリッドも含めたさまざまなパワートレインを想定したものになりました。

 

 

【BMW】トヨタと提携して新型“量産FCEV”を発売

BMW AGのオリバー・ツィプセ会長(右)とトヨタの佐藤恒治社長(左)(画像:トヨタ)

 

BMWグループは「2030年までに世界販売の少なくとも50%をEVにする」という目標を掲げていますが、残りの50%についてはPHEVやエンジン車、FCEV(燃料電池自動車)を除外せず、全方位戦略を採っていることが特徴です。

2023年のBMWグループの全世界販売台数に占めるEVの比率は14.7%、PHEVは7.4%となっており4)、電動車のシェアは比較的順調に推移していますが、ヨーロッパの景気減速や中国事業の不振、さらにブレーキシステムの不具合による150万台以上の大規模リコールなどの影響もあり、業績は厳しい局面を迎えています。

BMWグループは2025年に「ノイエ・クラッセ」と呼ばれる次世代EVシリーズが控えているほか、トヨタと第3世代燃料電池システムの共同開発に取り組み、2028年にはトヨタとの提携による量産FCEVを発売する計画を発表しています。

 

 

【ボルボ】「2030年完全EV化」の目標を軌道修正

米国で生産されるフラッグシップSUVのEV「EX90」(画像:ボルボ・カーズ)

 

ボルボも「2030年までに新車販売を100%EVにする」という“2030年完全EV化”の目標を掲げていましたが、この電動化目標を2024年9月に撤回し、「2030年までに新車販売の90〜100%をEVまたはPHEVにする」という目標へと変更しました5)

2010年に吉利(ジーリー)汽車やZEEKR(ジーカー)などの自動車ブランドを傘下にもつ中国の吉利グループに買収されて以来、ボルボは同グループの電動車技術を活用しながら、生産も中国で行うことでコストを抑え、競争力のあるEVで電動化をリードするブランドとなりました。

しかし、中国製EVに対するヨーロッパの関税強化によってビジネスモデルに大きな影響を受けることになり、今後は生産を中国からベルギーに移管することが明らかになっています。

 

 

【ステランティス】関税強化で戦略の見直しへ

ステランティスのカルロス・タバレスCEO(右)とLeap Motorの朱江明CE0(画像:ステランティス)

 

ヨーロッパとアメリカをおもなマーケットとする自動車グループのステランティスは、「2030年までに欧州で100%、米国で50%のEV比率を目指す」という目標を掲げています。

ヨーロッパではプジョー、シトロエン、フィアット、アルファロメオといった小型車を得意とするブランドを展開し、コンパクトなEVモデルを拡大しています。そのほか、中国国内において小型EVのセールスで急成長したLeap Motor(零跑汽車)に20%出資し、コストをかけずに小型EVを生産するノウハウを吸収。ヨーロッパでの生産につなげるとともに、傘下のブランドがラインナップするEVをヨーロッパに輸入して販売しています。

一方で、ヨーロッパの自動車メーカーのなかでは中国との結びつきが強いメーカーであるため、EUによる中国製EVの関税強化にともない、今後は戦略を見直す可能性がありそうです。

 

 

 

ヨーロッパが進める2つの脱炭素規制の行方

 

EV普及を拡大して脱炭素社会を実現するために、ヨーロッパは2つの規制強化を進めています。ひとつは2035年にエンジン車の新車販売を禁止する事実上の「EV義務化」、もうひとつは自動車メーカーごとにCO2(二酸化炭素)排出量を算出して違反時に罰金を課す「CAFE規制」です。それぞれ説明しましょう。

 

2035年「エンジン車販売禁止」に揺れ動く欧州議会

画像:iStock.com/ Ziutograf

 

EUは従来、ガソリンなどで走るエンジン車の新車販売を2035年にすべて禁止し、事実上EVおよびFCEVのみとする方針を掲げてきました。いわゆる「EV義務化」です。しかし、EUは2023年3月にこの方針を変更し、環境にやさしい合成燃料e-Fuelを使うエンジン車の新車販売については認めると表明しました。

しかし、低コストで十分な量のe-Fuelを精製する方法は現時点では存在せず、ガソリンやディーゼルの代替にはなりえません。つまり、技術革新がない限り2035年に新車販売可能なエンジン車は、高コスト燃料を許容できるユーザーがターゲットのごく一部の高級車に限られ、エンジン車が事実上禁止されることに変わりはないでしょう。

2024年6月に行われた欧州議会選挙、そして、その翌月に欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長の再選が欧州議会で承認された際にも、e-Fuelを使うエンジン車を認める規定の見直しが話題に上がりましたが、公約には盛り込まれませんでした6)

ただし、欧州議会の最大会派である欧州人民党(EPP)は2035年のエンジン車禁止に根強い反発を持っているといわれており、今後はe-Fuelよりも現実味のあるカーボンニュートラル燃料といえるバイオエタノール混合燃料が検討される可能性があるでしょう。

 

 

違反すると巨額の罰金が課される「CO2排出量規制」

画像:iStock.com/ deepblue4you

 

もっとも、2035年のエンジン車販売禁止よりもヨーロッパで喫緊の課題となっているのが、2025年の「CAFE規制」目標値の更新です。

CAFE規制は自動車メーカーごとに課されているCO2排出量の規制です。販売される各モデルのCO2排出量をそれぞれの販売台数で加重平均し、1km走行あたりのCO2排出量が約95gを超えた場合は、1gごとに1台あたり95ユーロの罰金を科すという仕組みになっています。

このルールがなぜヨーロッパ市場で喫緊の課題になっているのかというと、EU域内のEVの普及速度が想定よりも遅れているため、規制への対応が困難な状況になっているからです。

そのため、欧州自動車工業会(ACEA)会長でルノーグループCEOのルカ・デメオ氏は、規制によってヨーロッパの自動車業界は約200万台の生産停止を強いられるか、150億ユーロ(約2兆3800億円)規模の罰金のリスクがあると言及。ACEAもCO2排出量の削減目標に対する緊急の緩和措置を求めています7)

 

 

 

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中国製EVへの関税強化で生じる2つの問題

画像:iStock.com/ goc

 

さらに、もうひとつヨーロッパの自動車業界を悩ませているのが前述した中国製EVに対する関税強化です。すでにEUは2024年10月に、中国製EVに対して今回の追加分を含め最大約45%の関税を課すことを決定しています8)

そもそも、この追加関税は中国政府によるEV産業に対する約2300億ドル(約35兆円)の補助金やそのほかの支援を不当とする欧州委員会が、中国製のEVに対して高い関税を賦課するに至ったものです9)。しかし、この関税によって、大きく2つの問題が生じています

 

ヨーロッパの自動車ブランドのEVにも関税がかかる

パリモーターショーで発表されたLeap MotorのコンパクトSUVのEV「B10」(画像:ステランティス)

 

ひとつは、ヨーロッパの自動車ブランドが中国で製造するEVに対しても関税がかかることです。

たとえば、世界的に高い人気のボルボの新型EV「EX30」やBMWのミドルサイズSUV「iX3」。また、BMWと長城汽車の合弁で生産されるMINIのEVモデル、メルセデス・ベンツと吉利汽車の合弁会社がつくるsmartの各モデル。さらに、ステランティスがヨーロッパに輸入している中国Leap Motor製のEV…。

これらすべてが関税の対象となるわけです。追加関税によりヨーロッパの自動車ブランドが苦しむ状況が生まれてしまいます。

もうひとつは中国からの対抗措置の可能性です。

世界最大の中国自動車市場でドイツ系メーカーは高い人気を得ており、各メーカーは中国で大きな収益を挙げています。たとえば、フォルクスワーゲンは世界の販売台数のうち約4割を中国市場に依存しており、中国との関係が悪化して中国ビジネスが何らかの影響を受けるようなことがあれば、深刻な影響は避けられません。

 

 

EVの健全な普及に向け、欧州委員会の施策に期待したい

ここまで暗い話題が多くなりましたが、実際のところ、ヨーロッパのEV普及は大きな踊り場に差しかかっているといわざるをえません。

これらの問題は、EV普及を楽観視した政治や自動車メーカーが自らの思惑を優先し、ユーザーを軽視した恣意的な計画を立ててしまったことが招いた結果ともいえるでしょう。

欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は、再選時の演説でカーボンニュートラルに対してどの技術で目標を達成するかは問わない「技術中立」の原則に基づき、現実的なアプローチで実施すると言及しました。これからのEVの健全な普及に向けて、欧州委員会の施策に期待したいと思います。

 

※本記事の内容は公開日時点での情報となります

 

この記事の著者
佐藤 耕一
佐藤 耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT業界に転じて自動車メーカー向けビジネス開発に従事。2017年ライターとして独立。自動車メディアとIT業界での経験を活かし、CASE領域・EV関連動向を中心に取材・動画制作・レポート/コンサル活動を行う。日本自動車ジャーナリスト協会会員。