【図解】LiDAR(ライダー)とは?自動運転の未来を握る技術の可能性と課題

自動運転技術の発展において、センシング技術の選択が重要な分岐点となっています。レーザー光で高精度な3D 測定を行うLiDAR(ライダー)は、その優れた性能から自動運転に欠かせない技術として注目されてきました。しかし、コスト面の課題やAIの急速な進化により、センシング技術を巡る議論は新たな局面を迎えています。この記事では、LiDAR の技術的な解説とともに、各自動車メーカーの戦略など、自動運転の未来を左右するセンシング技術の現在地を解説します。

 

 

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【図解】LiDARの仕組みと種類

 

LiDARとは「Light Detection And Ranging(光による検知と測距)」の略で、その基本的な仕組みは、レーザー光を対象物に向けて照射し、その反射光がセンサーに戻ってくる時間をもとに距離を測定する、というものです。

時間と光の速度をもとに算出した多数の点群データを組み合わせることで、3次元の空間を再現できるのがポイントとなります。そのため、測量の分野ではすでに実用化が進んでいます。たとえば、地底探査などで洞窟内を3D地図化できるのも、LiDARが活かされた結果なのです。

自動運転においては、先行車との位置関係や歩行者の動き、さらには一時的な道路工事など、常に変化する道路環境を正確に把握する必要がありますが、その点においてLiDARは迅速かつ正確に3次元で把握できます。これこそLiDARが自動運転には欠かせないセンサーとされるゆえんです。

自動運転の実現において注目を集めているLiDARですが、その技術自体は新しいものではなく、地質学や気象学の分野では古くから活用されています。照射するレーザー光がミリ波(波長1~10mm、周波数30~300GHzの電波)などに比べて面に光を照射する密度が高く、高精度に位置や形状などを測量できるというのがその理由です。たとえば、地形調査では航空機にLiDARを搭載し、地表面に照射して測量を行います。

 

ToF方式とFMCW方式

画像:iStock.com/Scharfsinn86

 

それでは、より具体的にLiDARによる距離測定について説明しましょう。計測方法には「ToF(Time of Flight:飛行時間)方式」と「FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave:周波数変調連続波)方式」の2種類があります。

〈図〉ToF方式の仕組み

 

ToF方式は、レーザー光を対象物に照射し、反射の時間を計測するという比較的単純な構造です。ワンチップ化あるいはモジュール化がしやすく、大幅な低コスト化が進んでいます。そのため、身近なところでは自動ドアやスマートフォンのカメラ、ロボット掃除機などにも幅広く使われています。

ただ、ToF方式の場合、照射される光パルスは持続時間が短いうえに、照射した装置を識別する情報を載せることが難しいとされています。そのため、現状では受信した光パルスが自分で発信したものなのか、他のLiDARから発信されたものなのか識別が困難です。つまり、自動運転での活用を想定した場合、自動運転車が増加すると、他車のLiDARから発せられたレーザー光を誤って受信し、誤認識や誤作動の原因となる可能性があります。

〈図〉FMCW方式の仕組み

 

一方、FMCW方式では、発信するレーザー光の周波数を変化させながら連続的に照射し、対象物から反射して返ってきた受信波の周波数の違いから距離を測ります。また、救急車が通り過ぎるときにサイレンの音が変わる「ドップラー効果」という現象を利用して、相対的な速度も測定できます。最大のポイントは連続照射による変化をみているため、識別情報を乗せやすく、自ら発信したレーザー光と他のLiDARが発信したものを判別できるということです。これにより、FMCW方式は自動運転で最適な効果が得られるLiDARとされているのです。

しかし、FMCW方式は機構が複雑になるため、そのコストはToF方式に比べておよそ10倍程度にもなるといわれます。自動運転では人が運転中に収集するのと同レベルの情報収集を行う必要があり、そのためには車両の全周囲を捉えられるように複数のLiDARを搭載することが不可欠です。自動運転のためのLiDAR実装の現状は、ToF方式の技術発展、またはFMCW方式のコストダウンのための技術開発を期待する状況にあるようです。

 

LiDAR以外のセンシングの可能性

ここまで、自動運転におけるLiDARの技術的な有用性について紹介しましたが、すでに普及している他のセンシング技術の可能性についても考えてみたいと思います。

 

AI搭載で可能性が広がる「カメラ」

画像:iStock.com/ Igor Paszkiewicz

 

現在、実用化されている自動ブレーキや車線維持などの先進運転支援システム(Advanced Driver-Assistance Systems:ADAS)で使われているセンサーは、カメラやミリ波レーダーが主流となっています。

カメラは人間の眼と同様、被写体を撮像素子で検知して対象物を認識するものであり、あくまで光を受け止めるだけのものです。LiDARのようにアクティブに自ら光源を放つわけではないため、逆光時や激しい雨が降ったりすると、その認識精度は急激に落ちてしまいます。

とはいえ、技術開発によってカメラの解像度は高まり続けており、形状認識をする上でこれを超えるセンサーは現状では存在しません。しかも、そのコストは他のセンサーに比べて破格に安いものです。つまり、ADASにもっとも低コストで対応できるセンサーといっても過言ではないのです。

実際、カメラによるセンシングができていれば、車線逸脱の警告や制御、衝突被害軽減ブレーキ、アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)など、ADASのほとんどの機能は網羅できます。センシングした対象物の大きさを把握し、その像の大きさから近づいているか、離れているかを判断できるからです。

ただ、これが「単眼カメラ」であると、対象物の存在はわかるものの、絶対距離を測ることは不可能です。これは人間が片眼で対象物をつかもうと思ってもうまくいかないのと同じ理屈です。

そこで、より高精度なセンシングを行うべく、人間の眼と同じ発想で登場したのが2つのカメラをもつ「ステレオカメラ」です。この代表例がスバルの「EyeSight(アイサイト)」になります1)

EyeSightは、2008年に世界で初めてステレオカメラだけでACCや衝突被害軽減ブレーキを実現し、それ以降も"ぶつからないクルマ"として世間に広く知られるようになりました。現在はその機能をさらに高めた「新世代アイサイト・アイサイトX」に移行しており、GPSや準天頂衛星「みちびき」などからの情報と3D高精度地図データを組み合わせることで、自車位置を正確に把握し、ステレオカメラやレーダーでは検知しきれない複雑な道路情報まで認識できるようになりました。

画像:スバル アイサイト

 

カメラによるADASは大きく進化しましたが、先ほども述べたとおり、カメラには悪条件時に認識精度が下がるという弱点があります。この状況を打破するための秘策が、人工知能(AI)の活用です。たとえば、スバルはEyeSightの次世代版で、深層学習などで学習した膨大なデータをもとに、推論・推測すべき対象がなんであるかを瞬時に判断させるAIを活用し、それをセンシングに役立たせていく計画です2)。つまり、AIがカメラの弱点をサポートすることで、ハードに頼らず、低コストを維持したままセンシング能力向上を目指したというわけです。

 

 

 

高コスパ、カメラとの併用が進む「ミリ波レーダー」

 

AIを活用したADASが広がるなかで、AIに頼らず広く普及しているのがカメラとミリ波レーダーを併用する「センサーフュージョン」です3)。LiDARはレーザー光を使うのに対し、ミリ波レーダーは電波を使います。そのため、雨や霧も通過でき、悪天候に強いというメリットを持ちます。ただ、樹木など電波の反射率が低い物体を検出するのは難しく、さらに形状を正確に把握することも不得手です。言い換えれば、カメラとの組み合わせがあってこそミリ波レーダーの能力はフルに活かせるようになるといっていいでしょう。

ミリ波レーダーはLiDARに比べればはるかにコストは安く、その搭載はハイグレード車から軽自動車にまで広がっています。たとえば、トヨタはセンサーフュージョンのシステムを乗用車のほぼ全車に搭載していますし、日産もほとんどの車種で選択できるようになっています。センシング能力も高まってきており、それを制御するソフトウェアも急速に使いやすさを増している状況にあるのです。

しかも、ここへ来てミリ波レーダーの解像度を高め、形状認識を可能にしたとの発表が、乗用車・商用車向けモビリティ製品・システムなどを開発するドイツのZFなどのサプライヤーから相次いでいます。それらを用いて自動運転のレベル3以上を実現した例はまだありませんが、今後の開発次第ではLiDARなしでも自動運転が可能になる時代が訪れるのかもしれません。

 

 

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自動運転におけるLiDARの活用事例・搭載車

車載用LiDARとして、国産メーカーで実際に採用されたのは2021年、ホンダが「レジェンド」でレベル3の自動運転を実現した「Honda SENSING Elite(ホンダ センシング エリート)」の「トラフィックジャムパイロット」が最初となります4、5)

その後、トヨタがレベル2を高度化したレベル2+を実現し、「MIRAI」「レクサスLS」に搭載しました。また、日産は緊急回避性能を高めた次世代の運転支援技術「グラウンド・トゥルース・パーセプション(Ground truth perception)」で、単眼カメラとミリ波レーダーに加え、LiDARを使うことを発表しています6)

欧州勢では、BMWが「7シリーズ」に高感度3D LiDARを搭載し、ドイツ国内仕様のみに高速道路上なら60km/hまでをレベル3で走行できる高度自動運転機能「BMW Personal Pilot L3」をオプション設定しました7)。さらにレベル2+でのハンズオフ走行が可能になる「ハイウェイ・アシスタント」も利用でき、この組み合わせを実現したのは市販車で世界初としています。

そのほか、スウェーデンのボルボやドイツのメルセデス・ベンツもLiDAR搭載によるADASの実現に積極的です。いずれもアメリカのLiDARメーカーであるルミナーの提供によるものですが、そのなかで、ボルボは2024年に発売したフル電動SUV「EX90」の全グレードにLiDARを標準搭載しました。ボルボによれば、ルーフへのLiDAR搭載が空力的なハードルとなったようですが、カメラ、レーダー、超音波センサーと組み合わせることで安全性の向上に貢献することができたとしています8)。メルセデス・ベンツはすでに「Sクラス」や「EQS」といったレベル3の対応車にLiDARを採用しており、LiDARの搭載車種を拡大しています。

 

 

 

レベル3以上を実現するための最適解とは?

画像:iStock.com/metamorworks

 

各社がLiDARを積極的に採用するなかで、レベル3の自動運転をカメラだけのセンシングで実現を目指す自動車メーカーがあります。それがテスラです。

 

テスラがLiDARを採用しない理由

同社は、市販車にカメラ以外のセンサーを採用しない方針を貫いてきており、2021年にはミリ波レーダーを、2022年には超音波センサーさえも搭載を中止しました9)

その理由のひとつとして、アップデートへの対応がしやすいことを挙げていて、テスラはカメラを中心としたシステムでレベル2+に相当するADAS「FSD(Full Self-Driving)」を実現し、2026年~27年頃には「サイバーキャブ」を使用したレベル4のロボタクシーを実現する考えを示しています。

少し前までLiDARの搭載にこだわってきた中国勢も、テスラの方針に倣ってか、ここへ来てカメラだけでレベル2+を実現しようという動きが急速に芽生えてきました。その理由はLiDARのコストがなかなか下がってこないことにあります。これまでならコスト度外視でハイスペックの車を提供し続けてきた中国車でしたが、2024年初頭から続く激しい価格競争の影響で、中国メーカーにとってもよりコスト管理が厳しくなった結果と見るべきなのかもしれません。

 

 

最適解の模索は続く……LiDARの展望やいかに

また、AIの急速な進化も、メーカーがカメラだけのセンシングに踏み切ることを後押ししているといわれています。スバルのEyeSightで説明したように、AIは急速に認知・判断能力を高めており、それが自動運転にメリットを生み出し始めているのです。また、テスラが唱える、複数のセンサーを組み合わせることのリスクは一考に値します。それは、センサーを組み合わせた場合、それぞれのセンサーの認識が一致しない場合には判断がむしろ難しくなり、それが安全性に影響を与えるという考え方です。つまり、複数のセンサーを搭載して情報が混乱するよりも、同一のセンサーで捉えるほうが冗長性を得やすいというわけです。

一方で、カメラだけで運転手不要のレベル4の実現は不可能としているのが、ADASで世界トップシェアを持つイスラエルのモービルアイです。同社はレベル4を実現するためのセンシングにはカメラの弱点を補うセンサーとして、LiDARあるいはミリ波レーダーのフュージョンが欠かせないとしてきました。ただ、LiDARのコストが思うように下がらないことから、2024年9月、当初予定していたLiDARの内製化の中止を発表。代わって2025年から生産開始予定のミリ波レーダーの進化版である「イメージングレーダー」に注力することを決定したのです10)。すでにこのイメージングレーダーは世界有数の自動車メーカーが採用を決定しており、まずは2028年からこれを用いたレベル3の自動運転をパーソナルカーで実現する予定としています。

こうした動きに中国のLiDARメーカーは、従来の半額程度でLiDARを提供しようと動きを活発化させています。これまで、LiDARは低価格なものであれば数万円で手に入りましたが、自動運転用となればそうはいきませんでした。それがモービルアイや中国勢の動きによってLiDARの低価格化が進めば、センシングの新たな時代が開くことにもつながっていくのかもしれません。

 

 

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LiDARと自動運転のこれから

自動運転の実現には欠かせないといわれてきたLiDARですが、ここへきて「LiDAR不要論」や「ミリ波レーダーの高性能化」など、取り巻く状況は大きく変化しています。最大の課題は何といってもそのコストですが、これまで搭載された車両も一部の高級車だけに限られ、これでは量産によるコスト低減を期待するほうが無理というものです。

そんななか、中国メーカーによる低価格での提供が実装へのハードルを一気に引き下げる可能性もあるでしょう。果たして、LiDARは自動運転に欠かせないものとして今後も存在し続けるのか、それともAIの活用によってLiDAR不要論が勢いを増していくのか。自動運転の未来を左右するセンシング技術の状勢を、これからも注視していく必要がありそうです。

 

 

※本記事の内容は公開日時点での情報となります

 

この記事の著者
会田 肇
会田 肇

カーライフアドバイザー。1956年茨城県生まれ。モーターマガジン社に編集者として勤務後、1987年よりフリージャーナリストへ転身。カーナビやドライブレコーダーへの造詣が深く、先進運転支援システム(ADAS)や高度道路交通システム(ITS)関連にも取材活動を展開。日本自動車ジャーナリスト協会会員。