FCEV(燃料電池車)とは?EVとの違いやメリット・デメリットを解説

FCEVとは

環境にやさしい車といえばEV(電気自動車)ですが、もうひとつ次世代エコカーとして忘れてはいけないのがFCEV(燃料電池車)です。とはいえ、多くの人はFCEVがどんな車なのか、あまりよく知らないことでしょう。そこでモータージャーナリストの鈴木ケンイチさん監修のもと、FCEVの仕組みやEVとの違い、そのメリット・デメリットについてEV DAYS編集部が紹介します。

 

バナー

 

そもそもFCEVとは? EVとどこが違う?

充電

画像:iStock.com/UniqueMotionGraphics

 

FCEVは環境負荷が少ない次世代自動車として注目されていますが、そもそもどのような仕組みをもった車なのでしょうか。EVとの違いと併せて、最初にFCEVの基本的な部分を解説します。

 

【図解】FCEVの基本的な仕組みと特徴とは?

FCEVとは「フューエルセル・エレクトリック・ビークル」を略した言葉で、フューエルセルは「燃料電池」のことです。

EVは外部から充電した電気を蓄える大容量のバッテリーを搭載していますが、FCEVのバッテリーはEVに比べるとかなり小さく、そのかわりに燃料電池と水素タンクを搭載しています。

〈図〉FCEV(燃料電池車)の基本構造

構造図

 

燃料電池は機能的に電池というより発電装置」で、タンクに充填された水素と空気中の酸素を化学反応させて電気をつくり、その電気でモーターを駆動して車を走らせます。つまり、構造や仕組みは違いますが、FCEVもEVの一種であり、「燃料電池という発電装置を積んだEV=FCEV」と考えればわかりやすいかもしれません。

水素と酸素をエネルギー源にして、ガソリンを使用せずにモーターで走行しますから、FCEVが走行中に排出するのは水のみで、CO2二酸化炭素などはいっさい排出されません。

 

EVとの違いは「燃料電池で自ら発電して走る」こと

電池

トヨタ「MIRAI」の燃料電池ユニット

 

FCEVはEVの仲間ですから、両者には「電気でモーターを駆動して走る」「走行音が静か」「加速性能がいい」といった共通点があります。もちろん、走行中にCO2などをいっさい排出しない「環境性能の高さ」は両者に共通する一番のポイントでしょう。

もっとも、FCEVとEVでは相違点もあります。なかでも両者で大きく異なるのが、EVが外部から「充電」した電気をバッテリーに蓄えて走行するのに対し、FCEVは外部からタンクに水素を充填し、燃料電池で自ら発電を行って走行することです。

また、エネルギー補給の場所についても、EVが自宅や公共施設などに設置された充電器で行うのに対し、FCEVは水素ステーションと呼ばれる専用施設で充填を行う必要があります。

 

 

FCEVのメリットを3つのポイントで紹介

FCEVの仕組みや特徴を聞いても、この車の何が優れているのかいまひとつ見えにくいかもしれません。そこでEVと比較したときの「メリット」という観点からFCEVについて解説します。

 

メリット①EVより航続距離が長い

走行中

画像:iStock.com/gehringj

 

EVと比較した場合のメリットのひとつに、FCEVのほうがフル充電充填)の「航続距離が長い」という点があります。

FCEVは車種が少なく、同一車種にEVとFCEVが設定されたモデルがないため正確には比較できませんが、国産メーカーの普通車EVの航続距離(一充電走行距離)が約260〜600km(WLTCモード)程度なのに対し、同じく国産車でFCEVの代表的車種であるトヨタMIRAIの航続距離一充填走行距離は、グレードで異なりますが、約820kmから約850km(参考値)です1)

より大容量のバッテリーを搭載した輸入車の高性能EVでも航続距離が700kmを超えるのはほんの数車種ですから、現時点でFCEVのほうが航続距離で優位なのはたしかなようです。

 

参考資料
1)トヨタ「MIRAI」

 

 

メリット②EVよりエネルギー補給が早い

よく指摘されるEVのデメリットに「充電時間が長い」というのがありますが、この点でもFCEVのほうに優位性があります。

EVの充電時間は、出力が違う「普通充電」「急速充電」のどちらで充電するかによって大きく異なります。FCEVと同様に外出先の専用設備で充電する場合も、急速充電器の出力、その車種の急速充電の最大受入能力などで充電時間が変わります。ただし、急速充電器は原則的に「1回最大30分」と決められていて、EVユーザーの多くも経路充電の所要時間を30分程度と考えます。

一方、FCEVの充填時間は同じくトヨタMIRAIで約3分程度です(※)。両者では前提となる条件が違いますが、単純比較するとFCEVの充填時間はEVの約10分の1となるわけです。

 

※水素充填圧および外気温によって充填時間は異なります。

 

 

メリット③エネルギー源に「未来感」がある

未来の車

画像:iStock.com/gorodenkoff

 

FCEVが利用する水素は、電気を使って水から取り出すことができるほか、化石燃料、メタノールやエタノール、下水汚泥、廃プラスチックなどさまざまな資源からつくることが可能で、資源に乏しい日本にとって理想的なエネルギー」とされています。

現在普及している水素はおもに化石燃料からつくられているため、製造工程でCO2を排出しますが、将来は海外の未利用エネルギーや再生可能エネルギーなどの資源からつくることで、製造時にもCO2フリーの水素(グリーン水素)が安価にできるようになるでしょう。それを代替エネルギーとして利用できれば、コストを抑えながらエネルギーを多角的に調達し、酸素と結びつけて発電したり燃焼させて熱エネルギーとして利用したりすることができます2)。しかも、利用の際には水素はCO2などを排出しません。

こうした次世代のエネルギーを使った車に乗るのは、EV以上にある種の未来感があり、所有欲をかき立てることでしょう。

 

 

 

️FCEVのデメリットを3つのポイントで紹介

とはいえ、EVに比べるとFCEVの普及スピードは遅く、現状ではいくつかのデメリットがあります。おもにEVと比較した場合のFCEVのデメリットを3つのポイントから紹介します。

デメリット①車両価格に割高感がある

トラック

画像:iStock.com/Wirestock

 

FCEVが搭載する燃料電池にはレアメタルのほか、1台あたりディーゼルエンジン車の数倍とされる量のプラチナが触媒として使用されています。また、約700気圧という超高圧に圧縮された水素を貯める水素タンクも非常に高価で、それらの分車両価格が高くなる傾向があります。

たとえば、FCEVが設定されているトヨタ「クラウン」(セダン)を例にHEV(ハイブリッド車)との車両価格を比較すると、HEVが730万円なのに対し、FCEVは830万円(いずれも税込)と、FCEVのほうが100万円高くなっています3)

ただし、FCEVは国の補助金対象車両で、「クラウン」の購入時の補助金は2023年度の場合約136万円4)。税制優遇措置もありますから、初期費用に限ればガソリン車並みの価格で購入することが可能です。

 

 

 

デメリット②購入時に選べる車種が少ない

車

画像:iStock.com/welcomia

 

車選びの際には、さまざまな車種やボディタイプのなかから自分好みの1台を見つけたいのが人情です。しかし、国内で購入可能なFCEVは現時点で3車種しかなく、ボディタイプはセダンSUVの2択、国産車に限ればセダンの1択です。

EVもガソリン車に比べると車種が少なく、そこがよくデメリットと指摘されますが、それでも軽自動車にコンパクトカー、SUVからスポーツカーまでラインナップは多岐にわたります。

 

 

デメリット③燃料補給できる場所が少ない

電池

トヨタ「クラウン」(セダン)FCEVの水素タンク

 

EVの公共充電スポットは2022年3月末時点で全国に約2万1000カ所5)、ガソリンスタンドは2023年3月末時点で全国に約2万8000カ所あります6)

一方、FCEVが利用する水素ステーションは、2023年12月時点で全国に161カ所しかありません7)車の実用性を考えると、この点はFCEVの大きなデメリットといえるでしょう。

また、水素の価格が上昇しているのも気になるところです。大手水素ステーションでは2024年4月から水素価格を当初の倍近い2200円/kg(税込)へ改定すると公表しています。

 

 

バナー

 

水素ステーションはどこに設置されているの?

充電中

画像:iStock.com/onurdongel

 

FCEVに不可欠な水素ステーションについて、もう少し詳しく見ていきましょう。水素ステーションはFCEVの燃料となる水素を専用の装置で圧縮し、高圧状態にして、ガソリン車に給油するようにノズルを使って車両に充填するFCEV専用の施設です。

前述のように、水素ステーションは全国に161カ所あり、その内訳は首都圏50カ所、中京圏49カ所、関西圏20カ所、九州圏15カ所、その他の地域27カ所です。四大都市圏と、それらを結ぶ幹線沿いに水素ステーションの整備が進められています。

政府も水素ステーションの整備を支援していますが、FCEVの保有台数が少ないうえ、建設するには補助金を含めても億単位の費用がかかるため、なかなか整備が進まないのが現状です。

 

 

【国産・輸入車】国内で買えるFCEVの車種一覧

前述のように国内で購入できるFCEVは、2024年3月時点で国産車・輸入車を合わせて3車種あります。それぞれ簡単にスペックを紹介します(以下、メーカーを50音順で表示しています)。

 

Ⅰ.トヨタ「クラウン」(セダン)

セダン

 

2023年11月に発売された新型「クラウン」(セダン)に設定されたのがクラウン史上初のFCEVです。全長5030mm、全幅1890mmのボディサイズと広々とした室内空間は、オーナーが後席に乗るショーファーカーを意識したもので、環境への配慮と静粛性を備えるFCEVの設定はそうしたニーズに応える側面があります。

「MIRAI」と共通のプラットフォームが採用され、FCスタック(燃料電池ユニット)の最高出力は128kW(174PS)、駆動モーターの最高出力は134kW(182PS)、最大トルクは300Nmとなっています。一充填走行距離は約820km(参考値)、車両価格は830万円です3)。

 

Ⅱ.トヨタ「MIRAI」

MIRAI

 

「MIRAI」はトヨタが世界に先駆けて量産を開始した革新的なFCEVです。ただし、2014年に発売された初代モデルは改善を指摘される部分が多く、デザインも不評でした。そうしたなかで、2020年12月に登場したのが2代目「MIRAI」です。

この車のポイントは、ボディタイプにあえて「セダン」を選択したことです。FCEVは水素タンクを搭載しますから、車高を取れるSUVなどのほうが本来設計しやすいはずです。わざわざ技術的にむずかしいセダンを選んだ点にトヨタらしさを感じます。

「クラウン」のFCEVと兄弟車なので性能面はほぼ同じです。FCスタックの最高出力は128kW(174PS)で、駆動モーターの最高出力は134kW(182PS)、最大トルクは300Nm。一充填走行距離は約820〜850km(参考値)で、車両価格は約726万円(税込)〜となっています1)

 

Ⅲ.ヒョンデ「NEXO」

ヒョンデ

 

ヒュンダイがブランド名を「ヒョンデ」とあらため、2022年2月に日本市場へ再び参入した際に導入したのが、EVの「IONIQ 5」とFCEVの「NEXO(ネッソ)」です。現状では国内で購入可能な車種のうち、唯一となるSUVタイプのFCEVになります。

FCスタックの最高出力は95kW(129PS)で、駆動モーターの最高出力は120kW (163PS)、最大トルクは395Nm。一充填走行距離はトヨタ「クラウン」や「MIRAI」とほぼ同等の820km(WLTCモードでの自社測定値)となっています。車両価格は約776万円(税込)8)

 

参考資料
8)ヒョンデ「NEXO」

 

 

FCEVの購入時に利用できる補助金は?

補助金

画像:iStock.com/78image

 

最後にFCEVの購入時に利用できる補助金について簡単に紹介しましょう。現在ラインナップされるFCEVの3車種はいずれも国の補助金対象車両で、補助金上限額は255万円です4)

なお、自治体が交付する補助金は各自治体で上限額や交付条件が異なり、なかには補助金を交付していない自治体もあります。詳しく知りたい方は、自動車メーカーの公式サイトや、お住まいの自治体のホームページなどで補助金情報を確認してみてください。

 

 

バナー

 

FCEVをつくることが「未来に対する投資」になる

EVやFCEVに対して「車両価格が高い」「車種が少ない」「燃料補給が不便」といった指摘がよくなされます。たしかに、ガソリン車に比べると多少のデメリットはあるでしょう。とりわけFCEVの場合、そうした指摘が比較的当てはまるかもしれません。

しかし、それでもメーカーがFCEVにこだわるのは、FCEVをつくることが未来に対する投資になるからです。「挑戦の証といってもいいでしょう。販売台数が伸びなくても、つくり続けることで技術が磨かれます。メーカーだけではなく、ディーラーやインフラ事業者の間でも情報や知見が蓄積されていきます。

FCEVとは、そういう位置付けの車なのです。販売台数だけを追求した車ではないことは覚えておいたほうがいいでしょう。

 

※本記事の内容は公開日時点での情報となります

 

この記事の監修者
鈴木 ケンイチ
鈴木 ケンイチ

1966年生まれ。茨城県出身。國學院大学経済学部卒業後、雑誌編集者を経て独立。レース経験あり。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。