【図解】電気自動車(EV)バッテリーの基礎知識。仕組みや種類、車種別容量まで解説

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電気自動車(EV)を上手にライフスタイルにとり入れるためには、EVの心臓部ともいえるバッテリーについて最低限の知識を持っておくことが大切です。エンジン車にもバッテリーは搭載されていますが、EVのバッテリーとどう違うのか。バッテリーの仕組みのほか、バッテリーの種類、EVバッテリーの容量の平均まで、基礎知識を解説します。

 

 

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EVバッテリーの基礎知識①駆動用と補機用の違い

まずはEVに搭載されている2つのバッテリーの役割について確認していきましょう。

 

EVには2種類のバッテリーが搭載されている

バッテリー種類

 

EVには、役割が異なる2種類のバッテリーが搭載されています。

ひとつは、走るための電気を供給する駆動用バッテリー」です。最近発売されるEVのほとんどで、駆動用バッテリーには大容量のリチウムイオン電池が使われています。最高出力や一充電走行距離(航続距離)など、EVの自動車としての性能の多くは、この駆動用バッテリーの性能や容量によって決まると言ってもいいくらい重要な役割を果たしています。

もうひとつが、エンジン車と同様に12Vの直流電気を供給し、ライトを点灯したり、オーディオ機器やパワーウィンドウを動かしたりといった電気を供給する「補機用バッテリー」です。ちなみに、エンジン車の場合は発電機(オルタネーター)を装備していますが、EVは駆動用バッテリーから必要に応じて補機用バッテリーを充電する仕組みになっています。

 

なぜEVは補機用バッテリーも必要?

エンジン車と異なってEVには大容量の駆動用バッテリーがあるのに、どうして補機用バッテリーが必要なのでしょうか?

大きな理由は安全のためといえます。EVに搭載されている駆動用バッテリーはおおむね数百ボルトの高電圧仕様です。そのため、メインスイッチ(EVの駆動システム)をオフにしているときは、駆動用バッテリーから電気が漏れ出さないように、補機用バッテリーとは切り離して安全性を高めているのです。

また、車の電装品はもともと12Vという電圧で動くように作られており、消費電力の変化が激しい電装品に、わざわざ駆動用バッテリーから電圧を下げて常時電気を送るのは効率が悪いという理由もあります。

 

 

EVバッテリーの基礎知識②「kWh」と「kW」の違い

EVが搭載している駆動用バッテリーの容量(総電力量)は、一般的に「kWh(キロワットアワー)」という単位で示されます。急速充電器モーターの出力を示す単位「kW(キロワット)」と、表記が似ていて混同しやすいので注意しましょう。「kW」と「kWh」は、次のような数式で求めることができます。

〈表〉出力と総電力量を求める数式

出力=kW=電圧(V)×電流(A)
総電力量=kWh=出力(kW)×時間(h)

※ここではわかりやすいように「力率」は省略しています

 

ほかにもバッテリー容量を示す単位としては、PHEVのカタログなどに「Ah(アンペアアワー)」という単位で示されていることがあります。電池の電圧は決まっているので、仮に「100Ah」の容量をもった電池からは「20Aの電力を5時間取り出し続けることができる」ことになります。

「kWh」で示す総電力量も、一般的には「Ah」と同じ「バッテリー容量」と呼ばれることが多いので少しややこしいですね。とはいえ、電費を示す際には「6km/kWh」や「150Wh/km」など、「kWh」基準が使われることが多いので、「容量=kWhと理解しておくといいでしょう

EVの駆動用バッテリーは、エンジン車におけるガソリンタンクのようなものとよく言われます。たとえば、40kWhの「リーフ」より、60kWhのバッテリーを搭載した「リーフ e+」のほうが、1回の満充電でより長距離を走ることができます。

また、バッテリーには「どのくらいの電力を一気に出し入れできるか」という性能があり、この性能が優れているとより高出力でモーターを回したり、より高出力での急速充電に対応することができることになります。

つまり、EVのバッテリーはエンジン車におけるガソリンタンク」というだけでなく、まさにエンジン動力源)そのものと評することさえできる、とても重要なパーツなのです。

 

 

EVバッテリーの基礎知識③リチウムイオン電池の基本

 

EVの駆動用バッテリーはリチウムイオン電池が主流

バッテリー

画像:iStock.com/Petmal

 

EVやPHEVの駆動用バッテリーに使われているのは、ほとんどが「リチウムイオン電池」です。また、外部から充電ができないハイブリッド車(HEV)にはこれまで「ニッケル水素電池」がおもに使われていました(現在はHEVもリチウムイオン電池になりつつあります)。そして、12Vの補機用バッテリーには、エンジン車と同様、EVでも「鉛蓄電池」が使われているのが一般的です。

なぜ、いろんな電池が使い分けられているのでしょうか。おもな理由は「エネルギー密度」と「価格」にあります。

〈図〉バッテリーの種類と「エネルギー密度」「価格」の関係イメージ図

表

 

エネルギー密度とは、一定の重さの電池の中に、どれくらいの電力量を蓄えることができるかを示す性能です。「鉛蓄電池ニッケル水素電池リチウムイオン電池」の順にエネルギー密度は高くなります。

一方、エネルギー密度が高い電池は、それだけ高価になる傾向があります。つまり、エネルギー密度に比例して「鉛蓄電池<ニッケル水素電池<リチウムイオン電池」の順に価格が高くなっていくのです。

リチウムイオン電池が現在のように使いやすくなる前は、自動車メーカーが試作したり、試験的に販売するEVにも駆動用バッテリーとしてニッケル水素電池や鉛蓄電池が搭載されたりすることがありました。しかし、リチウムイオン電池が進化して性能が向上し、価格も抑えられるようになってきたことから、最近市販されるEVにはリチウムイオン電池を搭載するのが主流になっています。

 

リチウムイオン電池の種類

リチウムイオン電池の中にも、おもに電極に使う素材によってさまざまな種類があります。

現在、中心となっているのは、電極にニッケル・マンガン・コバルトなどを使った「三元系NMC)」と呼ばれる電池です。ほかには、コバルトを使用せず安価に製造することが可能な「リン酸鉄LFP)」と呼ばれる電池も注目度が高まっています。ただし、安価で安全性の高いリン酸鉄の電池は三元系に比べてエネルギー密度が低く、低温時に性能が低下する傾向があるなど、種類によって一長一短があるのが現実です。

また、リチウムイオン電池には形状による種類もあります。おもな形状の種類としては、テスラなどが採用している「円筒型」、リーフ(日産)などが採用している「パウチ型(ラミネート型)」、bZ4X(トヨタ)などが採用している「角型」に大別できます。

〈図〉リチウムイオン電池の形状による種類

電池

 

今後は、さらにエネルギー密度などの性能が向上し、価格を抑えたリチウムイオン電池の開発が進んでいくと見込まれています。

 

リチウムイオン電池の仕組み

駆動用バッテリーに使われるリチウムイオン電池ですが、どのような仕組みで動いているのでしょうか。

〈図〉リチウムイオン電池の充電・放電時の流れ

流れ

 

リチウムイオン電池は「正極」と「負極」の間をリチウムイオンが移動することで、電気を出し入れすることができるようになっています。

ちなみに、補機用バッテリーによく使われる鉛蓄電池は鉛の電極(正極と負極)の間を電子が行き来することで電気を出し入れします。電極や電気を運ぶ物質は違いますが、化学反応によって電気を得られるという基本的な仕組みは同じといっていいでしょう。

鉛蓄電池にしても、リチウムイオン電池にしても、バッテリーにどのくらいの電気を蓄えているかを判別する方法はいくつかありますが、「電圧」によって判別することも一つの手法です。電池にはそれぞれ定められた範囲の電圧があり、その上限に達すると満充電」となり、電圧が下限まで低下してしまうとバッテリー上がり」や「電欠」の状態になってしまいます。

 

 

平均的なEVのバッテリーの容量は?

電池

画像:iStock.com/Vertigo3d

 

2024年現在、日本で販売されているEVのバッテリー容量は少なくて20kWh程度、大きいと100kWhを超え、かなり幅があります。

強いていえば、40〜60kWh程度が平均的なバッテリー容量といえますが、遠距離走行が少ない方の場合、20kWhのバッテリー容量でも十分なケースもあるでしょう。現に、軽EVである日産「サクラ」は20kWhで航続距離が180kmですが、2023年に最も売れたEVです。バッテリー容量が大きければ、それだけ車体価格も高くなるため、使い方とのバランスでバッテリー容量は考えた方がいいでしょう。

なお、参考として国内販売されている主なEVのバッテリー容量を一覧にしてみました。気になる車種をチェックしてみてください。

 

〈表〉主なEVのバッテリー容量

車種 バッテリー容量
アウディ「Q4 e-tron」 82kWh
アバルト「500e」 42kWh
シトロエン「Ë-C4」 50kWh
ジャガー「I-PACE」 90kWh
スバル「ソルテラ」 71.4kWh
テスラ「Model 3」 非公表
トヨタ「bZ4X」 71.4kWh
日産「サクラ」 20kWh
日産「リーフ」 40kWh/60kWh
日産「アリア」 66kWh/91kWh
ヒョンデ「IONIQ 5」 58kWh/72.6kWh
ヒョンデ「KONA」 48.6kWh/64.8kWh
フィアット「500e」 42kWh
プジョー「e-208」 50kWh
フォルクスワーゲン「ID.4」 52kWh/77kWh
マツダ「MX-30 EV MODEL」 35.5kWh
三菱「eKクロス EV」 20kWh
メルセデス・ベンツ「EQS」 107.8kWh
ボルボ「C40 Recharge」 73kWh
ボルボ「EX30」 69kWh
ポルシェ「タイカン(パフォーマンスバッテリー)」 79.2kWh
レクサス「RZ」 71.4kWh
BMW「i4」 70.3kWh/83.9kWh
BYD「ATTO 3」 58.56kWh
BYD「DOLPHIN」 44.9kWh/58.56kWh

※車種によってはグレードによりバッテリー容量が異なる場合があります。

 

 

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EVバッテリーの寿命は何年? 保証期間は?

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画像:iStock.com/kool99

 

EVの心臓部ともいえるバッテリーだけに、「寿命はいつくるのだろう?」と不安に思う方もいるでしょう。

EVのバッテリーは正確には“寿命”というような完全に使えなくなる状態にはならず、徐々に劣化していきパフォーマンスの低下が発生します。乗用車としての使用に支障が生じるようになった状態をいわゆる“寿命”と表現しています。

また、そうなった場合に交換を検討することになりますが、多くの国内で販売しているEVは「8年または16万kmどちらか早い方が適用される)」までバッテリー容量SOH 70%以上」を保証しています。

EVバッテリーの寿命については、以下の記事でより詳しく解説しています。バッテリー劣化のメカニズムのほか、交換やメーカーごとの保証期間、バッテリーを長持ちさせるコツまでを紹介しています。併せて読んでみてください。

 

 

EVのバッテリーの最新技術:全固体電池とは?

バッテリー

画像:iStock.com/PhonlamaiPhoto

ここまでEVバッテリーについて、いろいろな角度から解説してきましたが、最新技術についてもご紹介します。EVバッテリーの中で最近よく耳にするのが「全固体電池」です。

全固体電池とは、「中身すべてが固体の電池」のことです。リチウムイオン電池は、その中身に電解質という液体が使われていますが、全固体電池はその液体を固体化したもの。リチウムイオン電池の進化版といっていいでしょう。

固体化することでさまざまなメリットがありますが、最大のメリットは充電スピードの速さとされています。全固体電池を開発する自動車メーカーいわく、充電にかかる時間は3分の1に短縮されるといいます。

現在、多くのEVユーザー、あるいはEV検討者は充電時間の長さを気にしています。実用化し、普及すれば、EV購入のハードルが大きく下がることでしょう。

ただし、全固体電池は実用化へのハードルが非常に高いのも事実です。全固体電池に関する仕組みの詳細や、自動車メーカー各社の動きについて、以下の記事で詳しく解説しています。興味のある方はぜひ読んでみてください。

 

 

バッテリーへの理解を深めると、EVライフがワンランク上がる

はじめてEVの購入を検討する方にとって、バッテリーの扱いはハードルになるに違いありません。しかし、kWhとkWの違いや電池の仕組みを簡単に理解しておくだけでも、EVライフは格段にわかりやすくなります。ぜひバッテリーへの理解を深めて、EVライフを楽しんでください。

 

※本記事の内容は公開日時点での情報となります

 

この記事の監修者
寄本 好則
寄本 好則

コンテンツ制作プロダクション三軒茶屋ファクトリー代表。一般社団法人日本EVクラブのメンバー。2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成。ウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開。電気自動車情報メディアや雑誌特集などに多く寄稿している。著書に『電気自動車で幸せになる』(Kindle)など。