電気自動車もバッテリー上がりを起こす?専門家が教える判断方法や解決策

バッテリー上がり

実は「バッテリー上がり」は電気自動車(EV)でもよくあるトラブルです。エンジン車のバッテリー上がりには対応できても、EVやPHEVの場合、どうしたらいいかわからないという方も多いのではないでしょうか。そこで、EV DAYS編集部が、EVの「バッテリー上がり」について、専門家に教えてもらいました。

 

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そもそも、EVのバッテリーの仕組みって?

バッテリーの仕組み

画像:iStock.com/kool99

 

今回取材に伺ったのは、車で困ったときに頼れるロードサービスのJAF(日本自動車連盟)。長年にわたりロードサービス業務に携わってきた丸山茂樹さんにバッテリーに関するトラブルのあれこれについて、聞いてみましょう。

 

【今回の取材でお話を聞いた方】

丸山茂樹さん(一般社団法人 日本自動車連盟)


丸山茂樹さん(一般社団法人 日本自動車連盟)
関東本部 ロードサービス部 技術課 兼 業務推進課 主管。ロードサービス隊員として約20年、出動業務に携わる。現職は4年目。

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EVは2つのバッテリーを積んでいるという話を聞いたことがあります。それは、どういう意味なのでしょう?

丸山さん

 

丸山さん「EVは、急速充電普通充電によって電気を貯めている『走るためのバッテリー』を積んでいます。このバッテリーはエンジン車との大きな違いとしてクローズアップされることが多いでしょう。こうしたバッテリーは一般的に『駆動用バッテリー』と呼ばれます」

駆動用バッテリーはEVの航続距離や出力に大きく影響するものです。購入時にはそのスペックが判断材料のひとつになります。


〈図〉EVが備えている2種類のバッテリー

〈図〉EVが備えている2種類のバッテリー

 

丸山さん「EVはさらにもうひとつバッテリーを積んでいます。それは『補機用バッテリー』と呼ばれ、一般電装品の電源供給のために用いられています」

この補機用バッテリーのおかげで、スマートキーでドアロックを解除できたり、ドライブレコーダーなどを動かしたりすることができます。一般的には12Vの鉛バッテリーが補機用バッテリーとして使われています。カーナビやパワーウインドウなども12Vで作動しているので、補機用バッテリーがなければ車で快適に過ごす装備は動かせません。

ところで補機用バッテリーはエンジン車にも使われているのでしょうか?

丸山さん「もちろんエンジン車にもバッテリーは搭載されています。エンジン車はエンジン始動時にセルモーターを回すために大きな電流が必要になります。それだけの力が補機用バッテリーにないとスタートさせることができません。これまで『バッテリーが上がる』と表現されてきた現象は、このことを指します」

 

 

EVのバッテリー上がりのよくある原因と対策

バッテリー残量

画像:iStock.com/Stadtratte

 

バッテリーが上がってしまう原因がわかれば、そうならないように注意することもできるでしょう。EVの駆動用バッテリーと補機用バッテリー、それぞれについて「よくある原因」を聞きました。

 

①駆動用バッテリーの場合


EVの駆動用バッテリーの残量がゼロになり、走行できなくなることを「電欠」といいます。充電が足りないことが電欠の主な原因です。計画不足による充電不足のほか、不測な渋滞などでも生じることもあります。

丸山さん「EVのロードサービス出動理由のトップはパンクに関するもので、ついで多いのが、バッテリー(駆動用または補機用)を上げてしまったというケースになります」

電欠対策としてできることは何でしょう?

丸山さん「エンジン車でも同じことがいえますが、ドライブで補給計画をきちんと立てることです。燃料がちゃんと入っていないのに給油せずに長距離ドライブに出かけたら、やはりどこかでガス欠してしまいます。EVでは充電が走行予定の距離に対して足りているのかを確認してから出発するのが基本となります」

 

②補機用バッテリーの場合


エンジン車の場合、補機用バッテリーが上がる原因としては、ライトの消し忘れや経年劣化などが挙げられます。EVでも原因は同様でしょうか?

丸山さん

 

丸山さん「エンジン車の場合、バッテリーは走りながら充電しています。そのためにエンジン車にはオルタネーターなどの発電機が備わっています。一方、EVの場合は走行中に駆動用バッテリーから補機用バッテリーへ電気を補充することで、必要な電圧を下回らないような仕組みになっています。ただし、駐車中のライトやルームランプなどの消し忘れなどで補機用バッテリーが上がってしまうと、エンジン車同様、EVもシステムを起動させられないために走行不能となります」

エンジン車でもEVでも、基本的には走行中に充電した電気を利用するという仕組みです。そのため、長期間乗らないと補機用バッテリーを充電することができず、上がってしまうこともあるそうです。

丸山さん「とくに近年の車は駐車しているときも、ECU(制御コンピュータ)やカーナビ、またセキュリティシステムなどが電力を消費しています。そのため長期にわたって乗らないと、ユーザーのミスがなくても、バッテリーが上がることもあります」

定期的にシステムを起動させ、少し走って補機用バッテリーを充電するという気遣いをすることが、愛車を守るといえそうです。

 

 

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EVのバッテリー上がりの確認方法

バッテリー残量

画像:iStock.com/Prykhodov

 

続いて、EVのバッテリー上がりを確認する方法について聞きました。

 

①駆動用バッテリーの場合


電欠には、どのような兆候があるのでしょうか?

丸山さん「メーカーや車種によって細かな表示は異なりますが、駆動用バッテリーの電力量が一定を下回ると、メーターなどにバッテリー充電量が減っていることを示すインフォメーションが出てきます。さらに充電率が下がると、アクセルを踏んでも必要最小限のスピードしか出なくなるなど、『出力制限モード』に入ることが多いです」

 

②補機用バッテリーの場合


補機用バッテリー上がりの兆候としては、システムが起動する直前にメーター内のコーションランプ(警告灯)がやや暗くなっているなど、ちょっとした違和感があります。ただし、最近ではフル液晶メーターも増えてきているので、兆候の感知がより難しくなっています。

また、ドアロックがスマートキーで開錠できない場合もバッテリー上がりの恐れがあります。ただし、スマートキーの内蔵電池が弱ってしまっているケースも考えられるそうです。

丸山さん「スペアキーなどで開錠を試してみて、それでもドアロックが外れないようであれば、補機用バッテリーが上がっているかもしれません」

ドアロックを外すことはできて、車内に乗り込んだけれどシステムが起動しないという場合はどうでしょう?

丸山さん「いくつかのケースが考えられます。制御系になんらかのトラブルが発生していることもあり得るでしょう。システムの起動ボタンを押しても反応がない場合には、補機用バッテリーが上がってしまったと考えられます」

 

 

駆動用バッテリーが上がったときの解決策

EV充電の様子

画像:iStock.com/Marcus Lindstrom

 

EVが電欠の兆候を示した場合、充電スポットに向かうのがいちばんの解決策だと思いますが、注意点はありますか?

丸山さん「駆動用バッテリーの残量が少なくなると、バッテリーの残量警告灯が点灯します。バッテリー残量警告灯や出力制限表示灯が点く前に、速やかに充電してください。充電スポットまでたどり着けない場合には、とにかく安全な場所に停車するようにしてください」

路上で止まってしまうと二次災害の危険性が高まります。高速道路であれば路肩に寄せる、市街地ならば駐車場に入れるなどして救援を呼ぶというのが基本となります。

丸山さん「JAFでは電欠を起こした場合、基本的にはレッカー車で充電スポットまでけん引するという対応になります。エンジン車では近くのガソリンスタンドまで走行できるだけの燃料を給油するという対応もありますが、EVの救助において給電するという対応はとっていません。しかしながら、緊急的に充電できるようなソリューションについては研究を進めています。将来的には、充電スポットまで走行できるだけの給電をするといった救助方法になるかもしれません」

 

 

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補機用バッテリーが上がったら、どうする?

機械を修理する様子

画像:iStock.com/choochart choochaikupt

 

補機用バッテリーが上がった場合の対処法として、車好きの方の中には、「ジャンプコード」や「ブースターケーブル」と呼ばれるバッテリー同士をつなぐ配線を利用して、他の車から電気をわけてもらえばいいと考える方もいるかもしれません。

丸山さん「メーカーの説明書に、ジャンプコードの利用が記されているようであれば、エンジン車から電気をわけてもらって、EVのシステム起動をすることが可能です。ただし、ジャンプコードをつなぐ際のちょっとしたミスで電気をショート(短絡)させ、基盤を壊すというトラブルを引き起こす可能性があります」

また、EVやPHEVの救援端子から他車のバッテリーに接続しての救援は車の構造上、絶対NGです。エンジン始動時の大電流が逆流することでEVのシステムが壊れてしまう可能性もあります。

丸山さん「EVの場合、大事なのは対処の前に原因を解明することです。真の原因が補機用バッテリーにあるのか、システム側にあるのかを判断しないと適切な処置ができないのです。室内灯の消し忘れなど、補機用バッテリーが上がってしまった原因が特定できる場合であれば、ジャンピングスタートの方法で対応できます」

丸山さん(JAF)

 

JAFではまず、補機用バッテリーが上がっているのかをテスターで測定して判断しているといいます。その上で、補機用バッテリーを充電すればシステムが起動する、と判断した場合は、システムを起動させてから、走行しても大丈夫なのかを確認します。さらに、補機用バッテリーに負荷をかけた状態での電圧を測ることで、バッテリー本来の性能をチェックします。

丸山さん「充電して解決するようであれば、補機用バッテリーを充電する専用のポータブル電源をつないで対処します。バッテリーの交換が必要と判断した場合はその旨をお伝えしています。あくまでJAFの対応は応急処置ですから、車が走れるようになったら、整備工場などに出向いてしっかりと修理していただくのが基本となります」

 

 

EVのバッテリー上がりはプロの手を借りるのが安心

EV充電の様子

画像:iStock.com/Kolonko

 

EVは大きな駆動用バッテリーを積んでいるので、「バッテリーが上がることはない」と思っているユーザーの方もいるかもしれません。しかし、ここまで説明してきたようにバッテリーのトラブルは起こり得ます。また、エンジン車と異なり、自分で解決に臨むより、プロの手を借りたほうが安心なケースが多いといえます。そう考えると、ロードサービスへの加入というのは、EVオーナーであっても必須といえそうです。

 

この記事の著者
EV DAYS編集部
EV DAYS編集部