雪国でのEV販売のリアルな実態とは?〈日産インタビューin北海道〉

雪上走行 日産インタビュー編

記事「EVは雪国では使えない?厳冬期の北海道でテスト走行&日産インタビュー」で、自動車ジャーナリスト・岡本さんとEV DAYS編集部は北海道の雪上走行と日産・開発部インタビューを実施。EVが雪道でも走りやすいことと、その理由を確認しました。今回はその続編、果たして雪国でのEV(電気自動車)の販売状況はどうなのでしょうか? 北海道でのメーカー・販売店へのインタビューから「雪国でのEV普及の実態」に迫ります。

EV充電設備

 

北海道日産へ訪問。EV普及の実情とは?

北海道日産へ岡本さん訪問

 

2023年1月12日、「リーフe+」による雪上走行を終えた足で北海道日産本社を訪問した。実際の走行インプレッションや日産の開発部への取材を踏まえると、「寒さへの懸念はあるものの、EVは雪道に強い」ということは実感済みである。

ただし、雪国でのEVの普及状況は各種調査を見ても、そこまで高くはない。特に北海道は、EVの補助金交付台数(PHEVを除く2009〜2021年度の累計台数)は都道府県別で25位、さらに人口1万人当たりの普及台数は約4.3台に止まり、全国で最下位になっている1)。どのような要因がネックになっているのだろうか?

 

 

話をうかがったのは、北海道日産の納谷さんと日産の寺西さん。納谷さんは初代「リーフ」発売から北海道でのEV普及にずっと携わっている功労者であり、寺西さんともども「リーフ」ユーザーだ。

 

北海道民のクルマ観…「4WD以外は眼中にない」?

〈写真・左〉納谷和博さん(北海道日産自動車株式会社 次長 EVスーパーバイザー 営業支援部 新車販促グループ長)、〈写真・右〉寺西 章さん(日産自動車株式会社 北日本リージョナルセールスオフィス 北海道グループ エリアGM)

〈写真・左〉納谷和博さん(北海道日産自動車株式会社 次長 EVスーパーバイザー 営業支援部 新車販促グループ長)、〈写真・右〉寺西 章さん(日産自動車株式会社 北日本リージョナルセールスオフィス 北海道グループ エリアGM)

 

「リーフ」の走行インプレッションなどを語ると、EV談義に華が咲いたが、販売に関して話が向くとややトーンダウン。お二方によると、「残念ながら北海道ではEVというだけで眼中にないという人もまだまだ多い」という。

また、イメージの問題で、実際に使えるかどうかという以前に、北海道では「4WDじゃないとダメだ」という固定観念を持っている人が多いそう。

日産の調べによれば、北海道では軽自動車における4WDの比率が96%に達していて、銀行の営業車や郵便局の配送車、あるいは本州で乗っていたクルマを持って移住してきた人など、一部を除いて、一般の人では愛車が4WDの方が多くを占めている。

 

〈表〉北海道内 駆動別登録台数実績(日産調べ)

北海道内 駆動別登録台数実績(日産調べ)

それゆえEVに興味があっても、2WDのみの「リーフ」には目が向きにくかったのは否めない。一方で、海外のEVはもともと4WDが多くあったが、いかんせんかなり高価なものが大半だ。そんな中、日本勢でも現実的な価格帯の日産「アリア」やトヨタ「bZ4X」、スバル「ソルテラ」などが登場したことから、状況は変わりつつあるようだ。

 

北海道EV文化の礎は、オーナーたちの繋がりから始まった

納谷さん

 

しかし、北海道日産・納谷さん曰く、「そんな中でも、純EVで2WDのみの初代『リーフ』(ZE0型)が出たときに、環境問題や新しいものに関心の高い層で買い求めた人はそれなりにいた」という。

当時は航続距離が短い上に公共充電器自体も少なく、急速充電を提供しているディーラーは営業時間内しか稼働していなかったり、地方に行くと急速充電器がなかったりと、全然整備されていなかった。

ところが、インターネットを通じて情報交換できたことから、北海道のリーフ乗りの間で結束が生まれ、緊急時にお互いの家にある充電器を借りられるようにすべく「北海道EVオーナーズクラブ」が立ち上がり、北海道日産もそこに関わった。「こんなに優れたクルマがあることを北海道でももっと広く啓蒙しなければと、オーナーたちが声を上げたことも大きかった」と納谷さんは言う。

充電中のリーフ

 

やがて同クラブには三菱やBMWなど他メーカーのEVやプラグインハイブリッド車(PHEV)のユーザーやほかの販売会社も加わり、現在にいたるまで定期的にミーティングを開催している。メンバーの集まりには、のちに日産でEV開発のトップにつく磯部博樹チーフビークルエンジニアもやってきて、メンバーといろいろ意見交換したこともあったという。

 

関心は上昇中だが、「EVへの漠然とした不安」はハードルに

このようなオーナーたちの動きが下地としてあったこと、さらに近年のEV車種の充実なども相まって、EVへの関心は北海道でも高まってきているという。

納谷さん(北海道日産)「現在、北海道でもEVに対して興味を持っている人は少なくありません。最近は4WDモデルのアリア(e-4ORCE)が出たこともあり、これまでとは違う層のお客さまもかなりこちらを向いてくれていると感じています。

去年の8月にディーラー数社が集まって開催したイベントには7000人ぐらいの来場者があり、試乗用にほぼ全車種を用意したところ、いざ始めるとちょうど新型が出たばかりのエクストレイルはもちろんとして、『アリア』や『サクラ』などのEVも予想したよりもずっと人気があって驚きました」

寺西さん

 

寺西さん(日産)「ただ、2WDか4WDかという話の前にも、EVに対して漠然とした不安を持っている人も依然多い。世間一般でもこのような不安を抱える人は少なくないのですが、加えて北海道では『4WDは当たり前』『バッテリーは寒さに弱い』といった認識があるので、不安要素がさらに上積みされるところがあるのは否めません。

ハードだけでなくソフト、すなわち気持ちの部分でも、ハードルがあります。まだお客さまの気持ちを『EVに乗ってみようか』と一歩踏み出すところまで持っていく流れがなかなか作りづらいのは正直なところです。

一方でオーナーズクラブの方々のように見事に乗りこなしている方もいらっしゃいます。せめてちゃんと説明させてもらって、ちょっとでも乗っていただいて、よさを理解してもらえれば話は変わってくるはずなのですが…。まだまだ食わず嫌いな方が多いのは残念ではあります」

 

EV充電設備

 

同じ北海道でも、地域特性によりEV販売の売れ行きは異なる

北海道の街

 

それなら札幌あたりの都市部であれば、意識の高い人も多くてEVの普及状況が違うのかと思えば、一概にそうでもないようだ。

お二方によると、たしかにナンバーを取得した台数でいうと札幌周辺エリアのEVユーザーは相対的には多い。急速充電器も充実していて不自由なく使えることもあり、所得の高い層も多いことから、他メーカーの高級EVも含め販売は本州の大都市ほどではないにせよ、それなりの数には達しているという。

ただし、札幌では一軒家が建ち並ぶ住宅街は中心部から離れたところにあり、いわゆる富裕層が住む円山地区は坂道が多く、少し離れた北区あたりは雪が多い。そのため、いずれも4WDが選ばれる傾向が強い。かたや雪の心配の少ない地域は充電設備のないマンションが多い。

 

軽EV「サクラ」販売実績から見える、過疎地域での強み

日産サクラ

 

これらがネガな要素となっていて、たとえば軽EV「サクラ」は北海道日産でも売れ行きは好調だが、多く売れているのは太平洋沿岸の雪の少ない地域で、札幌では意外と限られるそう。

寺西さん(日産)「実はサクラの発売直後に出足がよかったのは、むしろ道北や道東のほうです。スーパーや病院などの近場しか走らない、行動範囲が決まっている方が『私の生活に合っている』と感じていただくことが多かったようです」

納谷さん(北海道日産)「地方のほうがむしろEVのメリットが出やすいのです。そういった土地では1回あたりの走行距離が長いのですが、ガソリンよりも充電代のほうが安上がりになる計算にもなりますし、最寄りのガソリンスタンドが20km先という地域もあります。EVなら家で充電できますから、『EVに乗るとやめられなくなる』という声も聞きます。過疎地域が増えてさらにガソリンスタンドが減ってくるのは、EVにとってはひとつの追い風となるでしょう」

 

本当にEVでも大丈夫かどうかは、冬の試乗で判断できる

ところで、北海道の都市部から離れた地方では、2WDのみの「サクラ」や「リーフ」で、雪深い場所での走行不安はあるが、むしろ幹線道路は除雪が行き届いている上に雪質がサラサラなので、よほどでなければ問題ないそうだ。むろん、地吹雪や立ち往生が怖いことには変わりないので、EVに乗りなれたオーナーズクラブの熟練者たちは、冬場は毛布等を車内に常備しているという 

むしろ住宅地の路地等で雪の塊でボコボコになった状態のほうが、よほど4WDの必要性を痛感するという。実際、他社の主力ハイブリッド車のエピソードで、現行型には4WDの設定がありトラクションコントロールも必要に応じて切ることができるが、そうではなかった当時には悪条件の市街地でスタックが続出したということがあった。

納谷さんによれば、このような経験をした人の中には、トラクションコントロールを切ることができ、力強いトルクで悪条件の路面を踏破できる「リーフ」に乗り替えたという人が何人もいたそうだ。

納谷さん(北海道日産)と寺西さん(日産)

 

納谷さん(北海道日産)「ネットにはEVのネガティブ情報があふれています。冬になると航続距離が減るし、暖房は自由に使えないし、立ち往生すると死ぬとか(笑)。

だからこそ、冬場に商談があったら、まず乗ってもらうことにしています。1~2月はEVにとって最も厳しい時期で、気温が低いので電費や充電などの性能が落ちたり、道もバスがすれ違えないぐらい雪が積もって走りにくくなったりします。これは避けられない事実です。

ただ、実際に乗ってもらうのとイメージは大分違います。人によってはダメな場合もありますが、全然問題ないという人ももちろんいます。だから、この時期に乗ってもらって大丈夫という人は、100%問題ないと考えてもらってよいでしょう。

やはり乗ってもらって判断していただくのが一番です。あとは使い方をよ~く聞いて、大丈夫かどうか、お客さまと一緒に考えます。たとえば『リーフ』で札幌から帯広まで1回も充電せずに毎日通勤したいという方にはあまりおすすめできませんと言いますけれど、札幌から小樽間の通勤だというお客さまならば全然大丈夫ですよ、などとあらかじめ伝えています」

 

北海道内の急速充電器設置の拡充に期待

EV充電中の様子

 

EVと地方での相性はとりわけよさそうだが、ここで改めて課題になるのが急速充電器だ。日産系ディーラーの大半はいちはやく50kWの急速充電器を導入しており、今後90kW器の設置予定もある。しかし、海外勢のような200kW級というのはまだ対応できていない。

また道の駅はまだ20kW級の急速充電器が多い。30分充電が基本となるが、冬場は充電しにくくなるので、6kWh程度しか入らない場合もあるそうだ。たとえば「アリア」のバッテリー容量は66kWhなので、これは9%に当たる。冬の電費は3〜4km/kWh程度なので20〜30kmは走行できるが、心許ないのは否めない。

クルマの性能が上がり、バッテリーも進化して大容量のものを積めるようになってきているからこそ、充電設備も充実させていきたいという。

納谷さん(北海道日産)「できれば全道で5か所ぐらい、あそこまで行けば充電できるといった誰にでもわかりやすい、拠点となるような充電スポットがほしいですよね。それこそ100kW級の充電器が5基くらい置いてあると、安心感が全然違います」

寺西さん(日産)「大出力器はもちろん、地図上の面のカバーも大事です。札幌界隈は大丈夫でも、宗谷岬まで行こうとなったときには心細かったりします。北海道の広さに対しては、“充電空白地”というのがどうしてもあるのが現状です。インフラがもっと整備されると、北海道でもEVに対するネガなイメージがずいぶん和らぐんじゃないかなと思います」

北海道に限らず、充電器の設置については現在進行形で拡大中だ。政府目標では、2022年時点で3万基である充電インフラを2030年までに15万基に増加させることが掲げられている。また、公共充電インフラを手掛ける東京電力グループのe-Mobility Powerも、全国に約7400口(2022年3月時点)ある急速充電器を、2025年度までに現状の2倍程度の1万5000口へ増強することを目指しているそうだ。

 

EV充電設備

 

中国メーカーに対する意外な見解

岡本さん

 

ところで、海外製のEVについて聞いたところ、以下のような少々意外な答えが返ってきた。

納谷さん(北海道日産)「実はちょっとBYD(中国メーカー)に期待しています。というのは、たとえば札幌でも自動車教習所が減り、教習費が上がって、クルマどころか免許を取得する人が減っています。若者はどんどん地方から都市部の利便性の高いところに移り、本当に必要な人でないとクルマに乗らなくなっています。北海道ですらそうなんです。

だから、若者でも気軽に買える、入り口になるようなクルマの選択肢がもっと必要です。BYDはその波を起こしてくれそうなメーカーだという期待はあります。安くて小さなクルマが登場してきたら、ビジネスとしては脅威ですが、若者のクルマ離れを防ぐ上ではよいのかなと思います。

昭和の時代に日本車が世界で伸びたのと同じような雰囲気を感じられ、EVに関してはとても進歩が早くて日本も見習うべき部分も多々あります。BYDの人気が出ると日本のメーカーも本気を出さなければと考えて何か新しいものを出してくれるんじゃないかという期待もあります」

 

日々進歩するEV。まずは試乗をおすすめしたい

北海道でEVに乗るには、現状いろいろなハードルがあるのは否めないが、先入観だけで考えず正しく理解してほしいという点ではお二方とも口を揃える。もちろん技術は日々進化しているのだから、常識もどんどんアップデートされていく。

寒い地域に住む人は、大なり小なりの抵抗感はあるだろう。しかし、興味があるのに乗ったことのない人は、まずは乗ってみることをおすすめしたい。その上で、どのように使うか考えてみるとよいだろう。

 

 

 

この記事の著者
岡本幸一郎
岡本 幸一郎

1968年富山県生まれ。父の仕事の関係で幼少期の70年代前半を過ごした横浜で早くもクルマに目覚める。学習院大学卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作や自動車専門誌の編集に携わったのちフリーランスへ。これまで乗り継いだ愛車は25台。幼い二児の父。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。