電気自動車の軽バンのラインナップを紹介!価格やスペック、補助金も解説

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電気自動車(EV)のなかでも特に人気の高い軽自動車のEVにおいて、今後トレンドとなりそうなのが軽EVの商用車、「軽バンEV」というカテゴリです。すでに販売されている車種から今後発売が見込まれている車種まで、自動車ジャーナリストの山本晋也さんが軽バンEVのラインナップや特徴を紹介! また、車両価格やスペック、利用できる補助金などについても解説します。

 

 

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電気自動車の軽バンに物流業界が注目するワケ

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画像:iStock.com/:simon2579

自動車メーカー各社は軽バンEVの開発に力を注いでおり、2024年は「軽バンEV元年」になるとの見方もあります。しかし、そもそも軽バンとはどのような車を指し、なぜEV化が進められているのでしょうか。物流業界の動向と併せて解説します。

そもそも「軽バン」とはどんな特徴をもつ車?


軽バンは正式名称ではなく通称で、軽自動車の分類でいえば「貨物自動車(4ナンバー)」と呼ばれる商用車のカテゴリの一部になります。軽自動車の商用車には「ボンネットバン」「キャブオーバーバン」「トラック」の3つのタイプがあり1)、このうちボンネットバン、キャブオーバーバンを総称して軽バンといいます。

ボンネットバンとキャブオーバーバンの違いは、エンジンが搭載される位置が運転席よりも前にあるか、運転席の下にあるかなどの点にあります。どちらも4人乗り仕様が多いですが、後席スペースより荷室が広い点が商用車として認められる条件です。

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ホンダ「N-VAN」の室内(画像:ホンダ)

後席がスライドするなど荷室よりも広い場合はバンの条件を満たしません。そのため、たとえばホンダ「N-BOX」のようなモデルは「軽スーパーハイトワゴン」と呼ばれる乗用車に分類されます。

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ホンダ「N-BOX」の室内(画像:ホンダ)

多くの軽バンは後席自体が非常にシンプルかつコンパクトで、ダイブダウン機構などにより簡単に床下に収納できる仕組みになっています。そうしたことから、宅配業務など荷物を大量に搭載するビジネス利用の場合は後席を収納し、運転席から後ろの部分をすべて荷物スペースとして活用するケースが多いようです。

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ダイブダウン機構で助手席と後席を収納した「N-VAN」の室内(画像:ホンダ)

また、軽バンは小回りが効く小さなボディが魅力の商用車ですから、宅配事業などではおもに物流の最終拠点からエンドユーザーに商品が届くまでの最後の区間=ラストワンマイルの配送を担います。Eコマース全盛で配達ニーズが飛躍的に増している現在、物流会社とその受益者たる多くのエンドユーザーにとって欠かせないモビリティとなっているのが軽バンといえるでしょう。

 

 

物流業界では軽バンのEV化が進められている

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画像:iStock.com/ake1150sb

物流業界ではいま、この軽バンの電動化が進められています。日本郵便、ヤマト運輸、佐川急便などの大手が相次いで軽バンEVの導入・活用に取り組んでいるのです。そこにはいくつかの理由が考えられますが、ひとつに政府が国際公約として「2050年カーボンニュートラル」を掲げていることがあります。

大手企業には社会的責任が求められますので、政府方針を受けて物流大手各社は住宅街などの街なかを走行する低速域のモビリティの電動化を進めています。2050年カーボンニュートラルに貢献するには軽バンのEV化が欠かせないというわけです

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三菱「ミニキャブEV」の駆動用バッテリーパック(画像:三菱自動車)

また、経済合理性から見ても軽バンのEV化には非常に意味があります。EVはコストの高い駆動用バッテリーを搭載するため車両価格がガソリン車より割高になりがちですが、ガソリン価格が上昇している状況下ではEVのほうがランニングコストを安く抑えることができるでしょう。さらに、ガソリン車に比べて部品点数が少ないEVはメンテナンスコストも安く抑えられる傾向にあります。

大手物流会社になればなるほど運用する車両の台数が多くなりますから、こうした経済的メリットも軽バンEVの導入を進めるうえで大きなインセンティブになったと考えられるでしょう。

 

 

「物流会社&自動車メーカー」で軽バンEVを開発

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日本郵便で集配用車両として使われている三菱「ミニキャブEV」

 

こうしたなか、日本郵便、ヤマト運輸、佐川急便など大手はそれぞれパートナーとなる自動車メーカーとタッグを組み、自社ニーズを満たす軽バンEVの開発や活用を進めています

たとえば、2024年10月に発売予定のホンダの軽バンEV「N-VAN e:」の集配業務における実用性の検証をヤマト運輸が2023年6月から行っていたり2)、長らく集配用車両に三菱「ミニキャブ・ミーブ」を使ってきた日本郵便は、2024年7月にその新モデルとなる「ミニキャブEV」を3000台導入することを発表したりしています3)。

また、佐川急便もEVの開発・設計・販売などを行うファブレスメーカーのASFと軽バンEVの共同開発を行っています4)

 

 

 

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電気自動車の軽バンのメリット・デメリット

カーボンニュートラルを実現するにはラストワンマイルを担う軽バンの電動化が欠かせませんが、具体的に軽バンEVを導入することにより物流会社にどのようなメリットが生まれるのでしょうか。軽バンEVのデメリットと併せて簡単に紹介します。

 

軽バンEVのメリットは?

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画像:iStock.com/78image

軽バンEVのメリットのひとつは経済性です。軽バンは多くの荷物を積むことを前提にしているため、一般的にガソリン車はギア設定がローギアード(※)になっている場合が多く、経済的な軽自動車としてはあまり燃費がよくない傾向にあります。

たとえば、スズキ「エブリイ」は人気の高い軽バンですが、燃費性能は14.6~17.2km/L(WLTCモード)です5)。同じスズキの軽スーパーハイトワゴン「スペーシア」の燃費性能は22.4~25.1km/L(WLTCモード)ですから6)、ガソリン車の軽バンの場合、その経済性はけっして高くないことが理解できるでしょう。

しかし、電気で走るEVはこうした走行コストにおいて有利ですし、エンジンオイルの定期交換なども不要です。物流会社の車両は乗用車よりもハードな使われ方をしますから、走行コストの低減やオイル交換のコストが不要になるのは助かるはずです。また、モーターは回転し始める瞬間に最大トルクを発生させるため、重い荷物を積んだときもパワフルなど、走行性能も集配業務向きといえます。

さらにエンジン音を出さない静粛性も、軽バンEVを活用する企業、そしてエンドユーザーと地域住民の双方にとってメリットです。ガソリン車の軽バンはエンジンを唸らせるように走行することが多いですが、軽バンEVの普及でその騒音が減少するのは住環境にとって大きなプラスです。それによって企業側もカーボンニュートラルに取り組んでいることをアピールできます。

 

※ファイナルギアの減速比(最終減速比)が大きい低中速重視のギア設定のこと。エンジンのトルクに余裕のない商用車に設定される場合が多い。

 

 

軽バンEVのデメリットは?

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画像:iStock.com/78image

 

もちろん軽バンEVにもいくつかデメリットがあります。なかでも最大のデメリットは初期導入コストがかかることでしょう。

たとえば、基本的に同じボディを使用するホンダ「N-VAN」とそのEVモデルである「N-VAN e:」の車両価格をそれぞれの上位グレード(FF)で比較してみると、ガソリン車の「FUNターボ」が188万3200円(税込)なのに対し、EVの「e: FUN」は291万9400円(税込)となっています7、8)。この2台はボディだけでなく、おもな装備や47kW(64PS)の最高出力も同じですが、車両価格はEVのほうが100万円以上高くなっているのです。

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EVモデルより車両価格が安いホンダ「N-VAN FUN」(画像:ホンダ)

 

EVモデルではフル液晶メーターになっているなど細かい部分が異なり、単純比較はできませんが、この価格差をパーセンテージで表すと約155%となります。軽バンEVを2台導入するための予算でガソリン車の軽バンが3台買えてしまう計算です。

ただし、後述しますが、各種の補助金を利用することにより実際には軽バンEVの導入コストを大きく下げることができます。このように、国や自治体が物流会社による軽バンEVの活用を後押しする政策を打ち出していることも見逃せません。

また、軽バンEVにかぎらずEVはガソリン車に比べて航続距離が短く、この点もデメリットといえるでしょう。たとえば、三菱「ミニキャブEV」の航続距離は180kmとなっています9)

もっとも、ラストワンマイルの配送に使用するという視点で考えると、1回の満充電で走行できる距離はそれほど重要ではないという見方もできます。走ったり止まったりを繰り返す車の使い方においては、ロングレンジであることより低速での走りやすさや振動、ノイズが少ないなどのメリットが勝る場合もあります。

 

 

電気自動車の軽バンの車種・性能・価格を紹介

実際に軽バンEVにはどのような車種があるのでしょうか。すでに販売されている車種から発売が予定されている車種、さらにリース販売のみの車種まで、価格や性能とともに紹介します。

 

Ⅰ.三菱「ミニキャブEV」 9)

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画像:三菱自動車

 

三菱「ミニキャブEV」は、世界初の量産EVである「i-MiEV」の技術を活用した「ミニキャブ・ミーブ(バン)」にルーツをもつ軽バンEVの代表車種です。2011年12月から販売を開始した「ミニキャブ・ミーブ(バン)」は2021年3月に一般販売を中断しましたが、その間も日本郵便に車両を供給するなど、一貫して国内の軽バンEVニーズを支えてきました。

2023年12月にはビッグマイナーチェンジを受け、車名も新たに「ミニキャブEV」となり販売が開始されました。グレード構成は4シーターと2シーターに大別されます。

 

三菱「ミニキャブEV CD 20.0kWh 4シーター」

ボディサイズ 全長3395mm×全幅1475mm×全高1915mm
乗車定員 4名
最大積載量 200kg(4名)/350kg(2名)
駆動方式 RWD
バッテリー容量 20.0kWh
航続距離 180km(WLTCモード)
急速充電対応 グレードにより標準装備(※)
価格(税込) 248万6000円~

※急速充電機能付きのモデルは254万1000円

 

【スペック確認はこちら!】
▶EV車種一覧ページ 三菱「ミニキャブEV」

 

Ⅱ. 日産「クリッパーEV」 10)

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画像:日産自動車

 

日産「クリッパーEV」は基本的なメカニズムを三菱「ミニキャブEV」と共有する兄弟車です。ただしグレード構成は異なり、4シーターと2シーターのほか、ボディ後方の窓が埋められたパネル仕様のルートバンの3タイプを揃えています。

「クリッパーEV」は各仕様に急速充電機能の有無でグレードが設定され、AC100Vコンセントは2シーターとルートバンにオプション設定されます。また、2シーターにプレ空調スターター機能付きキーレスエントリーシステムが標準装備となるのが「ミニキャブEV」と異なります(「ミニキャブEV」はオプション扱い)。

 

日産「クリッパーEV ルートバン」

ボディサイズ 全長3395mm×全幅1475mm×全高1915mm
乗車定員 2名
最大積載量 350kg
駆動方式 RWD
バッテリー容量 20.0kWh
航続距離 180km(WLTCモード)
急速充電対応 グレードにより標準装備
価格(税込) 286万5500円~

 

Ⅲ. ホンダ「N-VAN e:」 8)

図版13

画像:ホンダ

 

ホンダ「N-VAN e:」は当初、2024年春に発売される予定でしたが、生産体制の整備の遅れなどから2024年10月に発売が延期されました。一見すると、ガソリン車のボンネットバン「N-VAN」をEVコンバージョンしたかのように見えますが、「N-VAN」に比べてタイヤサイズが12インチから13インチへとひと回り大きくなっているほか、7インチフル液晶タイプのメーターが採用されるなど、EV専用モデルとしてつくり上げられています。

1人乗り仕様からホビー向けの4人乗り仕様まで4グレードが用意されています。ホンダの会員制サポートサービスのIDを取得してスマホに専用アプリを入れることにより、充電待機時間の設定など、多彩な充電機能が活用できます。なお、普通充電口に挿して使うACタイプの外部給電器(V2L)がオプションで用意され、そこからAC100Ⅴコンセントを利用できます。

 

ホンダ「N-VAN e: e: L4」

ボディサイズ 全長3395mm×全幅1475mm×全高1960mm
乗車定員 4名
最大積載量 150kg(4名)/300kg(2名)
駆動方式 FWD
バッテリー容量 29.6kWh
航続距離 245km(WLTCモード)
急速充電対応 オプションで選択可能
価格(税込) 269万9400円~

 

【スペック確認はこちら!】
▶EV車種一覧ページ ホンダ「N-VAN e:」

 

Ⅳ. ASF「ASF2.0」 11)

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画像:ASF

 

ASFは自社で生産設備を持たず、外注先に製造を100%委託しているファブレスメーカーで、社名は「And Smart Future」に由来します。日本独自の軽自動車規格に合わせたモデルを開発しており、同社がゼロから作り上げた軽バンEVが「ASF2.0」です。

「ASF2.0」は2シーターのみの1グレード設定で、急速充電やAC100Vコンセントは標準装備となっています。基本的に物流事業者などのプロ仕様として開発され、リース販売のみとなっていますが、スタイリッシュなフロントマスクはホビーニーズも高そうです。

 

ASF「ASF2.0」

ボディサイズ 全長3395mm×全幅1475mm×全高1950mm
乗車定員 2名
最大積載量 350kg
駆動方式 RWD
バッテリー容量 30kWh
航続距離 243km(JARI測定値)
急速充電対応 標準装備
価格(税込) 非公表

 

 

 

トヨタ・ダイハツ・スズキの軽バンEVはどうなる?

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トヨタ・スズキ・ダイハツが共同開発する軽バンEVのトヨタ仕様車(画像:トヨタ)

 

このほかにもトヨタ・ダイハツ・スズキの3社が共同で軽バンEVを開発しています。この新型軽バンEVは2023年秋の「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」に実車が展示されました。

これまでの情報をまとめると、トヨタ・ダイハツ・スズキの新型軽バンEVはダイハツの軽バン「ハイゼットカーゴ」の車体を利用したもので、リアにモーターを積んだ後輪駆動となるようです。ただし、各社で型式指定における認証不正が相次いだことから、新型軽バンEVのローンチの時期は未定となっています。

 

 

電気自動車の軽バンに利用できる補助金は?

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画像:iStock.com/Seiya Tabuchi

 

軽バンEVの導入時に活用できる補助金としては現在2種類が用意されています。物流や運送事業者であれば、LEVO(一般財団法人環境優良車普及機構)が実施する国の補助金制度を利用することが可能です。三菱「ミニキャブEV」を導入する場合は1台あたり最大103万5000円、日産「クリッパーEV」は同120万2000円、ホンダ「N-VAN e:」は同102万9000円、ASF「ASF2.0」は同116万円の補助金が交付されます12)

なお、個人がホビーユースで購入する場合は、乗用車のEVを購入するときと同じく国のCEV補助金が利用できます。こちらの上限額は乗用車の軽EVと同様に最大55万円となっています13)

 

 

 

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軽自動車のEVは商用車から普及が進んでいく

日本の国民車といえる軽自動車のEV化は、政府が掲げる「2050年カーボンニュートラル」には欠かせないソリューションといえます。ただし、軽自動車ユーザーにとっては、EV化による価格アップを受け入れる余地が少ないのも事実でしょう。

軽EVの代表モデルといえる日産「サクラ」は、国産車のEVのなかでもっとも売れているモデルですが、ガソリン車を含めた軽自動車全体で見るとそこまでの人気モデルにはなっていません。ガソリン車に比べて割高な価格がネックになっているからです。

そうなると、個人ユースよりも補助金が充実した事業者のほうが導入のハードルは低く、軽バンEVから軽自動車の完全電動化は進むといえるのかもしれません。また、軽バンEVはラストワンマイルの配送ユースで使われることが多いため、一般ユーザーにとっても身近なEVとして認識されていくことも期待されます。

なお、ホンダは「N-VAN e:」のEVアーキテクチャーを乗用車の軽EVにも展開することを宣言しています。丸目フェイスが印象的な「N-ONE」にEVバージョンが登場するともいわれていますが、「N-VAN e:」と同レベルの駆動用バッテリーやモーターを搭載することになれば、航続距離などのパフォーマンス面からも満足度の高い軽EVの登場が期待できるといえそうです。

※本記事の内容は公開日時点での情報となります

この記事の著者
山本 晋也さん
山本 晋也

1969年生まれ。1990年代前半に自動車メディア界に就職し、中古車雑誌編集長などを経て、フリーランスへ転身。2010年代からWEBメディアを舞台に自動車コラムニストとして活動中。タイヤの有無にかかわらずパーソナルモビリティに興味があり、過去と未来を俯瞰する視点から自動車業界の行く末を考えている。