電気自動車にオイル交換は不要?メンテナンスのコツ

電気自動車(EV)は、メンテナンスコストが安い、といった話を聞いたことはないでしょうか。エンジンではなくモーターで走るEVの場合、オイル交換などは必要なのか、疑問に思うことも多いでしょう。確かに充電だけをしておけば、オイル交換などのメンテナンスをしなくても、乗り続けることができるような気もします。EVとPHEVのメンテナンスについて、専門家に教えてもらいました。

 

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そもそも、車にはどんなオイルが使われている?

A PITオートバックス東雲

 

今回取材に伺ったのは、A PITオートバックス東雲。オートバックスはテスラモーターズジャパンと法定点検・車検に関わる部品供給契約を締結しており、中でも同店はEVのメンテナンス経験も豊富です。回答してくれるのは、オイル交換などのメンテナンス領域を担当しているカーライフアドバイザーの南條拓也さんです。

 

【今回の取材でお話を聞いた方】

南條拓也さん(A PIT オートバックス東雲)


南條拓也さん(A PIT オートバックス東雲)
カーライフアドバイザー。整備士3級。タイヤ、ホイール、オイルなどのメンテナンス販売担当。

▶︎ウェブサイト

 

EVはオイル交換などのメンテナンスが不要という説もあります。そもそもEVにオイルは使われているのでしょうか

南條さん「バッテリーに貯めた電気でモーターを動かすEVは、エンジンを積んでいません。そのためエンジンオイルは使っていないので、当然ですが、エンジンオイルの交換は不要です

しかし、エンジンがないからといって、オイル(油脂類)がまったく使われていないわけではありません。まずは自動車における油脂類の主な役割について整理してみましょう。

 

・エンジンオイル
・オートマチックトランスミッション(ATF)オイル
・ディファレンシャルオイル
・ブレーキオイル

 

エンジンオイルはエンジン内部を潤滑させるために使われています。ATFオイルは、オートマ車でギアチェンジをするときに多段変速機を潤滑に可動させるためのオイルです。ディファレンシャルオイルは、車がカーブを曲がるときにタイヤの外輪と内輪の回転差を調整するディファレンシャルに、ブレーキオイルは、ブレーキペダルを踏むという動作をブレーキに伝えるために必要です。

 

 

EVはエンジンオイルの交換が不要

 

そもそもエンジンを搭載していないEVでは、前述のようにエンジンオイルは不要です。ただし、エンジンオイルの役割としては、潤滑と冷却が挙げられます。EVでも潤滑や冷却が必要な部分には、同じ役割を果たすオイルが必要となります。

南條さん「代表的なパーツが、モーター出力をタイヤに伝えるトランスミッション(減速機)です。EVでもここにはオイルが使われています。ただし、当店はEVに関するメンテナンスの経験も豊富だと自負していますが、少なくとも現時点でEVのトランスミッション(減速機)オイルを交換したことはありません。エンジンオイルのように定期的に交換が必要というわけではありません

トランスミッション(減速機)以外に潤滑や冷却が必要なパーツというのは何がありますか。

南條さん「モデルによって異なりますが、インバータやバッテリーなどを冷却するための冷却水を使っているEVは多くあります。ただし、こちらについてもスーパーLLC(ロングライフクーラント)などを使っています。LLCというネーミングからもわかるように、そうそう交換が必要になるということはないでしょう」

現実的には、駆動部やバッテリー関連でのオイル交換が必要なEVはほとんど存在しないというのが、オートバックスの経験談です。だからといってEVはオイル交換が完全に不要と誤解してはいけません。実際、メーカーはオイルの銘柄や使用量について規定しています

たとえば、三菱自動車のeKクロス EVは、取扱説明書1)によると、「減速機オイル」の規定量は0.85L、メーカー指定オイル銘柄は「三菱自動車純正ATF SP III」となっています。三菱自動車工業・広報部に確認したところ、交換時期は指定されていませんが、「必要に応じて交換するオイルとなっています」ということで、けっして無交換が推奨されているわけではありません。

 

 

 

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PHEVにはエンジンオイル交換が必要。選び方は?

 

ところで、PHEVはエンジンとモーターによって駆動する仕組みです。エンジンを積んでいるので、エンジンオイルの交換は必要ではないでしょうか

南條さん「もちろんPHEVの場合はエンジンオイルの定期交換が必要になります。メーカーの指定しているサイクルに合わせて交換をしていただければと思います」

作業内容はPHEVでも通常のエンジン車と変わりませんし、オイル銘柄や粘度の選び方も同様です。エンジンオイルには多くの種類があります。メーカー純正品もあれば、オイルメーカーの開発した高性能タイプ、また廉価品などもあり、価格も様々です。PHEVのオイルを選ぶときに重要なのは粘度だといいます

南條さん「エンジンオイルのパッケージに書かれている『0W-20』や『5W-30』といった数字は、大きくなるほど粘度が高いことを意味しています。粘度が高いオイルは粘り気が強いためエンジンをぶんぶん回すような使い方をするときの耐久性が期待できます。ただし、抵抗も大きくなるため、燃費性能の面では不利になります。PHEVのエンジンでは『0W-16』や『0W-20』といった粘度の柔らかいオイルが指定されていることが多いのですが、そこに粘度の硬いオイルを入れてしまうと燃費が悪化する可能性があります

オイルを選ぶ際には値段だけでなく、車種に合った粘度を選ぶことが重要です。たとえば、三菱自動車のPHEVアウトランダーの場合、取扱説明書2)によると、2.4Lエンジンを積むアウトランダーのエンジンオイルは、1回の交換で4.4L(オイルフィルター交換時は4.7L)を必要とします。指定銘柄は三菱自動車純正ダイヤクイーンSPもしくは三菱自動車純正ダイヤクイーンSNで、粘度は「0W-20」「5W-30」「10W-30」のいずれかから外気温に応じて選ぶようになっており、「0W-20」を選ぶのが、もっとも燃費性能には有利です。

交換サイクルについて、三菱自動車工業・広報部に確認したところ、「通常は1年または走行1.5万kmのどちらか早いほう。シビアコンディションと呼ばれるハードな使い方をする人には、その半分のサイクルでの交換を推奨しています」ということでした。

PHEVでは、エンジン冷却水も交換時期が指定されていることがあります。特にエンジン車と同じ多段変速機を使っているPHEVの場合、トランスミッションオイルの定期交換も必要になるケースもあります

南條さん「オイル交換の推奨タイミングは、基本的にはメンテナンスノートに記載されています。とはいえ、専門的でわかりづらい部分もあるかと思いますので、ぜひお気軽にご相談いただければと思います」

 

 

 

EV・PHEVで定期的な交換やメンテナンスが必要なものとは?

画像:iStock.com/Pattanaphong Khuankaew

 

EVやPHEVで定期的な交換やメンテナンスが必要なものは、他に何があるでしょうか。

たとえば、油脂類では、エンジン車の場合、ATFオイル、ディファレンシャルオイル、ブレーキオイルなどを交換します。EVやPHEVの場合、日本で流通している車種のほとんどが多段変速機を搭載していないため、基本的にATFオイルの交換は不要です。一方、ディファレンシャルオイルは車の構造によっては交換が必要です。ただし、現状ではまだ交換サイクルに至っていないケースがほとんどでしょう。

EVやPHEVでも交換やメンテナンスの必要があるものについて、以下で説明します。

 

ブレーキオイルの交換は必要。交換サイクルは?

画像:iStock.com/Wachira Wacharapathom

 

ブレーキオイルは、足でペダルを踏んだ力を四輪のブレーキに油圧として伝えるために必要なもので、エンジン車と同じようにEVやPHEVにも使われています。ブレーキオイルは長く使っていると劣化してしまうので、交換は必要です。

南條さん「ブレーキオイルが劣化する二大要素が熱と湿気です。湿気についてはどのような車でも条件は変わりませんが、熱についてはブレーキの使い方によって変わってきます。一般ユーザーにはあまり関係のない話ですが、サーキット走行などハードな使い方をするとブレーキ自体が高温になってしまい、その熱が伝わることでブレーキオイルが劣化します。長い下り坂などでも同じように高温になってブレーキオイルが傷んでしまうケースはあるでしょう」

EVのブレーキオイルはエンジン車と比べて、交換サイクルは異なりますか?

南條さん「一般論としてEVやPHEVは、モーターが発電することで発生する抵抗力によって車両を減速させる回生ブレーキを多用できます。そのためホイールの内側に見える機械式ブレーキはあまり使いません。前述したようにブレーキオイルが熱で傷むのは機械式ブレーキを多用したときです。機械式ブレーキ、引いてはエンジンオイルの負担が軽くなるEVやPHEVでは、エンジン車よりも交換サイクルが長いという印象があります」

 

 

負担がかかるタイヤはエンジン車よりメンテナンスが重要

 

一般的に大きく重いバッテリーを搭載するEVは、同じくらいのサイズのエンジン車に比べて、車体が重くなりがちです。車はタイヤによって地面に接して、タイヤだけで車体を支えています。このことからEVはエンジン車に比べて、タイヤへの負担が大きいことが多く、消耗しやすいといえます。

南條さん「タイヤの溝の深さが1.6mm以下になると、車検に通りません。それ以前でもタイヤが消耗すると安定性が劣ってきたり、ロードノイズが増えてきたりします」

エンジン車に比べ、静粛性が圧倒的に高いEVやPHEVでは、ロードノイズが増えた時が交換時といえそうです。タイヤを交換する場合、重要なのは、装着されているサイズと同じものを選ぶことです。

南條さん「タイヤの側面に『235/45R18』などといった表記がありますが、これはタイヤの幅や内径などのサイズを示しています。この数字を合わせることは必須といえます。その上で、燃費に有利なエコタイヤで、静粛性が高いタイプがおすすめです」

 

予算に余裕がある場合には、併せてホイールを交換するのもおすすめです。

南條さんホイールを軽量なタイプにするとタイヤが転がるときの抵抗が少なくなり、結果として航続距離を伸ばすことが期待できます

ホイール選びについてのポイントはどこにありますか?

南條さん「ホイールというのは車ごとに適切なサイズが変わりますし、たとえばその車種専用の製品もあります。我々のようなカーショップにご相談いただくのがベターです。最適なものを選ぶと、本当に走りが見違えるほど変わりますよ」

 

 

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EVやPHEVでもメンテナンスは大切

画像:iStock.com/vadimguzhva

 

前述のように、EVのメンテナンス経験が豊富なA PIT オートバックス東雲でもEVのオイル交換はほとんど実施したことがないといいます。このことからも、確かにEVはオイル交換コストを抑えることができるかもしれません

ただし、タイヤへの負担はエンジン車よりも大きい傾向にあるなど、EVやPHEVならメンテナンスフリーというわけではありません。やはり適切なサイクルで愛車をチェックし、メンテナンスを実施することは、安全安心なEVライフには必要でしょう。

 

この記事の著者
EV DAYS編集部
EV DAYS編集部