アバルト500e。小さくても絶大な存在感!“電気サソリ”の革新的な走り

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アバルト500eは、アバルトの電動化戦略において中核を担うモデルとして、ブランド初のEVであり、ベースとなるフィアット500eに対し、ドライビングパフォーマンスや独自のサウンドを再現した「サウンドジェネレーター」、随所に配したサソリを模したパーツなど、アバルトらしい特徴がいくつも与えられています。他のメーカーには真似できない世界観を、モータージャーナリストの岡本幸一郎さんがレポートします。

サソリ座生まれの創始者カルロ・アバルトが1949年にトリノで設立したのがアバルトの起源。フィアット車をメインにチューニングを手がけ、1950~60年代にはモータースポーツ界を席巻した。小さなアバルトが大柄で高性能な競争相手を追いかけ回すさまは後世の語り草となっている。そんなアバルトが送り出した初のEVはどんなクルマなのか?

2022年に紹介した「フィアット500e」は、なかなか面白いクルマだった。そのアバルト版もまたベース車にも増して興味深いクルマだ。

 

 

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️日本市場で数多くのファンを獲得した、サソリマークの“ジャイアントキラー”

オーストリア出身のレーシングライダーだったカルロ・アバルトが興したレーシングマニュファクチャーであるアバルトは、創業当初からフィアットと深い関係にあり、市販車のチューニングとともにモータースポーツにも積極的に挑戦し、すばらしい戦績を収めた。小さなアバルトが大柄な高性能車を追いかけ回すさまは、「ジャイアントキラー」や「ピッコロモンスター」と呼ばれ語り草となっている。

1971年のアバルト

 

それが遠く離れた日本にも伝わると、強大な敵を小兵が打ち負かすストーリーを好む日本人の国民性もあって、熱心なファンを続々と生んだという。

そんなアバルトだが、1971年にフィアット傘下に収まると表に出る機会はめっきり少なくなっていた。ところが、20世紀の終わり頃から復活の兆しが見られた。それが本国よりも先に日本で。1998年と2000年に2台の日本専売モデルが突如として発売され、往年のファンは色めき立った。

アバルト500

 

さらに、2007年にはアバルトが正式に復活し、翌年には「アバルト500」が発売され、日本にも2009年に導入された。それから10年あまり、アバルトにもいよいよ電気の時代がおとずれた。

 

EVなのに排気音!「サウンドジェネレーター」のインパクト

アバルト500

 

全長3.6m台のコンパクトながらもグラマラスなボディに、鮮烈な「アシッドグリーン」のボディがよく似合っている。小さくても存在感はやけに大きい。

エンブレム

 

18インチアルミホイールやフロントバンパーはサソリの爪、白いリップスポイラーはサソリの脚と、いろいろなところにサソリがひそんでいて、両サイドのリアフェンダーにはEVであることをアピールするイナズマ状のスコーピオン・エンブレムが配されている。

車内

インテリアは随所にアルカンターラを用い、黒を基調にところどころにブルーやイエローのアクセントをあしらったインテリアも独特の雰囲気を見せている。

運転席

 

最大の注目ポイントが、「サウンドジェネレーター」だ。ガソリン車ならマフラーのある位置にスピーカーを付けて、そこから車外に向けてエキゾーストサウンドのような音を出すなんて、前例がないわけではないが、あまり聞いたことがない。これにはタマげた。その盛大なサウンドは車外はもちろん、車内にもよく響く。どのようなものかは、公式サイト内で試聴可能だ。

スピーカー

 

 

実はこの音、「レコードモンツァ」というアバルト伝統のハイパフォーマンスエキゾーストシステムを忠実に再現したものだ。開発チームが延べ6000時間以上もかけて仕上げたというだけあって、なかなか凝っていて味わい深い。もちろん排ガスは一切出していないが、あまりに印象に残る音なので、なんだかそれが信じられないぐらいの体験だ。

車

 

音と性能へのコダワリというのは、アバルトの伝統そのもので、往年のレース活動と並行して製造販売していたマフラーも非常に人気が高く、実に年間30万本規模で売れていたというからたいしたものだ。それだけアバルトのマフラーが高く評価されていたからにほかならないが、今回のサウンドジェネレーターは、そのDNAを電気で表現したものといえる。今後はこの印象的な音を街中で耳にする機会が頻繁にありそうな気がする。

 

オープントップならではの、爽快な走り

屋根を開いた時

 

EVで屋根が開くクルマというのはそうそうないが、カブリオレでオープンにすると、ドライバーと乗員もサウンドを満喫することができる。サイドのルーフが残るタイプで、全開にするとソフトトップが後ろに折りたたまれ、途中で止めても頭上が広く開くので、開放感は十分に味わえる。

ディスプレイディ

 

サウンドを出すかどうかは停車時に限り任意で選択できるようになっていて、走行中は設定できない。ディスプレイの設定画面に表示される「外部音」をONにすれば即座に音が出て、OFFにすると静かになる。当然のことなのだが、ずっとONで走っていたあとでOFFにすると、やけに寂しく感じられてしまった……。

 

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まるでターボのような味付けの、パワフルな走り

走行中

 

走りのほうもなかなか刺激的で印象深い。ベースであるフィアット500eはEVらしい静かでなめらかで力強い走りを実現していたが、こちらはかなり差別化されていて、アバルトらしさを全身でアピールしている。

走行中

 

アクセルを踏んだときの反応も痛快だ。発進時に空転したり、踏み込むとトルクステアが出たりするが、そのあたりはあえて楽しさの一環として確信的にやっているに違いない。踏み込むと、ターボが効いたかのような盛り上がり感のある加速の仕方をするあたりもアバルトらしい。もちろんワンペダルドライブも可能で、アクセル操作だけで加減速や停止ができるのも小気味いい。

充電中

 

CHAdeMOで急速充電するための専用の変換アダプターが標準装備されている。これは500eがCCS1という北米規格の急速充電口を装備したまま輸入されているためで、これまた世にふたつとないもので、独自に開発して完成にこぎつけたというのも恐れ入る。できればもう少しコンパクトになれば言うことなし。リチウムイオンバッテリーの容量は42kWhで、航続距離はカブリオレの場合294km(WLTCモード)だ。

 

 

ディスプレイ

 

アバルトの595や695といったガソリン車もとても楽しいことには違いないが、ひとクセあって乗り手を選ぶ面も見受けられるところ、500eは電気の力でいたって乗りやすく、フロアにバッテリーを積んでいるので重心が低い。

運転席

 

ガソリンモデルに対し、前後重量配分が57:43に改善するとともに、トレッドが60mm拡大されたことで、キビキビとしたハンドリングを安定した中で誰でも味わえるようになっている。足まわりは引き締まっていながらも、乗り心地はそれほど硬さを感じない。

 

楽しさと遊び心に溢れた、ユニークで革新的な一台

車体

 

その一方で、最新のEVとして求められる装備も充実している。先進運転支援装備についても、衝突被害軽減ブレーキやレーンキーピングアシスト、ブラインドスポットモニターなどという、ガソリン版のアバルトにはない最新のデバイスが搭載されているのもポイントが高い。

岡本さん

 

この刺激的な走りと音とデザインに、テンションが上がらない人などいない。クルマの下にスピーカーを付けるという発想を本当にやってしまうところも驚いたが、なくてもいいものにここまで一生懸命になるあたりも、さすがはアバルト。きっとアバルトの開発陣には面白い人が揃っていて、どうやったら楽しいかということばかり考えてるんだろうな、とつくづく思った。

 

撮影:茂呂幸正

 

〈スペック表〉
ABARTH 500e Turismoカブリオレ

全長×全幅×全高 3675mm×1685mm×1520mm
ホイールベース 2320mm
車両重量 1380kg
乗車定員 4名
モーター種類 交流同期電動機
モーター最高出力 114kW(155ps)/5000rpm
モーター最大トルク 235Nm/2000rpm
バッテリー容量 42kWh
一充電走行距離 294km(WLTCモード)
電費 158Wh/km
駆動方式 FWD
0-100km/h加速 7.0秒
最小回転半径 5.1m
サスペンション 前 ストラット、後 トーションビーム
タイヤサイズ 205/40R18(前後)
税込車両価格 645万円

 

※本記事の内容は公開日時点での情報となります

 

〈ギャラリー〉

 

この記事の著者
岡本幸一郎
岡本 幸一郎

1968年富山県生まれ。父の仕事の関係で幼少期の70年代前半を過ごした横浜で早くもクルマに目覚める。学習院大学卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作や自動車専門誌の編集に携わったのちフリーランスへ。これまで乗り継いだ愛車は25台。幼い二児の父。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。