アルファ ロメオ・ジュニア 60年ぶり復活の名跡は、個性が光るコンパクトSUV

 

アルファ ロメオのSUVラインアップに加わったニューモデルは、全長4.2m未満、全幅1.8m未満という日本でも扱いやすいコンパクトなサイズで、アルファ ロメオが長年培ってきたスポーツスピリットとクラフトマンシップを最先端の技術と現代のライフスタイルに融合させたコンパクトSUVです。MHEV(マイルドハイブリッド車)の「Ibrida」と完全BEVの「Elettrica」という2種類の電動パワートレーンが用意されていて、そのBEVモデルを岡本幸一郎さんがレポートします。

 

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ステランティスは、フィアットとクライスラーが合併したFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)と、プジョーがシトロエンを吸収合併したグループPSAが経営統合して2021年に誕生した。傘下には実に計14ものブランドがあり、しかもなかなかの個性派ぞろい。その中でもひときわ個性的なのがアルファ ロメオだ。

 

創業115年と歴史は古く、戦前から自動車レース界の強豪でありイタリアを代表する高級高性能車メーカーとして知られたが、のちに方針を転換し、フィアット傘下に収まった頃には比較的小柄な車種を中心とするラインアップ構成となった。その独特のデザインやスポーティな走りは、いつの時代も多くのファンを魅了してきた。

 

そんなアルファ ロメオのエントリーSUVとして新たに加わったのがジュニアだ。日本で発表された6月24日というのは、115年の歴史を誇るアルファ ロメオがイタリアのミラノで創業した日でもある。

 

アルファ ロメオでジュニアといえば、1960年代に美しいフォルムや軽快な走りが高く評価された「GT 1300ジュニア」というスポーツモデルがあった。21世紀に生まれたジュニアは、そのスピリットを現代に受け継いだ、アルファ ロメオ初のBセグメントの電動クロスオーバーSUVとなった。

 

街で目を引く、独創的でマッシブなデザイン

 

全長4.2m未満とコンパクトながら凝縮感のあるスタイリングは、アスリートをイメージして描かれたという筋肉質なフォルムや、三眼ヘッドライトや進化したトライローブ(三つ葉)形状のフロントグリルなど、大胆にデザインされたフロントが印象的で、小さいながらも存在感は大きい。

 

おなじみの独特の盾グリルは、創業地であるミラノの市章である聖ゲオルギウス十字と、かつてミラノを支配したヴィスコンティ家の紋章であるサラセン人を呑み込む大蛇「ビッショーネ」を組み合わせたものだ。ジュニアには大きなサイズの2種類のグリルが設定されていて、BEVモデルはこのプログレッソ・デザインとなる。

 

この顔立ちがあまりに印象的なせいか、このクルマで街を走っていると、そんなに!?と思えるほど周囲からの視線を感じた。とくに信号待ちで最前列に停めたときに、横断歩道の歩行者から妙に見られる。このクルマのことを知っていてなのかどうかはわからないが、やはりこの顔にそれだけインパクトがあるということだろう。

 

その盾グリルや三眼ヘッドライト、空力特性のためにリアエンドを断ち切った「コーダトロンカ」と呼ぶ手法などは、アルファ ロメオの伝統的なデザイン要素によるものだ。

 

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ドライバーファーストのコックピットながら、実用性は十分確保

 

独特のマテリアルやデザインを駆使したインテリアも、いかにもアルファ ロメオらしい独特のムードを放っている。コックピットはドライバー中心のレイアウトで、メーター類をレーシングカーのように奥まった位置に配置し、目線を遠くしたときに高い視認性が得られるテレスコープデザインを採用するなど、モータースポーツのDNAを感じさせる。

 

このクラスとしては珍しく、シートにはアクティブランバーサポート機能が備わる。「アルファコネクト」というインフォテイメント系についても最新のものが装備されていて、センターコンソールの延長上に配された10.25インチのタッチスクリーンを素早く視認して直感的に操作できるようにされている。

 

待機時などのヒマつぶし用にゲームまである。オーディオの音質がいいことも伝えておこう。

 

車内空間はタイトで後席も広くないように見えるが、実際には成人男性が座るにも十分な広さが確保されている。また、このクラスでもハンズフリー電動テールゲートが標準装備されている。

 

BEV版でも、これまた予想よりもだいぶ広い400Lとクラストップレベルの容量のトランクがある。後席も荷室も十分ということで、コンパクトながら実用性も過不足はない。

 

SUVながら、俊敏で軽快。シャープなドライビングフィール

走りのほうもなかなか印象的だ。メカニズム的にはステランティス内の同じクラスの兄弟車と共通性が高いが、明らかに作り分けられていて、ジュニアはより俊敏さと軽快さと滑らかさが際立っていた。

 

俊敏なのは加速フィールとハンドリングのいずれにも当てはまる。アクセル操作に対してリニアに力強くレスポンスし、より軽やかで伸びやかに加速する。動力性能のスペックとしては兄弟車と同じなのに、乗ると速く感じられる。パドルシフトを駆使してマニュアル感覚の走りも楽しめる。

 

さらに、全開にしたときの反応が違う。兄弟車は一気に全開にすると、唐突に急加速しないようにタイムラグが設けられていて、その間(ま)が少し気になったものだが、ジュニアは全開の少し手前に壁があり、踏み込まないと全開にならないようになっていて、違和感なく全開加速できるようになっているのだ。ひょっとしてアルファ ロメオに乗る人なら全開にする機会も多いと配慮したのだろうか? なんだかそんな気すらしてくる。

兄弟車にはない音の演出もある。アクティブスポーツサウンドのON/OFFを好みで選べるようになっていて、ONにするとアクセルワークに合わせて印象的なサウンドを聞かせてくれるようになっていて、それもまた楽しい。

 

アイポイントはSUVらしくやや高めながらも、動きはSUVを感じさせない機動力を身につけている。ステアリングの操舵力が軽く、切れ味鋭いシャープな回頭性により、アルファ ロメオの醍醐味であるクイックなハンドリングをどんな道でも楽しむことができる。

 

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「こんなアルファを待っていた」。ブランドの新時代を象徴するニューモデル

 

その走りを実現するためにシャシーもそれなりに強化されていて、ジュニア同士で比べると、200kg以上軽いMHEVに比べて足まわりがしめあげられているものの、乗り心地には大きな不満のない快適性が確保されている。

 

アルファ ロメオが「DNA」と呼んでいるドライブモードセレクターの選択により走りのキャラがわかりやすく変わるとともに、メーターパネルの表示やアンビエントライトの色も変わる。

 

「DNA」の「D」=Dynamicモードを選択すると、アグレッシブな走りを楽しめるよう、より発進加速が鋭くなりキビキビと走れるようになる。「N」は最適なバランスでより快適に乗れるNaturalモード、「A」はエコモードに相当するAdvanced Efficiencyモードだ。本命はもちろん「D」。エキサイティングなドライブフィールがジュニアによく似合う。

 

温度を自動調整するシステムを備えたリチウムイオンバッテリーは約54kWhの容量で、WLTCモードで最大494kmという航続距離を実現しているから、ちょっとした長距離ドライブも問題なくこなせる。ちなみにバッテリーを家庭用の電源として活用できるV2HV2Lには非対応だ。

 

いずれにせよ、まさしく「ドライビングの歓びと日常における実用性を高次元で両立した、アルファ ロメオの新たな時代の幕開けを象徴する1台」とアルファ自身が表現しているとおり。こういうアルファ ロメオを待っていたという人も少なくないことだろう。多くのユーザーを魅了し、大好きにさせる力を持った、魅惑のニューモデルだ。

 

撮影:宮越 孝政

 

アルファ ロメオ ジュニア エレットリカ プレミアム

全長×全幅×全高 4195mm×1780mm×1585mm
ホイールベース 2560mm
車両重量 1580kg
最小回転半径 5.3m
モーター種類 交流同期式
最高出力 115kW(156ps)/4070-7500rpm
最大トルク 270Nm/500-4060rpm
バッテリー種類 リチウムイオン
バッテリー総電圧 375V
バッテリー総電力量 54.06kWh
一充電走行距離 494km(WLTCモード)
電費交流電力量消費率 125Wh/km(WLTCモード)
駆動方式 FWD
サスペンション

前マクファーソンストラット
後トーションビーム

タイヤサイズ 前後215/55R18
税込車両価格 556万円

 

※本記事の内容は公開日時点での情報となります

 

 

この記事の著者
岡本幸一郎
岡本 幸一郎

1968年富山県生まれ。父の仕事の関係で幼少期の70年代前半を過ごした横浜で早くもクルマに目覚める。学習院大学卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作や自動車専門誌の編集に携わったのちフリーランスへ。これまで乗り継いだ愛車は25台。幼い二児の父。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。