世界中のマーケットで注目を集めている中国製EVのなかでも、BYDは頭ひとつ抜きんでた注目メーカーといえます。そんなBYDのSUVの「ATTO3」とコンパクトカーの「DOLPHIN」に続く第3弾として日本に導入されたのがスポーツセダンの「SEAL」です。はたしてその実力は?モータージャーナリストの岡本幸一郎さんがレポートします。
このところ急速に日本でも知名度を高めている「BYD」の“本命”である「SEAL」が、ついにやってきた。本国では2022年にローンチされており、すでにグローバルでの販売もかなりの台数にのぼっているらしく、価格が528万円~と比較的リーズナブルながら、見た目も走りもなかなかの実力の持ち主というから、気にならないわけがない!
好感度の高い有名女性俳優さんが出演するテレビCMが目にとまり、どんなものかと興味を持ってディーラーを訪れたという人が多いらしいが、その気持ちはよくわかる(笑)。
「BYD」という社名は「Build Your Dreams」の頭文字を取ったものだ。その日本向けの第3弾となるDセグメントの高性能セダンの「SEAL」がついにやってきた。2022年のローンチから日本に上陸するまでに、すでにグローバルで23万台も売れたというからかなりの人気ぶりだ。
実は自動車メーカーとしての歴史は長くない。もともとは創業者の王伝福が1995年に起業したバッテリーメーカーだったところ、そのノウハウを生かし、バッテリーから車体までを自社で一貫して開発・製造できることを強みに自動車事業に参入したのが2003年のことだ。以降、新興のメーカーながら驚異的な伸長を遂げてきた。2023年には300万台以上のEV・PHEVを販売し、新エネルギー車の分野で世界1位を2年連続して獲得したほどだ。
日本市場については、2022年7月に参入する旨を大々的に発表するや、2023年1月に正規販売店の1号店をオープンし、ほどなく2台のEVを発売した。
BYDには中国の歴代王朝の名を冠した「王朝シリーズ」と海洋生物の名を冠した「海洋シリーズ」のふたつのシリーズがあり、SEALは後者のフラッグシップのスポーツセダンという位置づけとなる。それではSEALとは何かと思えば、アザラシだというからちょっと驚いた。皮膚の黒い斑点が豹に似ていることから、中国では「海豹」と呼ばれているそうだが、我々にとってはどちらかというとかわいらしいイメージのアザラシが、中国ではもっと精悍(?)なイメージで受け取られているのか、SEALはなかなかスタイリッシュだ。
イマドキっぽいスラントしたノーズに流麗なルーフライン、ディフューザー形状のリアバンパーなどにより、空気抵抗を示すCD値はわずか0.219と聞いて驚いた。極めて良好な数値だ。フロントのイルミネーションは海の波、テールライトは空と海の広大さを表現していて、リアにはシーケンシャルウインカーが配されている。
意外と広々とした室内と、至れり尽くせりの充実装備
ブラックで統一されたインテリアのデザインとクオリティ感もなかなかのものだ。まずは見た目が大事とばかりに、変化に富んだ躍動感のある形状とするとともに、随所にバックスキンを用い、ステッチを施して質感を高めている。
インパネの中央には、BYDお得意のワンタッチで縦にも横にも回転可能なディスプレイが、もちろんSEALにも装備されている。シーンに合わせて向きを選べるのは、面白いだけでなく、たとえばカーナビで遠くまで表示したいときには縦にするなど機能的にも便利だ。
サイズは15.6インチと大きく、カーナビやカメラの画像やインフォテイメント系の表示のほか、ステアリングの重さや回生ブレーキの強さなど走りに関する設定も調整できて、ディスプレイにいろいろな機能が集約されているのもイマドキっぽい。右ハンドルの輸入車でウインカーレバーが右側にあるのもありがたい。
クーペのようにスタイリッシュなフォルムでありながら、3m近いホイールベースも効いて前後席間距離は長く、後席の居住スペースも十分に確保されている。
さらには広大なパノラマルーフのおかげでどの席に座っても開放感を満喫することができる。後席には幼児置き去り検知システムが装備されているのも心強い。
ワンタッチで開閉可能なテールゲートの下には400リットルの荷室(トランク)があり、奥行きがかなり長い。フロント側にも50リットルの荷室(フランク)が設けられている。人や荷物を載せることへの配慮もぬかりはない。
リン酸鉄リチウムイオンバッテリーが実現した、ゆとりの航続距離
従来のリチウムイオンが正極にコバルトやニッケルのようなレアメタルを用いているのに対し、性能面ではやや下回るものの熱安定性に優れ安全性の高いリン酸鉄リチウムイオン(LFP)を採用していることもBYDならでは。この電池を用いたコンパクトな「ブレードバッテリー」を、SEALではボディの一部として床下に敷き詰めることで、より高度なボディ剛性と安全性、航続距離の伸長を実現する「CTB=セル・トゥ・ボディ」という独自の構造を採用しているのも特徴だ。さらには最適化されたバッテリー温度管理システムにより、日本製の既存の急速充電器による充電の受け入れ性能にも優れることも確認済みだという。
選択肢は駆動方式がRWDかAWDかというシンプルな2種類で、装備内容もほぼ同等となっている。価格がAWDよりも約80万円安い528万円とリーズナブルなこともあり、RWDが発売直後の販売比率の7割を占めている。バッテリー容量は82.56kWhで、一充電あたりの航続距離がRWDでは640kmに達するというのもたいしたものだ。
ちなみに走行用の車載バッテリーに蓄えられた電気を自宅に戻して家電などに活用するV2H(Vehicle to Home)にも対応している。ただしSEALのバッテリーは高電圧仕様のため、公式にサポートしていないV2H機器もあるそうだ。すでにV2Hを導入しているユーザーは、対応状況を事前に確認しておきたい。
「ありかも!」と思えるかもしれない、力強い走りも魅力
走りは力強く俊敏で、とくにRWDは軽快さが際立っている。先発のATTO3やDOLPHINがやや控えめだったのに対し、SEALは雰囲気がぜんぜん違う。
スペックが示すとおり動力性能はRWDでもなかなか強力で走っていて楽しい。クイックなハンドリングも印象的だ。RWDはフロントにモーターや諸々のシステムが積まれていないため前軸重が軽いことが効いているようで、どんな道でもキビキビと走れる。コーナリング時のロールも小さい。このフットワークを実現するために足まわりはそれなりにひきしめられていて、スポーティなテイストをドライブしている間ずっと味わえるのもSEALの持ち味だ。
見た目も走りもよくて、装備も充実していて、しかも価格がリーズナブル。このところ自動車の値上げのニュースばかりが目につく中で、この価格帯でこれほどのパフォーマンスとバリューを味わえるクルマなどなかなかないことは間違いない。
テレビCMで興味を持ち、実車を見て乗って、CMのように「ありかも!」と思う人が、これから続出するかも…!?
撮影:茂呂幸正
〈スペック表〉
BYD SEAL(RWD)
全長×全幅×全高 | 4800mm×1875mm×1460mm |
ホイールベース | 2920mm |
荷室容量 | 450リットル |
車両重量 | 2100kg |
モーター種類 | 永久磁石同期モーター |
リアモーター最高出力 | 230kW(312ps) |
リアモーター最大トルク | 360Nm |
0-100km/h加速 | 5.9秒 |
バッテリー種類 | リン酸鉄リチウムイオン(LFP) |
バッテリー容量 | 82.56kWh |
一充電走行距離 | 640km(WLTCモード) |
電費 | 148Wh/km(WLTCモード) |
駆動方式 | RWD |
最小回転半径 | 5.9m |
サスペンション | 前ダブルウィッシュボーン式 後マルチリンク式 |
タイヤサイズ | 前後235/45R19 |
税込車両価格 | 528万円 |
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