ヒョンデ インスター 小さくもインパクト抜群の日本仕様EV

日本に再参入をはたした韓国のヒョンデが放った第4弾は、コンパクトなサイズと愛らしいデザイン、リーズナブルな価格をはじめ、小柄ながら実用性に優れ、一充電あたりの航続距離も十分に確保されていて、先進安全装備も充実した一台です。思えばこういうタイプのEVというのは、あるようでなかったことに気づかされます。その実力を、モータージャーナリストの岡本幸一郎さんがレポートします。

 

eチャージバナー

 

2022年の再上陸を機に、従来の「ヒュンダイ」から、より本来の発音に近い「ヒョンデ」と日本でも呼ぶことになった。日本にはBEV中心に導入し、オンライン販売を主体とする方針を打ち出しており、「アイオニック 5」、「コナ」、「アイオニック 5 N」を発売してきた。今回の「インスター」でBEVは4車種目となる。

 

航続距離は最大458km。にもかかわらず300万円以下からと、リーズナブル

2024年秋に日本への導入が報じられてから、界隈ではいろいろ話題となっていた。全長は約3.8mしかなく、全幅と全高がともに約1.6mとコンパクトなのは、道の狭い日本にももってこい。それでいて愛嬌のあるルックスは小柄ながら存在感がある。

 

サイズが小さければ大きいバッテリーが積めなくて航続距離が短いのかと思えば、ぜんぜんそんなこともない。49kWh版なら一充電での走行距離は458km(WLTCモード)に達しているというではないか。

 

49kWhのほかに42kWh版もあり、装備を差別化した3グレードのラインアップで、気になる価格は発売時で284万9000円~357万5000円と控えめ。補助金を考えるとなかなかリーズナブルといえそうだ。

 

コンパクトながら室内広々。シートベンチレーションまである充実の装備

 

サイズのわりに車内空間は狭いこともなく、前後方向がやけに長く感じられ、天地高にも余裕がある。フロントにはウォークスルーが可能なベンチシート、リアには左右独立してリクライニングと200mmもの前後スライドが可能なシートを備え、用途に応じてアレンジできる。

 

リアシートを最後端までスライドさせると、膝前があいて広々とするのも、このサイズのクルマではありえないことだ。

 

そこからがさらにすごい。後席だけでなく助手席と運転席も背もたれを前倒しできて、なんと車内をフルフラットにできるのだ。このサイズでこんなことができるクルマなんて、ちょっと心当たりがない。後席と前席を倒して長尺物を積むこともできるし、全席倒して車中泊することだってできる。

 

装備についても、このサイズだとそれなりかと思いきや、これまたビックリだ。最上級の「Lounge」は、至れり尽くせりのフル装備。前席にはシートヒーターだけでなく、このクラスでは類を見ないベンチレーションまで付く。

 

ひとつ下の「Voyage」に対して、17インチアルミホイールと205/45R17サイズタイヤ、電動スライド式サンルーフ、スマートフォンワイヤレスチャージ、デジタルキーなどなど、これでもかというほど充実している。

 

eチャージバナー

 

足まわりは日本仕様に専用セッティング。意のままに操れる操縦性

走りのほうも想像以上だ。ステアリングシステムとサスペンションが日本専用にセッティングされていて、これがなかなか按配がいい。

 

サスペンションはフロントがストラット、リアがトーションビームで、スプリング等が仕向け地によって何通りかの設定がある中から最適な組み合わせを選択するとともに、ダンパーについては日本特有の首都高のジョイントのような凹凸での乗り心地を考慮して日本専用の特性のものをわざわざ用意したのだという。おかげで乗り心地に硬さを感じることもなく、かつほどよくひきしまっていて高速走行時での安定性にも優れ、フラット感のある走りを実現している。

 

ステアリングの操舵力は軽く、動きも素直で、乗りやすくて意のままに操れる感覚も心地よい。直進安定性も高く、荒れた路面でもイメージしたラインをあまりブレることなくトレースしていける。小柄で幅が狭いわりに車高が高めという見た目のイメージとは裏腹の安定した走りと快適な乗り心地を実現できているのは、重心高が低く前後重量配分にも優れるEVなればこそに違いない。

 

加速特性は穏やか。スマート回生ブレーキの制御も巧みで頼りになる

 

最高出力85kW、最大トルク147Nmを発生するパワートレーンの性能も、過度な期待をしなければ大きな不満はない。日本向けに加速特性が穏やかかつ扱いやすい味付けで、瞬発力はほどほどながら、街乗りで使うにはストレスを感じることはなさそうだ。

 

もう少し刺激が欲しければ、4段階あるドライブモードのスポーツモードを選択すると、アクセルレスポンスが向上する。

 

回生ブレーキには最新の制御が盛り込まれていて、コースティングから完全停止が可能なワンペダルモードまで選べるほか、「AUTO」を選ぶと先行車の状況やナビ情報をもとに自動的に回生の強度を調整して停止までサポートしてくれる。その制御がとても巧くて頼りになることにも感心した。充電ステーション検索フィルターを統合したカーナビも使いやすくていい。

 

eチャージバナー

 

V2Hにも対応。見た目も走りも使いやすさも備える、“大いにアリ”な1台

 

静粛性についてもEVである強みに加えて、さまざまなNVH対策が施されたことが効いて、フロアやウインドウまわりから侵入する音も上手く抑えられていて、このサイズのクルマとは思えないレベルの静けさを実現できている。

 

V2Hに加え、給電機能(V2L)は車内外で1360Wまで電力を使うことができるほか、充電性能も高く、最大出力150kWの急速充電器で10%から80%まで充電するのに約30分しかかからない。寒い冬季でもバッテリー温度を最適に保ち、充電中の温度を安定させるバッテリーコンディショニング機能も付いている。

 

そんなインスターの初期受注のスタートダッシュは概ね好調だという。ゆくゆく納車が進んで街で見かける機会が増えると、さらにじわじわ来そうな気もする。

 

手頃な価格で小さくて便利で距離も走れて見た目もいい。日常の足からロングドライブまでこなせて、おまけにV2Hにも対応。すなわち自宅の電力を賄える電源にもなるのだから、一家に1台あってもいいのではと思ったぐらいだ。小さいながらもインパクトはなかなか大きい。

 

撮影:茂呂 幸正

 

〈スペック表〉
インスター Lounge

全長×全幅×全高 3830mm×1610mm×1615mm
ホイールベース 2580mm
車両重量 1400kg
乗車定員 4名
最小回転半径 5.3m
モーター種類 交流同期電動機
モーター最高出力 85kW(115ps)/5600-13000rpm
モーター最大トルク 147Nm(15.0kgfm)/0-5400rpm
バッテリー種類 三元系リチウムイオンバッテリー
バッテリー総電力量 49kWh
バッテリー総電圧 310V
一充電走行距離 458km(WLTCモード)
電費(交流電力量消費率) 119Wh/km(WLTCモード)
駆動方式 FWD
サスペンション 前マクファーソンストラット式 後トーションビーム式
タイヤサイズ 前後205/45R17
税込車両価格 357万5000円

 

※本記事の内容は公開日時点での情報となります

 

〈ギャラリー〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この記事の著者
岡本幸一郎
岡本 幸一郎

1968年富山県生まれ。父の仕事の関係で幼少期の70年代前半を過ごした横浜で早くもクルマに目覚める。学習院大学卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作や自動車専門誌の編集に携わったのちフリーランスへ。これまで乗り継いだ愛車は25台。幼い二児の父。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。