電気自動車(EV)に車検不要は本当?費用・エンジン車との違いを解説

EVの車検

電気自動車(EV)はエンジン車などに比べて部品が少なく、またミニカー区分の超小型のEVが車検の対象外であることから、「EVは車検不要」と考えている人がいるようです。EVが車検不要というのは本当なのでしょうか。車検が必要だとすると、EVとエンジン車の車検はどういった点が違うのでしょうか。EVの車検にかかる費用、エンジン車との違いなど、EVの車検について解説します。

 

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電気自動車は車検不要? エンジン車の車検との違いを解説

EV車検

画像:iStock.com/Tomwang112

 

EVは電気を使ってモーターで走る車です。車体構造がとてもシンプルで、交換部品の数が少なくエンジンオイルなども不要のため、EVは「車検不要」「整備不要」と誤解している人もいるようです。しかし、いくら電気で走る車でも公道を走る以上は車検が必要です。

EVにも車検が必要。ただし、ミニカーは対象外

車検とは、車が道路運送車両法に定められた保安基準に適合しているかを一定期間ごとに検査する制度です。EVも例外ではなく、エンジン車などと同様に車検を受けなければなりません。もっとも、後述しますが、EVはエンジン車などに比べると消耗品が少なく税金の優遇措置もあるため、車検費用を安く抑えられる傾向にあります。

車検を受けるタイミングは新車購入時から3年目、それ以降は2年ごとに行います。車検を受けていないEVや、車検時に交付される自動車検査証(車検証)の有効期限が切れたEVで公道を走るのは安全面で大きな問題があり、また罰則・罰金の対象になります。(EVにかかる税金に関しては、以下の記事をご覧ください)

 

 

ただし、ミニカー(第一種原動機付自転車)と呼ばれる電動車は車検の対象に含まれていません。ミニカーの定格出力は0.6kW以下であり、道路運送車両法では原動機付自転車に区分され、車検の対象外になっているためです1)

〈表〉車両区分に応じた道路運送車両法の規制

  EVを含めた普通乗用車 EVを含めた軽自動車・超小型モビリティ ミニカー(第一種原動機付自転車)
車検 ×
点検整備 ×
登録 × ×

※○=必要、×=不要

 

 

 

混同されがちな「車検」と「点検整備」、どう違う?

「車検」と「点検整備」違い

画像:iStock.com/Worayuth Kamonsuwan

 

EVの車検に関して詳しく解説していく前に、車検と点検整備についてまずは前提知識を整理しましょう。車検と点検整備はよく混同されますが、それぞれ違うものです。

車検は検査時点で車が道路運送車両法に定められた安全基準や環境基準に適合しているかをチェックするもの。たとえば、ヘッドランプなどの灯火類が正常に作動するかどうか、ブレーキがちゃんと利いているかどうか、シートベルトが備わっているかどうか、エンジン車なら排ガス規制を満たしているかどうかも確認します。

しかし、車検はあくまでも一定期間ごとに行われる必要最小限のチェックですから、検査時点で国の定めている保安基準に車が適合していても、そのことで車検証の有効期間内の安全性が保証されるものではありません。車検をクリアすることと、次の車検までの期間を安心して車に乗ることができるかどうかは別の話なのです。

そのため、車の所有者には「1年ごと」「2年ごと」に定期点検整備を行い、それぞれの責任で車の安全性を確保する義務があります。通常車検時に2年ごとの定期点検整備も同時に行うため紛らわしいですが、車検と点検整備は同じではなく、車検をクリアしたからといって点検整備が必要なくなるわけではありませんので注意しましょう。

 

 

電気自動車の車検は高い? 車検の費用を紹介

EV 車検の費用

画像:iStock.com/takasuu

 

車検にかかる費用の種類そのものは、EVもエンジン車と変わりません。大きく分けると「法定費用」と「整備費用」の2つが必要になります。それぞれのコストの中身を具体的に見ていきましょう。

EVの車検コスト①法定費用

法定費用とは車検時に支払う税金や保険料、手数料のことです。「自動車重量税」「自賠責保険料」「印紙代」がそれにあたります。

自動車重量税は新車時と車検時に納める税金で、500kg刻みで税額が変わるため、一般論として重いバッテリーを積んでいるEVは高くなりがちです。しかし、2023年1月時点ではEVにはエコカー減税が適用され2)、新車時と初回車検時の自動車重量税が2回免税されますので、その分法定費用が安く済みます。

一方、自賠責保険の保険料は一律でEVもエンジン車も同額です。2年ごとの継続検査(継続車検)では24カ月契約が一般的で、沖縄県や離島以外の地域の場合、乗用車は2万10円となっています3)

印紙代は検査や車検証の発行手数料を支払うために必要な印紙や証紙の費用です。このうち「自動車検査登録印紙」は国へ、「自動車審査証紙」は独立行政法人自動車技術総合機構(検査場)へ支払う手数料となります。2年ごとの継続検査の印紙代は、車検の方法により金額は異なり、乗用車は1400~2200円4)となります。

 

 

 

EVの車検コスト②整備費用

整備費用は個々のユーザーの乗り方によって大きく変わります

たとえば、日常的に長距離を移動するEVの場合、タイヤが摩耗して減っている可能性があります。保安基準ではタイヤの溝の深さについて1.6mm以上と定められていますので、それよりタイヤが減っている状態では車検をクリアできません。タイヤ交換が必要となり、一般的に数万円から10数万円程度の費用がかかります。短距離移動が多く、タイヤが減っていないEVにはこの費用はかかりません。

もっとも、同じような車の使い方をしたエンジン車などと比較した場合、EVの整備費用が安くなる傾向にあるのは事実でしょう。

〈図〉EVとエンジン車の部品数の違い

〈図〉EVとエンジン車の部品数の違い

 

エンジン車のボンネットを開けると、エアクリーナー、エンジンオイル、オイルフィルター、スパークプラグといった消耗品を確認することができます。しかし、これらはすべてEVには不要なものです。モーターで走るEVの動力系にはエンジン車のように交換が必要な部品がほとんどありませんから、車検時にかかる整備費用も比較的安くなる傾向があるのです。

 

 

【コラム】電気自動車の車検証はエンジン車とココが違う

車検をクリアした証と言えるのが車検証です。車検証には自動車登録番号、登録年月日・交付年月日、車名(生産メーカーやブランド名)、車固有の車体番号、全長・全幅・全高などの車体情報と、所有者の氏名と住所、使用の本拠などの所有者・使用者情報が記載されています。

基本的には、どのような車も車検証に記載されている情報に違いはありませんが、EVとエンジン車とでは異なる点があります。それが「燃料の種類」と「総排気量又は定格出力」の項目です。

〈図〉EVとエンジン車の車検証の違い

〈図〉EVとエンジン車の車検証の違い

エンジン車は燃料の種類が「ガソリン」などと記載されますが、EVでは「電気」になります。また、モーターには排気量という概念がありませんから、車検証には定格出力(kW)が記載されます。なお、定格出力と最高出力は異なるものなので、車検証の数字を見て「カタログに書いてあった最高出力と違う」と心配する必要はありません。

車検証の備考欄には各種免税措置の情報が記載されます。エコカー減税などで自動車重量税を免税された場合、備考欄に「継続車検免税措置済み」という文言が入ります。こうした点もEVなどの環境性能の高い車に乗っている証と言えるでしょう。

なお、2023年1月4日から車検証が電子化され、必要最小限の記載事項を除いて車検証の情報はICタグに記録されるようになりました。電子車検証についての詳しい情報を知りたい方は国土交通省の「電子車検証特設サイト」を読んでみてください5)

 

 

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電気自動車の車検はどこでやる? ディーラー以外でも車検は可能

EV 車検

画像:iStock.com/Goodboy Picture Company

 

EVの車検時にはエンジン車などと同様に専門業者に依頼するのが一般的です。車検サービスを提供する業者には大きく分けて「ディーラー」「民間工場」の2つがあり、それぞれ異なる特徴があります。

ディーラー車検はバッテリーの劣化具合もチェック

ディーラーとは車メーカーや販売子会社などと特約契約を結んだ販売業者のことです。なかでもメーカーが直接運営しているディーラーの場合、「特定の車種に通じている」という特徴があります

車検に限らずEVの整備では駆動に使うバッテリーのコンディションをチェックすることが基本になります。ディーラーの場合、ほとんどがバッテリーの劣化具合を調べることのできる設備をもっていますから、この点はディーラー車検の大きなメリットと言えます。

もっとも、ディーラー車検では「2年後の次の車検までは持ちそうにないが、あと1年は持ちそう」といった部品交換をすすめられる傾向があります。ユーザー側が2年後の次の車検まで安心して車に乗れるコンディションを期待するためです。その分、ディーラー車検は民間工場などと比べて整備費用が高くなる傾向にあります

 

 

民間工場の車検はディーラー車検より費用が安い?

その点でディーラーと対照的なのが民間工場です。民間工場は車検をクリアするための必要最小限の整備のみを行う場合が多く、そのためディーラーより車検時の費用が安く抑えられる傾向にあります。

もっとも、それは民間工場の整備がいい加減ということではありません。2年後の次の車検前に寿命を迎えそうな部品がある場合は、多くの民間工場がアドバイスしてくれます。整備内容の提案に違いがあるだけで基本的な整備ではディーラーと民間工場に差はありません

部品交換をして車検時のコストをかけるのも、交換時期を先送りして車検コストを安く抑えるのも、長い目でみれば同じことです。いつかは部品交換などの整備が必要になるのです。その意味では、どこで車検を受けても中長期的なコストに大きな差はないと言えるでしょう。

整備工場には「認証工場」と「指定工場」がある

ディーラーや民間工場を問わず、整備工場には「認証工場」と「指定工場」の2つがあります。認証工場とは、EVを含めた車の分解整備を行う工場のうち、申請により地方運輸局長の認証を受けた工場のこと。指定工場は認証工場のうち一定の条件を満たした工場で、一般的に民間車検場などと呼ばれています6)

指定工場の場合、工場内で車が保安基準を満たしているかどうかを確認して保安基準適合証を交付できるため、検査場に車を持ち込む必要がありません。また、適合証を運輸局に提出すれば書類のみで審査を受けられるので、証紙が必要なく印紙代が安くなります。

ただし、指定工場だから整備能力が高いわけでなく、あくまでも「保安基準の適合性を証明し、保安基準適合証を交付」することができるというだけです。なお、ディーラーに併設される整備工場=指定工場との誤解もあり、ディーラーでも認証工場というケースがありますので、気になる人はスタッフに確認するといいでしょう。

 

 

 

電気自動車の車検期間、エンジン車との点検項目の違いは?

EV車検

画像:iStock.com/Elena Lukyanova

 

車検には少なくない費用と手間がかかりますから、EVの車検の期間がどれくらいなのか気になる人もいることでしょう。定期点検整備におけるEVとエンジン車の点検項目の違いと併せて紹介します。

EVの車検期間は新車購入から3年、以降は2年ごと

前述したように、車検を受けるタイミングは新車購入から3年目、それ以降の継続検査は2年ごとです。この期間はEVもエンジン車も変わりません。普通自動車や小型自動車などの登録車も軽自動車も同じです7)。つまり、車検という制度は乗用車なら基本的にどんな車も同じ基準となっているのです。

〈表〉乗用車の車検証の有効期間

  初回 2回目〜
普通車 3年 2年
小型車 3年 2年
軽自動車 3年 2年

 

 

しかし、車検を受けたからといって、次の車検までメンテナンスをしなくていいわけではありません。車の所有者には安全に運行できる状態を維持する責任が伴います。そのため、EVを含めた車の所有者には車検以外にも「定期点検整備」が義務づけられています。

EVは法定点検のメンテナンス代も安く抑えられる

定期点検整備は「法定点検」とも呼ばれ、その名のとおり、一定期間ごとに車のメンテナンスを行うことが道路運送車両法で定められています。車を安全に走らせるために、EVの所有者も「1年ごと」「2年ごと」に定期点検整備を行う必要があります

ただし、EVは検査項目が少なく、定期点検整備に必要なメンテナンス代がエンジン車ほどかからない傾向にあります。車検と少し異なり、定期点検整備のおもな検査項目は「走るための機能」です。エンジン車などの場合、タイヤやステアリング、ブレーキなど足回りの確認、排ガスの状態、エンジンオイルや水の漏れ、エアクリーナーやオイルフィルターの状態などがおもな検査項目となります。

しかし、前述したように、EVはエンジンにかかわる点検整備が不要です。また、ブレーキなどの足回りでは、EVはモーターによる発電で減速する「回生ブレーキ」を備えていますから、ディスクやドラムといったメカニカルブレーキが消耗しづらいのです。消耗部品が少ない分、EVは点検整備費用も安く抑えられる傾向にあります。

 

 

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車検に対するハードルの低さは電気自動車の大きなメリット

EV充電の様子

画像:iStock.com/Ja'Crispy

 

これまで見てきたように、「EVは車検不要」というのは大きな誤解です。電気で走る車であっても、新車購入時から3年目、それ以降は2年ごとに車検を受ける必要があります。定期点検整備もエンジン車などと同じように、EVの所有者の義務となっています。

ミニカー(第一種原動機付自転車)を除きほとんどのEVは一定期間ごとに車検を受けなければなりません。

とはいえ、EVは2023年1月時点では車検時に支払う自動車重量税に優遇措置があり、また消耗部品がエンジン車などに比べて少ない傾向にあります。車検コストが安く抑えられますから、エンジン車などに比べて車検に対するハードルが低い車と言えるでしょう。

エンジン車からの買い替えや、これからEVを購入しようと検討している方は、こうした車検をはじめとするEVのメンテナンス費用の安さも考慮して車種を選んでみてはいかがでしょうか。

 

 

この記事の著者
山本 晋也さん
山本 晋也

1969年生まれ。1990年代前半に自動車メディア界に就職し、中古車雑誌編集長などを経て、フリーランスへ転身。2010年代からWEBメディアを舞台に自動車コラムニストとして活動中。タイヤの有無にかかわらずパーソナルモビリティに興味があり、過去と未来を俯瞰する視点から自動車業界の行く末を考えている。