島サイズのEVってどんなもの?「AIM EVM」を久米島でレポート

「島に住む人、訪れる人、みんなが笑顔になれるモビリティ」――そんなコンセプトを持つ2人乗りの超小型EVが、沖縄に現れました。AIMというエンジニアリング企業が手掛ける超小型モビリティ(認定車)「EVM」。最高速度は60km/h、航続距離は120km。数字だけ見れば控えめですが、小さな生活圏ではそれが最適解になり得るのだとか。久米島での試乗から、“島サイズ”の真価に迫りました。

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久米島空港に降り立つと、滑走路を囲むようにエメラルドグリーンの海。そこからクルマで15分ほどのところにあるのが、EVMの販売拠点だ。ここで出迎えてくれたのが、コンパクトなフォルムの車体だった。

開発したのは名古屋を本拠地とするAIM社。1998年に設立されたエンジニアリング企業で、自動車の先行開発や製品設計を中心に幅広い技術サービスを展開してきた。ル・マン24時間耐久レースへのエンジン供給などモータースポーツ分野で実績を積み、EVスポーツカー「AIM EV SPORT 01」の開発にも挑戦するなど、次世代モビリティに向けた研究開発力を備えている。

 

航続距離は120km、満充電まで5時間。“島サイズ”の超小型モビリティ

この車両は量産試験車両で、公道を走るためのナンバーを取得済みだという。すでに実験段階は終えており、量産に向けた試作車両という位置付け。それゆえ実際に販売される車両とはディテールが少し異なる可能性があることを、あらかじめご了承いただきたい。

 

とはいえほぼ量産仕様で、航続距離の約120kmは達成しているという。数字だけ見れば控えめだが、離島の暮らしでは十分だろう。バッテリー容量は約10kWhで200Vの普通充電なら約5時間で満充電になる。急速充電には対応していないが、フロントには普通充電口の脇に給電コンセントが付いており、車体から直接給電できるV2Lに対応している。

 

久米島という環境は、この車両の開発にとって理想的な場所だったという。超小型モビリティは法規上高速道路を走れないため試験の必要がなく、細い道や坂道が多いという地域特性に合わせた設計と試験ができるからだ。

 

全長わずか2.5mで、全幅は1.3mほどと、軽自動車を下回る極小サイズ。車体は小さいが、デザインはかわいらしく、島の風景に違和感なく溶け込んでいた。デザインは元日産の中村史郎氏によるものだ。外観デザインは沖縄の守り神シーサーをモチーフとしているとか。また車両開発・製造は元トヨタ、ホンダのエンジニア、広報も元日産と、名だたるメーカーのOB陣が手掛けており、楽しんで開発している様子が愛嬌溢れるデザインからも伝わってくる。

 

作り込みが感じられる、明るくオシャレなインテリア

 

ドアの開閉はボタン式の電子制御。意外にもと言っては申し訳ないが、広々とした空間が広がっている。シートはホールド感があってなかなかいい。

 

インパネ周辺はグローブボックスが彫り込んであり、視覚的な奥行き感に貢献している。大きな窓と相まって開放感がある。ドライブセレクターはインパネ中央にあり、右に回すとDレンジ、左に回すとRレンジだ。円形のメーターパネルには、現在のドライブレンジと航続距離が表示される。

 

リアゲートを開けると荷室が現れる。機内持ち込みサイズのトランクが3つ縦に入るサイズだという。上手にまとまったパッケージングで、使い勝手もいい。

 

ブレーキの左側に足踏み式のパーキングブレーキがある。ターゲットである高齢者層にも、「普通のクルマと違いすぎる」という違和感はなさそうだ。

 

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キビキビ曲がり、スムーズに加速。島の道での試乗体験

ハンドルを握り、まずは海沿いを走る。アクセルを踏み込むと、EVらしいスムーズな加速が心地いい。軽量ボディと相まって、激しいアップダウンもなんなくクリアする。デイライトは走行中に常に点灯していて、歩行者からの視認性はけっこう高い。

 

久米島の公道の制限速度は最高でも40km/hで、ストレスなくあっという間に上限速度に達する。サスペンションの設定はあえて固めにしてあるという。路面状況に左右される小さなサイズだけに、道の状態をドライバーにしっかりと伝わるセッティングだという。クルマと対話している感覚が味わえ、思いのほか楽しいドライブフィーリングだ。

 

車幅が狭いおかげで、集落の細い路地や、見通しの悪い観光地へのアプローチもストレスがない。島内の生活道路は石壁や生け垣に囲われて狭いが、軽自動車すら下回るサイズ感だけに、余裕かつ快適そのものだ。

 

見切りもよく、Rレンジに入れればバックモニターも表示される。ちなみに7インチのディスプレイは標準装備で、Apple CarPlayやAndroid Autoにも対応する。

 

最小回転半径は3.5mと旋回性能は極めて高く、片側一車線道路ならクルッと反対車線に回れるほど。島特有のカーブの多い道も軽快にこなしてくれる。EVらしくヒューンというモーターの加速音とロードノイズだけで静粛性は悪くなく、窓を開けると潮風や鳥の声が車内にそのまま飛び込んでくる。

今回は試すことができなかったが、天井部は着脱式の2分割ルーフを標準装備しており、取り外して荷室に格納すれば、タルガトップのような開放感を味わえるという。

 

200万円を切るプライスで、2025年秋に納車開始予定

すでにオーダーを受け付けており、デリバリーは2025年11月あたりを目指しているという。量産化に向け、エアコンの吹き出し口の角度や、風切り音の低減など、細かな微調整が行われている段階だとか。

最初は久米島で展開し、まずは高齢化が進む沖縄本島北部の国頭村(くにがみそん)などで販売を開始。徐々に販路を広げて、最終的には本土へと展開していく計画だという。

企業や自治体の公用車として、また介護や訪問医療のための移動にもニーズを見込んでいるほか、リゾート施設の送迎など、観光需要も視野に入れているとのこと。

 

気になる価格は190万円(税抜)からとなっており、補助金も見込めるかもしれない。

少子高齢化と過疎化が進むなか、バスなどの公共交通機関は存続の危機に瀕している。そんな背景から、超小型モビリティの潜在的な需要は、島嶼部のみならず全国的に高まっている。大手メーカーに先駆けて自動車エンジニアリング企業が送り出すユニークな一台が、社会問題のひとつの回答となることを大いに期待したい。

 

撮影:平安名 栄一

 

AIM EVM

全長×全幅×全高 2485mm×1295mm×1560mm
ホイールベース 1780mm
車両重量 646kg
最小回転半径 3.5m
モーター種類 永久磁石同期モーター(PSM)
最高出力 14kW(19ps)
最大トルク 70Nm
バッテリー種類 リン酸鉄リチウムイオン電池(LFP)
バッテリー総電力量 9.98kWh
一充電走行距離 120km(WLTCモード
充電時間 200V普通充電 約5時間
駆動方式 後輪駆動(RWD)
サスペンション 前ストラット/後ストラット
ブレーキ 前ディスク/後ドラム
タイヤサイズ 155/65R13
乗車定員 2名
高速道路走行 不可(最高速度60km/h)
外部給電 100V・最大1500W(アース付タイプ)
税抜車両価格 190万円

 

※本記事の内容は公開日時点での情報となります

 

この記事の著者
吉々是良
吉々是良

(株)reQue代表取締役。寺院住職との兼業編集ライター。自動車メーカーのタイアップ広告やオウンドメディアで執筆するほか、紀行文やテクノロジー関連、相続分野を得意とする元情報誌編集部員。欧州車を中心に、愛車遍歴約20年で10台を乗り継ぐ。