EVの心臓をつくる最新バッテリー工場。AESC茨城ギガファクトリーに潜入

ギガファクトリー。クルマにまつわるニュースでしばしば耳にするような施設は、実は日本にも存在します。日産「リーフ」や「サクラ」に電池を提供するAESCが茨城県に新たに構えた巨大工場が、まさにそれ。清潔さと徹底した自動化が際立つ最先端の生産現場を、モータージャーナリストの岡本幸一郎さんがレポートします。

 

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バッテリーというのはEVにとって極めて重要な構成部品であることは言うまでもない。そのバッテリーがどのように作られているのかを実際に目の当たりにする貴重な機会に恵まれた。

リーフから広がったAESCの歩み

「AESC」というのは、もともとは初代リーフ用のバッテリーを供給するために、日産とNECグループの折半出資により2007年に創業した合弁企業で、当初は「オートモーティブエナジーサプライ株式会社」という社名だったのをご存じの方もいることだろう。

工場見学の事前説明。EVバッテリーの基本を学ぶ

 

初代に続いて2代目や、まもなく登場する3代目の「リーフ」にも供給されるほか、同じ日産の「サクラ」や、兄弟車の三菱「eKクロスEV」、ホンダ「N-VAN e:」のバッテリーを供給しており、国内でも高いシェアを誇る巨大バッテリーメーカーだ。

量販EVの先駆者であるリーフと、2022年の発売以来、日本でもっとも売れているEVであるサクラにバッテリーを供給していると聞けば、いかに規模の大きなメーカーなのか想像いただけよう。

AESCは世界中にギガファクトリーを展開する

 

創業以降、日本をはじめ、米国、中国、欧州など主要市場に生産拠点を拡大し、世界中の顧客へ製品を提供しており、AESCのバッテリーは17年あまりの間に60カ国以上で100万台以上のEVに搭載されてきたという。

 

東京ドーム約8個分! 最新工場を見学

最新の茨城工場の全容

 

見学したのは、そんなAESCの茨城県にある最新のギガファクトリーの一角。2021年10月に着工し、2024年7月より稼働しているという第一棟だ。全体の敷地面積は約36万平方メートル、延床面積は約5万3000平方メートルにもおよび、敷地面積は実に東京ドーム約8個分という広さを誇る。件の第一棟だけでも東京ドーム約1個分の延床面積があり、1年間の生産能力は6GWhと、60kWhのEV10万台分に達している。敷地にはまだまだ拡張の余地があり、将来的には約20GWhものバッテリーを生産する計画があるという。

 

投資額は約500億円、現状の雇用数は約800人で、24時間365日、休みなく稼働している。バッテリーの製造には大量の電力を要するのだが、太陽光発電により約10%の電力をまかなっている。

 

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第5世代パウチ型バッテリーが描くEVの未来

茨城工場で生産されているのは、「N-VAN e:」と3代目「リーフ」に搭載するための、第5世代となる次世代リチウムイオンバッテリーだ。

レトルトパウチのような形状の、第5世代リチウムイオンバッテリー

 

リチウムイオンバッテリーには角型や円筒型もあるが、AESCがEV用に製造しているのは、パウチ型という見た目がレトルトカレーのようなタイプで、従来の第4世代に比べてエネルギー密度と入出力密度という相反する要素を両立すべくさまざまな面できめ細かくアップデートされており、急速充電時間の大幅な短縮を図ることもできているという。

広大な工場には、搬送用ロボットも並ぶ

 

工場を見学して印象的だったのは、極めて清潔であることと、自動化が進められていることだ。品質管理が徹底していて、トラブルの原因として考えられる要素をできるだけ排除すべく最大限に努力していることがうかがえた。

最初に見学したのは、材料が保管されている広大な倉庫だ。外は真夏の太陽が照りつけていて非常に暑い日だったが、庫内は適温の25度に保たれていて、人間にとっても非常に快適な空間となっていた。

 

パックされた電極ロール。バッテリーの主要部品のひとつとなる

 

置かれていた材料は、AESCの相模原工場で製造された正極や負極の素材となる電極ロールで、厳重にパックされていた。写真のように大量にあった材料は、たったの2日間で使い切ってしまうそうだ。

製造のプロセスは、ざっくりいうと、ポリプロピレンのセパレーターを折りたたみながら正極と負極を交互に挟み込み積層し、それをラミネートフィルムで包み、電解液を入れるという流れとなる。このとき、バッテリーにとって大敵なコンタミネーション(=異物混入)や水分侵入を避けるため、非常に高レベルなクリーン・ドライルーム内で行われる。

カットされたロール

 

電極ロールは分速80mという、けっこう速いスピードでカットされ、正極と負極とセパレーターを積層する組立工程は、マイナス40℃でも結露しないほど極限まで湿度が低くされた中で行なわれる。こんなに大きなスペース全体がドライルームとなっていることにも驚いた。電解液を注入する工程も湿気が入らないよう真空にされた中で行なわれる。

生産ラインは機械による緻密な作業だ

 

電極ロールのカットから積層・封止までは機械により自動的に行なわれ、人の手を要するのは電極ロールの入れ替えくらいで、それもできるだけ水分を避けるべく、一度に携わる人間の数までも管理しているというほどの力の入れようだ。

最終工程では人の手による作業もある

 

また、品質確認の工程においても、現状は熟練したスタッフが目視で行なっているが、ゆくゆくはカメラとAIに置き換えることも検討し研究しているという。

 

重大事故ゼロが示す国産バッテリーの強みと信頼性

工場内では、重いパレットを運ぶ自動搬送ロボット(AGV)が縦横無尽に走行している

 

AESCのバッテリーは、このとおり厳密に管理されていて、非常にクリーンで自動化の進められた工場で生産されている。それは茨城工場だけでなく、従来から同様で、これまでAESCのバッテリーを積んだEVが100万台以上も世に送り出されてきながらも「一度も発火などの重大なインシデントを起こしたことがないことは自慢できます」と松本昌一CEOは胸を張る。

松本昌一CEO



AESCの強みは、

1)日本品質
2)スピード感
3)グローバル経営陣の高いイノベーション精神とチャレンジ精神

……という3つが融合していることだと松本CEOは強調する。そして、高い技術力と品質を武器に、AESCは今後、生産拠点を現在の7カ所から13カ所に増やす計画があり、グローバルでも世界トップレベルのバッテリーサプライヤーを目指していくという。そのときに重要なのが「AESCのバッテリーを積んでいれば安心」と認識してもらえることだと強調していた。今回AESCのギガファクトリーを見学して、その言葉には非常に説得力があるように思えた次第である。

EVといえば、バッテリーの発火による車両火災がたびたび報じられており、その安全性を懸念する声もなくはないが、日本国内での事例が報道されるケースが少ないのは、日本発のAESCのようなしっかりとしたバッテリーメーカーがあればこそ。バッテリー由来の発火などの重大事故がまったく起きていないことは、何事にも増して誇れる点に違いない。

 

※本記事の内容は公開日時点での情報となります

 

この記事の著者
岡本幸一郎
岡本 幸一郎

1968年富山県生まれ。父の仕事の関係で幼少期の70年代前半を過ごした横浜で早くもクルマに目覚める。学習院大学卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作や自動車専門誌の編集に携わったのちフリーランスへ。これまで乗り継いだ愛車は25台。幼い二児の父。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。