HEV(ハイブリッド車)とは?PHEVとの違いやメリット・デメリットを解説

HEVとは

環境にやさしいエコカーのなかで、多くのユーザーにもっとも馴染み深いのがHEV(ハイブリッド車)です。とはいえ、HEVがどのような仕組みをもつ車なのか、はっきりわからない人もいるのではないでしょうか。そこでモータージャーナリストの鈴木ケンイチさん監修のもと、HEVの仕組みやPHEVとの違い、そのメリット・デメリットについてEV DAYS編集部が紹介します。

 

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そもそもHEVとは? PHEVとどこが違う?

車

画像:iStock.com/pictafolio

 

「環境にやさしい」「燃費がいい」といった漠然としたイメージのあるHEVですが、具体的にどのような特徴があり、どんな種類がるのでしょうか。PHEV(プラグインハイブリッド車)との違いを含め、最初にHEVの基本的な部分について解説します。

 

HEVの特徴を解説。なぜガソリン車より燃費がいい?

HEVとは「ハイブリッド・エレクトリック・ビークル」を略した言葉で、ハイブリッドは「異なる種類の合成物、複合」という意味です。車においては「動力の複合」を指し、エンジンとモーターという2つの動力を利用して走行する車をHEVといいます。

最大の特徴はガソリン車に比べて燃費性能がいいことです。

ガソリン車は減速するときにブレーキペダルを踏んで摩擦熱を発生させ、タイヤが回転する運動エネルギーを「熱エネルギー」に換えて大気に放出し、車を減速させます。加速に使ったエネルギーを熱に換えて捨てるためにムダが発生し、その後の再加速にまた燃料を使わなければいけないので燃費の悪化につながります

図

 

一方、HEVは摩擦ブレーキだけではなく、モーターで発電し、この発電時の抵抗により車を減速させます。モーターはアクセルを踏むと駆動力を生み出しますが、アクセルから足を離して減速するときは逆の力が働いて発電機になります。この力がタイヤの回転の抵抗になって車が減速する仕組みです。運動エネルギーを「電気エネルギー」に変換しながら減速するわけです。

図

 

変換された電気エネルギーは車のバッテリーに蓄えられ、モーターの動力源として活用されます。エネルギーを捨てずに電気に変換して「回」収し、走行に「生」かすことから、この仕組みは「回生ブレーキ」と呼ばれています

減速した後に再び速度を上げるときは、バッテリーに蓄えられた電気でモーターを動かして加速するため、ガソリン車のように再加速のための燃料が不要となり、その分燃費がよくなるのです。

 

 

動力の使い方によって違う、HEVの3種類の仕組み

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画像:iStock.com/dreamnikon

 

ひと口にHEVといっても、エンジンとモーターという2つの動力をどのように使用するかによって仕組みや役割が異なり、一般的には「パラレル方式」「シリーズ方式」「シリーズ・パラレル方式という3種類に分けて考えられています。

 

HEVの種類①パラレル方式

パラレル方式はエンジンとモーターの両方で走行する方式のことを指します。エンジンとモーターは構造上、効率よく走行できる得意な領域があり、たとえば40km/h定常走行などはエンジンにとって負荷が軽すぎるので燃費の面において得意な領域ではありません。

パラレル式

そのため、それぞれが得意とする領域でエンジンとモーターを使い分けるのがパラレル方式です。エンジンとモーターが、それぞれ車軸につながっています。

ただし、上り坂や急加速など、よりパワーを必要とする場面では両方が同時に動きます。なお、この方式はモーターの出力がそれほど大きくない車種が多く、エンジンの稼働時間が長くて燃費がさほど伸びないことから、現在は採用する車種が減少しています

 

HEVの種類②シリーズ方式

シリーズ方式はエンジンで発電した電気を使ってモーターだけで走る方式のことを指します。日産の「e-POWER」などに採用されていて、おもな車種に「ノート e-POWER」「セレナe-POWER」「エクストレイル e-POWER」などがあります。

シリーズ方式

 

パラレル方式が場面に応じてエンジンとモーターの両方で走行するのに対し、シリーズ方式ではエンジンは発電用に使われるだけで、モーターのみで走ります。パラレル方式がEVとガソリン車を合体させたようなイメージだとすれば、シリーズ方式はエンジンで動く発電機をEVに搭載したイメージかもしれません。

シリーズ方式は100%モーターで走行できますから、EVと同じような乗り心地を味わうことができるうえ、充電に必要なときだけエンジンを動かすのでガソリン車よりも低燃費です。

 

HEVの種類③シリーズ・パラレル方式

シリーズ・パラレル方式は「駆動用モーター」と「発電用モーターという2つのモーターを搭載するのが特徴です。この方式を採用するおもなHEVの車種に、トヨタプリウス」、ホンダフィット」などがあります。

パラレル方式

 

2つのモーターをもつため、(1モーターだけで走る2エンジンだけで走る3モーターで走りながらエンジンで発電機を回して充電する4走行用モーター・発電用モーター・エンジンをすべて使って走る、といった使い分けが可能です。

こうした使い分けは、それぞれの車種や走行状況、バッテリー残量によって設定が異なります。なお、パラレル方式よりもエンジンを休ませることができるため燃費性能の向上にもつながります。

 

 

現在はHEVのタイプを「2種類」に大別するのが主流

もっとも、最近はパラレル方式のHEVは少なくなり、そのかわり軽自動車などにシンプルな仕組みのマイルドハイブリッドが増えてきました。スズキ「ワゴンR」がその代表車種です。

マイルドハイブリッドとは、減速時に蓄えた電気を使って発進時や加速時にエンジンをアシストして燃費向上をはかる簡易的なハイブリッドシステムのこと。それに対して、モーターだけで走行できるシリーズ方式やシリーズ・パラレル方式をストロングハイブリッド」といいます。

こうしたことなどから、現在の自動車業界ではHEVを「パラレル方式」「シリーズ方式」「シリーズ・パラレル方式」の3種類に分けるのではなく、「マイルドハイブリッドストロングハイブリッド」の2種類に大別することが多くなっています。

 

 

同じハイブリッドでもHEVとPHEVはここが違う

車

画像:iStock.com/nrqemi

 

エンジンとモーターの2つを利用して走行する車には、ほかにPHEVもあります。PHEVもHEVの一種ですが、HEVが外部からの充電ができないのに対し、PHEVは外部からの充電ができるなど、同じHEVでも両者には大きな違いがあります。

〈図〉HEVとPHEVの違い

図

 

PHEVという略称の頭にある「プラグイン」は、EVと同じようにプラグを挿して外部からの充電ができるという意味です。HEVに比べると格段に容量の大きいバッテリーを搭載し、満充電にすれば日常使いはほとんどエンジンを回さずEV走行でまかなえるため、その分ランニングコストを安く抑えることが可能になります。

自宅や勤務先などに充電設備があれば、わざわざガソリンスタンドに立ち寄る頻度もかなり少なくなるでしょう。その車種のバッテリー容量やEV走行距離などにもよりますが、遠出をしなければほぼEVとして乗れるのもHEVと大きく異なる点です。

 

 

HEVのメリットを3つのポイントで紹介

車

トヨタ「プリウス Z(HEV,2WD)」

 

具体的にHEVを選ぶこと・乗ることにはどのようなメリットがあるのでしょうか。おもにPHEVと比較したときのHEVのメリットについて、3つのポイントに絞って紹介します。

 

メリット①PHEVよりハイブリッド燃費がいい

HEVの代表車種のひとつであるトヨタ「プリウス」のHEVとPHEVを比べてみると、HEVの燃費が28.6km/L19インチタイヤ装着車、WLTCモードなのに対し、PHEVのハイブリッド走行時は26.0km/L19インチタイヤ装着車、WLTCモード)となっています1)

これはPHEVが容量の大きいバッテリーを積んでいるため、HEVより車両重量が150kg程度重くなっていることが原因と考えられます。ただし、EV走行のみでPHEVを使った場合は燃費(電費)を単純比較できませんので、参考程度に考えてください。

 

 

メリット②PHEVより車両価格が安い

同じくトヨタ「プリウス」の「Z」グレードを例に車両価格を見ると、PHEVの車両価格は460万円で、HEVはFF仕様で370万円です(いずれも税込み)1)。単純に車両価格だけを比べた場合、HEVよりPHEVのほうが90万円も高いことになります。

ただし、PHEVは国の補助金対象車両となっていて、補助金上限額は55万円です。ほかにもPHEVは自動車税などさまざまな税制優遇措置を受けることができます。

 

参考資料
1)トヨタ「プリウス」

 

 

メリット③PHEVより車種の選択肢が多い

PHEVとの比較で考えた場合、車種の選択肢が多いこともHEVの大きなメリットでしょう。国産車のPHEVは全メーカーを合わせても10車種程度ですが、HEVは高級ミニバンからSUV、コンパクトカー、軽自動車にいたるまで全カテゴリーにラインナップされています。車選びにおいて選択肢の多さは非常に重要です。

 

 

️HEVのデメリットを3つのポイントで紹介

トヨタ

トヨタ「カローラ ハイブリッド W×B (2WD)」

 

しかし、ガソリン車と比べるなど、見方を変えればHEVにもデメリットがあります。ガソリン車やPHEVと比較したときのHEVのデメリットについて、3つのポイントで紹介します。

 

デメリット①ガソリン車より車両価格が高い

大衆車の代表車種のひとつ、トヨタ「カローラ」のスタンダードモデルである「X」グレードを例に車両価格を見ると、2WDのHEVが238万円なのに対し、2WDのガソリン車は199万円(いずれも税込み)と、両者には40万円近い価格差があります2)

もちろん価格差は車種によりますが、全般的にガソリン車よりHEVの車両価格のほうが高い傾向にあるのはたしかでしょう。

 

 

デメリット②車重が重く「加速・減速」に不利

車は車両重量が軽ければ軽いほど小さなエネルギーで動かせるので燃費がよくなり、「加速する」「減速する」「曲がる」といった車のコントロールがより軽快になります。

その点、バッテリーなどのハイブリッドシステムを搭載するHEVはガソリン車より車両重量が重くなる傾向があります。トヨタ「カローラ」の「X」グレードで車両重量を比較すると、2WDのHEVが1330kgなのに対し、ガソリン車は1230kgと両者には100kgの差があります2)

加速する」「減速する」「曲がるといった走行性能に関していえば、重い分だけHEVは物理的に不利になるわけです。

 

参考資料
2)トヨタ「カローラ」

 

デメリット③PHEVより環境性能がよくない

モーターのみで走行できるストロングハイブリッドのHEVであっても、PHEVよりバッテリー容量が小さい分、EV走行距離が短くなります。エンジンで走る距離が長くなれば、走行中はその分だけCO2二酸化炭素等を排出するので環境に悪影響を与えます。エコカーである以上、この点もデメリットといえるでしょう。

 

 

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HEVに「向いている人」と「向いていない人」

キャンプ

画像:iStock.com/FatCamera

 

HEVに向いているかどうかは生活環境やライフスタイルで変わります。たとえば、PHEVは高速道路のSAや公共施設などに設置されている急速充電器に非対応の車種も多く、EVに比べるとバッテリー容量や急速充電の最大受入能力も小さい傾向にあります。自宅に充電器を設置できない人がPHEVに乗るのはメリットが少ないので、その場合はHEVを選ぶほうがいいでしょう。

家族や友人とキャンプなどに出かけるのが趣味で、自宅に充電器を設置できるのなら、PHEVが選択肢のひとつになりえます。国産メーカーのPHEVはほとんどの車種にAC100Vの1500Wコンセントが装備され、外部に給電することができるため、アウトドアシーンなどに幅広く活用できるはずです。

HEVにもコンセントを備える車種がありますが、PHEVのようにキャンプ場でエンジンを停止したまま長時間外部に給電することはできません。このように、自宅などに充電環境があり、機能をピンポイントで使える人はPHEVに向いているといえます。

逆にいうと、こうした条件に当てはまらず、また「日常使い以外に車の用途がない」「数多い選択肢のなかから好みの車種を選びたいといった人はHEVに向いています。ユーザーを選ばない「手の出しやすさ」は、HEVの大きな魅力のひとつです。

 

 

HEVに補助金やエコカー減税は使えるの?

 

最後にHEVに適用される補助金や税制優遇措置を簡単に紹介します。EVやPHEVに利用できる国の補助金はHEVにはありませんが、エコカー減税、環境性能割は基本適用され、燃費などの環境性能によって税率が有利になります3)

〈表〉HEVに適用される税制優遇措置

  補助金 エコカー減税 環境性能割 グリーン化特例
HEV × 車種による 車種による ×
PHEV 免税 非課税 75%減税
EV 免税 非課税 75%減税

 

自動車重量税などの費用は、車の保有期間にかかる総コストで見ればけっして小さい金額ではありません。こうした税制優遇措置が受けられる点もガソリン車にはないHEVのメリットです。

 

 

 

HEVは環境性能と買いやすさを両立するエコカー

 

残念ながらEVの車両価格はまだ高く、「本当はEVに乗りたいけど、価格が高くて手を出せない」というユーザーはたくさんいることでしょう。その一方で、環境にやさしい車に乗りたい、エネルギーをムダにしたくないという人もまた数多くいます。

そうしたなかで環境性能と価格面での手の出しやすさを両立しているのがHEVです。普通車の燃料別販売台数(乗用車)を見てもガソリン車よりHEVのほうが売れており4)、EVやPHEVとともにあらためてHEVの価値が見直されていることがうかがえます。

充電環境やコスト面などでEVやPHEVに乗ることができない人にとって、当面の間はHEVが有力な選択肢となるでしょう。

 

※本記事の内容は公開日時点での情報となります

 

 

この記事の監修者
鈴木 ケンイチ
鈴木 ケンイチ

1966年生まれ。茨城県出身。國學院大学経済学部卒業後、雑誌編集者を経て独立。レース経験あり。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。