SOCとSOHとは?定義の違いやバッテリー性能低下の原因を解説

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電気自動車(EV)に乗り始めると、ガソリン車では使わなかった耳慣れない用語に触れる機会が増えます。そのひとつが、EVの駆動用バッテリーの状態を客観的に示してくれる「SOC」と「SOH」です。2つの用語の意味と違い、バッテリー性能が低下する原因、推定方法などについて解説します。

 

 

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【図解】「SOC」や「SOH」って何?

EVの駆動用バッテリーは走行するための動力源となる最重要パーツです。そのバッテリーの状態を数値で示してくれるSOCSOHは、普段から意識して使う言葉ではありませんが、EVユーザーなら知っておくべき用語といえるでしょう。最初にそれぞれがどのような意味なのか、どう違うのかについて解説します。

 

SOC(State Of Charge)とは?

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画像:iStock.com/ Blessed Graphic

SOCは「State Of Charge」の略称で、充電率や残容量とも呼ばれています。EVの駆動用バッテリーに充電されている電力量を比率で示したもので、満充電状態を「100%」、最大容量の半分の状態を「50%」、完全な放電状態を「0%」と表します。

ガソリン車の燃料計の代わりとして、EVには運転席前のメーターパネルに、バッテリー残量が電池のアイコンとともにパーセント単位で表示されます。充電率と言ってわかりにくい場合、このバッテリー残量をイメージするといいでしょう。

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日産「リーフ」のメーターパネル。左下に「30%」とあるのがバッテリー残量。

ただし、正確には「SOC=メーターパネルに表示されるバッテリー残量」となっていないのが実情です。

本来、満充電状態は100%、完全な放電状態は0%ですが、自動車メーカーはバッテリーの劣化防止や安全性などを考慮し、ある程度のマージン(不使用域)を上下に取ったバッテリーのマネジメントを行っています。たとえば本来の90%を満充電状態(100%)に、10%を完全放電状態(0%)と表示するなど、バッテリーを製造したメーカーより少ない範囲で充放電量を設定します。

そのため、メーターパネルのバッテリー残量は、たとえば10〜90%を100等分した比率などになるわけです。

〈図〉SOCのイメージ

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【用語確認はこちら!】
▶︎EVライフ用語辞典「SOC」

 

SOH(State of Health)とは?

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画像:iStock.com/Olemedia

 

SOHは「State of Health」の略称で、バッテリーの健全度や健康度と訳されています。駆動用バッテリーがどれくらい劣化しているかを“新品の満充電”と“劣化時の満充電”の容量比で表したものです。

たとえば、新品満充電のバッテリー容量を「100%」とした場合、仮にSOHが「80%」なら、充電できる容量が新品時に比べて「20%」低下しているということになります。

〈図〉SOHのイメージ

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ただし、メーターパネルに表示されるバッテリー残量で目安がつくSOCと異なり、SOHは一般的に表示されません。

駆動用バッテリーは充放電中に化学反応を起こし、それにより“新品の満充電”に比べて容量がじわじわと減少するなど、少しずつ変化します。

そのため、ドライバーも「最近、1回の満充電で走行できる距離が短くなった」「以前に比べて満充電になるまで時間がかかる」といったことが増えた場合に、ぼんやりとSOHを意識するケースが多くなります。

 

【コラム】日産のEVはSOHを“目で”確認できる!

EVのなかには日産の「リーフ」「サクラ」「アリア」のように、バッテリー容量計がメーターパネルに表示されるものもあります1)

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日産「サクラ」のメーターパネルに表示されたバッテリー容量計

 

写真のように、日産の3車種では、バッテリー容量計に目盛りが刻まれ、容量が12のセグメントに分かれて表示されます。容量が低下するとセグメントが右側から順に減少していきます。いわゆる「セグ欠け」です。このバッテリー容量計により、ドライバーはSOHをある程度把握したり意識したりすることができるわけです

なお、日産はバッテリー容量保証についてもセグメントを基準とし、「正常な使用条件下において新車登録から8年間または160,000kmまでのどちらか早い方において、アドバンスドドライブアシストディスプレイのリチウムイオンバッテリー容量計が9セグメントを割り込んだ(=8セグメントになった)場合に、修理や部品交換を行い9セグメント以上へ復帰することを保証しています」と謳っています2)

 

 

【用語確認はこちら!】
▶︎EVライフ用語辞典「SOH」

 

SOCとSOHはどういう点が違うの?

上記の説明では「SOCとSOHの違いをよく理解できない」という人もいるかもしれません。その場合、「走行できる距離」というキーワードをもとに違いをイメージしてみるといいでしょう。

簡単にいえば、SOCの低下は「現在の充電量で走行できる距離が短くなる」ということを示し、SOHの低下は「新車時に比べて1回の満充電で走行できる航続距離が短くなる」ことを表しています。

 

〈図〉SOCとSOHの違いのイメージ

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SOHを比較する時期は、購入時でも1年前でも問題ありません。外気温や使用する場所など、同じ条件で走行したときに「航続距離が短くなった」と感じることが多くなったとすれば、SOHが低下した可能性が考えられるでしょう。

 

 

SOCやSOHを低下させる原因を解説!

SOHが低下すると、単純に1回の満充電で走行できる航続距離が短くなるだけでなく、故障などにつながる可能性もあります。こうした低下はどのような原因で起こるのでしょうか。

 

SOC低下を早める2つの原因

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画像:iStock.com/ SimonSkafar

 

SOCはもちろん走れば走るほど減っていくものですが、それ以外にも低下を早める要因があります。走行時は“放電反応”と呼ばれる化学反応が電池内部で起こっていますが、外気温はその反応に影響を与えます。外気温が極端に高かったり低かったりする場合、SOC低下が早まる原因になります。

なお、バッテリーを効率の良い温度に保つため、EVにはバッテリークーラーやバッテリーヒーターが一般的に備わっています。ただし、バッテリーの温度調節にも電力を使用することになり、どちらにしても外気温の影響は受けることになります。

また、急速に放電する(急加速する)とバッテリーが発熱し、同様に化学反応に影響を与えてしまいます。急加速を繰り返すような乗り方はSOCの低下を早めます電費が悪化します)ので注意しましょう。

 

 

SOHを低下させる3つの原因

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画像:iStock.com/kool99

 

SOHの低下は、外気温や車両の保管場所などの使用環境、急速充電の多用、完全充放電の繰り返しなどが大きく影響します。なかでも0〜100%の充放電はバッテリーの負担が大きくなります

たとえば、バッテリー残量が0%になるギリギリまで走行し続ける過放電に近い使い方はSOHに悪影響を及ぼします。バッテリーの劣化を防ぐ意味でも、なるべくバッテリー残量が0%になるまで完全に使い切らないようにしたほうがいいでしょう。

また、満充電状態での長期保管も、バッテリーへの負担が大きくなります。充電は使用する直前に行い、使用する予定が長期間ない場合には、SOCを50〜70%ほどにしておくとバッテリーの劣化を遅らせることができます。

もっとも、バッテリー残量50%前後で運用していても、充放電自体の回数が増えていけば急速充電の多用や0〜100%の充放電の繰り返しと同じことが起こります。さまざまな要因が重なり、そうやって少しずつ変化していくのがSOHの低下という現象です。

 

 

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バッテリーの状態を示すもうひとつの指標

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画像:iStock.com/ Thaweesak Saengngoen

 

バッテリーの状態を示す「State Of〜」と名がつく指標はSOCとSOHだけでなく、ほかにもあります。そのなかから、ドライバーが比較的体感しやすい「SOP」という指標を紹介しましょう。

 

ドライバーが比較的体感しやすい「SOP」とは?

 

SOPは「State of Power」の略称で、バッテリーの充放電可能電力や充放電速度などのパワー(電力)を示す指標のことです。

電力(W)は電圧(V)×電流(A)で表し、SOCが低下すれば電圧が下がり、SOHが低下すれば一度に吐き出せる電流値が下がります。そうなるとアクセル開度を大きくしないと以前と同じ加速が得られなくなり、これを指標的に示すのがSOPです。

 

〈表〉駆動用バッテリーの状態を示すおもな指標

SOC(State Of Charge) バッテリーの充電率・残容量
SOH(State of Health) バッテリーの健全度・健康度
SOP(State of Power) バッテリーの充放電可能電力

 

アクセルの踏み込みに対する加速力という点では、SOHよりドライバーが実際に体感しやすい指標といえるかもしれません。

 

SOCやSOHはどうやって推定する?

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画像:iStock.com/ Natnan Srisuwan

 

駆動用バッテリーの状態は分解してみなければ、正確なところはわかりません。しかし、データをもとに推定することは可能です。実際、EVに搭載されているバッテリー・マネージメント・システム(BMS)で推定が行われていますが、その方法をSOC・SOHそれぞれ2つずつ簡単に紹介します。

 

SOCの推定に用いられる2つの方法

 

駆動用バッテリーのSOCを推定する方法には、大きく分けて「電圧法(放電テスト)」と「クーロン・カウンティング法」の2つがあります3)。このうち電圧法はどれくらいバッテリーのセルの電圧が低下しているかについて、放電容量を求めて調べる方法です。

クーロン・カウンティング法は、バッテリーに出入りする電流量(電荷量)を計測することにより推定する方法です。クーロン・カウンティング法のほうが電圧法よりも正確性が高く、SOCの推定方法として一般的とされています。

 

SOHの推定に用いられる2つの方法

 

SOHを推定するには、おもに「バッテリーサイクル数に基づいたSOHの計算」と「充電容量に基づいたSOHの計算」の2つの方法があります。前者は、バッテリー残量0%の完全な放電状態から満充電状態にし、再び0%になるまでを1サイクルとカウントして、何サイクルしているかでバッテリーの健全度を推定する方法です。

後者はバッテリーが受け入れ可能な電力量からSOHを推定する方法です。このほかにもSOHを推定するさまざまなやり方がありますが、国内ではこの2つが一般的な方法とされます。

なお、SOC・SOHの推定にはバッテリー診断機などの設備が必要となりますので、バッテリーの状態が気になる方はそうした設備をもつ正規ディーラーや整備業者に相談してみるといいでしょう。

 

 

 

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充電率30〜80%の余裕をもったEVライフを楽しもう

EVのメーターパネルに表示されるバッテリー残量は厳密なSOCではないとはいえ、十分に目安になります。また、SOHを低下させないためには完全な放電状態にするのを避けるべきです。

電欠を回避する意味でもバッテリー寿命を延ばす意味でも、日々の充電は30〜80%の範囲内で運用し、なるべく急速な放電などをしないようにするのがおすすめです。SOCとSOHの低下に注意しながら、余裕をもったEVライフを楽しみましょう!

 

※本記事の内容は公開日時点での情報となります

この記事の監修者
森修一
森 修一

一般社団法人日本EVクラブ理事、拓殖大学 工学部 機械システム工学科 助手。1970年代から環境エネルギー問題に興味を持ち、学生時代「水素エンジンのターボ過給」の研究に携わるも、1994年日本EVクラブのイベント参加を機に、EVへのコンバートにのめりこみ、以来トヨタスポーツ800をはじめトヨタ2000GTなど7台をEVにコンバート、電動レーシングカート10数台を製作し、これらの電気自動車を使ったイベントの開催にも携わっている。これらの経験を若者に伝えるために2012年、メーカー系自動車大学校に日本初の電動車両を専門に学ぶ、スマートモビリティ科を設立。国家1級小型自動車整備士。