F1をはじめモータースポーツで数々の金字塔を打ち立ててきたロータス。市販車においてはおもに小さくて軽いスポーツカーを手がけてきましたが、そんなロータスが初めて送り出したEVは、イメージとは一線を画する弩級のSUVでした。0-100km/h加速は3秒以下、最高速は265km/hを誇るほど極めてパワフルでありながら、実用的なデイリーカーでもあり、自ら「あらゆるシーンで完璧なパートナー」と評しています。モータージャーナリストの岡本幸一郎さんがレポートします。
現れたのはまさかの大型SUV。0-100km/h 3秒以下のハイスペック
本当に、あのロータスが…!? 目の前にある大柄なSUVには、まぎれもなくロータスのエンブレムが配されている。
F1に象徴されるモータースポーツでも数々の金字塔を打ち立ててきたロータスは、1948年の設立以来、独自のテクノロジーとデザインにより、自動車の走行性能に数々の革命をもたらしてきた。市販車の世界でも、おもに小柄で軽量なスポーツカーを手がけて成功を収めてきた。自らを「強固な基盤と豊かな伝統の上に築かれたグローバル・パフォーマンス・ブランド」と評している。
そんなこれまでドアが2枚のクルマしか作っていないはずのロータスがEVを出すと聞いて驚き、かつてテスラに協力したロードスターの延長線上のようなクルマをイメージしていたらぜんぜん違って、大柄で超高性能なSUVときた上に、その内容を知ってさらに驚いた。
3グレードあるうちの最高性能版となる2500万円級の「エレトレR」は、918psのパワーと985Nmのトルクを発揮するデュアルモーターを搭載するとともに、2速トランスミッションと800Vアーキテクチャを備え、0-100km/hのスプリントをわずか2.95秒でカバーし、最高速は265km/hに達するという。知れば知るほど、すごすぎる。
写真だけではどれぐらいの大きさかサイズ感が掴みにくく、ロータスという先入観もあってどうして小さめに見積もってしまうのだが、実物は全長5m、全幅2mを超えているとおりかなり大きい。
しかも全身に穴がたくさん開けられていて、異様な雰囲気を漂わせている。もちろんその穴は、究極のパフォーマンスを実現するための先進のアクティブ・エアロダイナミクスによるもので、ひとつひとつに「理由」がある。市販車でここまでやっているのは、同門のロータスのスポーツカーぐらいで、他に心当たりがない。
贅の限りを尽くした、ハイテク満載のインテリア
これだけサイズが大きいのだから車内も広々としているが、そのゴージャスさにも驚いた。独特のマテリアルを用いた凝りに凝ったデザインを見せるインテリアのたたずまいは、ロータスと聞いてイメージするものとはむしろ対極的だ。
通常の物理キーもしくはスマートフォンで認証すれば車内にアクセスすることができて、スタートボタンはなく、自動的に起動する。ブレーキを踏んでセレクターを入れると走り出すことができる。
15.1インチの有機ELタッチスクリーンディスプレイを含む7つものスクリーンを備えた最先端のインフォテインメントも充実している。
「KEF」というイギリスの名門のスピーカーが初めて自動車に搭載されたのも特筆できる。ユニークなUni-Qスピーカー設計とUni-Coreサブウーファーエンクロージャーにドルビーアトモスを組み合わせたサウンドは、あたかもその場で演奏しているかのようだ。
走行時には視聴できないのだが、いくつか用意されたデモンストレーションのビジュアルやサウンドも圧巻そのもの。シートにはマッサージ機能も付いていることだし、こんな感じでコンテンツが楽しめるとなると、停車中に車内で待機するのが、むしろ楽しみになってしまいそうだ。
リアシートを倒すと最大1532Lにもなる荷室の収納力もかなりのもの。フロントにも充電ケーブルや小物を保管しておける46Lのコンパートメントがあるのも助かる。
重いが速い。918psという獰猛なスペック
走りのほうもインパクト満点だ。車両重量が2.7tを超えているので、それなりに重いが、重いのにめっぽう速い。不思議な感覚に見舞われる。
900psオーバーの加速は、やはり身震いするほどで、あたかもワープするかのような速さだ。アクセルを踏み増すと加速装置が作動したかのように、そのまま離陸してしまいそうな勢いで伸びていく。あまりの浮遊感に三半規管がやられてしまいそうだ。
ちょっとイメージしていたのと違ったのは、瞬発力はあるのに、ドイツ勢あたりのように最初にガツンとくるわけではないこと。そこは同乗者への配慮からあえてそうしているのかもしれない。
また、ロータスといえばハンドリングの第一人者でもある。これまで非力なクルマでも、極限まで軽くしてイナーシャを払拭して、もっとパワフルな高性能車にひけをとらない速さを実現してきた。
ところがエレトレは圧倒的に重く、重心が高いうえにホイールベースも長い。それでもできるかぎりを尽くしてコーナリング性能が高められていることは、公道でドライブしても伝わってきた。
そんな強力な動力性能と運動性能を身に着けたエレトレだから、制動力のキャパシティ確保も抜かりはない。標準で6ピストンキャリパー×スチールブレーキが付き、オプションで大径の10ピストンキャリパー×カーボンセラミックブレーキまで用意されていて、これまたかなりのものだ。
ステアリングホイールの左側のパドルで、回生ブレーキの強さを4段階から好みを選ぶこともできる。右側はドライブモードで、ツアー、レンジ、スポーツ、オフロード、インディビジュアル、トラックと、6つの走行モードが設定されていて、オフロードとトラックの両方の設定があるクルマというのはなかなかお目にかかれない。
走り系モードにするとシートのサイドサポートがキュッと締まり、任意でも上げ下げを調整できる車高が自動的に連動して低くなる。ただし、よくあるようなサウンドによる演出的なものがないあたりはロータスらしい。
充電性能もハイポテンシャル。驚きに溢れたハイパーSUV
セーフティについても、日本では使えない機能もあるが、レベル4の完全な自律走行に対応した、NVIDIA DRIVE Orinチップ×2と、超HDカメラ×12、レーダー×18、LiDAR×4という34センサーを備えた最新の最先端技術が搭載されている。
海外ではOTA(Over The Air:通信による配信アップデート)だが、日本ではディーラーでのアップデート対応により、車両のライフタイムを通じ継続的に改善することで、ドライバーは常に最高のドライビング・エクスペリエンスを楽しめる。
充電についても、800Vシステムにより、普通充電では最大AC22kW、急速充電では最大DC350kWの超高速充電にも対応可能で、自宅でも外出先でもハイパワーな充電が可能となる。日本では本来の実力を発揮させるには高速充電環境が整うまでしばし待つことになるが、超高速充電によりわずか20分で400km走行可能なエネルギーを充電できるだけの能力をすでに持っているところもたいしたものだ。
「オール・エレクトリック・ハイパーSUV」を掲げ、ロータスの名のもとに送り出されたEVが、まさかこれほどの驚愕のクルマだとは思わなかった。とにかくすべてが驚きの連続であった。
撮影:小林岳夫
〈スペック〉
ロータス エレトレ R
全長×全幅×全高 | 5103mm×2019mm×1636mm |
ホイールベース | 3019mm |
荷室容量 | フロント46L、リア688~1532L |
車両重量 | 2715kg(ドライバー75kg含む) |
モーター種類 | 永久磁石同期モーター |
モーター最高出力 | 918ps(675kW) |
モーター最大トルク | 985Nm |
0-100km/h加速 | 2.95秒 |
最高速度 | 265km/h |
バッテリー種類 | リチウムイオンバッテリー |
バッテリー容量 | 112kWh |
バッテリー総電圧 | 800V |
一充電走行距離 | 410 - 450㎞(WLTP) |
駆動方式 | 4WD |
トランスミッション | 2速 |
サスペンション | 前後マルチリンク式 |
タイヤサイズ | 前275/40R22 後315/35R22 |
税込車両価格 | 2324万3000円 |
※本記事の内容は公開日時点での情報となります