【マンションのEV充電問題】専門会社が提案する解決法とは?

マンション

ここ数年で急速に売れ行きを伸ばしている電気自動車(EV)。しかし、マンション(集合住宅)の居住者のなかには、購入をためらっている人が多いようです。その一因となるのが「自宅充電」の問題。マンションの駐車場にEVの充電器を設置するためにはいくつかのハードルがあり、なかなか実現が難しい現状があります。マンションの駐車場にEV充電器を設置・運用するためのソリューション・サービスを提供する東京電力グループの株式会社e-Mobility Powerの担当者に現状と展望を聞きました。

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マンションの充電問題解決が、EV普及の重要なカギに

山部征司さん

山部征司さん(株式会社e-Mobility Power 充電サービス部 マネージャー)

 

お話しを伺ったe-Mobility Powerは、日本全国のEV充電設備をネットワーク化し、1枚のカードで利用できるようにする「公共充電サービス」の提供で知られる会社です。高速道路のサービスエリアや道の駅、ロードサイドの各種商業施設などに充電設備の設置、法人向けにEV充電設備の設置や保守・運用などを提供しています。

同社はさらに、2023年からはマンション向けのEV充電サービスの提供も開始しています。担当者の山部征司さん(充電サービス部 マネージャー)は、サービス開始の経緯を次のように語ります。

山部さん「日本の住環境を考えた場合、都市部に限ればマンションのほうが圧倒的に多く、たとえば東京都では住居の7割がマンションともいわれています。都市部におけるEV普及を考えた場合に、マンションの充電問題はかなり大きな課題といえます」

 

マンションのEV充電設備設置を難しくする4つの「壁」とは?

EVを充電する様子

画像:iStock.com/onurdongel

 

そもそも、マンションの駐車場にEV充電設備を設置することは、どれくらい難しいのでしょうか。単にコンセントを設置すればいいようにも思えますが、実際にはそんなに簡単な話ではありません。

山部さん「EV充電用のコンセントを駐車場に設置するだけ、という解決策もないわけではありません。しかし、それはかなりレアケースといえます。マンションの駐車場に充電設備を設置するには管理組合などの許可が必要ですし、充電設備の電源をどこから確保するのかなど、技術的または物理的な問題も考えられます」

山部さんによると、マンションの駐車場にEV充電設備を設置するためには、次の4つの課題を解決する必要があります。

 

①導入・運用コスト


最初の課題となるのが、充電設備やケーブルなどの購入費用に加え、工事費や導入後の保守・運用にかかる費用です。設置場所や充電設備の種類によって幅はありますが、機器の代金や工事費をあわせた導入費用は補助金を加味しない場合1基あたり50万~150万円くらいです。

山部さん「こうしたコストは、管理組合を通じ、居住者全体で負担することになるのが一般的です。そのため、現在EVを利用していない居住者にも納得してもらえる金額や取り決めを考える必要があります」

 

②充電設備を設置する場所


駐車場を利用するすべての車がEVなら、全区画に充電設備を設置するという選択肢もあるでしょう。しかし現状では、EV所有者は全体の一部(現時点の普及率は0.7%)に過ぎません。つまり、駐車スペースとは別にEVの充電スペースを設け、1基の充電設備を複数台のEVで共用するという形が現実的です。その場合に問題となるのが充電設備の設置場所です。

山部さん「駐車場や敷地内に余剰スペースがあるマンションは多くありません。たとえば来客用の駐車スペースを転用するにしても、やはり他の居住者の同意を得る必要があります」

 

③充電設備用電源の確保


充電用スペースが確保できたとしても、今度は充電設備の電源が問題になります。既存の受電設備に充電分の空き容量があるのか、受電設備から充電スペースへの電線敷設は可能か、既存の受電設備からではなく、別ルートから引き込むほうがよいか、などを検討する必要があります。

山部さん「空き容量がなくて受電設備の増強が必要だったり、充電スペースまでが遠くて、ケーブルの敷設距離が長くなったりすれば、当然コストが上がります」

 

④管理組合や居住者との合意形成


①から③までの課題をクリアするうえで欠かせないのが、マンションの管理組合、すなわち居住者全体との合意形成です。マンションに新しい設備を導入するためには、住民総会で少なくとも過半数の同意が必要になります。場合によっては、75%以上の同意が必要になることもあるでしょう。

山部さん「特に、EVを利用していない居住者でも導入メリットを感じられるなど、納得のいく説明ができるかどうか、が合意形成の大きなポイントになります」

 

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マンションのEV充電問題解決につながる状況の変化

EV充電器のマーク

画像:iStock.com/FooTToo

 

集合住宅のEV充電問題を解決するまでの道のりは、2000年台に起こったインターネット導入問題とよく似ていると山部さんはいいます。

山部さん「当時は、インターネットの利用者も限られていたため、共有設備の導入としては居住者全体の同意を得ることができず、断念したケースも多かったようです」

しかし、現状はご承知のとおり。EV充電器の設置も、普及の過渡期ならではの問題といえるのかもしれません。ここ数年の間にも、マンションのEV充電問題にまつわる状況は大きく変わっています。もっとも大きいのは、国や自治体がEV普及を後押しするようになったことです。

山部さん「たとえば、東京都では2030年までに集合住宅に6万基のEV充電設備を設置するという目標を掲げています。2025年からは2000平方メートル以下の新築物件でも充電設備(配管設備含む)の設置を義務化されます」

国や自治体は、導入コストを削減する補助金も用意しています。補助金を活用すれば、例えば機器の購入費用が最大50%、工事費用は最大100%の負担減などとなります。

山部さん「金額的にもっとも大きいのが導入コストなので、補助金の利用は他の居住者との合意形成を結ぶうえでも、大きな説得材料となるでしょう」

充電設備導入における「壁」のひとつとなっていた法律の問題も、2021年4月の電気事業法の改正により解消されました。

山部さん「同改正で住宅棟用とは別に充電器専用の電気の引込線を張ることが可能になりました。これにより、充電器に近い場所から電気を引き込むことも可能になりました」

導入計画から運用までを一括でサポートしてくれる事業者が増えたことも、管理組合や他の居住者との合意形成のハードルを下げるのに役立っています。

 

マンションのEV充電設備を運用するための手順は? 導入までの時間はどれくらい?

カレンダーと砂時計のイメージ

画像:iStock.com/FooTToo

 

では、マンションにEV充電設備を導入するまでにはどのような過程があるのでしょうか。e-Mobility Powerでのケースを例に、導入から運用までの流れを山部さんに簡単に説明してもらいました。

 

まず決めるべきは、設置方法と充電器の種類


マンションにEV充電設備を導入する場合、まず設置方法と充電設備の種類を考える必要があります。

〈図〉設置方法と充電設備の種類

設置方法と充電設備の種類の図

※1 自身の車載ケーブルを使用。出力は最大約3kWまで。
※2 ケーブル一体型。出力は最大6kWまで対応。

 

設置方法は、①共有スペースなどに充電設備を設置する「共有型」と、②個別の駐車スペースに充電設備を設置する「専有型」の2タイプが考えられます。現在のEVの普及状況からすると、駐車場とは別に充電スペースを設け、1~数基程度の充電設備を複数台のEVで共有するパターンが現実的です。

一方、充電設備の種類は、①コンセントタイプか②充電器タイプになります。コンセントタイプの方が導入単価や保守面でもお手頃です。ただし、充電出力は現状3kWまでしか対応していないため、バッテリー容量が大きい車種ほど充電時間がかかるなどのデメリットがあります。充電器タイプは6kWの高出力にも対応しているものがあるため、充電時間が短いというメリットがあります。その一方で、導入コストや保守費用はコンセントタイプよりもかかるのが特徴です。

山部さん「e-Mobility Powerでは、管理組合様に対して充電設備から(運用開始後の)管理までを一括サポートしており、設置方法や充電器の種類など組合様のご意向を伺いながら、最適な方法をご提案しております」

管理組合にとっての大きな悩みどころのひとつが、ユーザーへの提供料金をどう設定するかです。いくつかパターンが考えられますが、すべて受益者負担とすると単価が高くなりがちで、ユーザーが利用しにくくなってしまう虞もあります。

〈図〉ユーザーに転嫁するコスト

ユーザーに転嫁するコストの図

※1 補助金活用で負担は軽減可能

 

山部さん「マンション管理組合の考え方、判断基準にもよりますが、すべてユーザーの利用料金に転嫁するパターン(管理組合の費用負担ゼロ)から、今回ご紹介しているエルシティ新浦安様のようにイニシャル費の一部とランニング(固定費)を管理組合で負担してユーザーが利用しやすい料金設定するパターンまで、様々です」

ちなみに、標準的な自動車利用者の毎月の走行距離は370km1)です。車種にもよりますが、所有する車の電費が5km/kWhとした場合、必要な電力量は約74kWhです。6kWの普通充電器なら、1回3時間程度の充電を月に4回行えば、必要な電力が得ることができます。

山部さん「予約システムを導入したり、日常的なEVの利用状況に応じて充電スポットの利用時間を割り当てたりするなど、運用ルールを整備しておけば、1基の普通充電器で7~8台程度のEVをカバーできる計算になります」

 

 

準備開始から運用までの所要期間は半年~1年が目安


では、検討を始めてから実際に充電設備を設置するまではどのくらいの期間が必要なのでしょうか。山部さんによると、ケースバイケースではあるものの、国や自治体の補助金を活用する場合は、だいたい半年~1年くらいだそうです。

〈図〉既設マンションにEV充電設備を導入するまでの手順

既設マンションにEV充電設備を導入するまでの手順の図

 

山部さん「弊社の場合、ご相談を受けてから、現地調査を行い、導入費用やサービス料金の見積もりを出すまでに、だいたい1~2カ月のお時間をいただいています」

マンションでの充電器設置には管理組合や居住者との合意形成が必要です。そのため、設置までの所要期間は、管理組合の総会が行われるタイミングにもよるといいます。通常、総会は年1回の開催が多いため、その前までに計画や見積もりをまとめておくと、余計な待ち時間が生じません。

山部さん「設置の検討には、見積もりのほかに総会にかけるための資料も必要です。その準備を考えると、見積もりが出てから総会の決議を得るまでの期間は、余裕をもったほうがよいでしょう」

提案のポイントとなるのが、マンションの資産価値。EV充電設備を持つ新築マンションが増えることで、既存のマンションでも充電設備が資産価値向上に役立つ可能性が高くなるのです。

山部さん「EVの普及が進めば、当然ながら充電設備の必要性も高まります。つまり、これからマンションを売買する際には、充電設備の有無によって価格が変わる可能性が十分考えられるわけですね。これは、現在EVを利用していない居住者の方々にとって、充電設備導入のメリットとなりうるでしょう」

決議を得たあとは工事になりますが、補助金を利用する場合、工事前の申請通過が必要である点に注意です。

山部さん「時期によっては申請が通るまでに2カ月以上かかることもあります。これらの事情をすべて含めて考えると、やはり半年から1年くらいの期間がかかります」

 

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【実例紹介】充電設備を導入したマンションの一例

マンション

 

マンションにEVの充電設備を導入する手順や期間がわかったところで、実際の導入事例を知りたくなった人も多いはず。そこでご紹介するのが、「エルシティ新浦安」(千葉県)の事例です。

山部さんによると、このマンションでは、空きスペースとなっていた受水槽設備の跡地を転用し、2基の普通充電器を置く共有型の充電サービスを、2023年2月より運用開始しています。

マンションに設置されたEV充電器

 

山部さん「エルシティ新浦安様の場合、以前から管理組合様側でEV充電設備の導入を検討されていたこともあり、比較的スムーズに運用開始まで進めることができました」

スムーズな導入となった要因としては、予算と大きな枠組みを総会で決議し、業者の選定や運用ルールといった細かい点は、理事会に一任したことが挙げられます。

山部さん「補助金申請、充電料金の検討などのご支援、設置工事、(運用開始後の)利用者様からの申込受付、利用認証、ユーザーへの料金請求など、運用業務全般をトータルでサポートさせていただきました。実際の運用には、導入決議以降も様々な準備が必要で、これらを組合様だけでご対応するのは大変だと思います。弊社も初めての案件だったため、非常に勉強になりました」

EV充電設備

 

エルシティ新浦安では、共有の充電スペースということで、利用者の認証システムを持つ充電器を導入しました。ただし、EVユーザーの数がまだ少ないこともあり、予約機能は現時点ではあえて導入せずに、ユーザー同士の話し合いベースで充電設備を使うルールを選びました。

山部さん「弊社のシステムでは、機能をフレキシブルに組み合わせることが可能です。予約機能は便利ですが、運用法によっては、充電の必要はなくてもとりあえずスペースを確保しておくというような使い方をされてしまう可能性が生じます。ニーズや状況に合わせて機能を選び、最適な運用をしていただければと思います」

 

EV普及のカギとなるマンションにおけるEV充電のこれから

山部征司さん

 

最後に、マンションにおけるEV充電設備の重要性と、今後の展望について、山部さんに聞きました。

山部さん「我々の大きな目標は、充電設備自体の拡充や利便性の向上を通じたEVの普及にあります。そのために欠かせないのが、マンションにおけるEV充電問題の解決です。マンションにお住まいの方でも、気軽にEVを利用できるようになれば、ユーザー数は大きく伸びることでしょう」

マンションのEV充電設備の導入に関して、計画から運用までを一括でサポートしてくれる事業者が増えている現状は、EV普及の観点から追い風になっているといいます。

山部さん「事業者によって、ビジネスモデルが異なる部分もありますから、A社の提案ではしっくりこなかったけど、B社に相談したら実現できた、というケースも出てくるはずです。相談できる窓口が増えたことは、利用者にとって大きなメリットだと思います。充電設備は、5年、10年と長く、日々ご利用いただく設備です。ユーザーにとっての利便性、経済性の利点があるか、充電設備(ハードウェア)はそのままで事業者の変更ができるシステムになっているか、事業者の持続性などを総合的に評価して決めることが大切だと思います」

たとえば、充電設備自体の拡充や利便性の向上に勤めてきたe-Mobility Powerならではの「強み」は、マンションでの充電はもちろん、ユーザーが希望した場合は、全国2万口以上の充電器を1枚のカードで利用することができるようになることです。

山部さん「弊社にご相談頂くメリットは、自宅と外出先でシームレスに充電設備を利用することが可能である点です。EVの利便性は、充電設備の数や使い勝手によって大きく変わります。より快適にEVをご利用いただけるのではないでしょうか」

ここ数年の間に、解決へ向けた動きが活性化しているマンションのEV充電問題。住む場所を気にせずEVを気軽に利用できる時代は、意外と近くまで来ているのかもしません。マンションにEV充電設備の導入を検討している人は、e-Mobility Powerを含む、サービス事業者の動向に、ぜひご注目ください。

 

この記事の著者
EV DAYS編集部
EV DAYS編集部