【図解】「EV(電気自動車)」とは?|HV・PHV・FCVとの仕組みの違いを解説

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最近、 “環境にやさしい車”の話題がニュースで多く取り上げられています。車の種類として「EV」という言葉がよく登場しますが、「HV」「PHV」「FCV」といった言葉もあり、違いがわからない人も多いのではないでしょうか。これらの言葉の意味やそれぞれの仕組み、違いを解説します。そして、“なぜ環境にやさしい”とされているかを確認していきましょう。

 

この記事の監修者

森本 雅之

森本 雅之

元東海大学教授。工学博士。電気学会フェロー。モーターやパワエレが専門。現在は、社会人教育を中心にコンサルタントとして活動している。 著書に『電気自動車 電気とモーターで動く「クルマ」のしくみ』(森北出版),『パワエレ図鑑』(オーム社)など。

 

EV充電設備

 

「EV」とは?

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画像:iStock.com/3alexd

EVとは“電動車両”すべてを指す。HVやFCVも含まれる

「EV」のことを、漠然と「電気自動車」のことだと認識している人は多いでしょう。しかし、EVとは「Electric Vehicle」の略ですから、正しくは“電気を動力にして動く車両=電動車両”全般を指す言葉なのです。

つまり、一般的に「電気自動車」と漠然と考えられているもののほかにも、“電気で走る”ハイブリッド車(HV)や燃料電池自動車(FCV)、プラグインハイブリッド車(PHV・PHEV)も、EVに含まれます。

〈図〉EV(Electric Vehicle)の分類

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一般に「電気自動車」と言われる車=「BEV」

一般に「電気自動車」と呼ばれるものは、「EV」の中でも「BEV」と分類されるものです。「BEV」とは「Battery Electric Vehicle」の略で、“バッテリーの電気だけを使ってモーターで走る車”のことです。

一方で、「HV」、「PHV」、「FCV」はバッテリーに貯めた電気以外も使って走ることができる車です(詳細は下記で解説)。

〈表〉BEVとHV、PHV、FCVの違い

BEV

バッテリーの電気“だけ”を使ってモーターで走る車

HV、PHV、FCV

バッテリーに貯めた電気“以外も”使って走ることができる車

 

つまり、「EV」という括りの中でも、“どのような電気を使って走るのか”という違いで分類が変わります。 

【注】上記のように、「EV」という言葉は、さまざまな車を包括する概念です。しかし、一般に「BEV」が「電気自動車(EV)」と表現されることが多いことから、本サイトでも「BEV=電気自動車(EV)」と定義して使用しております。以下の文章を読む際はご了承ください。

 

 

 

エンジン車との違い、EVのメリットは?

EVとエンジン車の違いは?

EVとエンジン車との違いは、「駆動力(車が走行するための力)」を生み出す方法にあります。それぞれの構造をザックリと表現した簡略図で見てみましょう。

 〈図〉EVとエンジン車

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〈表〉EVとエンジン車が動くまで

EV

モーターに電流を流し、モーターが回転する力を利用することで駆動力を生み出す

エンジン車

エンジンでガソリンや軽油などの化石燃料を燃やし、高温のガスでピストンを動かして駆動力を生み出す

生まれた駆動力をタイヤに伝えて走るのは、エンジン車とEVで違いはありません。

 

 

EVのメリットはCO2排出なし、低騒音・低振動

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画像:iStock.com/Liia Galimzianova

EVは、ガソリンや軽油などの化石燃料を燃やさないので、走行時にCO2(二酸化炭素)は一切排出しません。また、エンジン車に比べると、低速で走る場合の振動・騒音が少ないのもメリットと言えるでしょう。

EVの代表例としては、日産リーフホンダHonda eなどが挙げられます。これまでは、EVは航続距離が短い、充電時間がかかるなど、デメリットも挙げられていましたが、毎年進化を続け、現在運用上はエンジン車と遜色ないほどの性能になっています。

 〈表〉代表的なEV

メーカー

車種

日産自動車

リーフ

本田技研工業

Honda e

 

 

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「EV」と「HV」「PHV」「FCV」「CDV」との違い

次に、「EV」の仲間である「HV」「PHV」「CDV」「FCV」についても説明していきます。

これらはいずれも走行時に排出ガスを全く出さないか、排出ガスが少ないまたは排出ガスがきれいな車です。そのため「クリーンエネルギー自動車」や「エコカー」と呼ばれることがあります。

では、1種類ずつ特徴と構造図を確認していきましょう。

Ⅰ.ハイブリッド車(HV)とは?

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画像:iStock.com/photoman

「HV」とは「Hybrid Electric Vehicle」の略で、ハイブリッド車のことを指します。HEVと呼ばれることもあります。

「ハイブリッド」という言葉は、“異なる種類を混ぜ合わせる”という意味です。HVにおいては、“動力の複合”を意図しており、エンジンとモーターという2つの動力を利用して走行します。

HVは、2つの動力をどのように使用するかで、

1.パラレル方式

2.シリーズ方式

3.シリーズ・パラレル(スプリット)方式

 という3つの種類に分けることができます。それぞれの仕組みは後述します。

一般に、外部からの充電機能を持たない車をHVと呼び、後述するプラグインハイブリッド車(PHV・PHEV)と区別します。

〈図〉HVとPHVの違い

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ただ、このように説明すると、「充電しないのにモーターで走れるの?」と疑問に思う方もいるでしょう。しかし、HVはモーターによる走行が可能です。

なぜなら、HVはエンジンを使って発電し、その電気をバッテリーに貯めて、モーターを動かすからです。

なお、HVに限らずすべての「電動車両」では、減速するときに生まれるエネルギーを利用してモーターが発電します。運動エネルギーが電気エネルギーに変換され、バッテリーに充電することができるのです。これを「回生」と言います。回生は電動車両の大きな特徴です。

 

HVの種類 ①パラレル方式

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HVの3種類のうちのひとつが「パラレル方式」です。「パラレル」とは“並列”を意味し、エンジンとモーター両方で走行する方式のことを指します。

〈表〉エンジンとモーターの3つの使い分け

(ⅰ)エンジンだけで走る

(ⅱ)モーターだけで走る

(ⅲ)エンジンとモーターの力を合わせて走る

 

構造上、エンジンとモーターはそれぞれの得意な領域を持っており、それぞれの得意な場面でエンジンとモーターを使い分けます。また、上り坂や急加速など、強い力を必要とする場合はエンジンとモーターは同時に動きます

パラレル方式はモーターの出力がそれほど大きくないので、エンジンの稼働時間が長くなってしまうという欠点がありますが、「シリーズ方式」や「シリーズ・パラレル(スプリット)方式)」より構造が簡易なので安価にハイブリッドを実現できます

〈表〉代表的なパラレル方式のHV

メーカー

車種

本田技研工業

旧型フィット

 

HVの種類 ②シリーズ方式

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「シリーズ方式」とは、エンジンで発電した電気だけを使ってモーターで走る方式のことを指します

「パラレル」が“並列”なのに対し、「シリーズ」は“直列”を意味します。上図を見ると、内部の機器が直列につながっていることがわかると思います。

パラレル方式が、EVとエンジン車を合体させたようなイメージだとすると、シリーズ方式はEVにエンジンで動く発電機を載せているイメージです。

モーターのみで走りますから、EVと同じ走行感覚が味わえますし、充電に必要な時だけエンジンを回すのでエンジン車よりも低燃費です。

〈表〉代表的なシリーズ方式のHV

メーカー

車種

日産自動車

ノートe-POWER

 

HVの種類 ③シリーズ・パラレル(スプリット)方式

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「シリーズ・パラレル(スプリット)方式」のHVは、パラレル方式と異なり、エンジンのほかに走行用と発電用という、2つのモーターを持っているのが特徴です。

モーターを2つ持っているため、おもに下記のような使い分けがしやすくなります。

〈表〉エンジンとモーターの4つの使い分け

(ⅰ)モーターだけで走る

(ⅱ)エンジンだけで走る

(ⅲ)モーターで走りながら、エンジンで発電機を回して充電する

(ⅳ)走行用モーター+発電用モーター+エンジンすべてを使って走る

 

こういった使い分けの中から、どれが使われるか、あるいはどのような状況で使い分けるかは、それぞれの車種によって、また走行状況やバッテリー残量によって異なります。

一般にパラレル方式よりもエンジンを休ませることができますから、当然燃費もよくなります。

〈表〉代表的なシリーズ・パラレル(スプリット)のHV

メーカー

車種

トヨタ自動車

プリウス

本田技研工業

フィット

 

 

Ⅱ.プラグインハイブリッド車(PHV・PHEV)とは?

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「PHV・PHEV」とは「Plug-in Hybrid Vehicle・Plug-in Hybrid Electric Vehicle」の略で、プラグインハイブリッド車のことです。

PHV・PHEVはHVの一種ですが、その中でも外部から充電できるHVのことをこう呼びます。外部から充電する際、コンセントに“プラグを挿す(Plug-in)”ことから、このように表現されます。メーカーによって、「PHV」や「PHEV」と表記されていますが、同じものを指しています。

PHV・PHEVは、外部からも充電できるため、満充電にすれば、充電のためにエンジンを動かすことなく,バッテリーの電気で走る時間が延びるのでガソリンの消費をかなり抑えることができます。

自宅や勤務先に充電できる環境があれば、ガソリンスタンドへ出掛ける頻度もかなり少なくなるでしょう。

PHV・PHEVの例としては、トヨタRAV4 PHV、プリウスPHVや、三菱のアウトランダーPHEV、エクリプスクロスPHEVがあります。

〈表〉代表的なPHV・PHEV

メーカー

車種

トヨタ自動車

RAV4 PHV

プリウスPHV

三菱自動車

エクリプスクロスPHEV

アウトランダーPHEV

 

 

Ⅲ.燃料電池自動車(FCV)とは?

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「FCV」とは「Fuel Cell Vehicle」の略で、燃料電池で走る車のことです。

燃料電池とは、水素と酸素を化学反応させて水を作るときに発電する装置のこと。多くの人が中学生時代に「水の電気分解」の実験で、水に電気を流して水素と酸素を取り出したことがある(あるいは学んだ)と思いますが、この化学反応の逆を行って(水素と酸素から水を作って)電気を作るのが燃料電池です。

燃料電池は、名称には「電池」という言葉が使われていますが、機能は「発電装置」です。

FCVは水素タンクを搭載し、その水素を使って燃料電池で電気を作り、モーターで自動車を走らせます。EVに燃料電池という発電装置を積んだ車、と考えるとわかりやすいでしょう。走行中に排出するのは電気と水のみで、CO2は一切排出しません

〈表〉代表的なFCV

メーカー

車種

トヨタ自動車

ミライ

本田技研工業

クラリティFUEL CELL

 

 

Ⅳ.クリーンディーゼル車(CDV)とは?

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「CDV」とは、「Clean Diesel Vehicle」の略です。クリーンディーゼル車とは、排気ガスがクリーンになるように改良されたディーゼルエンジンで走る車です。

ディーゼルエンジンはもともとガソリンエンジンより燃費が良く、力強く加速できます。さらに低価格な軽油を使うため、コストパフォーマンスが高いのが特徴です。

ディーゼルエンジンはPM(粒子状物質)やNOX(窒素酸化物)などの大気汚染物質を多く排出していましたが、これらをとても少なくしたのがクリーンディーゼルエンジンです。「平成22年排出ガス規制(ポスト新長期規制)」で設けられた基準をクリアした、排出ガスのきれいなディーゼル車のことをCDVと呼びます。

ヨーロッパでも同等の厳しい基準があり、この基準をクリアしたCDVの輸入車もあります。

〈表〉代表的なCDV

メーカー

車種

マツダ

CX-5

メルセデス・ベンツ

GLC

 

クリーンエネルギー自動車の種類とメリットを整理しよう!

クリーンエネルギー自動車について、それぞれの特徴やメリットなどを整理してみましょう。

 

 

EV(BEV)

HV

意味

電気自動車

ハイブリッド車

概要

車に搭載されたバッテリーの電気を使ってモーターで走る車

エンジンとモーターの両方を使い走る車

構造図


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※図はパラレル方式

EVとの違い

-

エンジンを使って車を走らせるシーンがあるものもある

主なメリット

走行時にCO2を一切排出しない

ガソリン車に比べると騒音や振動が少ない

常にエンジンが動くのでなく、エンジンを休ませられるため、燃費がよい

車種例

日産リーフ

ホンダHonda e

トヨタ プリウス

ホンダ フィット

 

 

PHV

FCV

CDV

意味

プラグインハイブリッド車

燃料電池自動車

クリーンディーゼル車

概要

外部から充電できるハイブリッド車

水素から電気を作り、モーターで走る車

排ガスがクリーンなディーゼル車

構造図

 

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EVとの違い

エンジンを使って車を走らせるシーンがある

バッテリーへの充電が不要で、水素タンクに水素を充填する

走行時にCO2を排出する

主なメリット

エンジンを休ませられるため、HVよりさらに燃費がよい

ハイブリッド車よりも給油の回数が少なく済む

走行時にCO2を一切排出しない

燃費がよい

低価格な軽油を使うため、燃料が安い

車種例

トヨタ RAV4 PHV

三菱エクリプスクロスPHEV

トヨタ ミライ

ホンダ クラリティ FUEL CELL

マツダCX-5

メルセデス・ベンツGLC

※エンジン自動車と比較したとき

環境にやさしい車にはいろいろな種類があり、それぞれでメリットが異なります。もちろん、同じ種類でも車種によって機能は細分化されるので、購入する際にはしっかりと比較検討することが必要です。

 

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EVをもっと暮らしに生かす「V2H」とは?

EVやPHV・PHEVを所有していると、自宅に「V2H」システムを導入することもできます。

「V2H」とは「Vehicle to Home」の略です。EVやPHV・PHEVには大容量のバッテリーが搭載されていますが、それを “超大型蓄電池”として捉え、その電気を家庭で利用できるようにするシステムのことです。駐車場にある車が常時、家の電気系統とつながっている状態になります。

たとえば、62kWhという大容量のバッテリーを備えている日産リーフなら、一般的な家庭が使用する電気を4日間分まかなえると言われています。また太陽光発電と併用し、昼間に発電した電気をEVの大容量バッテリーに蓄え、夜にその電気を使用する、というような使い方もできます。

それだけでなく、家でないところにあるEV専用コンセントや街の充電設備で「充電」することも可能です。つまり、外部から“電気を汲んでくることもできる”ことから、災害による停電時などにとても重宝するシステムと言えるでしょう。

 

 

世界的なCO2の排出量削減にEVは必須の存在

CO2の排出量を削減することは、世界中の課題になっています。現在はクリーンエネルギー自動車を増やしてCO2の排出を減らしていこうという動きがありますが、今後はもう一歩進み、すべての車をEV(=BEV)やHV、PHV、FCVといったEV(電動車両)にするような動きになっていくでしょう。EV(電動車両)をさらに普及させていくことは、CO2の排出量削減には必須なのです。

 

 

この記事の著者
EV DAYS編集部
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