【2024年最新】EVの普及率はどのくらい?日本と世界のEV事情を解説

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【2024年3月28日更新】世界では「100年に一度のエネルギー変革」などと言われ、電気自動車(EV)への関心が高まっています。しかし、日本ではまだEVが広く普及していると感じにくい状況かもしれません。実際のところ、日本や世界各国ではどの程度、EVが普及しているのでしょうか? 自動車ジャーナリスト・桃田健史さん監修のもと、日本と世界のEV事情をまとめました。

この記事は2023年7月31日に公開した内容をアップデートしています。

 

 

注:本記事で「EV」とのみ表現する場合、「BEV(Battery Electric Vehicle)」を意味しています。プラグインハイブリッド車(PHEV)やハイブリッド車(HEV)、燃料電池自動車(FCEV)とは区別しています。

 

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日本のEV普及率は? 普通車・軽自動車の動向

Ⅰ.日本のEV普及率(2023年:普通乗用車)

車

画像:iStock.com/mtcurado

 

それでは、日本のEV普及率を見ていきましょう。

まずは2023年(1〜12月)の普通乗用車における普及状況です。日本自動車販売協会連合会の発表によれば、2023年(1〜12月)のEV(普通乗用車のみ)の新車販売台数は約4万4000台です1)。これは新車販売台数の約1.66%にあたります。

2020年は0.59%(約1万5000台)、2021年は0.88%(約2万1000台)、2022年は1.42%(約3万2000台)でしたから、EVの存在感は少しずつ増しているといえるでしょう。

ちなみに、2023年のPHEVのシェアはEVを超える約1.97%約5万2000台)です。EVとPHEVを合計すると約3.63%(約9万6000台)のシェアがあり、普通乗用車カテゴリーにおいて日本ではPHEVの方が優勢となっています。

〈図〉2023年の燃料別新車販売台数(普通乗用車)の割合

〈図〉2022年の燃料別新車販売台数(普通乗用車)の割合

 

  販売台数 割合
ガソリン車 94万8445台 35.77%
HEV 146万133台 55.07%
PHEV 5万2143台 1.97%
EV 4万3991台 1.66%
ディーゼル車 14万6164台 5.51%
FCEV 422台 0.02%
その他 99台 0.00%
合計 265万1397台 100.00%

※HEV=ハイブリッド車、PHEV=プラグインハイブリッド車、FCEV=燃料電池自動車のことを指します。

 

Ⅱ.日本のEV普及率(2023年:軽自動車)

サクラ

 

続いて、軽自動車における普及状況を見てみましょう。

日本において「軽EV」は、非常に注目されています。全国軽自動車協会連合会2)のデータによれば、2023年1〜12月の軽EVの新車販売台数は約4万7000台に上り、これは軽自動車の約3.5%にあたります。

※分子には「ミニキャブEV/ミニキャブ・ミーブ」を含む。分母は「軽四輪乗用車台数」。

数字としてはまだまだのように感じますが、2024年3月時点で発売されている軽EVは全部で3車種しかありません。しかし、走行性能の高さや使い勝手、200万円台〜という価格の手頃さが評価されています。その結果、普通乗用車のEV以上のシェアを記録したといえるでしょう。

特に売れ筋となった日産「サクラ」は、販売台数が3万7000台を越え、2023年の軽自動車の中で15位にランクインしています。

 

Ⅲ.日本のEV普及率(2023年:普通乗用車・軽自動車合計)

普通乗用車と軽自動車を合計した普及率も見てみましょう。

2023年における、普通乗用車と軽自動車を合計したEV新車販売台数は約9万1000台で、前年比の約1.5倍。新車販売のシェアは約2.28%を占めています

2020年は0.41%、2021年は0.60%だったのが、軽EV発売後の2022年は1.72%と増加してきました。軽EVの影響が大きく、右肩上がりで上昇していることがわかります。

ちなみに、PHEVも含めたEV+PHEVの総合計数は約14万3000台でシェアは約3.58%になります。

 

Ⅳ.日本のEV普及率(2024年の動向)

一般道

画像:iStock.com/mtcurado

 

では、2024年の動向はどうでしょうか。

まだ2024年は始まったばかりですが、上記と同じく、新車販売台数をベースに考えると、2024年1・2月における普通乗用車のEVのシェアは約1.16%約4600台、軽自動車では約3.32%約6300台)となっています。

合計数でのシェアは1.85%約1万800台)となり、2023年よりも減少していますが、これは2023年度の国のEV補助金が2月で一旦終了したことが、一定程度影響していると考えられます。2024年3月末より新年度のEV補助金の受付が再スタートする予定のため、販売台数は上向きになることが見込まれます。

 

〈図〉EV・PHEV月別販売台数・販売シェアの推移

〈図〉EV・PHEV月別販売台数・販売シェア(乗用車)の推移

※区分「乗用車」。日本自動車販売協会連合会および全国軽自動車協会連合会の公表資料より作成。軽EVは「サクラ」「ekクロスEV」「ミニキャブEV/ミニキャブ・ミーブ」の合計値。

 

 

 

アメリカ・ヨーロッパ・中国のEV普及率は?

次に、海外のEV(BEV)普及率を見ていきましょう。

 

Ⅰ.アメリカのEV普及率

istock画像 アメリカ街中

画像:iStock.com/peeterv

 

アメリカの2023年1〜12月のEV(BEV)販売台数は約119万台で、普及率(新車の販売台数におけるEVシェア)は約7.6%となりました3)。2021年は3.2%(約49万台)、2022年は5.8%(約81万台)でしたから、少しずつ伸びているといえるでしょう4)

これは、バイデン政権のインフレ抑制法(IRA)による最大7500ドル(約110万円)の税額控除や、ZEV(Zero Emission Vehicle=ゼロエミッション車)規制を設けるカリフォルニア州などでのさらなる上乗せなどによる、手厚い支援策が背景にあります。

ただし、アメリカでは州ごとにEVへの規制や補助が異なるため、中西部では数%台の州も目立つ一方、カリフォルニア州では2023年1〜12月の普及率が21%にも達するなど5)、州により普及率に大きな差が出ています。

なお、2023年の第4四半期(10〜12月)では、EV販売の伸びがやや鈍化しているため、今後の販売動向に注視する必要があるでしょう。

 

 

Ⅱ.ヨーロッパのEV普及率

istock画像 ヨーロッパの道路

画像:iStock.com/petekarici

 

続いて、EV化に積極的と言われるヨーロッパを見てみましょう。

欧州自動車工業会(ACEA)の発表によると、2023年(1〜12月)におけるEU全体の新車販売におけるEV(BEV)のシェアは約14.6%(約154万台)に上り、初めてディーゼル車のシェア(13.6%)を上回りました6。なお、2021年は9.1%(約88万台)、2022年は12.1%(約112万台)だったため、順調に増えている状態です7)

ただし、2024年は継続して伸び続けるかは不安視されています

2020年以降、EU全体でEVの販売シェアを増やしてきましたが、これを牽引してきたのが各国で実施されているEV購入支援策でした。

2023年も支援策は行われ、シェアを伸ばす形になりましたが、2023年12月にドイツでBEVを含む低排出ガス車購入時の助成制度の終了前倒しが急遽発表されたり8)、9月にフランスではBEV補助金制度の適用対象モデルを製造・輸送過程の二酸化炭素(CO2)排出量をベースに算定する「環境スコア」が閾値を超えるモデルに限定することが発表される9)など、補助金制度の打ち切りや条件の厳格化が行われています。これらが2024年の販売台数やシェアにどのように影響するのか注目されます。

 

 

Ⅲ.中国のEV普及率

istock画像 中国の道路

画像:iStock.com/Nikada

 

次に、いまや世界最大のEV大国になった中国のEV普及率について紹介しましょう。

中国自動車工業協会(CAAM)によると2023年(1〜12月)のEV(BEV)の販売台数は約669万台で、これは自動車販売シェアの約22.2%に上ります10)

なお、2021年は11.1%(約292万台)、2022年は20.0%(約537万台)でした11、12)。EV販売台数は前年比132万台増(24.6%増)なので、大きく伸ばしていますが、販売シェア自体は2%増程度に止まった形です。

中国ではPHEVやFCEVを含む電動車両をNEV(New Energy Vehicle=新エネルギー車)と呼び、自動車メーカーに販売台数の一定割合をNEVにすることを義務付ける「NEV規制」を2019年から実施しています。中国は、自動車産業国としては後発であるため、EVを推進し、先進国と競争する力を得ようとしているのです。

このNEV規制における義務化割合目標は、2025年20%、2030年40%と、段階的に増やす方針を取っていましたが13)、進捗状況が予想より良いことから2027年45%に前倒しすると公表されました14)。このボーダーラインに満たなかったメーカーは、他メーカーから超過分のクレジットを購入しなければならない決まりとなっています。実際クレジット購入を余儀なくされたメーカーも少なくありません。

 

 

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EVの普及に向けた日本・世界の取り組み

ここまで、日本と世界の“EVの現状”を見てきました。ここからは、その少し先にある“EVのこれから”を見ていきましょう。

EV普及には、国の政策や方針が強力な推進力となるのは言うまでもありません。各国は下記のような車の電動化目標を立てて、取り組みを行っています。

 

〈表〉各国の電動化目標について

表

※経済産業省作成の表をベースにEV DAYS編集部が改編 15)。EVは航続距離が150マイル(約241km)以上かつ急速充電が可能なものに限る。また、PHEVはEV走行距離が50マイル(約80km)以上かつ販売割合はZEV全体の20%以下とする。ICEとは純ガソリン車・純ディーゼル車を指す

 

それでは、各国の政策や方針をそれぞれ確認してみましょう。

 

 

Ⅰ.日本の取り組み

国会議事堂

画像:iStock.com/Mari05

 

日本では「2035年までに乗用車の新車販売で電動車100%を実現する」という方針が定められています。ただし、ここで言う“電動車”には、EVやPHEVだけでなく、HEVやFCEVも含まれています。すべての車をEVにする、というわけではありません。

この方針は、経済産業省が2020年12月に関係省庁との連携で策定した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(以下:グリーン成長戦略)16)によるもので、2021年6月に改訂版が発表されました。

グリーン成長戦略の中では、「2030年までに急速充電器を今の4倍となる3万基を設置すること」などのインフラ整備を始めとして、税制優遇や研究分野への支援、国際連携などに触れられており、より具体的な戦略が打ち出されました。

このグリーン成長戦略は、自動車分野に限ったものではなく、エネルギー関連産業や半導体・情報通信産業などにも及びます。成長が期待されており、さらに温室効果ガスの排出削減につながる14の重要な産業分野が特定されており、総合的に経済成長と環境適合を考えていこうという趣旨なのです。

なお、グリーン成長戦略の改訂版発表から1年後にあたる2022年6月には「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」17)で、グリーントランスフォーメーション(GX)は「重点投資分野」のひとつに位置付けられ、2023年6月には脱炭素社会を実現する政策支援の裏付けとなるGX推進法が国会で成立18)。今後10年間で150兆円規模の投資を目指しており、再生可能エネルギーやEVの普及が後押しされる見込みです。

また、日本では都道府県などの自治体ごとでも、EVの普及に向けた取り組みを多く行っています。たとえば、東京都では「ZEV※普及プログラム」を掲げており、同じく2050年の脱炭素社会実現に向けて、車から排出されるCO2の実質ゼロを目指しています。具体的には、充電インフラへの支援や、EVへの補助金などを行い、EV普及を推進しています。

※ZEV=Zero Emission Vehicle(ゼロエミッション・ビークル)。走行時にCO2等の排出ガスを出さない、EVやPHEV、FCEVのこと。

 

 

Ⅱ.世界の取り組み


次に、世界の取り組みについて見ていきましょう。

ⅰ.アメリカの政策・方針

アメリカ国旗

画像:iStock.com/rarrarorro

 

アメリカでは、バイデン大統領が2021年8月5日に「2030年までにアメリカ国内で販売する新車の50%以上を電動化する19)という大統領令に署名し、政策が進められています。

これと同時に、ゼネラルモーターズ(GM)、フォードなどの自動車メーカー各社から、大統領令に沿って電動化の推進を加速させる旨の声明が発表され、本格的な電動化へと舵を切ることとなりました。なお、EVやPHEV、FCEVは電動化車両に含まれますが、ハイブリッド車(HEV)は含まれないとされています。

また、2022年8月に成立した「インフレ抑制法(IRA)」に盛り込まれている、最大7500ドルにおよぶEV・PHEV等の税額控除優遇策の厳しい要件が、大きな混乱を呼んでいます20)

2023年3月末にアメリカの財務省と内国歳入庁が発表したところによると、税額控除の対象になるためには、車両の最終組み立てを北米で行うことを大前提に、バッテリーの材料・部品の調達先・製造を北米ならびにアメリカと自由貿易協定(FTA)を結んでいる国にすることなどが条件となりました21)

上記の条件に基づき、2024年1月以降、IRAに基づいて購入者が受けられる税額控除の対象となる車種は19モデルに制限されることになりました(2023年末時点の対象車両は43モデル)22)。今後、対象車両が増える可能性があるようですが、税額控除の対象が限定的になることで、EV販売の伸び悩みが起こらないか、懸念されます。

なお、それ以前の問題として、2024年11月に実施されるアメリカ大統領選の行方が、IRAの存続含めた今後のEV普及における最大の焦点となることでしょう。

 

 

ⅱ.ヨーロッパ(EU)の政策・方針

istock画像 ヨーロッパ国旗

画像:iStock.com/legna69

 

ヨーロッパは、欧州連合(EU)の執務機関である欧州委員会(EC)により、「欧州グリーンディール」に関する法案が発表されました23)

この中で、自動車分野については非常に厳しい目標が設定されており、その目標値はCO2排出量を「2030年までに2021年比で55%削減」「2035年までに2021年比で100%削減」となっています。つまり、事実上、2035年にはPHEV・HEVも含めてすべてのガソリン車・ディーゼル車が禁止されるということです。この新たなCO2排出基準については、ドイツから2035年以降も合成燃料(e-fuel)を使う内燃機関の利用を例外的に求めるよう提案が出され、EU理事会の支持を得て確定されました24、25)

なお、前述のとおり、EV普及のために各国でEV購入支援策が実施されています。しかし、2023年末になり、ドイツでBEVを含む低排出ガス車購入時の助成制度の終了前倒しが急遽発表されたり、フランスではBEV補助金制度の適用対象モデルを製造・輸送過程の二酸化炭素(CO2)排出量をベースに算定する「環境スコア」が閾値を超えるモデルに限定することが発表されるなど、補助金制度の打ち切りや条件の厳格化が行われています。これらが2024年の販売台数やシェアにどのように影響するのか注目されます。

 

 

ⅲ.中国の政策・方針

istock画像 中国国旗、建物

画像:iStock.com/tcly

 

中国は、前述のNEV政策を加速させていく方針です。具体的には、2035年までに「NEVの割合を50%以上」とした上で、そのうち「EVを95%以上にする」という目標26)を掲げています。また、NEV以外の残りの50%については、ガソリン車をすべてHEVとするとしています。

また、2023年末で終了としていたNEVの取得税減免政策を、2027年末まで延長することになりました27)。今後も、購入時の優遇策を通じて、普及を図っていくものと思われます。

 

 

ⅳ.その他の国の政策・方針

その他の国の目標や政策も見てみましょう。

イギリスでは、2020年11月に「グリーン産業革命」28)が発表されました。「2050年までに温暖化ガス排出ゼロ」を目標とするもので、純ガソリン車・純ディーゼル車の新車販売禁止が、それまでに打ち出していた「2035年」から「2030年」へと前倒しされました。

しかし、2023年には一転して、ガソリン車とディーゼル車の新車販売禁止の期限を「2035年」へ延期を決定しています29)。やや後退感がある発表なだけに、今後の動向に注目が集まっています。

一方、「ガソリン車・ディーゼル車禁止」をいち早く打ち出した国として、インドが挙げられます。インド政府は2017年時点で「2030年までに禁止=完全EV化」と表明していました。ただ、政策の実行が思うように進まず、この方針は撤回され、現在は2030年までに乗用車新車販売の3割をEVとする目標を掲げることになりました30)。なお、2023年は約153万台のEVが販売され、過去最高を記録しましたが31)、インド特有の事象としては、四輪車が約9万台なのに対し、二輪車(約86万台)や三輪車(約58万台)の販売が好調で、比較的安価なところから普及が進んでいると考えられます。

 

 

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【グラフで見る】日本・世界のEV普及率の変遷

世界初の量産EVが発売されたのは2009年。車種は、三菱自動車の「i-MiEV」でした。また日産「リーフ」の登場は2010年末です。じつは、EVが私たちの身近な存在になってから、まだ15年ほどしか経っていません。

では、この十数年の間に世界のEVはどれくらい増えたのでしょうか? わかりやすいようにグラフにして見てみましょう。

〈図〉2010年〜2022年における世界全体のEV・PHEV(乗用車)の保有台数推移32)

ヨーロッパ:EU27カ国、ノルウェー、アイスランド、スイス、イギリス。その他の国:オーストラリア、ブラジル、カナダ、チリ、インド、日本、韓国、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、南アフリカ、タイ

ヨーロッパ:EU、ノルウェー、イギリス。その他の国:オーストラリア、ブラジル、カナダ、チリ、インド、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、南アフリカ、タイ。

 

EVやPHEVの保有台数はここ10年で急激に増えていることは一目瞭然で、2020年には保有台数は1000万台を超えました。2021年は1500万台を、さらに2022年には2500万台を超えており、今後さらなる増加が予想されます。

とくに伸びが大きいのは中国とヨーロッパ諸国で、中国に至ってはEVだけですでに1000万台を超えています。日本にいると、なかなか普及していないと思われがちですが、グラフで見てみると、世界では急激に普及してきていることがわかります。

〈図〉2016〜2022年における世界各国のEV・PHEVの新車登録台数とシェアの推移32)

〈図〉2016〜2022年における世界各国のEV・PHEVの新車登録台数とシェアの推移-1

2016〜2022年における世界各国のEV・PHEVの新車登録台数とシェアの推移-2

図:2016〜2022年における世界各国のEV・PHEVの新車登録台数とシェアの推移-3

2016〜2022年における世界各国のEV・PHEVの新車登録台数とシェアの推移-4

 

 

日本の充電インフラの普及状況

ここまでEVの普及状況について解説してきましたが、EV普及のためには充電インフラの普及も必要不可欠な要素です。充電インフラの状況についても確認してみましょう。

ゼンリンによれば、公共用充電設備はこれまでに全国で約3万基が設置されており、2023年3月時点で急速充電器が約9000基、普通充電器が約2万1000基の内訳となっています33)

〈図〉日本における充電器設置基数の推移

〈図〉日本における充電器設置基数の推移

日本では、前述の「グリーン成長戦略」のもと、「2030年までに公共用の急速充電器3万基を含む充電インフラを15万基設置(遅くとも2030年までにガソリン車並みの利便性を実現)」を掲げて、充電インフラの普及促進や規制緩和を進めてきました33)

しかし、2023年10月に国が示した「充電インフラ整備促進に向けた指針」によれば、数え方の単位を「基」から「口」に見直した上で、2030年の設置目標を現在の10倍にあたる30万口に引き上げることを発表しています34)

また、充電インフラを増やすだけでなく、急速充電器の平均出力を倍増させる「高出力化」も進め、充電時間を短縮してユーザーの利便性を向上させる方針も示されています。

2017年以降の設置数は停滞傾向にありますが、設置数だけでなく、利便性向上も含めて、今後の普及をより一層推し進めていくことになりそうです。

 

 

【将来予測】今後のEV普及率はどうなる? 現在の課題とは?

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画像:iStock.com/Jae Young Ju

 

Ⅰ.EV普及率の今後


昨今の世界中から発信される政策やニュースを見ると、世界は着々と「ガソリン車・ディーゼル車禁止」に向かって動いているように思えます。もちろん、低燃費・CO2削減のために車の電動化が進み、その中でもEVの普及率が高まっていくことは間違いないでしょう。

しかし、国や地域によってエネルギーインフラや社会情勢は大きく異なりますから、EVへのシフトが問題ない地域もあれば、ガソリン車やディーゼル車の方が適している地域もあります。たとえば、インドでは電線を勝手に分岐して不正に電気を得る”盗電“が多いため、このままEVを普及させるには不安要素が大きい状態でしょう。

また、資源採取~製造~流通~使用過程~廃棄・リサイクルまでの、LCA(ライフサイクルアセスメント)も考える必要があります。そういった様々な視点から考えると、全世界の車がすべて早い時期にEVに置き換わることは考えにくいでしょう。要は「適材適所」であることが重要なのです。

 

Ⅱ.EV普及の課題とは?


日本ではEV普及の課題として、EVの性能にフォーカスが当てられることが多いですが、年々性能は向上しており、実航続距離が500km以上ある車種も少なくありません。また、バッテリー容量の大きい車種も登場しているほか、電費改善も進んでいるため、普段使いで困ることはほぼないでしょう。

さらにバッテリーに関してはトヨタや日産が2020年後半に、従来より電池のエネルギー密度が高い全固体電池の量産を始めることを明らかにしています。バッテリーの性能が上がれば、航続距離が伸びるほか、急速充電への対応力が向上することでEVのデメリットと考えられている点を補うことができるようになるのです。

また、これまで日本でEV普及がなかなか進まない理由のひとつとして、車種の選択肢が限られてしまうことが挙げられていました。日本で手の届きやすい価格のEVといえば数車種に絞られてしまう、という状況だったわけです。しかし、前述通り、軽EVが登場したことで選択肢が広がりつつあります。

自動車メーカー各社はEV開発を推進しており、車種も急激に増えています。日本でも車種の選択肢がより増えていけば、EVはもっと身近になり、普及率も自然と高まっていくことでしょう。

 

 

EV普及には、社会全体の変化と理解が必要

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画像:iStock.com/kokouu

 

この記事を今、あなたが読んでいるのは、「もっとEVについて知りたい」「わからないことが多い」と思ったからでしょう。その思いは、多くの人にとっても同じです。日本ではEVは本格的に普及していくスタートラインに立った段階なのです。

EVは私たちユーザーにとっても、自動車メーカーにとっても、日本政府にとっても初めてのことだらけです。また、車の歴史を振り返ってみても、「環境のために車の構造を変化させなければいけない」という局面は初めてのことです。そのため、ユーザーの意識はもちろんのこと、様々な技術の進歩やインフラ整備、政策もまだまだ発展途上です。

また、単純に「ガソリン車からEVに、というような車の種類だけが変わればいい」というものではないことも、EVシフトの難しいところです。スマートフォンやインターネットなど、他の技術革新のように技術が生まれたから自然と普及するのではなく、EVは普及のために車自体はもちろん、それに付随するインフラなどについても技術を磨き、導入しやすい環境を整える必要があるのです。

日本政府が打ち出している戦略はありますが、社会全体がEVを受け入れられるように変化していくことが、EVの普及には不可欠です。最近では、カーシェアリングなどで身近にEVを利用する機会も増えています。様々な発展とともに、私たちも少しずつEVのある生活に慣れていけば、自ずとEVの普及率も高まっていくでしょう。

 

※本記事の内容は公開日時点での情報となります

 

この記事の監修者
桃田 健史
桃田 健史

日本自動車ジャーナリスト協会会員。専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。ウェブ媒体、雑誌での執筆のほか、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組や海外モーターショーの解説も担当。著書に『エコカー世界大戦争の勝者は誰だ』(ダイヤモンド社)、「IoTで激変するクルマの未来」(洋泉社)など。