いま、日本の電気自動車(EV)市場でユニークなベンチャーとして注目を浴びている企業があります。それが、1人乗りの超小型EVを開発するKGモーターズです。これからのEVの未来のカタチを予感させるプロダクトと同社の理念、そして彼らが考えるモビリティの未来について、代表取締役CEOの楠一成さんに伺いました。
- KGモーターズの根底にある理念
- 超小型EVがこれからの日本に必要な理由
- EVと小型モビリティの相性のよさ
- 自動運転×超小型EVで実現する「持続可能な移動」
- 「mibot」という名前に込められた想い
- KGモーターズが思い描く、モビリティの未来
- 1人乗りEVがこれから越えるべきハードル
KGモーターズの根底にある理念
広島県東広島市にあるKGモーターズは、元々「くっすんガレージ」として人気を誇るYouTubeチャンネルでした。日々発信を続けてきた彼らは、2021年から自分たちでゼロから開発を宣言し、ついに2024年8月23日に1人乗りの小型モビリティロボット「mibot(ミボット)」の予約販売を開始。その新規性やストーリー性、考え方に、業界だけでなく一般ユーザーからも大きな注目を浴びています。
【今回の取材でお話を聞いた方】
楠一成さん(KGモーターズ 代表取締役CEO)
元々、車のパーツなどのアフターマーケット用の企画・開発をする会社を経営。その後、YouTubeチャンネルを開設し、人気チャンネルへと成長させる。2021年から小型モビリティの開発を宣言し、現在ではさまざまな分野のスペシャリストを集めて、事業を拡大。2025年から小型モビリティロボット「mibot」を量産予定。
▶KGモーターズ ウェブサイト
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EV DAYS編集部「mibotの予約受付がついに始まりましたが、プロダクトだけでなく、KGモーターズさんは企業のビジョンもユニークです。改めて、企業理念について教えてもらえますか?」
楠さん「僕たちはビジョンとして『今日より明日が良くなる未来を創る』という言葉を掲げていますが、それには原体験があります。僕はKGモーターズをやる前(YouTuberとしての活動前)に、自分で会社を起こしていました。自動車部品の企画をして、海外の工場でつくって、国内で販売するということをやっていたんです。いまからもう15年以上前なんですけど、初めて仕事で海外(台湾)に行ったときにものすごくショックを受けたんです」
楠さん「それは何かというと、当時経済力では日本の方が圧倒的に豊かにもかかわらず、若者の活気やオーラみたいなのが全然違うなと思ったんですよ。彼らのほうが未来に希望を持っているからこういう雰囲気が出るんだろうなと感じたんですよね。
それはどうにかしたいなとはずっと思っていましたし、そういった社会につながる仕事をしたいなと思っていました。自分は乗り物が好きでずっと仕事をしてきたので、自分に何ができるんだろうなと考えていました」
超小型EVがこれからの日本に必要な理由
楠さん「それを突き詰めて行ったときに、今後、日本の人口が減っていろんな問題が起こるとき、“移動”という点にすごく課題が出てくるだろうなと考えたんです」
EV DAYS編集部「そこから、KGモーターズさんが掲げている、『持続可能な移動』という考え方が出てくるんですね」
楠さん「(僕らがいる東広島の周辺は)本当に不便なんですよ。バスも一応あるんですけど、ほとんど機能しないので、高齢の方でも車で移動せざるを得ないんです。調べていくと、こういう過疎地域だけじゃなくて、10万人・20万人いるような地方の中堅都市でも、じつは公共交通はほぼ死にかけている。それはドライバー不足などともいわれていますけど、そもそも乗る人が減っているから、維持できなくなることは明確に見えています。
そういったなかで自分たちの超小型EVが、解決策のひとつになり得るんじゃないかなと思っているんです」
EV DAYS編集部「私も地方出身なので、とてもよくわかります。それに街乗りする場合、軽自動車でも大きすぎるということもありますね」
楠さん「まさにそうなんです。結局、『公共交通が死ぬ』ということは、ある意味、車社会が加速するということ。だから、軽自動車でもオーバースペックだと感じる人に対して選択肢をひとつ増やすということがポイントになるかなと思います。もうひとつ、免許の返納の問題も出てくる。そこは我々のモビリティで自動運転ができるようになると、持続可能な移動というものができると考えています」
EV DAYS編集部「では、開発のきっかけはEVではなく、過疎化の問題意識などがあったわけですね」
楠さん「そうです。ガソリン車かEVかは関係なく、もっと小さな乗り物があったほうがいいというのは、元々考えていたことです。僕は(広島県)呉市出身なのですが、道がとても狭くて、坂も多いんですよ。だからそもそも小さな乗り物がほしい、もっとあったほうがいいと思っていました」
EV DAYS編集部「なるほど」
楠さん「あとは、やっぱり普通車と軽自動車、小型モビリティを比較すると維持費が違いますよね。いままでの車を選ぶときの感覚は、『最大値で買う』というのが当たり前でした。年に2回だけおばあちゃんを乗せるために7人乗りを買うとか、年に1回の遠出のために何百kmも走る航続距離の乗り物を買うというのは、果たしてどうなの? という時代になってきていると思っているんですよ。
レンタカーやカーシェアリングもかなり普及していますし、普段1人でしか乗らないんだったら、小型モビリティを選んだほうが明らかに効率がいいですよね」
EVと小型モビリティの相性のよさ
EV DAYS編集部「ちなみに、小型モビリティをEVにした理由は?」
楠さん「これも効率の問題があります。現状、EVはバッテリーが重く、車両全体の重量に占める割合が大きくなっています。その重いバッテリーを運ぶのにまた大きなエネルギー(電気)を使うというのは矛盾を生んでいるなと思っていました。それに、多くの人は1日数十kmしか乗っていないので、普段乗りとEVは相性がいいんですよね」
EV DAYS編集部「軽EVが支持され、売れているのと同じですね」
楠さん「そうですね。我々が手掛けているのは、厳密な定義だと、原付ミニカー規格ですが、本当の意味でいろんな方に乗ってもらうためには、ある程度の快適性としっかりした安全性が必要だと思っています。快適性だと、雨に濡れないための屋根やドア、そしてエアコンが要りますが、さらに安全性を持たせようと思ったら結構難しい。普通車の4分の1くらいの重さですけど、相対的に重くなってきます。
そうすると、乗り物として成立させるためにトルクが必要です。それが50ccの内燃機関だと難しい。とくに坂道での発進時には大きなトルクが必要なので、ゼロ回転から最大トルクが発揮できる電動のモーターというのは非常に相性がいいんです」
EV DAYS編集部「小さくてもトルクを獲得するためには、モーターが最適だったということですね」
楠さん「あと小さいと相対的には航続距離は減る方向になりますよね。そうなったときに、そもそもガソリンスタンドも減っているので、燃料補給が大変になります。広島と島根との県境まで行くと、ガソリンを入れるのに30分走らないといけないとかザラにありますし」
EV DAYS編集部「けれど、EVなら自宅で補給できるというわけですね」
楠さん「そうです。家でできるというのは非常に大きいかなと思います。mibotは家庭用コンセントでも充電できるようにしています」
自動運転×超小型EVで実現する「持続可能な移動」
EV DAYS編集部「自動運転は2027年頃からサービス提供されると伺いましたが、どのような状況でしょうか?」
楠さん「すでに取り組みは始めています。ただ、現在『自動運転が地域の公共交通を救う』という論調がありますが、僕はあれで本当に持続可能なものができるのかなと疑っているんですよ。もちろん一部は解決しますが、ドライバー不足の問題は解決したとして、乗車率は絶対に上がらないんですよ」
EV DAYS編集部「そうですね。そもそも乗る人が減少していくのですから」
楠さん「そうなると、大きな箱(車)をほぼ人が乗っていないのに巡回させ続けるのってナンセンスだと思うんです。僕たちは『使う人がいないときは動かさない』という発想ですね。使いたい人を迎えに行って目的地まで送り届けられれば、維持費が抑えられるので、持続できるという考え方です」
EV DAYS編集部「ということは、(mibotに関しても)最終的には個人所有ではなく、地域で共有するようなシステムをイメージされていますか?」
楠さん「そういうことです。もちろんそこには既存の公共交通との接続だったり、もう少し大きな自動運転の乗り物との接続だったり。自宅から接続地点へのラストワンマイルと、そのもう少し先をひっくるめた選択肢を考えています」
EV DAYS編集部「なるほど、具体的にどのように実現していくのでしょうか? 完全自動化は技術的にもかなり難しいと聞きます」
楠さん「たとえば、(制限がない状態で)完全自動運転をやろうと思ったら、高速道路も一般道路もありとあらゆるシチュエーションを考えないといけない。要は高精度マップも全部必要なんです。でも、僕らの超小型EVの場合、乗ってもせいぜい半径30km以内ですし、ここしか行かないっていうルートを限定すればいいだけです。さまざまなシチュエーションを考えるとしても、範囲をグッと圧縮できるっていうのは、相当やりやすいんです」
EV DAYS編集部「いわゆるトヨタのウーブンシティのようなことを実際の環境で実現するということですね」
楠さん「いまでも高速道路や渋滞時にはいわゆる自動運転が活用できています。それは、状況を限定させているからなんです。それが自分たちの場合は、本当の“どローカル”なところに限定することで実現していくイメージですね」
「mibot」という名前に込められた想い
EV DAYS編集部「社会課題とプロダクトとしての最適化を熟慮された結果であることがよくわかりました。一方で、ミッションのひとつとして『楽しく快適でワクワクする移動体験』という点もかなり大事にされているのではないかと思います。mibotのネーミングにも反映されていると感じたのですが、どうでしょうか?」
楠さん「それはもちろんあります。mibotは『ミニマムなモビリティロボット』の略称なんですけど、もともと自分は“ただのモビリティをつくるっていうのを超えていきたい”っていう思いがあるんです。『ほとんどの人がモビリティロボットってなんだよ』って思っていると思うんですが(笑)」
EV DAYS編集部「確かに(笑)。不思議に感じるかもしれません」
楠さん「将来的には自動運転を含んだ構想もしていて、ロボタクシーなどの『ロボット』という意味を含んでいますし、なによりも“ただの移動手段としての乗り物を超えていきたい”と思っています」
EV DAYS編集部「というと?」
楠さん「本当に“相棒”になってもらうことを目指しているんです。なので、『ロボット』という言葉は最初から考えていたことですね。いまEVに対する主流のイメージは『EVってかっこいい近未来の乗り物だよ』ということだと思うんですよ。そうじゃなくて、もっと懐かしさとか愛着とか相棒に感じられるようなデザインや方向性を一本通しています」
EV DAYS編集部「なるほど、納得です。ロボットアニメを思わせるコックピットなど、細部にわたってのこだわりがプロダクトに現れていますよね」
EV DAYS編集部「実際に見た方からはどのような声がありますか?」
楠さん「車にそれほど興味ない人たちも結構反応してくれています。特に女性ですね。やっぱりワクワクするっていう話を一番いただきます。その先まで話を聞いてもらえると、維持費がかからないところに魅力を感じてくれたりしますが、やっぱり一発目はもう絶対的にルックスです」
EV DAYS編集部「かわいいですからね」
楠さん「あといままで、車は大きいから乗ってこなかったっていう人たちからの評価も一定数あるんですよ。たとえばペーパードライバーで運転に自信がないんですっていう人もいるし、Z世代とかも。あとは頑張ったら軽自動車に乗れるけど、もういらないと言っている人たちの中には、『これだったら、乗りたい』と言ってくれる人もわりといます」
KGモーターズが思い描く、モビリティの未来
EV DAYS編集部「超小型EVが受け入れられた社会では、どんな暮らしが実現されるでしょうか。将来のイメージを教えてください」
楠さん「そうですね、あくまで自分たちがやろうとしていることは選択肢を増やすことです。超小型EVがすべてを解決できるなんて思っていないんですよ。あくまでいろんな乗り物があって、既存の4人乗りとか5人乗りとか8人乗りとか、バスとか電車も含めたいろんな交通の移動の手段があるなかで、欠けているピースを自分たちが埋めていくということです」
EV DAYS編集部「欠けているピースをはめていくのは、都市部ではなく、地方がメインになりますか?」
楠さん「日本の中で全部を一緒に考えるのはなかなか難しいです。首都圏の山手線の中のエリアと、郊外では全然違いますよね。ただ、いろいろ違うんですけど、たとえば東京でも世田谷とか道が狭いところもありますし、車を持ちたいけど、持てない人たちの選択肢にはなり得るかなと思います。あと都内でも隅田区あたりでは公共バスが減っているという話も聞いたりします。なので日本全国どこでも可能性があるのかなと思っています」
1人乗りEVがこれから越えるべきハードル
EV DAYS編集部「小型モビリティとEVの相性の良さについて、業界の方は以前から感じられている気がするんですけど、なぜ他社は踏み込まなかったと思いますか?」
楠さん「結局ですね、1人乗りの車は本当に売れた試しがないんです。それを自分たちは超えようとしていて、なぜ超えられなかったのかをずっと調べています。ただ、大手メーカーだと難しい部分があるのもわかってきたので、スタートアップがやることにものすごく意味があると思っています」
EV DAYS編集部「逆に大手が本腰を入れてきたら、どうしますか? 競合として脅威になるのでは?」
楠さん「投資家の方にも『これトヨタさんが本気で作ってきたらどうするの?』って言われるんですけど、そもそもモビリティを一社が独占することなんて不可能だと思うんですよ。それにやっぱり市場全体を大きくしようと思ったら一社では不可能です。なので、自分たちのことを見て、『これ儲かるぞ』とバンバン参入してくるくらいやらないといけない。そして、他社が参入してきたときに負けないようなプロダクトでないといけないし、ブランドでないといけないなっていうのは思っています」
EV DAYS編集部「まずは市場を大きくするということですね」
楠さん「日本も自動車という規格が広まったときって、マツダは三輪を作っていたし、ホンダは二輪しかつくっていなかった。でも、みんな車をつくり始めたわけじゃないですか。あのとき、トヨタしかつくってなかったら、いまの日本の自動車工業って絶対発展してないと思うんですよ。そういうイメージですね」
EV DAYS編集部「これから販売が始まるわけですが、成功するトリガーはどんなところにあるでしょうか?」
楠さん「結局、ほとんどの人が『1人乗りのモビリティなんて一部の人しか買わないんだろう』と思っているところがミソだと思います。だからこそ、『待てよ』という状況をつくっていかないといけないんですよ。これが広まり始めて、雪だるまみたいに広まっていけたらと思ってるんです」
EV DAYS編集部「そういった状況をつくるにはどうしたら?」
楠さん「自分たちは、広告費をバンバンかけていくつもりはないんです。だから基本的には自分たちのメディアを通じてとか、今回のようにメディアで取材していただいたりとかして広めていくということ。それとやっぱり一番は、世の中でmibotが走っていて、『アレ何?』っていう状況をつくるのが、一番の宣伝になると思っています。『毎日アイツとすれ違うんだ』とか『毎日同じ道で会うんだ』ってなってくると、ちょっと自分もいいかなと思って、調べる人も増えると思います。そんなふうに広まるようにしたいですね」
EV DAYS編集部「販売開始を控え、ますます忙しくなると思いますが、これからの展開も楽しみにしています。本日はありがとうございました」
■「mibot」スペック
車両規格 |
ミニカー(第一種原動機付自転車) |
ボディサイズ |
全長2490mm×全幅1130mm×全高1465mm |
航続距離 |
100km(30km/h定地走行テスト値) |
バッテリー総電力量 |
7.68kWh(実効電力量は5kWh強) |
バッテリーの種類 |
リン酸鉄リチウムイオン(LFP)バッテリー |
充電時間 |
5時間(AC100V) |
最高速度 |
60km/h |
乗車定員 |
1名 |
駆動方式 |
RWD |
車検 |
なし |
車庫証明 |
不要 |
価格(税込) |
100万円 |
※開発時点での値となり、量産モデルでの仕様変更の可能性があります
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