【EVの弱点検証】真夏のロングドライブ1600kmで3つの噂を調べてみた!

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EVは「夏だと充電されにくい…」「高速走行だと電費が悪い…」などと言われることがあります。はたして、真夏の環境下でEVの性能はどの程度発揮できるのでしょうか。EV DAYS編集部は1600km超の長距離ドライブを実施。記録的な暑さの中で検証してきました。

 

 

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真夏のドライブで検証するのは「高速走行・充電・クーラー」

ロングドライブで検証したのは、EVが苦手とする、あるいは弱みだと言われる3点です。

 

【検証項目】

①EVは高速走行だと電費が悪化しやすい、はホント?

②暑いと、EVは充電されにくくなる、はホント?

③クーラーの稼働でEVの電費は悪くなる、はホント?

 

どれも当然のことのように語られることがあるのですが、実際にはどうなのでしょうか?

 

相棒は進化した「アリア B9」

アリア B9

 

ロングドライブの相棒は日産「アリア」。EV DAYSでは2年前にもロングドライブ企画を行なったのですが、そのときと同じ車種を選択しました。

 

 

ただし、前回はバッテリー容量66kWhの「アリア B6」だったのに対して、今回は「アリア B9」。バッテリー容量は91kWhと、国産EVの中でもっとも大容量です。また、アリアは急速充電の最大受入能力が130kWあるため、150kW充電器の恩恵を受けることもできます。なお、車両スペックは以下のとおりです。

 

〈表〉アリアB9のスペック

車両 日産「アリア B9 e-4ORCE プレミア」
バッテリー容量

91kWh

航続距離

560km

電費(WLTCモード

187Wh/km(5.35km/kWh)
(参考)高速道路モード:196Wh/km(5.10km/kWh)

急速充電 最大受入能力

130kW

普通充電 最大受入能力

6kW

※km/kWh表示は、EV DAYS編集部がカタログ表示より算出

 

バッテリー容量が大きく(重量が重く)、e-4ORCE(4WD)のため、現行のEV車の中では電費はそこまでよくありません(日産サクラは120Wh/km、日産リーフは155〜161Wh/km)。しかし、水冷式のリチウムイオンバッテリークーラーが搭載されており、高温になりやすい真夏のバッテリーの温度変化には十分対応してくれそうです。

また、全行程を通じて走行中の条件を合わせるため、ドライブモードなどは以下のように定めました。

 

〈表〉走行時の条件

ドライブモード ECO
e-Pedal Step

ON

高速道路の巡航速度

100km/h(速度の検証および法定速度がこれ以下の区間は除く。基本はACCのプロパイロット2.0を利用)

車内空調設定

27℃(AUTO)

乗車人数

3名

 

なお、今回は【東京-広島間】の往復でおもに高速道路を走行するルート。2024年7月下旬、東名高速の東京インターチェンジ付近からスタートして、猛暑の日本列島を2泊3日で辿ります(ちなみに2日目は取材を2件行いました。その様子は、別記事でご紹介します)。

 

ロングドライブマップ

 

それでは早速、それぞれの検証結果を見ていきましょう。

 

【注】今回のロングドライブに関して、走行距離・電費などの詳細情報は記事下にまとめています。ご覧になりたい方はコチラよりご確認ください。

 

検証1「速度によって、電費はどれだけ変わるのか?」

 車両後ろ姿

今回のドライブは、東京インターチェンジからほぼ高速道路での移動となりました。

 

走行距離1600kmでのトータル電費は?


まず1つ目の検証は、高速走行についてです。EVはかねがねガソリン車と比較して、高速走行での電費(燃費)が悪いと言われてきました。

モーター駆動の仕組み上、高回転を維持する高速走行は、エンジン車より不利と考えられているからです。では、高速道路をメインとしたドライブの場合には、どれほどの電費になるのでしょうか?

 

車両インパネ

 

こちらは3日間、1638.4kmを走破し終えたときのドライブメーターですが、全行程を通しての電費は5.4km/kWhとなりました。「アリア B9」のカタログ値の高速道路モードの電費は5.1km/kWhですから、何とカタログ値を若干上回りました。ガソリン車でカタログ値を上回ることはなかなかないと思いますので、EVならではといえるでしょう。

 

80km/h走行と120km/h走行、どのくらい電費は違う?

車両横姿

 

では、走行速度を変化させたとき、電費はどれほど変わるのでしょうか。EVが高速走行が苦手とするなら、速度を上げたとき、極端に電費が悪くなるかもしれません。

高速道路で走行する可能性の高い「80km/h」と「120km/h」で電費比較を行なってみました。

 

■80km/h巡航の場合

0km/h巡航の場合の電費の表

 

■120km/h巡航の場合

120km/h巡航の場合の電費の表

 

80km/hでは、電費は6.0〜7.5km/kWhという結果。一方、120km/hの電費は4.3〜4.9km/kWhです。

特に80km/h巡航で往復の電費差が出ているのは、道路の高低差の問題です。茨木千提寺PA-淡河PA間は、往路では上り坂が多く、復路では逆に下り坂が多い区間でした。

これらを勘案して、平均を取ると80km/hは6.8km/kWh、120km/hは4.6km/kWh程度が電費の基準といえるでしょう。

今回の全行程の電費と比較してみると、以下のとおりになりました。

 

〈表〉走行速度による電費比較(アリア B9の場合)

走行速度による電費比較表(アリア B9の場合)

 

これを見ると、高速走行において80km/h巡航では平均から21%の電費の改善、120km/h巡航だと17%の電費の悪化が起こりました。

ちなみに、ガソリン車の場合は平均車速が70km/hのときが最も燃費がよくなるとされており1)、それ以上速度を上げると燃費は悪くなります。また、各種自動車メディアなども検証を行なっていますが、100km/hを基準とすると、80km/hだと約10〜20%の燃費改善、120km/hだと約10〜30%の燃費悪化があるようです。

もちろん、車種によって差はあるでしょうが、殊更に「ガソリン車と比較して、高速だとEVは極端に電費が悪くなる」とは言い切れないのではないでしょうか。

 

 

 

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検証2「真夏は、どれだけ充電されにくいのか?」

車両を充電する様子

 

続いて、「暑さによる充電のされにくさ」についてです。

ロングドライブを行った3日間はどれほど暑かったかといえば、連日35℃を超える日ばかり。地域によっては40℃を記録するような、格好の検証日和でした(取材班は暑すぎてグッタリしましたが…汗)。

では、充電はされにくかったのかといえば、ほぼそのような事象は確認できませんでした。充電回数は合計7回(急速充電5回、普通充電2回)。以下、充電状況の全データです(データが細かいため、画像を拡大してご覧ください)。

 

充電状況のデータ表

※1 2回目の充電(おかわり充電)時は次の利用者が来たらすぐに充電を終了して交替できるよう準備して待機
※2 1台で使用時は最大150kW、2台同時充電時にはそれぞれ最大90kWの出力となります

 

急速充電・普通充電ともに充電器の充電能力をほぼフルで発揮してくれています。

中でも注目したいのは、最終日の2回目の急速充電です。駿河湾沼津SAの150kW器の急速充電器を利用したのですが、53kWh(12%→70%)の充電に成功しました。150kW器の場合、最初の15分間はブーストモードでMAXの出力ですが、その後は充電ケーブルを保護するために出力が低減します。そのため、30分間で50kWh以上を記録するのはかなりいい状態といえます。

ちなみに、このときの気温は33℃。3日間の中では比較的過ごしやすい気候とはいえ、30℃は優に超える環境でした。

 

車両を充電する様子

 

そのため、この検証の結果としては、記録的なレベルの酷暑でも充電量が目減りしなかったところをみると、「アリア B9」に関しては「暑さによる充電されにくいという事実はなかった」といえるでしょう。

もちろん、これはバッテリー冷却システムが備わっているということが大前提になりますが、これからEVを検討する方は、暑さによる充電されにくさをあまり気にする必要はなさそうです。

 

 

検証3「クーラーの稼働で、電費はどれだけ変わるのか?」

車内クーラー操作パネル

 

そして3つ目、最後の検証です。じつは今回の検証の中で、最も考察が難しいものでした。

というのも、常に車内設定温度を27℃にして走行したものの、走行する時間帯によって外気温との差が0〜11℃と大きく、クーラーのON/OFFでの電費比較が上手くできなかったのです(同一条件での比較が困難…)。また、外気温が上がったからといって、顕著に電費が悪くなるという現象も明確には確認できませんでした。

しかし、クーラーの稼働とバッテリー残量(SOC)が連動していると考えられそうな事象が1つありました。それは、炎天下に駐車した後の走行時のSOCの減りが極端に早かったということです。

たとえば、1日目に新東名高速道路の湾岸長島SAから出発したときのことです。

 

車両を充電する様子

1時間ほどパーキングエリアに駐車。カンカン照りの中だったため、戻ったときには車内はサウナ状態でした。

 

湾岸長島SAでは後続の充電待ち車両がいないことを確認した上で、2回目の急速充電を実施。その結果、SOC96%まで入るということが起こりました。

その後、SAを出発したわけですが、SOCがみるみる低下。次のSAに着くまでの走行距離135kmでSOCが35%も減り、航続距離表示は475km→285kmとなりました。つまり、190km走行できたはずにもかかわらず、実際には135kmしか走行できなかったのです。記録されていた区間電費は5.0km/kWhなので、極端に悪くありませんが、そのほかにバッテリーを消費した事柄が起こったと考えられます。

ここで考えられる要因は2つありました。1つはクーラーの稼働、そしてもう1つはバッテリークーラーの稼働です。

乗車直後、クーラーは車内を設定温度まで下げるべく高負荷で稼働した上、走行中の外気温も38℃を超えており、その後もクーラーは常に強めにかかっていました。設定温度は27℃ですから、車内温度と外気温の差を埋めるため、急速に冷やす際の電力消費が激しかったのでしょう。また、2回の急速充電と外気温、そして高速走行によってバッテリーの温度は高くなったと想像されます。そのため、リチウムイオンバッテリークーラーが稼働したと思われます2)

つまり、炎天下で長時間の充電を行ったあとに高速走行をすると、2つのクーラー稼働によって通常以上のSOCの減りが引き起こされた可能性があると考えられます

クーラーについては、基本的にはガソリン車も同様ですが、バッテリークーラーも同時に作動するほどの環境になると、さらにSOCが減るため、注意を払っておいたほうがよいでしょう。

 

 

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オマケ検証「渋滞によって、電費はどれだけ変わるのか?」

車内に座る人の足元

渋滞時にもプロパイロット2.0を作動してハンズオフ運転を行いました。足も疲れず、やはり楽チンでした

 

ついでに、オマケとして渋滞にハマったときの電費も計測してみました。その結果は以下のとおりです。

 

渋滞時の電費の表

 

いずれも4.6km/kWh、4.4km/kWhという微妙な数値。120km/h走行のときと同程度の電費です。EVはストップ&ゴーの多い渋滞に強いと言われますが、多少電費は悪くなりました。

ちなみに、全行程が終わってから、筆者が自宅に向かって車を走らせているときに最大の渋滞に遭遇するという事態に見舞われました…。このときは都内が豪雨で通行止めなどが多発したタイミングで、停車時間が長い渋滞に2時間ほどかかり、その際の電費は3.5km/kWhでした。

 

夏のドライブでは、航続距離の目減り、巡航速度+路面の高低差に注意しよう

前から見た車両

 

今回は酷暑の中でのドライブでしたが、前回と同様、車の不調や不満は特にありませんでした。

「アリア B9」という大容量バッテリーかつ最新鋭の機能を備えたEVだったことも大いにあると思いますが、逆にいうと最新のEVに搭載されている技術水準の場合、酷暑であろうが気になるほどの性能への影響はないといえるでしょう。

ただし、前述の検証以外に、航続距離や区間電費を確認しながら長距離を走行して改めてわかったことがいくつかありましたので、列挙してみましょう。

 

①電費はほぼカタログ値に収まる

②一方で、SOC100%でも航続可能距離が500km(カタログ値の89%)にしかならない

③走行速度・高低差で電費は顕著に変化する

 

①についてですが、一般的にガソリン車では「実燃費はカタログ燃費の6~7割程度」と言われ、カタログ値を上回ることは少ないでしょう。しかし、今回の計測ではカタログ値を超えることもしばしばありました。前回のロングドライブ企画でも「アリア B6」は電費7.0km/kWhを記録しています(カタログ値では6.0km/kWh)。あくまでも「アリア」においてですが、かなりカタログ値に忠実な(もしくは上回る)数値が出ており、優秀と言えるでしょう。

一方、②についてですが、もともと「アリア B9」の航続距離(カタログ値)は560kmです。しかし、SOC100%にしたときのドライブメーターでの航続可能距離は500kmで60kmの差があったのです(カタログ値の89%)

通常、ドライブメーターは“それまでの走行実績”を学習して航続可能距離を算出します。言い換えれば、ここ最近暑い中で運転した実績を踏まえると、航続可能距離が目減りしてしまう状態にあったと推測できます。

EVだけに限らずガソリン車の場合も同様ですが、季節によってドライブ時にはSOC100%(ガソリン満タン)での航続距離の値はチェックしたほうがいいでしょう。

そして、③についてですが、走行速度・高低差による電費の落差はかなり顕著に現れると感じました。走行速度の検証で示したとおり、高速走行を行えば確実に電費は悪化しますし、より顕著なのは上り坂・下り坂の影響です。

下り坂の場合、高速走行だったとしても、回生ブレーキの効果もあり電費が10km/kWhになることもザラですし、逆に上り坂の場合には3km/kWh台にもなります。ドライブ先でどのくらいのアップダウンがある道路なのかを確認してからお出かけすると、余計な心配をせずに道中を楽しむことができるでしょう。

 

【付録】東京〜広島2泊3日:走行距離&充電記録

最後に、3日間のデータをまとめてご提示します。朝から晩まで走り続けではありましたが、プロパイロット2.0も助けとなって、EV特有の快調な走りは気持ちいい限りでした。

また、前回と比較して、高出力の急速充電器が増えていることも印象的。まだ多いとは言えませんが、150kW器が増えていますし、複数台設置する充電スポットも多くなっています。遠出をしたいEVユーザーにとっていい環境が整ってきていることを肌で感じました。みなさんも一度EVでロングドライブに出掛けてみてはいかがでしょうか?

 

東京〜広島のドライブ全行程

 

※本記事の内容は公開日時点での情報となります

 

この記事の著者
EV DAYS編集部
EV DAYS編集部