【電気自動車の将来予測まとめ】世界の市場規模、技術の進歩はどう進む?

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電気自動車の普及に向けて、世界各国は動き出していますが、2023年現在、それぞれの国や地域の事情によって大きな差が出てきています。電気自動車は今後どのように普及が進むのか、そして消費者側のメリット、デメリットにはどのようなものがあるのか、紹介していきます。

 

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2023年のEV普及の現在地【日本・世界】

 

日本市場におけるEV普及率

日本の高速道路

画像:iStock.com/bee32

 

まず、EVがどれくらい普及しているのかを日本市場から見ていきましょう。

2023年1月から9月までのEVの販売台数は7万296台(軽含む)1、2)となりました。同期間の新車販売台数(軽含む)は301万2626台でしたので、EV比率としては2.33%という結果です。

注目したいのは、このEV販売台数7万296台のうち、軽自動車のEVが3万6821台、普通車のEVが3万3475台となり、軽EVが過半数を超えたことです。

2022年6月に発売された日産サクラ、三菱eKクロス EVの販売が好調で、2023年はこの2車種の販売台数が合計で3万5099台に達しています。つまり、同年における日本のEV販売の半分がサクラ、eKクロス EVということになります。

一方、普通車のEVについては目立った車種はなく、1月に発売されて話題になった中国BYDのATTO3も、8月までの受注は約700台ですから、本格的に販売が立ち上がるのはもう少し先になりそうです。

 

 

普通車カテゴリではPHEVのほうが売れている

では参考までにPHEVの販売状況も見ていきましょう。PHEVの2023年1〜9月の累計販売台数は3万9697台でした。軽自動車にPHEVのモデルは存在しないので、これらはすべて普通車のPHEVの台数となります。

同時期の普通車EVの販売台数は3万3475台ですので、普通車においてはEVよりもPHEVのほうが売れているということになります。

参考までに、EV・PHEV・FCEVを合計した台数を、全販売台数と比較してみると、全体の乗用車販売台数(軽自動車含む)に対して3.66%の販売比率となりました。

〈図〉2023年1-9月 動力別乗用車販売割合(軽自動車除く)

販売割合

 

世界最大の中国市場におけるEV普及率

中国

画像:iStock.com/Mr. Socrates

 

続いて中国市場を見ていきましょう。中国は現在、世界最大の自動車市場であり、昨年2022年の販売台数は2686万4000台3)に達しています。

これは、中国に次ぐ規模のアメリカ市場が1390万3429台(2022年)4)、EU市場が925万7208台(2022年)5)ですので、これらの市場と比べても、2倍近い規模になる巨大市場です。

このような巨大な中国市場において、EVやPHEVの販売が全体の2割以上を占めているというのが特徴です。

中国では、EV・PHEV・FCEVをまとめて新エネルギー車(NEV)と呼んでカテゴライズしており、昨年2022年はNEVの販売台数が688万7000台となり、NEV比率は新車販売の25.6%に達しました。また、NEVのうちEVは536万5000台になり、EV比率は約20.0%ということになります。

そして2023年はNEVの販売がさらに伸びており、1~7月までの累計は452万6000台6)となっています。これは、同期間の自動車販売台数1562万6000台に対して約29.0%と、継続して伸びていることがわかります。

 

 

アメリカのEV普及率は地域差が大きい

アメリカ

画像:iStock.com/sanfel

 

では、中国の次に規模の大きいアメリカ市場を見ていきましょう。

2023年のEV販売台数は、6月までの上半期で55万6707台7)となり、対前年比47%増と急激な伸びを示しています。

これは、バイデン政権のインフレ抑制法(IRA)による最大7500ドル(約110万円)の税額控除に加えて、カリフォルニア州ではさらに7500ドルの補助金制度が用意され、合計最大1万5000ドル(約225万円)もの実質値引きが実施されているという、世界で最も手厚いEV販売支援策も背景にあります。

2023年上半期の全体の新車販売台数は771万6321台8)で、EV比率は約7.2%となりました。中国に比べるとかなり低い数値に感じますが、アメリカでは地域ごとにEV比率が大きく違う傾向があります。

アメリカ中西部ではまだ数%台の州も目立つ一方、カリフォルニア州では今年第二四半期のZEV (EV・PHEV・FCEV)販売比率が25.4%にも達しています9)。このようなカリフォルニアの動向が、今後のアメリカ市場の動向を示唆しているという声もあります。

 

 

環境意識の高いEUだが、EV普及の伸びは鈍化

EU

画像:iStock.com/Tramino

 

環境意識が高いと言われているEU市場はどうでしょうか。

2023年上半期のEV販売台数は、70万3586台10)となり、対前年比53.8%と非常に大きな伸びを示しました。ただしこれは、新車販売全体がEUで大きく伸びているためであり、EV比率の伸びは小さなものでした。

2023年上半期におけるEV比率は12.9%、2022年のEV比率は12.1%ですので、わずか0.8%の伸びということになります。

2022年から2023年にかけて、EU諸国ではEV購入補助金が絞られるケースが多く、その影響もあってEV比率の伸びが鈍っているという指摘もあります。

 

 

2023年現在、日本のEV普及率の低さが目立つ結果に

ここまで長くなりましたが、世界各地における2023年のEV普及状況をまとめると、以下のようになります。

 

・日本では、EVの販売比率は2.33%とごくわずか

・世界最大の自動車市場である中国においては、EV比率は約20.0%に達する

・アメリカにおいては約7.2%、EUにおいては約12.9%に達している

 

マーケティングの定説のひとつに「キャズム理論」というものがあります。細かい説明はここでは省きますが、ある製品の市場シェアが16%を超えると、非使用者は「自分も購入したい!」と思うようになり、普及が加速するというものです。

この理論にあてはめると、中国は完全にキャズムを越えて普及フェーズに入っており、EUは、キャズムを越えるまでもう少し。アメリカと日本はまだこれからという段階ですが、アメリカは地域によっては普及が加速していると言えそうです。

 

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EV普及の将来予測

 

EV普及に強く影響を及ぼす各国の政策とは

世界図

画像:iStock.com/NiroDesign

 

EVの今後の販売動向を予想するとき、これまでのEV普及がそうであったように、各国・各地域の政策が強く影響を及ぼします。ここで主要地域の電動化目標のスケジュールをもう一度おさらいしておきましょう。

〈表〉各国の電動化目標11)

電動化目標

※EVは航続距離が150マイル(約241km)以上かつ急速充電が可能なものに限る。また、PHEVはEV走行距離が50マイル(約80km)以上かつ販売割合はZEV全体の20%以下とする。

 

 

カリフォルニア州の規制はメーカーへの影響が大きい

総じて、2030年から2035年にかけてエンジン車の販売を大きく規制する目標が設定されていますが、なかでも各国の自動車メーカーに大きな影響を及ぼすと思われるのが、カリフォルニア州が定めるZEⅤ規制(ゼロ・エミッション・ビークル規制)の「ACCII(アドバンスド・クリーン・カーズII)」と呼ばれる新たな規制です。

なぜ北米の一州でしかないカリフォルニア州の規制がそこまで大きな影響があるのかというと、カリフォルニア州のZEV規制を準拠・踏襲する州が13州あり、それらの州で全米の販売台数の4割ほどを占めるからです。

しかも「ACCII」は2026年、あと3年で発効します。あと3年でEV・PHEVの販売比率を35%にしなければならず12)、これを超えた分については1台あたり最大2万ドル(約300万円)の罰金(!)が発生するという、特に北米を主戦場とするメーカーにとっては生死を分けるほどの厳しいルールとなっています。

トヨタが2026年に次世代EVの発売を予告し、年間販売台数を150万台まで伸ばすことを宣言しています13)が、これは「ACC2」を念頭に置いたロードマップでしょう。

 

 

変動要因は多いが、2030-35年でEV普及は進む

また、このようなロードマップだけでなく、ここ数年で各市場の保護主義的な政策が急に台頭しはじめており、これによる影響も避けられません。

中国市場は長年、輸入車に高い関税を課してきたほか、外国資本による現地生産を認めない政策や、EVのバッテリーを中国企業製のものに限定するホワイトリスト政策など、保護主義的な政策を続けてきました。

それに呼応してか否か、アメリカやEUが、インフレの抑制やLCA(ライフサイクルアセスメント)という大義名分のもと、保護主義的な政策を打ち出すという構図になってしまっています。

そのほかにも、バッテリーの原料となる鉱物資源の調達競争や、バッテリーそのものの技術革新、急速充電インフラの整備など、EV市場の成長に影響を与える要因はさまざまなものがあります。

このように、変動要因が多く予想が困難なEVの普及ですが、冒頭に示したとおり、各国の政策に応じて、2030年から35年にかけてエンジン車およびハイブリッド車(HEV)を大幅に減らしていくという方向性に変わりはなく、大筋ではそのシナリオに沿って進んでいくものと思われます。

 

日本では2030年に向け、EVが普及しやすい環境が整っていく

日産

画像提供:日産自動車

 

一方、日本でのEV普及の今後はどうなっていくでしょうか。

冒頭で言及したとおり、日本市場では軽EVが成功し、EV市場の過半数を占めているため、他のメーカーもこの軽EV市場に参入することを明言しています。

まず2023年度中にスズキ・ダイハツ・トヨタから商用の軽EVバンが発売予定14)となっており、2024年春には、ホンダからも軽EVのN-VAN e: 15)が発売される予定です。

どちらの商用軽EVも、航続距離200km前後、価格は補助金込みで200万円(国の2023年度の軽EV補助金は55万円)に近い価格になると予想します。

普通車においても、トヨタが2026年のEV販売目標を150万台にするという意欲的な計画を発表している16)ほか、日産は2030年までに19車種のEVを投入する計画を発表17)。ホンダは2030年までに先進国でEV・FCEV比率40%、2040年にグローバルでEV・FCEV比率100%にする計画を発表18)しており、日本市場でもEVのニューモデルが登場してくることになりそうです。

また、気になる中国メーカーの日本参入についてですが、民営系大手メーカーBYDは、ATTO3・DOLPHINを日本ですでに発売し、SEALも2024年春頃に発売する予定です19)。そのほか、国営系大手メーカーの北京汽車は、日本の自動運転アプリケーション開発会社Turing(チューリング)と提携し、北京汽車傘下のEVブランドArcfoxのモデルに、Turingの自動運転アプリケーションを搭載した車両を2024年に日本で販売する計画を発表しました20)

これらの中国メーカーが日本市場でどの程度のシェアを取るのかについてですが、日本の自動車市場は輸入車の比率がもともと低く、例年5〜6%程度といったこともあり、これらのメーカーが急激に販売台数を増やすといったことは考えにくいです。

ただし、自家用車という形ではなく、商用バンとして複数台まとめて運送会社が導入するという事例はすでに始まっていますし、今後はレンタカーやカーシェア用の車両として、中国の安価なコンパクトEVが導入されるといった事例も見られるでしょう。

また、日本政府の目先の目標として、2030年にEV・PHEVシェア20〜30%というものがあります。

2023年1~9月の累計では3.65%しかありませんので、あと7年足らずで大幅に増やす必要があります。そのため政府は、購入時の補助金だけでなく、メーカー側にもバッテリー工場建設の際の資金援助制度をスタートさせるなど、7年後の目標達成に向けて、今後も様々な施策が打ち出されるのは間違いなく、EV・PHEVを買いやすい状況になっていくものと思われます。

 

 

 

将来のEV市場におけるキーワードのひとつは「PHEV」

EV車

 

これまで政策主導で動いてきた世界のEV普及ですが、今後、どのようなプロセスを経てEV市場が確立されていくのでしょうか。

EV市場の今後を考える事例として、中国で起きている動向を見ていきたいと思います。中国では、EVは新車販売の2割・500万台を超え、EVの多さからくる課題やその対応策が数多くみられます。いわば中国はEV課題先進国ですので、参考とする次第です。

その中国で起きている最新の事象として、PHEVのシェア拡大があります。

これには大きく2つの背景があります。ひとつめは充電渋滞の問題です。EVの台数が急激に増えた中国では、旧正月や国慶節などの連休があるたびに、充電渋滞が各地で発生し、移動よりも充電待ちの方が長かった、などという笑えないエピソードが各地で発生しているようです。

ふたつめは、現状のままではメーカー側が、EVで利益を上げにくいことがわかってきたということです。世界中のメーカーがEV製造に乗り出していますが、直近の決算では、多くのメーカーがEV部門の赤字に苦しんでいる状況が明らかになりました。

EV専業で利益を挙げているテスラは、モデル数の少なさや、EVに最適化した開発・調達・生産の事業アセットが効果を発揮していますが、他のメーカーは真似しにくいところでしょう。

新エネルギー車メーカーとして世界トップの中国BYDは、増収増益を継続していますが、同社の販売はEVとPHEVがおよそ半々となっており、2022年はEVが91万台、PHEVが95万台でした。PHEVの収益がBYDを支えているとも言われています。

このような状況を鑑み、これまで開発リソースを絞っていたPHEVに対して、再び注力するメーカーも増えてきました。トヨタは、EV走行距離200kmを達成するPHEVを予告していますし、マツダは発電専用のロータリーエンジンを搭載したPHEVを発表しています。

 

 

大型商用車の電動化はFCEVが有力か

大型車

画像:iStock.com/MasaoTaira

 

自動車のカーボンニュートラルに向けては、商用車の電動化も重要なテーマのひとつです。

商用車とひとくちに言っても、大型の長距離トラックから配送用の小型バンまで、さまざまな形がありますが、求められる性能要件に応じて、市場のコンセンサスが固まってきた印象があります。

まず、幹線輸送を担う長距離トラックはFCEVを有力視する声が増えてきました。重い荷物を積んで長距離を走るためには、膨大なエネルギーが必要ですが、これをバッテリーEVで走らせるためには、大きて重い、そして高価なバッテリーが必要ですし、途中で充電しようとすればかなりの時間がかかってしまうからです。

FCEVであれば、バッテリーよりも軽量でエネルギー密度が高く、水素充填も数分で終えることができます。

一方で、2t前後またはそれ以下の小型商用車や、走行ルートが決まっている路線バスなどについては、EVが有力視されています。走行距離が短い場合が多く、バッテリーも必要十分な容量で済むので、EVのデメリットが目立ちにくいからです。

スズキ・ダイハツ・トヨタが参画する商用車合弁会社のCJPTも、そのような小型商用車のバッテリーEV化を目的に結成されました。

商用車の電動化は、企業としてCO2のサプライチェーン排出量に関する指標が定められており、取引時や融資の判断材料として、指標の達成を求められるケースもあるので、自家用車よりも前倒しで進む可能性もあります。

 

EVの最新技術動向

ここまではEV普及全般に関するトピックを紹介してきましたが、EVのテクノロジーの進化も普及には欠かせないひとつの要素です。EVの心臓部であるバッテリーと自動運転にフォーカスを当てて紹介します。

 

バッテリーの最新トレンド「4C」とは

充電

画像:iStock.com/Just_Super

 

EVの性能のカギを握るリチウムイオンバッテリーは、2009年に三菱自動車が世界で初めて量産車に搭載して以来、まだ15年足らずの歴史しかありません。

そのため、技術的な革新の余地もまだまだ多く、さらなるブレークスルーによる革新的な性能向上の可能性は十分にあります。

現在、リチウムイオンバッテリーで注目されている3つの技術、4C・バイポーラ・全固体電池を紹介しましょう。

「4C」とは、1/4時間=15分で完全充電が可能なバッテリーのことです。2023年8月に世界最大の車載バッテリーメーカーである中国CATLが、4Cで超急速充電が可能なリン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池「神行超充電池」を発表しました21)。CATLは、10分の充電で400km分の充電が可能だと謳っています。

航続距離が短いEVですが、充電が早ければそのデメリットが軽減されるため、世界中のメーカーが充電速度の向上に取り組んでいます。CATLはこの技術でも先行していることを証明しました。

次に「バイポーラ」です。これはバッテリー内部の構造を示す言葉で、エネルギー密度が大きく向上する技術として注目されています。2023年6月にトヨタが発表して話題になりました22)

もともとトヨタは、リチウムイオン電池の前の世代にあたるニッケル水素電池でこのバイポーラ構造を実現しており、HEVのアクアなどに搭載していますが、今回の発表は、リチウムイオン電池にもこの構造を採用するというものでした。

バッテリーセルの構成部品を大きく削減し、セル間の電気抵抗を低減する技術で、効率向上と体積・重量の削減が可能となります。これまで生産が難しいと言われてきましたが、トヨタはニッケル水素で実績のある豊田自動織機と共同で開発を進め、2026〜27年の市販を目指すと公表しています。

そして「全固体電池」については、以前から夢の技術として注目されており、この言葉をご存知の方も多いでしょう。各メーカーが研究開発を進めており、トヨタは2027〜28年22)、日産は2028年度23)、ホンダは2020年代後半24)に実用化を目指すとしています。

これらの新しい技術が今後の主流になるかどうかは、コストを既存製品並みに抑えられるかどうかにかかっています。CATLの4Cバッテリーは、2023年度中に市販車に搭載され、発売される予定ですので、コストを含めた実用性がすでに確立していることになりますが、バイポーラや全固体電池のコストを含めた実用性は未知数です。

そして、3年後の2026年まで、既存のリチウムイオンバッテリーもさらに進化します。そのときにバイポーラや全固体電池が勝てるのかどうか。バッテリーの開発競争に世界中が注目しています。

 

 

 

自動運転の現在地

自動運転

画像:iStock.com/gorodenkoff

 

多くの電力を消費する高度な自動運転はEVと相性がよく、いずれも次世代の自動車に欠かせない技術として、共に進化の段階にあります。ここでは自動運転の最新動向について紹介します。

自家用車の自動運転は、現在レベル2と呼ばれる運転支援の段階です。速度調整や車線変更を車両側がアシストしながら、人間が運転するというものです。ホンダのレジェンド(販売終了)やメルセデス・ベンツのSクラスおよびEQSはレベル3を達成していますが、世界的に見てもごく一部の高級車に限定されています。

そんななか、世界のメーカーが次のターゲットとして開発を進めているのが、高速道路の自動運転です。高速道路のIC入口から、合流・車線変更・分岐などをこなし、出口のICまで、人間の操作なしに走行が可能というものです。

日産「プロパイロット 2.0」25)やトヨタ「アドバンスト ドライブ」26)、GM「ウルトラクルーズ」27)、中国の小鵬(シャオペン)「City NGP(Navigation Guided Pilot)」28)、テスラ「FSD(Full Self Driving)」29)など、高速道路の自動運転に限りなく近づいたソリューションも登場しており、今後の進化に期待できそうです。

また、自動運転といえば最近話題になるのが“ロボットタクシー”です。完全無人の自動運転タクシーのことで、アメリカの一部都市では、グーグル系の自動運転サービス企業「ウェイモ」と、GM系の「クルーズ」が公道での営業サービスを展開しており30)、一般の利用者もアプリで呼び出せば、完全無人で走行するタクシーに乗ることができるようになっています。

レベル2から3へと進化しようとしている自家用車とは違い、ロボットタクシーの場合はレベル4の自動運転で走っているという違いがあります。レベル4とは、限定領域において人間が運転に一切関与する必要がなく、無人で走行することが可能なレベルです。

これは、走行する地域を限定したり、低速走行に限定したりすることで技術的な難易度を低くし、実現に漕ぎつけています。

同様のサービスが中国の北京・上海や深圳などでも始まっているほか、我が国においても、ホンダがGMとクルーズとの合弁による自動運転タクシーサービスを2026年初頭に東京都心部で開始予定という発表がありました31)。完全自動運転のロボットタクシーは、自家用車の自動運転よりも先に、私たちも利用できるようになるかもしれません。

 

 

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EVとエネルギーに関する将来予測

 

充電しながらお金がもらえる「デマンドレスポンス」

充電

画像:iStock.com/metamorworks

 

EVはCO2削減だけでなく、電力インフラと協調して効率的な電力利用に貢献するデマンドレスポンスへの対応が期待されています。

デマンドレスポンスを簡単に説明すると、電力が足りないときには充電をストップし、電力が余っているときには充電をする、という仕組みのことです。

EVは軽自動車でも20kWh、普通車であれば60kWh前後のバッテリーを搭載しており、これは家庭用蓄電池の数倍~数十倍もの容量になるため、デマンドレスポンスでの電力需給への貢献も大きいと期待されているのです32)

EVがデマンドレスポンスに対応し、電力利用に貢献するためには、普通充電器の高度化と、EVユーザーへのベネフィットの還元が必要です。

家庭用充電器として、コンセントタイプを利用している家庭が日本ではよく見られますが、デマンドレスポンスに対応するために、遠隔で充電のON/OFFを切り替えることができる充電器が必要です。

また、デマンドレスポンスによって電力供給の安定に貢献したユーザーに対しては、金銭的なメリットを還元する仕組みも必要になるでしょう。

このような取り組みが先行しているイギリスでは、遠隔で充電のコントロールができる充電器の設置が義務付けられており、またデマンドレスポンスに対応した場合のインセンティブも提供されています。

再生可能エネルギーの比率が高いイギリスでは、天候・風況によって電力が余る日があります。そのタイミングで電力をEVで吸い上げたユーザーに対して、マイナスの電気料金、つまり充電と同時にお金をもらうことができる、というサービスも登場しています。現地のEVオーナーは、ゲーム感覚でデマンドレスポンスを楽しんでいるとのことです33)

日本ではまだ再生可能エネルギーの比率は低いのですが、それでも電力が余る日は多くなってきていますし、今後、再生可能エネルギーの割合が高くなるのと同時に、調整電源である火力発電の比率が下がってしまうと、電力の安定供給の難易度がさらに高くなるおそれがあります。

日本でも、イギリスのようなユーザーにもメリットのある仕組みが普及し、EVで社会貢献するとともに、楽しみながら電気代を節約&お小遣い稼ぎができるようになれば、EVの新たな訴求ポイントとして普及の後押しになるのではと考えます。

 

 

EVの将来予測は難しいが、さまざまな可能性があるのは間違いない

ここまで紹介してきたように、EVと政治は切っても切れない関係で、今後の普及予測は困難です。しかし、消費者の目線から見ると、電動車ならではの運転の楽しさや、充電を上手に節約しながら楽しんだり、テスラやBYDなどの新顔の登場もあり、興味を惹かれる点もいろいろあります。機会があればEVに試乗したり、事情が許すなら、みずからEVを所有して、これから成長するEV市場の波に乗るのもいいかもしれません。

 

この記事の著者
佐藤 耕一
佐藤 耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT業界に転じて自動車メーカー向けビジネス開発に従事。2017年ライターとして独立。自動車メディアとIT業界での経験を活かし、CASE領域・EV関連動向を中心に取材・動画制作・レポート/コンサル活動を行う。日本自動車ジャーナリスト協会会員。