
技術革新が加速度的に進む現代、クルマの技術も日々進化の一途をたどっています。そうした中で迎える2050年、クルマの在り方は一体どのような変貌を遂げているのでしょうか。本記事では「ジャパンモビリティショー2025」で示されたビジョンを起点に、その未来像を深掘りします。モータージャーナリストの桃田健史さんがショーのメッセージを読み解き、2050年の未来に待つクルマ像を予測・解説します。
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無限の可能性を秘めたクルマの進化。2050年のクルマ像とは一体
クルマが住宅地の上空を飛び回る。市町村が手配する完全自動運転車で自宅から幼稚園、小学校、中学校、高校まで送り迎え。サブスクが当たり前になって、一般家庭ではクルマを所有することが稀なことに___。
2050年、「あなたとクルマ」はどんな関係になっているでしょうか。とはいっても、今から24年も先のこと。しかも世の中はAI(人工知能)の登場で個人の生活から企業の事業まで大きな転換期を迎えていることもあり、社会の将来を予測することが難しい。
すでに自動車産業界は「100年に一度の大変革期」と言われており、現時点で2050年の姿が見通せないというのも致し方ありません。
通信によるコネクテッド、自動運転技術、シェアリングエコノミー、電動化などの多様な分野がAI(人工知能)技術によって、従来と比べて二桁以上違う開発スピードで技術の最適化と融合が加速している状況です。
そんな「つかみどころのないクルマの未来」の「おぼろげな姿」を感じることができたのが、昨年10〜11月に開催された「ジャパンモビリティショー2025」でした。
ジャパンモビリティショー2025。各メーカーが見つめる未来のクルマ像

主催者は日本の自動車メーカー各社でつくる業界団体の日本自動車工業会(JAMA)。さらに、海外メーカーや自動車部品大手、そしてモビリティ産業に新規参入するスタートアップが一堂に介した日本最大級のクルマのイベントです。
実物を見て、開発者、デザイナー、経営幹部らと直接対話することで「2050年の未来のクルマ」の方向性がなんとなく見えてきたように感じます。
2年前、それまでの東京モーターショーからモビリティショーへと衣替えした際、コンセプトを「みんなで一緒に未来を考える場」としたように、JAMAが掲げたのは「2050年の未来」でした。じつはJAMAは以前から「モビリティビジョン2050」という長期ビジョンを策定し、業界全体で2050年を見据えた取り組みを進めています。
前回2023年の来場者は111万人超えと大盛況だったのですが、「抽象的な表現の展示が多い」とか「もっと実際のクルマに触れたい」という声が一部にあったのも事実でした。
出展者側の自動車メーカーも「2050年の社会情勢」を予測して具体的な形にすることが難しかったというのが本音でしょう。
そんな前回の反省と激変し続けている自動車産業界の現状を踏まえて、今回のショーではターゲットイヤーを「2035年」に見直しています。
未来予測が難しいながら、自動車メーカーにとってもユーザーにとっても、手を伸ばせばなんとか届きそうな「10年先」に向けた提案を試みたのです。
結果的にショー全体が「地に足がついた」印象となり、さらにそこから15年先の2050年に向けた課題や希望が少しずつですが見えてきました。
では、ここから先はジャパンモビリティショー2025での自動車メーカー展示の中から注目ポイントをピックアップし、そこから「2050年のクルマ(モビリティ)」のイメージを膨らませてみたいと思います。
「思想」を軸に切り拓く。ブランド・モデルを飛び越えた、新たなクルマづくり
まずは、販売台数世界一、また国内新車市場シェア約5割(軽自動車は除く)を占めるトヨタから見ていきましょう。注目ポイントは、ブランドやモデルを横断する「思想」です。
東京ビッグサイトの南館に陣取り、トヨタのほか、レクサス、ダイハツ、さらにセンチュリーというトヨタグループ4ブランドを一同に展示しました。出展モデルの中で来場者の人気が高かったのが「ランドクルーザーFJ」。

東南アジアを起点に南米、アフリカなど新興国を主体に展開するグローバル戦略車構想のIMV(イノベーティブ/インターナショナル・マルチパーパス・ビークル)をベースに企画したランドクルーザーのエントリーモデルとなります。
ランドクルーザーには「70」「250」「300」というモデルがありここに「FJ」が加わりますが、これらをトヨタは「群」と定義。
そのほかにも、「クラウン」も「群」であり、セダン・クロスオーバー・スポーツ・エステートという駆動方式やデザインが大きく違う4車系が混在します。
またレクサスでは今回、最上級モデル「LS」が6輪車ミニバンやクロスオーバーSUVのようなコンセプトモデルが登場しており、将来的に「LS群」に発展するかもしれません。
衝撃的だったのは「KAYOIBAKO(カヨイバコ)」。ダイハツの「軽」から「ハイエース」やタクシー向けなどさまざまな車系が登場したのですが、これらはブランドや群にも属さない「思想」だと、トヨタは定義したことに驚きました。

つまり、2050年になると、たとえば従来のように「ハイエース」「タウンエース」「アルファード」といった名称はサブネームとなり、ユーザーのリクエストによって車体×エンジン・モーター×インテリアなどを組み替えるような手法が登場するかもしれない、ということです。これにより、ユーザーのクルマ選びや、日常生活でのクルマの使い方も当然、変わってくると思います。
そう考えると、レクサスブースに展示があった「空飛ぶクルマ」についても、今後着実に技術改良が進めば、トヨタが現時点で想定していないようなターゲットユーザーやサービス内容を踏まえた進化を遂げるかもしれません。
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自動運転の本格導入。運転手のいらないクルマの実現と変わりゆくビジネスモデル

新しいユーザー体験の切り口での注目は、日産の自動運転車です。
運転席に乗員がいない状態で走行する自動運転レベル4として、2027年の社会実装を目指して現在、日産の本拠地である横浜市街地でテスト走行を実施中。

今回の展示車両では、AIを活用した対話型のガイダンスを紹介しており、観光、飲食、そして音楽や映像のエンターテインメントをユーザーそれぞれにパーソナライズ体験として提供する試みです。
また、今回のショーでは日産経営陣とメディアとのラウンドミーティングが開催され、その際に筆者はイヴァン・エスピノーサ社長に直接「従来の新車売切型ビジネス以外のバリューチェーン変革をどう進めるのですか?」と質問しました。
これに対してエスピノーサ社長は「EVに関するエネルギーマネジメント事業を英国で先行して進めているほか、自動運転の公共サービスや車内での新しいビジネスモデルの実現に向けて研究開発を進めています」と、現在進行中の経営再生計画「Re:Nissan」を踏まえた次の成長の種を探していることを明らかにしています。
日産は過去にも、デジタル空間でユーザーの分身となる「アバター」を活用した車内エンタメなどさまざまな技術を検証してきましたが、自動運転技術とAI技術の進化に伴い「2050年の車内」には仕事からレジャーに至るまで新たなるサービスが登場することが期待されます。
自動運転で変革する車内空間。追求の鍵は「ちょうどいいサービス」
ここでのキーポイントはユーザーが「ちょうどいい」と感じる開発の視点でしょう。
実際、筆者は日産に限定せずさまざまなメーカーの技術研究所でAIを活用した新たなる車内サービス実験を見ていますが、なかにはクルマでの活用を考えると「過剰サービスではないか?」と思えるようなケースも見受けられます。
たとえば、完全自動運転になれば、車内がエンタメ空間となり高画質の動画がホームシアターのような雰囲気で見られるという発想があると思いますが、多くのユーザーにとって「本当にそこまで必要か?」という視点が必要でしょう。
2050年に向けて、自動運転の「車内での過ごし方」については今後、メーカー各社が試行錯誤しながら、国や地域の市場性やユーザーの趣向性と、それにかかるユーザーのコストメリットを加味した「ちょうどいいサービス」が登場することを期待したいところです。
変わらず受け継がれていくクルマづくりの歴史
それからもうひとつ、日産で気になるのは「GT-R」「フェアレディZ」「スカイライン」といったスポーティモデルの未来です。
この点についてエスピノーサ社長は「日産のヘリテージ(歴史)でありアイコンだ」として、電動化がさらに進んでも、伝統モデルの未来を追求し続けることを約束してくれました。
2050年になり、電動化、自動化、そして知能化が進んでも、人がクルマを操ることで楽しいという感情は、クルマ作りの本質として受け継がれていくことでしょう。
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環境への配慮も進化する。カーボンニュートラルを押し進める驚きの発想

次に2050年の「クルマ×環境」に焦点をあてます。2015年のCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で採択された「パリ協定」をきっかけに、日本を含めてグローバルで「2050年カーボンニュートラル」が提唱されるようになりました。
カーボンニュートラルとは、人が経済活動で排出するCO2などの温室効果ガスの量を抑制しつつ、森林など自然界でCO2を吸収したり、または人工的にCO2を回収したりすることで地球全体のCO2排出量を実質ゼロにしようという考え方です。
排出量の削減だけじゃない。CO2を回収する新たなアイデア
今回のショーでは、マツダが2035年を念頭に置いた2ドアスポーツカー「ビジョン X-クーペ コンセプト」のCO2回収装置が注目されました。

2ローターのロータリーエンジン搭載のPHEV(プラグインハイブリッド車)で、燃料は微細藻類から抽出したカーボンニュートラルのバイオ燃料を採用し、さらに排気ガスのCO2を走りながら吸収する「モバイル・カーボン・キャプチャー」の合わせワザ。
そもそもカーボンニュートラルの燃料を燃焼して排出されるCO2は、CO2排出量が実質ゼロとみなされますが、それをさらに回収することで、大気中のCO2濃度を実質的に下げる「カーボンネガティブ」という発想です。まさに「走れば走るほどCO2が減っていく」ということです。まずはモータースポーツで実戦採用して量産化を目指すとのことで、2050年にはこうしたシステムが世の中で当たり前になっているかもしれません。
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水素・電気に代わる新しい動力源、バイオ燃料
またバイオ燃料では、スズキがインドですでに社会実装している牛糞を使った手法に注目が集まっています。
スズキのメイン市場であるインドでは貧困の差が大きく、農家から牛糞をスズキが買い取り、バイオ燃料として世の中に循環させることでインド社会を活性化させることが目的です。
このようにCO2排出量の削減に向けては、電動化や水素の活用だけではなくさまざまな手法がすでに動き出しています。
JAMAでは、こうした取り組みを「マルチパスウェイ」と呼んでおり、2050年に向けて国や地域によってクルマの動力源が適正化されていくことでしょう。つまり、日本でも2050年に新車すべてがEVやFCEV(燃料電池車)になっているとは限らないということです。
EVやFCEVの普及については、欧州連合、アメリカ、そして中国がそれぞれ独自の政策を講じていますが、こうした政策が中長期的にどう進むのか現時点で不透明な情勢です。そのうえで重要なことは、クルマを媒介とした、社会全体のエネルギーマネジメント(電気、水素など)の構築になるはずです。
常識の大転換。クルマの購入もワンクリックの時代?

最後に、2050年の「クルマの買い方」について考えてみましょう。今回のショー開催中、中国メーカーのBYDは日本最大級のECモール「楽天市場」に「BYD楽天市場店」をオープン。
ただし、購入手続きのすべてがオンラインで完結するのではなく、商談・契約・納車などは正規ディーラーで行う仕組みです。
それでも、楽天市場で「購入手続き」の申込みを行い、実際に購入すると、「楽天ポイント」がもらえるなど、実質的に車両価格が割引になるのは魅力的です。
続々と広がるクルマ購入スタイルの多様性
新車のオンライン販売では、韓国のヒョンデが日本国内ではオンライン専門で、自社サービスセンターおよび全国の協力店と連携して納車やメンテナンスを行う体制を敷いています。
そのほか、テスラも基本はオンラインで新車購入をするスタイルを採用しています。
思い起こせば、10年前の時点ではスマートフォンの普及が本格化していてもネットショッピングにはまだ抵抗感があった人が少なくありませんでした。ところが、コロナ禍を経てネットショッピングの需要が急速に伸びており、そうしたライフスタイルの変化からクルマをスマートフォンで「ポチッと買う時代」が現実になっているのです。
ただし、過去の経験に基づいて考えると、2050年になっても自動車の新車ディーラーが完全になくなることはないように思います。
2015年頃から中国を中心に新車のオンライン販売が始まり、また欧州メーカーが数年間で各種モデルを乗り換えられるサブスクリプションサービスをネット上で販売するなど、過去10年程でさまざまな試みがあったものの、その多くが存続しないか形を変えています。
クルマを買うことは、ユーザーとディーラーの担当者の「人と人」との関係性が強いことが大きく関係している。この10年の社会変化を振り返って、そう感じます。
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進化の中でも変わらぬもの。クルマと社会、そして私たち

こうして見てきましたように、クルマ(モビリティ)に関して、2050年は2026年現在と比べて「変わること」と「あまり変わらないこと」が混在しているのではないでしょうか。
AIを駆使したクルマの知能化などの最新技術によって、「人とクルマ」や「クルマと社会」との関係性は変わる可能性が高いでしょう。
一方、「人と社会」との関係性はそう簡単に変わらないのではないでしょうか。
人がクルマ(モビリティ)を有意義に使える2050年の未来を、今から楽しみに待ちたいと思います。
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