MINIクーパーSE。EVになって生まれ変わった、名車の系譜

トヨタ・クラウンスポーツ。長い歴史をひもときながら、最新のプレミアムスポーツPHEVの魅力を伝える

MINIといえば、世界中で多くのファンを持つ、コンパクトカーブランドの名門中の名門です。キビキビ走るゴーカート・フィーリングで、EVにも打って付けと思われるかもしれませんが、意外にも日本で発表されたのは2024年になってから。満を持して日本に導入されたMINIクーパーSEを、モータージャーナリストの片岡英明さんがその歴史を交えてレポートします。

 

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クルマ好きでなくても知っている名門ブランドが「MINI」である。イギリスのブリティッシュ・モーター・コーポレーション(BMC)の会長だったサー・レオナード・ロードがギリシャ系イギリス人のアレック・イシゴニスを開発責任者に抜擢し、1959年9月に衝撃的なデビューを飾った。BMC社内の呼称はADO No.15で、オースチンとモーリスの両メーカーから兄弟車を発売する。

BMCはオースチンとモーリス、2つのブランドでMINIを送り出した。写真は初期のモーリス・ミニマイナーで、デラックス仕様はウィンドウやサイドシルなどにクロームを施し、見栄えをよくしている。

 

MINIは革新的なパッケージングとメカニズムによって大人4名が無理なく座れるファミリーカーに仕立てられた。それを可能にしたのは、フロントに直列4気筒エンジンを横置きに配置し、トランスミッションをその下に二階建てに組み込む独創的なレイアウトを採用したからだ。駆動方式は、時代を先取りしたFWD(フロント・ホイール・ドライブ=前輪駆動)である。

 

多くの人を魅了して大人気に。そして誕生した高性能モデル

愛らしいデザインだったこともあり、多くの人が飛びついた。好調に販売を伸ばしたから、BMCはMINIのバリエーションを増やしていく。イシゴニスが目をつけたのは、MINIの高性能バージョンだ。MINIを愛車にしていたジョン・クーパーに開発を依頼した。ミッドシップ方式のクーパーをF1グランプリに持ち込んで優勝し、F1の世界を大きく変えたのがジョン・クーパーである。彼はファインチューニングしたMINIをBMCの工場で生産することに成功した。そして1961年6月に発表したのが「ミニ・クーパー(MINI COOPER)」だ。848ccエンジンに換えて997ccエンジンを搭載し、SUツインキャブレターや強化サスペンション、前輪ディスクブレーキなどを組み込んだミニ・クーパーは、発売されるや予想を大きく上回る販売台数を記録。瞬く間にMINIを代表する車種に成長している。

いち早く2ボックスデザインに前輪駆動を組み合わせ、コンパクトサイズだが、広いキャビンを実現した。リアにはトランクも備えている。ゴーカート・フィーリングの切れ味鋭い走りも大きな魅力だった。

 

そこで1963年4月、BMCは1071ccエンジンを積む「クーパーS」を発売。さらに高性能化を図るために排気量を1275ccに拡大した「クーパー1300S」へと発展させている。車両重量は635kgと軽かったからモータースポーツの世界でも大暴れした。レースやラリーではライバルを蹴散らし、雪のステージで行われるモンテカルロ・ラリーでも3度の勝利を収めている。ベース車のMINIは1967年に「マークⅡ」へと進化し、1969年には「マークⅢ」へと発展した。

紆余曲折を経て、ドイツのBMWがブランドを再構築

1976年に日本での販売を打ち切ったが、1981年に日英自動車が名乗りをあげ、正規ディーラーとなっている。BMCはBLMCに社名を変え、1982年に「オースチン・ローバー」を名乗った。そして1989年に「ローバー」に社名変更。ファミリー系モデルだけに絞っていたが、1990年にクーパーSをオマージュした「クーパー1.3」を限定販売している。基本設計が古いからイギリスでは脇役だった。が、日本では熱いファンに支えられ、安定して売れ続けたのである。デビューから35年の節目となる1994年、ローバーグループがドイツのBMWに買収されることが発表された。しかし、その後も意欲的に特別仕様車などを加え、1999年には40周年記念車も送り出している。だが、21世紀を前にした2000年10月4日、惜しまれつつ生産を終えた。

BMWグループのブランドとしてMINIが復活するのは2001年。日本には2002年3月に上陸し、発売された。クラシックミニをモチーフにしたデザインが特徴だが、リアはハッチゲートとしている。フラッグシップのクーパーSは、1.6ℓエンジンにスーパーチャージャー組み合わせだ。 ボンネットにはエアスクープが付く

 

その後継モデルはBMWが独自で開発を行っている。2001年に発表したのが新世代のMINIだ。クラシックMINIを思わせるルックスの3ドアハッチバックとコンバーチブルを設定し、高性能版のクーパーとクーパーSのグレード名も復活させた。ボディが大きくなったから、1598ccの直列4気筒DOHCエンジンを積み、トランスミッションは無段変速機のCVTが主役だ。ニューMINIは2006年に2代目にバトンを託し、バリエーションを一気に拡大。ワゴン感覚の「クラブマン」やSUV感覚の「クロスオーバー」、「JCW(ジョン・クーパー・ワークス)」、オープンの「ロードスター」などが誕生する。3代目ニューMINIのデビューは2013年だ。5ドアモデルを積極的に増やし、利便性を向上させた。エンジンの種類が増え、扱いやすいディーゼルターボ搭載車が登場したのもトピックのひとつだ。

 

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第4世代MINIに、待望のEVが登場

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ニューMINIの第3世代は10年にわたって第一線で活躍し、2023年に第4世代へとバトンタッチしている。この先「MINI」ブランドは、内燃機関モデルを廃止する予定だ。バッテリーEV(電気自動車)を充実させ、2030年代初頭までにはEVブランドとして次のステージに上がることを目指している。第4世代のニューMINIは「クーパー」を名乗り、日本では2024年春から販売を開始した。だが、まだバリエーションが少ないため、今の段階では先代も併売の形をとっている。最初に4代目に移行したのは、主役の3ドアモデルだ。ガソリンエンジンはターボ搭載車だけの設定で、2.0L直列4気筒DOHCと1.5L直列3気筒DOHCの2モデルを設定した。

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だが、4代目ニューMINIのハイライトは、MINIの量販モデルとしては日本初登場となるバッテリーEVだ。3ドアの「クーパーE」と上級の「クーパーSE」の2グレードを用意している。エクステリアは誰が見てもMINIとわかる明快なデザインを継承した。が、プラットフォームはエンジン車と別物で、ホイールベースも30mm長い2525mmだ。また、エンジン車と似せながら微妙にフロントビューなどを変えている。差別化を図っているのは生産工場の違いもあるだろう。エンジン車はイギリスのオックスフォード工場製だ。これに対しMINIの3ドアEVはBMWが中国で設立した長城汽車との合弁会社である光束汽車の張家港工場製である。ちなみにMINIカントリーマンのEVは、BMWのiX1とiX2のアーキテクチャーを使っているため、生産を行っているのはドイツのライプツィッヒ工場だ。

フラットでクリーンなデザイン言語。新時代のMINIのたたずまい

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MINI3ドアEVのフロントマスクは、ラジエターを必要としないEVらしいフラットなパネルを用いたキュートな顔つきとした。エンジン車とはボンネットやバンパーが異なっており、専用の設計だ。見切り線やグリルを見ればわかるように、エンジン車とは微妙に異なっている。ヘッドライトは丸形を継承するが、LEDのデイタイムランニングライトは円形リングに2本の横バーが加えられた。また、発光パターンは3種類から選ぶことが可能だ。

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リアビューもMINIらしいデザインだが、リアコンビネーションランプは三角形デザインになり、両側を「COOPER S」のネーム入りのガーニッシュで繋いでいる。サイドビューではドア前のエンブレムが整理された。ドアハンドルも空気抵抗を考えてかフラットなフラップ式に変更されている。EVの充電口は、運転席側が普通充電だ。助手席側には急速充電の給電口を設けている。

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インテリアは、新型になってもMINIらしいデザインだし、地球環境に配慮してリサイクル材などを数多く採用した。ダッシュボードはシンプルだが、目の前にある布地の質感、手触りとも心地よく、スイッチなども機能的なレイアウトだ。フロントウインドー近くにスピードメーターなどを組み込んだ小型のディスプレイを置き、センターには240mm径の大きな円形有機ELディスプレイを配している。

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GoogleとBMWが共同開発したAndroidベースの「MINIオペレーティングシステム9」も注目の装備だ。ドアだけでなくインパネまわりも透過させ、その色味をオーナーの好みによって変えられるアンビエントライトの演出も上手だった。ステアリングはBMWらしい太めのグリップ感で、慣れると手に馴染む。6時の位置に伸びた布製ベルトも新鮮な感覚だ。

 

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コンパクトなサイズは日本の道でも取り回し良好

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キャビンは前席優先で、大人だと後席はミニマムな空間である。2+2的なパッケージだし、ラゲッジルームも210Lの容量にとどまる。

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後席の広さと快適性にこだわる人はMINIカントリーマンのEVを選ぶか、いずれ登場するであろう5ドアを待ったほうがいいだろう。

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だが、MINIにはMINIの世界観があり、これは唯一無二の存在なのである。全長は4mの大台を切っているし、全幅も日本の道路で運転しやすい1755mmだ。もちろん、立体駐車場にも無理なく入れることができる。

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MINIのEVは、前輪を駆動するFWDだけの設定だ。フロントに搭載されるモーターは、クーパーSEでは160kW/330Nm(218ps/33.7kgf・m)を発生する。スタータースイッチは中央の丸形のパネルにあり、これを捻って起動するが、MINIファンにはうれしい演出だ。MINIエクスペリエンス・モードと名付けられた走行モードは、ミニの売りであるゴーカート感覚の走りを楽しめるレスポンスの鋭い「ゴーカート」などに切り替えられるし、擬似的な排気音を出すこともできる。ディスプレイの表示も多機能だ。エコで高効率ドライブを引き出せる「グリーン」モードもあるが、守備範囲が広く走りも楽しいのは「コア」モードだ。アクセルを踏み込むと、滑らかさとパワーの伸び感が際立って力強く感じられた。車両重量は1.7tに迫るが、速い流れを難なくリードでき、混んだ道でのドライバビリティも良好だ。スイッチ操作で回生ブレーキの強弱も簡単に変えられる。さらに刺激的な加速フィールとダイレクト感覚を満喫したいなら「ゴーカート」モードがいい。

 

キビキビと走るゴーカート・フィーリングは健在

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もちろん、その気になれば停止から100km/hまで6.7秒の俊足だから高速道路のランプ進入なども難なくこなす。「ゴーカート」モードで急加速するとトルクステアを感じ、タイヤが悲鳴を上げるほどパワフルだ。が、普段はジェントルである。遮音材をふんだんに用いていることもあり、クルージング時の静粛性も驚くほど高かった。

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歴代のMINIはクイックなハンドリングを売りにし、俊敏な走りを身につけていることから「ゴーカート・フィーリング」と呼ばれている。車高と重心が低いし、重さも有利に働いているからコーナリング時の安定感は文句なしだ。路面に吸い付いたように感じられるし、狙ったラインに難なく乗せることができる。新たに加わったEVは新感覚のゴーカート・フィーリングと言えるだろう。引き締められたサスペンションによってキビキビと意のままに走ってくれるが、乗り心地も悪くないのである。さすがに段差が大きいとガツンとくるが、ほとんどの路面でショックをしなやかに受け流した。動的な質感は大きく向上し、操舵フィールと制動フィールも洗練されている。

 

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350kmは余裕で走れる。実用的なコンパクトEV

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気になるバッテリー容量は54.2kWhで、日本のWLTCモードでの一充電走行距離は446kmだ。ヨーロッパの認可数値であるWLTPモードでの一充電走行距離は402kmとなっている。今回は、300kmほど走って平均6.8km/kWhの電費を記録したから、一般的な乗り方なら安心して350kmは走れるはずだ。高速道路を空走状態で電費を稼ぐコースティングのマネージメントも上手だった。BMWはEVに関して経験豊富だから、バッテリーの冷却マネージメントもうまいと感じる。

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ちなみに、最高出力などを抑えたエントリーグレードの「クーパーE」は、バッテリー容量が40.7kWhで一充電走行距離は344kmだ(※)。あまり遠出をしない人ならクーパーEでも満足度は高いだろう。急速充電は高出力に対応しているし、普通充電は11kWまでの出力に対応している。小粋なEVを探している人にとっては魅力的なコンパクトEVの登場だ。

 

※クーパーEのスペック表はこちら

 

撮影:宮越孝政

 

〈スペック〉
MINI COOPER SE

全長×全幅×全高 3860mm×1755mm×1460mm
ホイールベース 2525mm
最低地上高 124mm
車両重量 1640kg
モーター種類 交流同期電動機
モーター最高出力 160kW(218ps)/7000rpm
モーター最大トルク 330Nm/1000〜4500rpm
バッテリー容量 54.2kWh
総電圧 398.2V
一充電走行距離 446km(WLTCモード)
電費 133Wh/km(WLTCモード))
駆動方式 FWD(前輪駆動)
最小回転半径 5.1m
乗車定員 4名
サスペンション 前 ストラット、後 マルチリンク
タイヤサイズ 前後 205/50R17(撮影車は225/40/R18)
税込車両価格 531万円

 

※本記事の内容は公開日時点での情報となります

 

〈ギャラリー〉

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この記事の監修者
片岡 英明
片岡 英明

1954年、茨城県生まれ。自動車専門誌で編集に携わった後、独立してフリーのジャーナリストに。新車のほか、クラシックカーやEVなどの次世代の乗り物にも興味旺盛で、イベント参加することも多い。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。