電気自動車(EV)は「暑さにも、寒さにも弱い」と言われます。では、どちらの季節の方が性能は低くなってしまうのでしょうか? EV DAYS編集部が夏・冬2回のロングドライブの結果を比較してみました。なお、今回の検証結果はすべてのEVに当てはまるとは限りません。EV理解の一助としてご覧ください。
- 検証に使用したのは日産「アリア B9」
- 夏・冬のロングドライブ、当日のコンディションは…
- 検証1「夏・冬で電費はどれだけ違う?」
- 検証2「夏・冬で高速走行の電費は違う?」
- 検証3「夏・冬で充電されやすさは違う?」
- 平均的な関東の気候であれば、夏・冬の電費は変わらなかった!
検証に使用したのは日産「アリア B9」
今回検証に使用したのは日産「アリア B9 e-4ORCE プレミア」(夏・冬同一個体)。2025年2月現在、国産EVとしては最大のバッテリー容量があります。車両スペックは以下のとおりです。
〈表〉アリアB9のスペック
車両 | 日産「アリア B9 e-4ORCE プレミア」 |
バッテリー容量 | 91kWh |
航続距離 | 560km |
電費(WLTCモード) | 187Wh/km(5.35km/kWh)※ (参考)高速道路モード:196Wh/km(5.10km/kWh)※ |
急速充電 最大受入能力 | 130kW |
普通充電 最大受入能力 | 6kW |
※km/kWh表示は、EV DAYS編集部がカタログ表示より算出。なお、アリアの詳しいスペックはコチラ
夏・冬で実際の走行状況に合わせるため、ドライブモードや車内の空調の設定などは以下のように定めました。
〈表〉走行時の条件
ドライブモード | ECO |
e-Pedal Step | ON |
高速道路の巡航速度 | 100km/h(※) |
車内空調設定 | 夏ドライブ:27℃(AUTO) 冬ドライブ:25℃(AUTO) |
乗車人数 | 3名 |
タイヤ | 夏ドライブ:ノーマルタイヤ 冬ドライブ:スタッドレスタイヤ |
※速度の検証および法定速度がこれ以下の区間は除く。基本はACCのプロパイロット2.0を利用
なお、夏は【東京-広島間 約1600km】、冬は【東京-三重間 約700km】で、両方ともおもに高速道路を走行するルート。特に冬のドライブは、ほとんどの時間を高速道路上で過ごしました。
夏のドライブの詳細は以下の記事で公開しています。ぜひご確認ください。
▶【EVの弱点検証】真夏のロングドライブ1600kmで3つの噂を調べてみた!
夏・冬のロングドライブ、当日のコンディションは…
ちなみに、今回の比較では、先に説明しておくべきことがひとつあります。
それは、夏のドライブは「猛暑日」でしたが、冬のドライブは「極寒の環境下」ではなかったことです。
EVの冬ドライブ企画といえば、「雪国の極寒でドライブ!」というものが多い(実際に、EV DAYSでも過去に北海道での検証企画を行っています。過去記事はコチラ)のですが、EV DAYS編集部は考えました…。
そんなに、“極寒の環境”で走りますか…? と。
もちろん、頻繁に雪の降る地方や標高の高い地域にお住まいの方からすると、異論はあると思いますが、特に関東圏の方にとって、雪が降るほど寒い日は年に数えるほどしかないはずです(ちなみに、関東圏の2月の平均気温は以下のとおり)。
〈表〉関東地方の2月の平均気温(1991~2020年)1)
平均気温 | 最高気温 | 最低気温 | |
東京都(東京) | 6.1℃ | 10.9℃ | 2.1℃ |
神奈川県(横浜) | 6.7℃ | 10.8℃ | 3.1℃ |
埼玉県(さいたま) | 4.9℃ | 10.3℃ | -0.2℃ |
千葉県(千葉) | 6.6℃ | 10.7℃ | 2.8℃ |
茨城県(水戸) | 4.1℃ | 9.8℃ | -1.2℃ |
群馬県(前橋) | 4.5℃ | 10.0℃ | 0.0℃ |
栃木県(宇都宮) | 3.8℃ | 9.7℃ | -1.3℃ |
そこで、今回はあえて氷点下ではない環境でドライブに臨みました。検証を行った日が特に暖かい日だったのはやや誤算でしたが、冬のやや暖かい日…と位置付けて読んでいただければと思います。
検証時の外気温、そしてエアコンの設定温度との差は以下のとおりです。
〈表〉検証時の外気温(目安)
エアコン設定温度 | 最高気温 (設定温度との差) |
最低気温 (設定温度との差) |
|
夏ドライブ | 27℃ | 36℃(+9℃) | 27℃(±0℃) |
冬ドライブ | 25℃ | 12℃(-13℃) | 5℃(-20℃) |
※ともに「アリア」のドライブメーターに表示された外気温
一般的に、エアコンは車内温度と外気温との差を埋めようとするため、気温差があるほどに電費への悪影響があると言われます。そのため、極寒の環境下ではないものの、冬ドライブの方が不利な環境であると言えるでしょう。
参考資料
1)気象庁「過去の気象データ検索」
検証1「夏・冬で電費はどれだけ違う?」
それでは1つ目の検証を行ってみましょう。まずは、夏冬ともにドライブの平均電費の差はどれくらいあったのでしょうか?
2回のロングドライブは、それぞれルートが異なるため、正確な比較は困難ですが、電費を比較すると以下の結果となりました。
〈表〉【夏冬比較】トータル電費
総走行距離 | 平均速度 | 電費 | |
夏ドライブ | 1638.4km | 67km/h | 5.4km/kWh |
冬ドライブ | 690.5km | 75km/h | 5.3km/kWh |
夏ドライブの方が一般道での走行も多かったため、平均速度はそれなりに異なりますが、夏冬の電費はほぼ同じという結果に。
ちなみに、EV DAYS編集部の予測では、冬のほうが外気温との差があり、かつ電費が悪くなると言われるスタッドレスタイヤを履いている。さらに高速道路での走行の割合が多い分、不利なのではないかと考えていました。しかし、見事に裏切られる結果となりました。
なお、「アリア B9」の電費(交流電力量消費率)のカタログ値は以下のとおり。
〈表〉「アリア B9 e-4ORCE プレミア」のカタログ値(電費)
WLCTモード(総合) | 市街地モード |
5.35km/kWh | 5.46km/kWh |
郊外モード | 高速道路モード |
5.41km/kWh | 5.10km/kWh |
これと比較しても遜色のない数字なので、夏・冬ともにブレがほぼなく、優秀な結果だったといえるでしょう。夏ドライブの検証記事でも書きましたが、ガソリン車でカタログ値を上回ることはなかなかありませんので、EVならではの結果と言えるかもしれません。
検証2「夏・冬で高速走行の電費は違う?」
続いて、着目したのは高速走行時の電費です。夏ドライブの記事では、全行程の平均電費と比較すると、120km/h巡航は17%の電費の悪化が見られたことを報告しました。
〈表〉【夏ドライブ】走行速度による電費比較
電費 | 平均電費との比率 | |
80km/h巡航 | 6.8km/kWh | 79% |
全行程の平均 | 5.4km/kWh | 100% |
120km/h巡航 | 4.6km/kWh | 117% |
では、冬ドライブではどの程度電費は悪化したのでしょうか。結果は次のとおりでした。
〈表〉【夏・冬比較】新東名高速道路120km/h区間:約35km
(掛川PA-浜松SA手前)
往路電費 | 復路電費 | 平均電費 | |
夏ドライブ | 4.3km/kWh | 4.9km/kWh | 4.6km/kWh |
冬ドライブ | 4.0km/kWh | 4.9km/kWh | 4.5km/kWh |
往路電費こそ、冬ドライブのほうが悪かったものの、復路電費は同じ。トータルでもほぼ変わりません。つまり、電費悪化の割合もほぼ変わりません。
〈表〉【夏・冬比較】走行速度による電費比較
全行程の平均 | 120km/h巡航 | 平均電費との比率 | |
夏ドライブ | 5.4km/kWh | 4.6km/kWh | 117% |
冬ドライブ | 5.3km/kWh | 4.5km/kWh | 118% |
“電費悪化の割合”は、季節による変動はないだろうと予測はしていましたが、数値がここまで変わらないというのはある意味予想外でした。
夏でも体感したものの、EV(というよりも「アリア」)の電費のブレなさは驚くべきレベルと言えるかもしれません。
検証3「夏・冬で充電されやすさは違う?」
それでは3つ目の検証です。EVは暑い・寒い環境では、充電されにくいと言われます。これはバッテリーが冷え切っていたり、高温になっていたりする場合、充電性能が低下してしまうためです(一般的にリチウムイオン電池は15〜25℃が最も理想的な使用温度とされています)。
実際、そのために「アリア」にもバッテリークーラー2)、およびバッテリーヒーター 3)が搭載されているのです。今回はそこまで外気温が低くなかったため使用しませんでしたが、「アリア」には急速充電に備えて走行中事前に手動でヒーターをオンにすることも可能です。
では、実際に夏・冬で違いはあったのでしょうか? 2回のドライブで同一のSA、同一の充電器で急速充電することができたので、その結果を報告します。
〈表〉【夏・冬比較】急速充電の各種情報
※1 1台で使用時は最大150kW、2台同時使用時は最大90kWとなります
※2 2回目の充電(おかわり充電)時は次の利用者が来たらすぐに充電を終了して交替できるよう準備して待機
シートには細かく記載してありますが、ザックリと解説しますと、充電スポットに到着したときのSOCの違いはあるものの、毎回の推定充電電力量はほぼ近しい数値を記録しました。
つまり、少なくとも夏・冬ともに充電が著しくされにくい状況にはなっておらず、今回程度の環境であれば、オールシーズンで充電されにくさを顕著に感じることはないであろうことが想定されます。
もちろん、今回の相棒となってくれた「アリア」が特に優秀でありそうですが、今回の検証結果を踏まえると、ひと昔前に叫ばれていたような「夏・冬だと、EVは極端に充電がしにくくなる」といった言説は当たらない、ということが言えるでしょう。
平均的な関東の気候であれば、夏・冬の電費は変わらなかった!
今回の結果を総括すると、ロングドライブのトータル電費、高速走行時の電費、そして充電具合を対象とした場合、夏・冬で走行性能、充電性能が大きく変わることはありませんでした。
もし、極寒地で運用したり、氷点下の環境で長時間駐車をしたりしてバッテリーの温度が冷えていると、電費が悪化したり、急速充電で入りにくくなるのでしょうが、今回程度の環境であれば、まったく変わらないようです。これはバッテリーの温度管理やヒートポンプ式空調の採用など、EVの進化によるところが大きいでしょう。
ちなみに、ガソリン車の場合でも車内設定温度と外気温の差が大きいと、燃費が悪くなるため、こういったエネルギー消費はどのパワートレインの車でもさほど変わらないものです。そのため、特別にEVだから…というわけではありません。
EVユーザーのみなさん、そしてEVに興味のあるみなさんも実際に乗ってみるとわかることが多くあるので、ぜひ性能を試しながら、EVライフを楽しんでみてください。
※本記事の内容は公開日時点での情報となります