EVは雪国では使えない?厳冬期の北海道でテスト走行&日産インタビュー

雪上走行 テスト走行編

凍った路面といえば、ツルツルと滑ったりする「車の難敵」。また、電気自動車(EV)は「寒さに弱い」とも言われます。一方で、モーターの特性である緻密なトルクコントロールや回生ブレーキが効くEVは、逆に“雪道に強い”と言われることも……。果たして、EVは雪国での走行にどのくらい耐え得るのでしょうか? 自動車ジャーナリスト・岡本幸一郎さんと冬の北海道でテスト走行を実施。さらに日産・開発部へのインタビューでEVの進化に関する最前線に迫ります!

EV充電設備

 

【テスト走行1日目】記録的な大雪の札幌、市街地ドライブを敢行

2WDの「リーフe+」でテスト走行を実施

EVは寒さに弱いと言われている。長距離を走るのも得意ではない。そんなEVにとって不利と思われる条件の揃った冬の北海道を、あえて走ってその真偽を確かめてみることにした。北海道ではレンタカーも4WDが一般的で、EVはほぼないが、探せばちゃんとある! 借り出したのは大容量バッテリーを搭載する「リーフe+」(EV専用車・2WDのみの設定)の寒冷地仕様だ。

リーフと岡本さん

今回、3日間乗車したリーフe+。バッテリー容量は60kWh、公式発表の航続距離は450km(WLTCモード)。

 

北海道に上陸したのは2023年1月10日のこと。路面は前夜から降った雪が踏み固められていて、駅から歩いて車両を受け取りにいったときにもけっこう滑る印象だった。筆者の目の前をFR(後輪駆動)のタクシーが、けっこうなアングルでドリフトしながら走り去っていった。うまいなあ…、と感心している場合ではなく、本当に「リーフ」で満足に走れるのかという一抹の不安もアタマをよぎるが、そういえば4WDが当たり前の北海道でも、大半のタクシーは2WDだ。「リーフ」だって走れないはずはない。

 

エアコンのON/OFFで航続距離が大きく変化

ハンドル

 

車両を受け取った時点で、オドメーターは3万5017km、バッテリー残量は91%で、エアコンをAUTOで23度に設定すると、気温がマイナス3度の中では航続距離はわずか213kmとの表示。エアコンをOFFにするとグンと増えるが、それでも297kmと300kmを切っていた。本当にバッテリーが大容量の「e+」だよね? と思ったりしたほどで、早くも厳しい現実に直面した。

しばらくエアコンOFFのまま走ってみたものの寒くてたまらないので、やっぱりONにして必要に応じて充電することに。すると、最初はガンガン温めるので航続距離の落ち込みも激しかったようだが、車内が温まってくると、ONとOFFでの差は小さくなっていった。

実際、エアコンや電装品がどれぐらい電力を消費しているかの表示を確認すると、最初は3kWとかなり激しく消費していたが、温まると0.5kW程度か未満に落ち着くことがわかった。

 

平坦な場所での安定感は十分。リカバリーの素早さはEVならでは

雪道を走るリーフ

 

平坦な市街地では、走り出してしまえば不安を感じることもない。あえてアクセルを多少強めに踏んだりして、どのように制御されるのかを確認しながら走ってみたところ、さすがに磨かれた圧雪の上では、それなりに発進で滑るものの、そこからのリカバリーがとても素早いのはさすがEVなればこそ。グリップを探りながら絶妙においしいところを掴んでいく感じだ。

 

登坂はFWDの泣きどころ…。一方で緻密な制御も実感

雪道を走るリーフ

 

郊外に出ると、ゆるい坂にたびたび出くわした。FWD(前輪駆動)ゆえ登坂はやはり得意ではないようで、トラクションコントロールの作動を示すランプの点灯する頻度が増えたものの、思ったよりも巧いこと上っていく。いかに緻密に駆動力を制御しているかが、上り勾配ではより印象的に感じられた。

 

e-Pedalが好印象。雪道でブレーキをかけずに済む利点は大きい

日産がいちはやく採用したe-Pedal(※1)も、雪道ではよりいっそうよい仕事をしてくれる。いまではVDC(横滑り防止装置)があるのでブレーキをかけても挙動が乱れにくくなったとはいえ、ブレーキペダルをあまり踏まずに済むというのは、雪道ではありがたいことには違いない。

また、アクセルオフにすると即座に減速態勢に移行するので、不意な状況でもなんとか止まれたり、被害を最小限にとどめることができたりするというメリットもある。

 

※1:アクセルペダルの踏み加減を調整するだけで発進、加速、減速、停止までをコントロールできる

 

【テスト走行2日目】いよいよ本番、雪山走行へ

大雪が明けてテスト走行2日目。この日は雪国での走行の醍醐味とも言える、雪山へ向かうことに。

 

外気温マイナス3度で充電。やや入りにくいか…?

リーフを充電する岡本さん

 

雪山に備えて、まずは充電スポットへ。昨日から走った距離は51kmだが、ディスプレイの表示はSOCが38%減の53%、航続距離が79km減の134kmとの表示(エアコンONの状態。1日目の走行スタート時、213kmだった)。

気温はマイナス3度と、この時期の北海道としてはそれほど低くなかったものの、前日はややアクセルを踏み気味だったこともあり、平均電費は3km/kWh未満の表示だった。

この充電スポット(急速充電器)の最大出力は44kW。30分で充電できたのは14.3kWhという結果に。SOCが78%、航続距離は253kmという表示となった。バッテリー温度は中央よりも1セグ低い。思ったよりもやや充電量が少なかったのは、おそらく気温の低さが影響したものと思われる。

 

雪山の圧雪路では、感心するほど正確なハンドリングを実感

雪道を走るリーフ

 

市街地は雪が踏み固められて、一部が凍っている箇所もあって滑りやすかったものの、やはり緻密な駆動力の制御が効いて、走るのは苦にならない。

札幌から1時間ほど走った雪山では、圧雪路での走りを確認した。多少の勾配があっても完全停止さえしなければ上り坂も問題なく、アクセルさえ踏んでいればしっかり上っていく。また、イメージしたラインを正確にトレースできるハンドリングのよさにも感心した。

 

さすがに急坂は難敵。坂道停車での再発進は難しい

雪道を走るリーフ

 

途中、食事をしに立ち寄ったお店の駐車場に、目測で10m進むと5mの高低差があるようなけっこう急な坂があった。「リーフ」では途中で止まると登れなくなるわけだが、坂の下から初速20km/hで進むと問題なく登ることができて、10km/hで進むと途中で失速して登れなくなってしまい、中間の15km/hだとなんとか登れるという感じだった。

もし坂の途中で止まってしまったらいったん下がるしかなくなるので、後続車がないことと、前が詰まっていないことを確認して、勢いをつけていかなければならない。そこはいくら制御が緻密な「リーフ」といえども気をつける必要がある。

 

【テスト走行3日目】総走行距離200km。精緻なコントロール制御を再認識

翌日も快晴となり、気温はプラス3度と暖かめ。市街地に残っていた雪も、クルマの往来がある部分ではほぼ消滅した。

 

外気温プラス3度で再充電。気温が反映されてか、充電量は上昇

リーフ充電中の様子

 

まずは充電するため近くの日産系ディーラーへ。最大出力50kWの急速充電器で充電したところ、SOCが25%、航続距離が86kmだったのが、30分で21.6kWhも充電でき、SOCが65%、航続距離が245kmまで増えた。

充電の電圧や電流の表示も確認したところ、充電しはじめたころには356Vと121Aと表示されて、25分が経過しても40kW台を維持して充電され、380V台、100A前後を示していた。バッテリー温度は中央のひとつ下から途中で1目盛り上昇して中央になった。昨日と比較すると、かなり充電具合はよいと言えるだろう。同程度の出力の充電器でも、気温の違いでこれほど差が出ることに驚いた。

その後、走り始めたところ、前日ほどエアコンのON/OFFによる影響は大きくなく、十分に温まってしまえばOFFにしても航続距離が9kmしか増えないという表示だったので、遠慮なく暖房をONにすることができた。

 

2度目の雪山走行。VDC OFFで体感できた「電子制御の有能さ」

雪道を走るリーフ

 

前日とは別の雪山を目指す。路面は圧雪に深い轍が刻まれた状態だったが、「リーフ」を安定して走らせることができた。

ときおりVDCをOFFにしてみると、電動パワートレインがいかに緻密に制御しているかがよくわかる。OFFにするとトラクションコントロールも切れるので空転したり、アンダーステア(外側への膨らみ)が出たり、轍にステアリングがとられたり、下り坂では荷重の減るリアの動きが不安定になったりする。それゆえ狙ったラインに乗せるだけでも神経を使う。ONのほうが圧倒的に走りやすい。市街地でも有益だったe-Pedalはワインディング(連続カーブ)でもリズムを掴みやすい。

さらに「リーフ」には、シャシー制御で「コーナリングスタビリティアシスト」という機能も搭載されていて、ONとOFFでは走りが変わる。舗装路をそこそこのペースで走ったときに効果を発揮することは確認済みだが、雪上でちょっとしたコーナーを曲がるだけでも、走りの一体感が全然違って、意のままに操れる感覚がある。

 

電費は3〜4km/kWh。寒さの影響は確かにあるが、雪国でもかなりイケる

運転中の岡本さん

 

電費についても、この日は暖かかったこともあり、走りはじめから雪山まで30kmほど走って3.6km/kWh、さらに平坦な場所まで降りて車両返却までの20kmほど走ったときには、4.4km/kWhと、はじめのうちとは全然違う数値を達成した。

3日間で約200kmを走行して感じたのは、やはり寒さにはそれなりの影響は受けるものの、走りについては、上り勾配で停止する状況さえ避ければ、かなりイケるというということだ。

 

EV充電設備

 

日産・開発者インタビュー。EVの最新事情とは?

これまで雪上走行は何度も行ってきたが、EVで3日間にわたり、さまざまな場所を1台で走り回ることはあまりなかったため、貴重な経験となった。総括としては、EVの走行に関してはかなり精緻なコントロールがなされていることを実感できたが、果たしてメカニズム面の技術はどこまで進んでいるのだろうか。

そこで、国産EVのトップランナーである日産の開発関係者に取材をすることに。お話をうかがったのは、まさに出身が北海道で、一連の日産の電動4WDの開発に携わってきた富樫寛之さんだ。

 

冨樫さん

富樫寛之さん(車両計画・車両要素技術開発部 性能計画部 操安乗心地性能計画グループ 主管)

 

モーターなら緻密に駆動力をコントロールできる

まずうかがったのは、EVの緻密な制御について。富樫さん曰く、EVが内燃エンジン車よりも精緻に駆動力をコントロールできるのは、モーターが1万分の1秒単位というきめ細かさで制御が可能である点が大きいという。これは2WD・4WDを問わず、EV共通の特徴だ。

さらに今回は検証できなかったが、モーターを駆動力として走る電動4WD車(※2)では、より駆動力制御の技術が進んでいるという。

 

※2:日産のラインナップにおける電動4WDとは、「アリア」の4WDモデルのほか、「e-4ORCE」の技術が搭載された「エクストレイル」も該当する。

 

アリア

4WDモデルも提供されている「アリア」

 

電動4WDの場合、フロントとリアを電力供給ケーブルだけでつないでいて、モーターをフロントとリアで自由にコントロールすることができるというメリットがある。

従来の4WDのシステムでは、たとえば後輪駆動ベースの場合、フロントにエンジンがあって、そのパワーをフロントに伝達させるときに、連結されたプロペラシャフトを通して配分されるので、どこまでいってもメインドライブ以下の駆動力しか配分できない。

 

〈図〉電動4WD・従来の4WDの構造の違い

電動4WDと従来の4WDの違い

日産提供資料を参考にEV DAYS編集部作成

さらに、リアのタイヤが空転したのでフロントのパワーをもう少し上げたいとしても、多くの機械要素を介して伝達されるので、どうしても伝え遅れが生じる。また、過剰なトルクを発生させてしまったときにも、モーターだと瞬時に下げることができるのに対し、エンジンの場合はどうしても、エンジンスロットルを操作して空気を送り込んだり減らしたりするので、そこでも遅れが発生する。しかも相手が空気なので緻密にコントロールするのが難しく、どうしても滑りすぎてしまったり、反対にもっと前に進めるのに絞りすぎて進まなかったりということが起きてしまうのだ。

富樫さん「前後それぞれを個別に最適にコントロールできるというのが電動4WDの最大の強みです。『アリア』の場合、システム最高出力は290kWですが、モーター自体は、一機につき160kWを発生できるものを搭載していて、シーンに応じて各輪のグリップ限界を算出して駆動力をコントロールすることができます」

 

〈図〉アリアにおける駆動力配分の一例

配分

日産提供資料を参考にEV DAYS編集部作成

 

富樫さん「たとえばフロントが滑りやすい状況では、フロントを160kW、リアを130kWという走らせ方もできますし、もう少し曲がらせたい状況では、たとえばフロントを130kW、リアを160kWとして回頭性を高めることもできます。先ほどお話した従来の4WDのシステムでは、どうしても前後とも145kWずつの等配分までにしかなりません。これらを常に計算しながら走らせているので、状況に応じた最適な駆動力配分を常に維持しながら走れるという点に電動4WDのメリットがあります」

 

内燃エンジンでは不可能なシャシー制御が、電動パワートレインでは可能に

また、日産ではシャシーダイナミクスにもいちはやく取り組んでおり、従来の「インテリジェント4×4」(※3)でもカップリング伝達でできる限り駆動力をきめ細かくコントロールしようとしていたが、どうしても遅れが生じていた。

 

※3:クルマが自動的にきめ細かい前後トルク配分を行い、走行状況に応じて駆動モードを選ぶことで、ドライバーが意図するドライビングを実現する日産独自の4WDシステム。

 

そこをもっと緻密にまったく遅れなく制御するにはどうすればよいかということで、これまでは個別にバラバラで動かしていた諸々のデバイスを、最新の電動4WD駆動システム「e-4ORCE」では統合制御を行った。「このような動きを実現するため、一番はたらくべき制御はどれで、それをもっとも最適に動かすための指令値はどれぐらいかといったことを緻密に計算した上で指令値を出すというシステムに進化している」と富樫さんは説明する。

富樫さん「ドライやウェットと違って、アイスやスノー(雪道)というのは非常に路面の摩擦が変化します。そこそこグリップする路面もあれば、日陰ではツルツルになって極端にミュー(摩擦力)が低くなったり、雪の積もった道路の真ん中あたりはデコボコしていたりする。スノーでの安定したドライビングには、路面で発生する車両の挙動に応じて素早い制御が求められます」

雪道を走るリーフ

 

富樫さん「このような制御は4WDに限ったことではなく、電動車であれば2WDでも実現していて、滑りそうになったときには、スリップに合わせながら駆動力を下げることもできます。

つまり、FWDの『リーフ』であっても、前輪に必要なトルクが与えられるようになっている。さらに、日産の4WDでは、走り始めのときは概ね前後輪で荷重のバランスに比例した駆動力の配分としています。

そしてハンドルを切って4輪のグリップが変化していき、旋回に入っていくと荷重移動によって外側のほうに車両の重さが寄っていきますので、外側はけっこう踏ん張れるんですが、内側が滑りやすくなっていきます。こうしたシーンでは内側のブレーキを少しつまんであげて、駆動力を下げてバランスを取って安定感を高めるということをやっています」

 

〈図〉コーナリングでの駆動力配分の移り変わり

〈図〉コーナリングでの駆動力配分の移り変わり

日産提供資料を参考にEV DAYS編集部作成

 

富樫さん「たとえば駆動力をかけながら曲がっていくシーンで、滑りやすくてアンダーステアが出た場合にフロントのトルクを下げるのはFWDでも4WDでも同じです。それでも曲がらない場合は内側のブレーキをつまむのですが、FWDでは減速が生じてしまいます。その点、電動4WDではリアからも押しているので、内側の駆動力が減った分、滑っていない車輪の駆動力を増やすことができ、減速感もなく、車速をあまり落とすことなく安定した走りができます。逆にリアが滑った場合は、リアの駆動力をいったん下げてから徐々に増やしていきます。なにをやっても滑る場合はFWDでも4WDでもそれほど変わらず、すべての車輪の駆動力を下げることになりますが、前後輪に駆動力を配分している4WDでは、より曲がりやすい状態で下げることができます」

2WDの「リーフ」でも北海道でしっかり走れることに感心したばかりだが、「e-4ORCE」に象徴される新しい電動4WDパワートレインでの雪上走行は、さらに驚かされることになりそうだ。テストドライブできる機会を楽しみにしたい。

 

雪国でのEVの活躍は夢ではない…!?

雪上走行

 

盛りだくさんの雪上走行と日産・開発部へのインタビューレポートとなったが、2WDのリーフでも雪道をしっかりと走れた背景には、それ相応のEVならではの技術的な裏付けがあることがよくわかった。

しかし、いかに技術的には優れていても、それがしっかり雪国のユーザーに伝わっているかどうかが気になるところ。そこで、北海道におけるEVマーケットに関する取材も実施。そこで見えてきたのは「ユーザー心理の難しさ」だった。続きに関しては、以下の記事を併せてご覧いただきたい。

 

 

 

この記事の著者
岡本幸一郎
岡本 幸一郎

1968年富山県生まれ。父の仕事の関係で幼少期の70年代前半を過ごした横浜で早くもクルマに目覚める。学習院大学卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作や自動車専門誌の編集に携わったのちフリーランスへ。これまで乗り継いだ愛車は25台。幼い二児の父。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。