電気自動車(EV)は燃費(電費)が良い?確認方法や走行距離をチェック

EVの燃費

車の購入を検討するときに「燃費」のチェックは欠かせません。それは、電気自動車(EV)の場合も同じでしょう。この記事では、EVにおける燃費は「電費」と称することがあります。ここではその電費について、そして、電費を良くする方法などを解説します。

※この記事は2023年6月20日に公開した内容をアップデートしています。

 

 

この記事の監修者

森本 雅之

森本 雅之

元東海大学教授。工学博士。電気学会フェロー。モーターやパワエレが専門。現在は、社会人教育を中心にコンサルタントとして活動している。 著書に『電気自動車 電気とモーターで動く「クルマ」のしくみ』(森北出版)、『パワエレ図鑑』(オーム社)など。

 

注:本記事で「EV」と表現する場合、「BEV(Battery Electric Vehicle)」を意味しています。ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)や燃料電池自動車(FCEV)とは区別しています。

 

 

EV充電設備

 

電気自動車(EV)の電費とは?

 

まずは、エンジン車の「燃費」をおさらい

ガソリンスタンド

画像:iStock.com/bee32

 

エンジン車の場合、「1Lの燃料で何km走ることができるのか」を示したものを「燃費」と言います。カタログなどには「20km/L」などと記載されていて、この数字が大きいほど走るのに使う燃料が少ない「燃費のいい車」ということになります。

もちろん、これは定められた走行パターンにおける数値(モード燃費)であり、実際にはこの数値どおりの距離を走行できるとは限りませんが、車を購入する際のひとつの目安となります。

〈表〉エンジン車の燃費とは

f:id:tsukamoto_harumari:20210423182156j:plain


車を運転される方であれば、自分が乗っている車の実際の燃費を計算される場合も多いのではないでしょうか。

 

EVにおける電費とは?

電気自動車の充電メーター

画像:iStock.com/Stadtratte

 

では、エンジン車における「燃費」をEVに当てはめるとどうなるのでしょうか。

まずは、EVの燃料となる電気の大きさや量を示す単位について確認していきましょう。

電化製品などの機器を動かすときに消費される電気の大きさ(電力)は「W(ワット)」で表します。一方、1時間に使う電気の量、すなわち「電力量」は、「電気の大きさ(W)×時間(h)」で表し、単位は「Wh(ワットアワー)」となります。

たとえば、消費電力が60Wの電球を1時間(hour)つけっぱなしにした場合の電力量は「60W×1h=60Wh」となります。1000Whの場合、1000を意味するkを使い「1kWh(キロワットアワー)」と表します。

〈図〉「W」と「Wh」の違い

〈図〉「W」と「Wh」の違い

 

以上を踏まえてEVの“電費”を考えてみましょう。

エンジン車の“燃料”のように「1Whで何km走るのか(km/Wh)」と示してもよいかもしれませんが、カタログには国のルールに則り「1km走るのにどれだけの電力量が必要か(Wh/km)」が「電費」として掲載されています(詳しくは後述)。

〈表〉EVの電費とは

〈表〉EVの電費とは

 

今の電費表示の見方は「数字が小さいほど良い」

ところで、ヨーロッパなどでは主にエンジン車の燃費を「L/100km」、つまり「100km走るのに何Lの燃料が必要か」という表示方法を用いています。これは日本で燃費を表す際に使われている「1Lの燃料で何km走ることができるのか」とは逆で、「数字が小さいほど燃費がいい」ということです。

現在、EVのカタログには「交流電力量消費率」が記載されています。これは、「1km走るのにどれだけの電力量が必要か」という数値です。一般的に「EVの電費の数値」とされることが多いため、本記事でもこの「交流電力量消費率」を、EVの“電費”として進めていきましょう。

この「交流電力消費率」は、たとえば日産リーフ(バッテリー容量40kWhモデル)なら「155Wh/km」(WLTCモード)です。ヨーロッパの燃費の考え方と同じように、数字が小さいほど少ない電気の量で走れるということになります。

 

※WLTCモードとは、「世界統一試験サイクル」といわれる国際的な燃費の試験方法。

 

【コラム】電費には表現方法がもう1つある

上記のとおり、EVカタログにおける電費は「Wh/km」(交流電力消費率)で表示されています

しかし、エンジン車の燃費表示に慣れている人を意識して、EVのインストルメントパネルの表示などでは、「1kWhの電力量で何km走ることができるのか」(km/kWh)で表現するケースが多く見られます。

たとえば、日産リーフ(バッテリー容量40kWhモデル)の場合、交流電力量消費率は155Wh/kmですが、これを計算し直すと、6.45km/kWh(1km÷0.155kWh)と表現することができます。

つまり、1kWhの電力量で6.45km走ることができるという意味になります。

〈図〉「km/kWh」での電費表記

EV電費


 

エンジン車の燃費と同じような表現方法ですので、「km/kWh」を用いた場合、数字が大きいほど走るのに使う電力量が少ない「電費のいい車」ということになります。

 

EV充電設備

 

EVの燃費(電費)の計算式

 

電費の計算式

電卓と手

画像:iStock.com/Xesai

 

エンジン車でもそうですが、カタログに掲載されている燃費(電費)と実際に走ったときの燃費(電費)には、どうしても差が生まれてしまいます。

実際に走ったときのEVの電費を計測したい場合、「どれだけ走ったか」「どれだけ充電したかという2つの数字がわかれば、電費を計算することができます。方法は次のとおりです。

まずバッテリーを満充電します。その後、走行してから、再び満充電します。このときに「走行した距離」と「2回目に充電した電力量」を確認できれば、下記の計算式で実際の電費を割り出せます。エンジン車でいうところの満タン法です。

〈図〉EVの電費の計算式

〈図〉EVの電費の計算式

たとえば、60kmを走行した後、満充電までに6kWh(6000Wh)が必要だったならば、計算式は下記のようになります。

〈図〉簡易計算のイメージ

6000÷60=100
電費=100Wh/km

 

つまり、この車の場合、1km走るのに100Whを使用した=電費「100Wh/km」ということになります。

 

【コラム】もっと簡単に電費を計測・確認する方法はない?

上記のように、実際に走行距離と電力量を計測すれば、電費は測定可能ですが、この方法を行うにはそれなりの時間や手間が必要です。

もっと簡単に電費を計測・確認したいという方は、EVのインストルメントパネルを確認してみましょう。エンジン車と同様に、EVも平均電費などの車両情報を表示してくれる機能がついています。

なお、リーフやアリアのように平均電費を任意にリセットして、特定の走行区間の平均電費を計ることができる車種もあります。たとえば、アリアであれば、下記のような表示がされます。

メーター

アリアのインストルメントパネル。ドライブ状況により数値は変化するが、この画像の場合、設定された区間の平均電費が5.8km/kWhと表示されている。

 

エンジン車との比較

ガソリンと充電

画像:iStock.com/Max Lirnyk

 

燃費や電費を知ると、車を走らせるときにどのくらいのお金がかかるのかを計算することができます。

では、エンジン車とEVで、走るためにどれだけお金が必要になるのでしょうか。ケースを分けながら、とあるエンジン車Aと同じようなスペックのEVで比べてみましょう。

 

エンジン車Aの燃費(0.07L/km、ガソリン代165円/Lと仮定)
1kmあたり0.07×165円=11.55円

 

EVの電費(交流電力量消費率155Wh/km、自宅充電の電気代31円/kWhと仮定)
1kmあたり155Wh×0.031円=4.805円

※エンジン車(1.8L・CVT車)の燃費、14.6km/L(WLTCモード)をL/kmに変換すると、約0.07L/km。ガソリン代を1Lあたり165円、電気代を1kWhあたり31円(1Whあたり0.031円)として計算。
※なお、電気代は電力量料金のみの金額です。基本料金・燃料費調整額・再生可能エネルギー発電促進賦課金は加味していません。

この例でいえば、走行距離1kmあたりのガソリン代(電気代)はEVのほうが安く、半額以下になります。

 

 

EVの車種別・電費比較

先ほど、バッテリー容量40kWhの日産リーフの「電費」を紹介しましたが、他のEVではどうでしょうか。カタログに掲載されている数値から、一例を挙げてみます(すべてWLTCモード)。

〈表〉EVの車種別・電費

車種 電費
日産 サクラ X

124Wh/km

(8.1km/kWh)
日産 リーフ X(40kWh)

155Wh/km

(6.5km/kWh)
日産 リーフ e+ X(60kWh)

161Wh/km

(6.2km/kWh)
ホンダ Honda e Advance

138Wh/km

(7.2km/kWh)
マツダ MX-30 EV MODEL EV

145Wh/km

(6.9km/kWh)
メルセデス・ベンツ EQC 400 4MATIC

236Wh/km

(4.2km/kWh)
アウディ Q8 50 e-tron quattro S line

236Wh/km

(4.2km/kWh)
プジョー e-2008 GT

149Wh/km

(6.7km/kWh)

※上記はあくまでもカタログ上の「交流電力量消費率」(WLTCモード)の数値であり、実際の走行した場合の数値とは異なります(車種スペックが確認できる一覧ページはこちら)。※小数第2位を四捨五入


電費の数字は、車種によって大きく異なります。一般的に、エンジン車と同じく、パワーがあり、大きく重い車ほど、電費は悪くなる傾向があります。

 

 

EV充電設備

 

EVの電費の平均は?

現在販売されているEVの電費をまとめたところ、下記のようになりました。

〈図〉電費とバッテリー容量の関係

グラフ

 

車種によって電費はまちまちではありますが、傾向としては3つに分けられます。軽EVは120Wh/km台、一般的なEVは140〜160Wh/km、バッテリー容量が大きい高級EVは180Wh/km以上となっています。

車種選びのひとつの基準として電費を考えるときには、これらの数字を基準に考えてみてはいかがでしょうか。

 

季節や走り方によって電費は変化する

雪の中充電をする電気自動車(EV)

画像:iStock.com/Sjo

 

エアコン、特に暖房は電気を多く消費する

EVの電費は、利用環境や利用方法によっても変化します。特に電費に大きく影響するのが「エアコン」の使用状況です。EVのエアコンはバッテリーに貯めた電気を使っているので、いくらエアコン自体が高効率であるといっても、使用すればするほど、走るための電気が減ることになるからです。

特に「暖房」は、電気の消費量が大きくなりがちです。エンジン車の場合、大きな熱源(エンジン)があり、その熱を使って空気を温めるので特に大きなエネルギーは使いません。しかしEVの場合は電気を使って温めるしか方法がないため、電気の消費量が増えてしまいます。ちなみに、シートヒーターも同様です。

 

急加速や急ブレーキなど、運転の仕方にも注意

次にエンジン車同様、「速度を上げる」「上り坂を登る」「急加速や急ブレーキ」「重量の増加」といったことは電費を悪くします。

「速度を上げる」ためにはモーターに電気をたくさん供給しなければなりません。「上り坂」も同様です。 「急加速」はモーターに大量の電気を急激に送るわけですから、やはり大量の電気を消費します。EVでは、走行中の運動エネルギーを電気に変換する「回生」という仕組みを利用するため、減速は電費を良くする働きをします。一方、急なブレーキは回生によるエネルギーの回収効率が悪いのです。このように「急加速・急ブレーキ」を繰り返せば、ゆっくり加減速する運転よりも電費を悪くすることにつながります。

また、「重量の増加」、たとえば1人で乗るより4人で乗る場合や、荷物をたくさん積んだ場合、重量が増えますから、その分モーターは多くの電気を消費しますので同様に電費は悪くなります。

 

 

電費を良くするためにできること

充電をする電気自動車(EV)

画像:iStock.com/joel-t

 

 〈表〉電費をよくするためにできること

エアコン 適切な車内温度への設定
走り方 速度を上げすぎない
急加速・急ブレーキを避ける
重量 不要なものはなるべく車内に置かない

 

「電気代を節約」するという面でいえば、充電の仕方でも工夫できます。家で充電する場合は電気料金が時間帯により変動するプランを使い、安い時間帯に充電するようにすると電気代を節約できます。

また、卒FIT(FIT制度による固定価格買取期間の満了)やこれから新規に太陽光発電を導入する場合は、電力会社から買うよりも安いコストで電気を使うことができることがあります。たとえば、太陽光発電で作られた電気の売電価格が電力会社から買う金額と比較して安くなるケースも増えてきており、自宅の自家消費を含めて太陽光発電に注目してみるのも良いでしょう。

また、外出先の充電設備を利用する場合は、多くの車メーカーがおトクな充電プランを用意しており、そうしたサービスを積極的に利用するという手もあります。

 

 

EVなら、東京〜大阪間を2000〜3500円の電気代で移動できる

EVの特徴は、何といっても充電した電気だけで走ることです。これまで説明してきたような電費を良くする走り方を実践することで、本稿であげた電費の車なら東京〜大阪間の約500kmを約2000〜3500円の電気代で走ることも可能です。さらに、EVの電費はこれからもっと改良されていくはずです。

また現在、スマートフォンのワイヤレス充電のように、EVを特別な車庫に駐車するだけでワイヤレス充電できたり、さらには高速道路の走行中にワイヤレス充電する研究も進んでいます。EVは今後ますますコストがかからず、しかも使いやすくなっていくでしょう。

 

この記事の著者
EV DAYS編集部
EV DAYS編集部