
ガソリン車に比べるとEV(電気自動車)の車両価格はまだ割高です。価格が高ければ中古車を買う選択肢もあるはずですが、EVの中古車に対しては「駆動用バッテリーの劣化が心配」「補助金の恩恵が受けられない」といったネガティブな声もあり…。はたして中古EVという選択肢はアリなのか? 実際に中古EVを購入したオーナーに費用感やバッテリーの劣化について聞いてみました。
【今回の取材でお話を聞いた方】

安田倫さん
カーリースサービス「ニコノリ」で事業責任者をつとめ、同サービスのYouTubeチャンネルなどでクルマに関するさまざまな情報をわかりやすく解説。自動車業界歴17年。2023年1月に愛車のポルシェ「911」を全損事故で失ったため、同年2月に中古車の日産「リーフNISMO」(2019年式)を購入した。
ポルシェの全損事故でEVの中古車を即購入

中古車は新車に比べると価格がかなり安く、「クルマの購入費用を安く抑えたい」「新車では手が届かなかった価格帯のクルマを買いたい」といったときなどに有力な選択肢になり得ます。
しかし、EVの場合、中古車であることがデメリットとなるケースがあるのも事実です。たとえば、国の補助金は新車が対象ですから、中古車購入時は補助金の恩恵を受けられません1)。また、中古EVには「駆動用バッテリーの経年劣化」を危惧する声もあります。
バッテリーは充放電を長期間繰り返すうちに、じわじわと使用できる容量が低下していきます。EVの補助金は交付の条件として、自家用車両の場合は4年の保有を義務づけているため1)、一般的に中古EVは4年程度使用した車両が多くなります。もちろん使い方によりますが、一定期間充放電しているので容量低下の可能性もあるわけです。
こうしたネガティブな見方もあるなかで、中古EVの購入を決断したのが安田倫さんです。安田さんは「EVの中古車に不安を感じる人の気持ちもよくわかります。じつは私自身、最初は多少の不安感がありました」といいます。

安田さん「そもそも、私がEVの中古車を購入しようと思ったのは、当時マイカー通勤に使っていたポルシェ『911』で全損事故を起こし、移動手段がなくなり困ったためでした。以前から“次はEVに乗りたい”と考えてはいたのですが、EVは受注生産の割合が高く、新車だと納車されるまでに最低数カ月はかかります。
しかし、中古車なら現物があるので、見積もりを依頼して契約書にサインし、支払いして納車前整備を終えれば、1カ月以内に納車されます。不安な気持もありましたが、いますぐEVに乗りたいのなら、中古車を購入するのが一番いい方法だと思ったのです」
安田さんが選んだEVの中古車は、日産「リーフ」のスポーツグレード、「リーフNISMO」の2019年モデル。購入したのは2023年2月でしたので、4年落ちの中古車ということになります。

安田さん「軽EVの日産『サクラ』やテスラ『モデルY』などの人気車種は前年に発売されたばかりでしたので、当時の中古EV市場は現在ほど車種が豊富ではありませんでした。そのかぎられた選択肢から、“このクルマならスポーティな走りも楽しめるし、面白そうだ”と選んだのが『リーフNISMO』だったのです。
結果的に、購入前に感じていた中古EVへの不安は杞憂に終わりました。結論からいうと、“何も心配する必要はなかった”というのが実際に中古EVを購入した私の実感です」
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安田さんがそう感じた理由のひとつは中古EVの安さでした。
「リーフNISMO」の車両価格は約464万円ですが2)、オプションを含めれば乗り出し価格は少なくとも500万円は下りません(補助金適用前)。安田さんは「メーカーオプションも豊富に付いていたので、新車なら550万円以上はしていたはず」といいます。
安田さん「しかも、2019年に登録されているのに、この『リーフNISMO』は1万8000kmしか走行していませんでした。それにもかかわらず、中古価格はわずか250万円弱だったんです。
私が働いている会社は中古車も扱っているので相場がわかるのですが、低走行でオプション満載の特別仕様車が、4年落ちとはいえ新車の乗り出し価格の半値以下で買えるなんて、ガソリン車の中古車では考えられません。“うわ、安っ!”って驚きました」

仮に「リーフNISMO」を新車で購入したらどうだったのでしょうか。
安田さんが住む神奈川県にはEV購入時に個人が利用できる補助金はありませんが、国の補助金は利用できます。2023年当時の「リーフNISMO」の補助額は約53万円ですので、購入費用を550万円と仮定すると、安田さんの負担は約497万円になります。
つまり、新車で購入して補助金の恩恵を受けられたとしても、中古車ならその半値近くでEVを買うことができる計算です。
安田さん「ただし、自宅の充電設備には想定以上のお金がかかりました。充電用コンセントの設置費用は通常なら製品と工事費を合わせて10万円前後ですが、私の自宅は分電盤から駐車場まで距離があったので費用がかさみ、設置費用は20万円近くに…。
さらに、構造的に充電用コンセントを駐車場の奥に設置しなければならなかったのですが、それだと7.5mの車載充電ケーブルでは長さが足りず、15mのケーブルを追加購入しました。結局、充電設備に25万円程度かかりましたが、それでも新車購入した場合と比べると、はるかに費用が安く済んでいます」
参考資料
2) 日産「リーフ」
「中古EVはバッテリーが劣化」の真偽は?

しかし、中古EVの購入費用がどれほどおトクだとしても、駆動用バッテリーが劣化していたら元も子もありません。バッテリー容量(SOH)の低下はEVの航続距離が短くなることを意味します。
いくら新車の半値以下で購入できたとしても、たとえば航続距離が100kmなどに低下したEVでは使い勝手が悪く、新車を買ったほうがよかったということになりかねないのです。
もっとも、安田さんは「バッテリーの状態は購入時にもチェックしましたが、まったく問題ありませんでした」といいます。
安田さん「中古EVに対してバッテリーの経年劣化を指摘する声が多いことは私も理解していたので、ネット経由で中古車販売業者にアプローチする際は、バッテリーテストをきちんと行っている業者を選びました。また、納車の翌日には日産のディーラーに行き、EV専用の有償のメンテナンスパックに加入したのですが、そのときのバッテリー診断でも結果は『良好』でした」
とはいえ、いまはバッテリーの状態が良好でも、充放電を繰り返せばいずれ使用できる容量が低下していくでしょう。「そこで重要になるのが『保証継承』です」と安田さんは話します

安田さん「保証継承とは、そのクルマに付帯していたメーカー保証を前の所有者から引き継ぐ形で継続させる手続きのことです。
EVはメーカー保証に『バッテリー容量保証』が含まれています。たとえば『リーフ』の場合、新車登録から8年間または16万kmまでのどちらか早いほうにおいて、容量が特定の水準以下になると修理や部品交換を行い、その水準以上までSOHを回復させることを保証してくれています」
つまり、保証継承することにより、劣化が危惧される中古EVのバッテリーに対する安心感を長期にわたって担保できるわけです。

安田さん「中古EVを購入したら、最寄りのディーラーに行って保証継承の手続きを必ずしておいたほうがいいと思います。ただ、幸いなことに、私の『リーフNISMO』は2025年初めにディーラーで行った24カ月点検のバッテリー診断でもそれほど劣化はしていませんでした。
“中古EVのバッテリーは劣化しやすい”というイメージは、バッテリーが劣化しやすかったとされる初代『リーフ』の影響かもしれませんが、最近のリチウムイオン電池は性能が向上し、そう簡単に劣化はしないというのが私の印象です。中古EVのバッテリー容量に関しては、それほど心配する必要はないと思います」
中古EVはユーザーの選択肢を広げてくれる

こうして見るかぎり、EVの中古車だからといって過度にネガティブに捉える理由は何もないように思えます。むしろ、補助金を利用せずとも「ガソリン車に比べて車両価格が割高」というEVのマイナスポイントをカバーしてくれるのが中古EVといえるでしょう。
安田さんも「EVのメリット・デメリットを理解しているのであれば、中古EVは全然アリです。中古車だからといって購入を躊躇する理由はとくに見当たりません」と話します。
安田さん「『走る・曲がる・止まる』のクルマの基本性能に関してもEVは優秀です。とくに加速力が素晴らしく、大衆車にもかかわらず、アクセルペダルを踏み込んで最初の1秒の加速性能はスポーツカーのポルシェ『911』と比べても遜色ない。回生ブレーキの味付けもMT車で低いギアに落として減速する感じに近いです。
『曲がる』では車両を重たく感じますが、気になるのはその点と、フロア下にバッテリーを積んでいる関係で運転時の目線が高すぎる点くらいですね。私は『リーフ』しか判断基準がありませんが、新車の半値以下で購入でき、バッテリーの劣化もそれほど心配いらないとすれば、なかなかお買い得なクルマだと思いますよ」

近年はさまざまな新型EVが登場し、中古EV市場も安田さんが購入した当時とは比べ物にならないほど販売される車種が増えています。中古EV市場がこれからもっと成長していけば、多くの自動車ユーザーの選択肢をさらに広げてくれることでしょう。
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