
SNSや一部メディアでは、電気自動車(EV)は短期間で価値が大きく下落するとの見方もありますが、これは10年以上前の初期EVの性能課題に由来する側面がありました。現在は補助金の大幅拡充や技術進化により、バッテリー耐久性・充電性能・実用性が向上しています。EVの気になる「お金」事情について、残価設定や市場動向を踏まえ、EVリセールバリューの新常識を多角的に検証します。
- EVのリセールバリューは本当に低い? 現状の傾向と理由
- 数年後のEVの資産価値を「残クレ」で予測
- 補助金による「実質購入価格」をベースとした残価率は?
- 【将来予測】リセールバリューを底上げする「ポジティブ要因」
- 納得のいくEV選びのために。トータルコストも考えよう
EVのリセールバリューは本当に低い? 現状の傾向と理由

一般的に、EVのリセールバリューはガソリン車やハイブリッド車(HEV)と比較して低いと言われています。まずは現状の傾向とその理由について説明します。
「電気自動車は値落ちが激しい」は本当? ガソリン車・ハイブリッド車との違いや理由
自動車のリセールバリューは、その技術の成熟度に大きく左右されます。かつて、トヨタの「プリウス」に代表されるハイブリッド車が登場した際も、同様の懸念が語られていました。初期のハイブリッド車は「バッテリーが早期に劣化し、交換費用が高額になるのではないか」「中古車として誰も買わないのではないか」という不安から、リセールバリューが低迷した時期がありました。
しかし、ハイブリッド技術の信頼性が証明され、中古車市場での需要が確立するにつれ、現在ではガソリン車を凌ぐリセールバリューを維持するモデルも珍しくありません。
現在のEV市場は、まさにこのような過渡期にあります。ガソリン車などの場合、中古車価格は、その車種の人気度と年式、走行距離によってほぼ自動的に決まりますが、一方でEVは、年式による技術の成熟度に大きな差があることや、走行距離の多寡だけでは判断できないバッテリーの健康状態(SOH)という残存価値を左右する指標の評価方法がまだ確立されていないことで、どうしても買取価格が低めに設定される傾向にあります。
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日進月歩の技術進化がリセールバリューに与える影響
EVのリセールバリューを語る上で避けて通れないのが、技術進化のスピードです。ここ数年で航続距離が大きく伸び、充電速度が向上し、車載ソフトウェアが進化しています。
たとえば、5年前に登場したEVと現行モデルを比較すると、バッテリー容量が同じでも、電費性能や急速充電の性能に大きな差があり、実用性が大きく改善しています。
電費性能の改善については、車両統合的な熱管理技術が大いに貢献しています。省電力で稼働可能なヒートポンプ式の車載エアコンや、モーターやインバーターが発する熱を、車内やバッテリーの保温に活用する技術、あるいはシートヒーター、ステアリングヒーター、輻射式ヒーターなど体を直接あたためる装備の充実などが挙げられます。
バッテリーの直流電力をモーター用の交流電力に変換するインバーターの高効率化も無視できません。電力を変換するパワー半導体を、シリコン(Si)系からSiC(シリコンカーバイド)に置き換えることにより、電力変換時の熱損失が大きく低減されました。
また急速充電の性能向上については、バッテリーの予熱機能(プレコンディショニング)も欠かせません。急速充電ステーションへの到着前に、バッテリーを理想的な温度(約20~30℃)に保温するもので、これにより、初期のEVで大きな問題になっていた、寒冷時に急速充電性能が大きく低下するという課題を解決するとともに、寒冷時の急速充電によるリチウム析出という回復不能なバッテリー劣化の主因を抑制できるようになりました。
このように技術進化のスピードが速いが故に、逆に中古EVの古さが目立ちリセールバリューが低下するという側面もあるでしょう。
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数年後のEVの資産価値を「残クレ」で予測

このように、EVは現状ではリセールバリューがどうしても低くなる傾向にありますが、残念ながらその度合いが大きすぎて、実際のEVの価値がリセールバリューにきちんと反映されているとは言い難い状況です。
そこで、消費者が最も客観的に将来の価値を予測できる指標として、「残価設定クレジット(残クレ)」(「残価設定ローン」とも呼ばれる)の残価率を調べてみました。残クレとは購入時に3~5年後の下取り想定価格(=残価)をあらかじめ差し引いてローンを組む購入方法のことです。数年後の下取り価格をメーカーやディーラーが事前に保証する仕組みであり、プロによる将来予測の結果とも言えます。なお、ここに記すのはあくまで想定価格であり、下取り保証ではない場合もあるため注意しましょう。また、残価率・残価額はディーラーによって変動する場合もあり、走行距離などの条件もメーカー・車種により異なりますので、あくまでも目安としてご覧ください。
以下は、2026年2月25日時点の情報です。
車種別:残クレの残価率
そこで、各メーカーの主要なEVモデルにおける残価設定クレジットの残価率を調査しました。メーカー自身がリセールバリューをどのように予想しているのかを見てみましょう。
トヨタ「bZ4X G」

2025年のマイナーチェンジで基本性能が大きく向上し、フルモデルチェンジ並みの進化を果たしながら、価格も実質値下げとなり、いまや日本で最も売れるEVとなった「bZ4X」のベースグレードです。ベースグレードではありますが、使い勝手や基本性能を損ねるような簡素化はなく、同格のハイブリッド車と比べてもコスパは非常に高いモデルです。
「残額据置き払い」というプランでは、車両本体価格480万円に対して、5年後の残価が148万8000円と設定されており1)、残価率は31%ということになります。
参考資料
1)トヨタ「見積りシミュレーション」
日産「リーフ B7 X」

3代目へと進化した新型リーフの最大の魅力は、コンパクトなSUVで価格も抑えながら、700kmを超える航続距離を実現したことです。また150kWの急速充電にも対応し、冬場の長距離移動を考えるなら、最初に候補に挙がるモデルでしょう。
「残価設定型クレジット」というプランでは、車両本体価格518万8700円に対し、5年後の残価が186万7000円に設定されており2)、残価率は約36%ということになります。
参考資料
2)日産「日産リーフ 月々のお支払い額(参考)」
スズキ「e ビターラ Z(2WD)」

インドにあるグジャラート工場で生産されるスズキ初のEV「e ビターラ」は、SUVらしい力強いデザインと実用的な航続距離520kmを実現しながら、スズキならではの低コスト技術によって、コストパフォーマンスは中国・韓国勢にも引けを取らない魅力的なモデルです。
スズキ残価設定クレジット「かえるプラン」では、車両本体価格448万8000円に対し、5年後の残価が122万4000円に設定されており3)、残価率は約27%ということになります。
参考資料
3)スズキ「オンライン見積り」
テスラ「モデルY RWD」

世界で最も売れているEV、モデルYは、コードネーム「Juniper(ジュニパー)」と呼ばれるマイナーチェンジモデルを発売しました。年に数回実施されているOTA(無線通信)によるソフトウェアのバージョンアップと、自社充電網スーパーチャージャーによる圧倒的な急速充電性能が魅力です。
2026年3月31日(納車完了)まで実施されている「0%特別金利キャンペーン(最大5年、60回払い)」では、車両本体価格558万7000円に対し、5年後の残価が195万9000円に設定されており4)、残価率は約35%ということになります。
ヒョンデ「インスター Lounge」

全長3.8m強という軽EVに近い取り回しの良いサイズに対し、航続距離は458kmと、軽EVを大きく上回る実用性を実現したコンパクトEVです。遊び心あふれるピクセルデザインと、フルフラットにできるシートアレンジでソロ車中泊もこなすなど、多様な使い方を楽しめるのも魅力です。
「据置型ローン」というプランでは、車両本体価格357万5000円に対し、5年後の残価が89万3000円に設定されており5)、残価率は約25%ということになります
参考資料
5)ヒョンデ「ファイナンスサービス」
ガソリン車・ハイブリッド車とEVの残価率の比較
EVでも車種によって異なりますが、ガソリン車・ハイブリッド車の残価率も抑えておきましょう。
ガソリン車・ハイブリッド車の場合は、5年プランでごく一部の人気車種であれば50~60%の設定になるものもありますが、一般的にはミニバンやSUVといった人気カテゴリで40%前後。それ以外のものは30%前後、といったものが多いです。
ここまで紹介したEVの場合、一覧表にすると以下のようになり、全体的にやや低めの設定であることは否めないでしょう。
〈表〉EVの5年残価率(目安)
| メーカー | 車種 | グレード | 残価率(目安) |
| トヨタ | bZ4X | G | 31% |
| 日産 | リーフ | B7 X | 36% |
| スズキ | e ビターラ | Z(2WD) | 27% |
| テスラ | モデルY | RWD | 35% |
| ヒョンデ | インスター | Lounge | 25% |
現在のEVの査定基準:走行距離よりも「世代」と「航続距離」が評価を分ける
エンジン車の中古車査定において、最も重要な指標のひとつが走行距離です。しかし、EVにおいてその重要度は相対的に低く、代わりに、バッテリーの劣化度と技術進化による世代の違いが重視されるようになります。
EVの主要なパワートレインであるモーターや減速機、アクスルは、エンジンやトランスミッションに比べて構造が単純であり、物理的な接触を伴う摺動部が少ないため、数万km走行した個体であっても劣化は深刻ではない場合が多いです。
また前項で述べたように、EVは技術的なジャンプアップが続いている状況ですので、熱マネジメントやインバーターなどの主要なコンポーネントの更新が、リセールバリューに影響することも予想されます。
たとえばテスラでは、インフォテインメント用車載チップが2021年式以前のインテル社の「Atom」世代と、2022年式以降のAMD社の「Ryzen」世代で、その後のOTAによる機能向上に差があったり、2023年式以降には自動運転システムを「HW4」と呼ばれる世代に更新しており、これ以前のモデルとのリセールバリューに差が出ているようです。
またトヨタ「bZ4X」は、2025年10月のマイナーチェンジでインバーター内蔵のパワー半導体がSiC製のものに更新され、電費改善による航続距離の増加や急速充電性能の大幅な向上を達成しました6)。これも世代によってリセールバリューに差がつく事例になりそうです。
補助金による「実質購入価格」をベースとした残価率は?

ここまでEVの新車価格(車両本体価格)に対するリセールバリューについて考察してきました。しかし、現在のEV購入では国や自治体からの補助金を活用することはほぼ必須と言える状況です。
そのため、国や自治体からの補助金を差し引いた“実質的な負担額”に対するリセールバリューを考えてみましょう。
この表は、主要なEVモデルの2025年度の補助金の額と、残価設定クレジットにおける設定残価・残価率などをまとめたものです。
〈表〉国・自治体補助金を加味したEV主要モデルの実質負担額と5年残価率(目安)

たとえば「bZ4X G」の設定残価(想定される下取り額)は、5年後に148万8000円なので、車両本体価格に対する残価率は31%ですが、国の補助金(CEV補助金)を考慮すると、残価率は約43%になります。さらに東京都在住であればZEV補助金がありますので、残価率は約50%になるのです。
もちろん、残価設定クレジットの残価率と、実際の中古車下取り額が常に一致するわけではありませんが、メーカーが設定した残存価値ですので、ある程度の妥当性はあると考えられます。とすると、このようなリセールバリューは、十分に購入を検討できる水準であると言えるのではないでしょうか。
【将来予測】リセールバリューを底上げする「ポジティブ要因」

今後、EVのリセールバリューが底上げされていくためには、車両性能の向上だけでなく、評価と流通の仕組みが欠かせません。バッテリー状態の可視化や専用査定基準の整備、流通の拡大が進んでおり、中古EV市場はより透明で合理的な市場へと変わりつつあります。
バッテリー状態(SOH)の可視化:技術の向上が中古市場に透明性をもたらす
EVの中古車査定において最も重要な評価基準のひとつが、駆動用バッテリーの劣化、すなわちSOH(State of Health)の低下度合いです。しかしながら、バッテリーの劣化は、これまで車載コンピューターのバッテリー状態の表示でしか判断できず、その数値はSOHでいうと何%なのか、劣化度合いの測定方法は標準的なのか、また他の個体と比較してどの程度良い/悪いのか、ということを判断する客観的な基準が未整備であることが課題でした。
そこで、全メーカーの車種を一定の基準で測定・診断する第三者機関による診断サービスや、OBD2(自己診断機能)ポートやフラッシュ充電による車両側のフィードバックを利用した高精度な診断ツールが登場しています。
たとえば、世界的な第三者認証機関であるドイツのTÜV Rheinland(テュフ ラインランド)が提供するバッテリー診断証明書は、その車両のSOHを客観的に証明するものとして中古車査定に利用することを想定したものです7)。
また、日産は中古EVのバッテリー状態を確認し、販売車両のバッテリー健全度(SOH)をメーカーとして公式に証明する「日産バッテリー状態証明書」のトライアル運用を開始することを2026年2月に発表しています8)。
このように、エンジン車の走行距離に代わるSOH診断証明書がEV中古車取引の標準となれば、客観的な基準がないために正当な査定ができず、相場を全体的に押し下げてしまっている現在の中古EV市場が健全化に向かうことが期待されます。
参考資料
7)TÜV Rheinland「Battery Quick Check: Clarity concerning BEV battery condition」
8)日産「中古電気自動車向け「日産バッテリー状態証明書」のトライアル運用を開始」
中古EV専用の査定基準の確立と流通の拡大
EVの中古車査定は、これまでの保守的(≒慎重)な査定によるリセールバリューの低下から、データに基づく合理的な査定が可能な体制へと変化しつつあります。
前述のとおり、ガソリン車やハイブリッド車では走行距離が査定の大きな要素であったところ、EVにおいてはSOHが重要な要素になっており、客観性を担保した査定の仕組みも広がりつつあります。
また、EV中古車の流通体制も広がってきています。自動車流通大手のオートバックスでは、EV中古車を専門に取扱う会社「バックスeモビリティ」を立ち上げ、より健全な中古車流通に乗り出しています9)。
それに加え、EV中古車のバッテリーを二次利用する取り組みも徐々に広がりつつあります。EVとしての役割を終えたバッテリーを、セルまたはモジュール単位に分解・仕分けし、定置型蓄電池などとしてリユースする取り組みはすでに始まっており、太陽光発電用の蓄電池や、工場の非常用電源として再利用されています10)。
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納得のいくEV選びのために。トータルコストも考えよう

ここまでご紹介してきたとおり、EVのリセールバリューは、補助金が増額されたこともあり、一概に低いとは言えない状況になりつつあります。また、車を所有するには、本体価格だけでなく、ランニングコストも決して無視はできません。
ガソリン代と自宅での充電(電気)代を比較すると、燃費15km/Lのガソリン車であれば、1kmあたりのガソリン代は約10円。電費6km/kWhのEVであれば、1kmあたりの電気代は約5円です。もちろん諸条件によって変動しますが、EVはおおむね半分のコストで走行できることになります。
※ ガソリン価格は1Lあたり155円、電気代は1kWhあたり31円(自宅充電)と仮定
また、メンテナンス費用も、EVは構造がシンプルな分、オイルなどのエンジン関連の費用が発生するエンジン車と比べて必要経費は低めになります。
このようにトータルコストを考慮すれば、EVは同クラスのガソリン車やハイブリッド車よりもコスパが良い可能性も十分ありえます。次に車を買い替える際には、ぜひEVも候補に挙げてみてください。調べてみると意外にも有力候補になるかもしれません。
※本記事の内容は公開日時点での情報となります