CHAdeMO(チャデモ)とは?EVの急速充電器規格の基礎知識や最新事情を解説

チャデモ

電気自動車(EV)関連のニュースで「CHAdeMO(チャデモ)」という言葉が登場することがあります。しかし、耳馴染みもなく、わからない人も少なくないでしょう。そこで、この記事では「チャデモとは?」という疑問に回答するほか、EVの充電をより深く理解するための基礎知識を解説します。

 

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CHAdeMO(チャデモ)規格とは?

 

アダプター

画像:iStock.com/Juan-Enrique

ここではチャデモ規格の仕組みや特徴などの基礎知識を解説します。

 

そもそも、チャデモってなに?

CHAdeMO(チャデモ)は、EV用の急速充電規格の一種です1)

具体的には、「充電口の形のほか、「充電方式利用できる電流)」「充電器と車の通信方式などが規格化され、安全に、安定してEVが急速充電できるように規定されています。

〈図〉CHAdeMO(チャデモ)規格の概要️

概要

 

「一種」と表現していることからもわかるように、ほかにも急速充電規格は存在します。しかし、日本国内で急速充電器を利用する上ではあまり意識する必要はありません。

なぜなら、日本で販売されているEVは、テスラなどの例外を除いて、国産車や欧州車、韓国や中国のEVもほぼすべての車種がチャデモに対応しているからです。日本でのEV充電を考える場合、急速充電=チャデモ規格と考えておけばOKです(一部の例外については後述します)。

高速道路や道の駅、コンビニ、大型商業施設などに設置されている急速充電器はほぼすべてチャデモです。また自動車ディーラーに設置されている急速充電器もチャデモだと考えていいでしょう。

ちなみに、日産・リーフが発売された2010年に、チャデモは日本が主導して規格化を実現した急速充電規格です。チャデモの急速充電器は世界96カ国でおよそ5万基が設置されているといいます。

 

コラム「チャデモの由来とは」

チャデモはアルファベットで書くと「CHAdeMO」と表記されますが、「CHArge de MOve =動く、進むためのチャージ」「de=電気」「充電中にお茶でも」の3つの意味を含んでいます2)

〈図〉CHAdeMO(チャデモ)の由来

由来

 

 

チャデモ規格を用いた急速充電の仕組み

ここでは改めて、チャデモ規格を用いた急速充電の仕組みについて解説していきますが、これは日本における一般的なEVの急速充電について解説することとほぼ同義となります。

日本では、EVの充電方式は充電スピードの違いから普通充電と急速充電の2つに分けられます。このうち、チャデモは急速充電の規格です。

〈図〉日本でのEV充電方式:普通充電・急速充電の違い️

違い説明

 

上の図のように、普通充電と急速充電(チャデモ)は電圧や電流の種類が異なります。おもな違いとしては、普通充電では交流充電を、急速充電チャデモでは直流充電を行います

また、普通充電では連続して一定の充電電流がかけられる一方、急速充電(チャデモ)では充電率(SOC)が上がると充電電流が自然と低下していく、という特徴があります。

〈図〉急速充電器とEVのCAN通信の中身(チャデモプロトコル)️

通信の中身

 

なお、チャデモが利用する通信方式はCAN(Controller Area Network)と呼ばれるもので、ほぼすべての車に搭載されている車両内のネットワーク技術であり、ノイズに強く高い安定性と信頼性を備えています。

EVが急速充電されるときには、急速充電器からEVへバッテリーの状態について問い合わせがされ、EVが逐次、充電許可信号と電流指令値を送信することで、バッテリーに負荷がかかりすぎないようにしながら、急速充電が行われます。

 

 

チャデモ規格の特徴️

特徴

画像:iStock.com/algre

 

EV急速充電規格には、チャデモのほか、後述するGB/TやCCSといった規格もありますが、基本的な仕組みに大きな差はありません(通信方式や電圧に多少の違いはあります)。

チャデモ規格の大きな特徴として挙げるとすれば、EVと家をつなぐ「V2H」などの双方向給電に対応していることでしょう。

東日本大震災を契機にチャデモは双方向給電仕様を2014年に世界に先駆けて規格として発行しました。EVの大容量バッテリーを自宅の蓄電池代わりとして考えるV2Hは日本発祥の仕組みなのです。ゆえに、世界各地で行われているV2HやV2Gなどの実証実験には、チャデモのV2H利用において実績のある日産・リーフがいまでも重宝されています。

 

チャデモ規格の対応車種

繰り返しになりますが、日本国内で販売されているEVのほぼすべての車種がチャデモに対応しています。国産車はもちろん、欧州車、韓国や中国のEVでも問題ありません。

ただし、このあと説明するとおり、テスラとフィアット・アバルトは例外となります。

 

テスラ車などをチャデモ規格の急速充電器で充電する方法

急速充電の規格は、世界各地でいろいろな規格が使われており、充電口の形が違います。しかし、基本的には自動車メーカーがその地域の充電規格に合った充電口を車両に装備するので、EVに乗る際には、充電規格のことは意識しなくても問題ありません。

ただし、テスラとフィアット・アバルトは例外です。これらはチャデモ規格に対応していません。ここでは、これらの車種でチャデモ規格の急速充電器を使う方法について説明します。

 

【テスラ車の場合】NACS→チャデモの充電アダプターを使う

テスラ

 

テスラの全車両は「NACS(North American Charging Standard)」というテスラ車専用の急速充電規格を搭載しており3)、同時にNACSに対応した急速充電器「スーパーチャージャー」を日本全国各地に配備しています。

ではテスラ車はチャデモの急速充電器を使えないかというとそうではなく、専用の「チャデモ対応充電アダプター」(オプション)を使って充電することは可能です4)

〈図〉【テスラ】チャデモ対応充電アダプターの使用方法️

使用方法

 

ただし、充電出力は最大50kWまでしか対応していないため、普段から最大250kWのスーパーチャージャーで充電体験をしているテスラオーナーにとっては「充電速度が遅い」と感じるそうです。チャデモでの充電はスーパーチャージャーが使えない時の転ばぬ先の杖、という感覚で利用する人が多いようです。

 

 

 

【フィアット 500e、アバルト 500eの場合】CCS1→チャデモの充電アダプターを使う

フィアット

 

フィアット 500e」と「アバルト 500eもチャデモに対応していないため、規格を変換する標準装備の専用アダプターを使う必要があります。なお、テスラのように専用の充電ステーションを展開していないので、急速充電はチャデモの充電器を利用することになります5)

これらの車種は、CCS1という北米規格の急速充電口を装備したまま輸入されているので、車両に標準装備されているCCS1からチャデモに変換する専用アダプターを使います。

〈図〉【500e】チャデモアダプターの使用方法

使用方法

 

ただ、このアダプターはそれなりの大きさ・重さがあるので、ちょっとした煩わしさがあるかもしれません。「フィアット 500e」や「アバルト 500e」を購入する際は、それを理解した上で購入した方がいいでしょう。

なお、このアダプターは一部の急速充電器(2024年1月時点で全国977カ所:Shindengen 0.9、Hasetec QC型)には対応していないので、事前に使用できる充電スポットを確認しておきましょう。

 

 

 

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世界の急速充電器には大きく分けて5種類の規格がある

 

画像:iStock.com/DragonClaws

 

急速充電器の規格は、世界的に見て以下のとおり、大きく5つに分かれています。

家庭用のコンセントが国によって違うように、EVの急速充電口も地域ごとに分かれているという状況ですが、NACSは例外です。テスラは専用の規格NACSをEVと充電ステーションをセットにして欧州を除く世界中で展開しています。

〈表〉世界の急速充電規格

世界の急速充電規格

 

これらの規格は、充電口の形が違うだけではなく、充電出力や車両と充電器の間で通信するためのプロトコル、車両情報・バッテリーの状態・課金のための認証などのプロファイルもそれぞれ各自で規定しています。

CCS1

CCSはコンバインド充電システム(Combined Charging System)の略称で、「コンボ」と呼ばれることもあります。現在はCCS1とCCS2に分派しており、CCS1は主に北米の自動車メーカーや電力会社が標準化を進めています。1つの充電口で普通充電と急速充電の両方に対応しているのが、チャデモ規格との大きな違いです。

 

CCS2

「コンボ」のうち、主に欧州の自動車メーカーや電力会社が標準化を進めているのがCCS2です。こちらもCCS1と同じく、ひとつの充電口で普通充電と急速充電の両方に対応していますが、充電口の形状が異なっています。

 

GB/T

GB/Tは急速充電における中国国家標準規格の一種で、中国政府が中国全土を対象に準拠を推奨しています。チャデモの技術支援を受けて規定されたことから、充電口の形状や通信にCANを使う点などいくつかの類似点があります。

 

NACS

NACSは前述のように、テスラ車専用の急速充電規格です。急速充電の規格のなかでは唯一企業が推進しています。専用の急速充電器スーパーチャージャーは、日本国内では最大出力250kWの「V3」が多くを占めており、それ以外でも120kWの「V2」が設置されています。充電時にプラグを挿すだけで充電ができ、認証や支払いなどの手間が不要ないわゆる「プラグ&チャージ」を実現している充電規格です。

 

他規格とチャデモの比較

他規格の急速充電規格と比較して、チャデモ規格は充電速度が遅いという声もありますが、出力が低いというわけではありません。

急速充電器の設置は2009年頃に世界に先駆けて日本で始まりました6)が、当時主流だった50kWの充電器が市場でスタンダードになっているため、設定されている上限電圧が低めであるという背景があります。2009年に世界初の量産EVとして三菱・i-MiEVが登場し、追って2010年に日産・リーフが発売された当時は、50kWでも十分だったのです。

そのため、規格としてチャデモが遅い、劣っているという話ではありません。なお、日本では2023年10月に経済産業省が「高速では90kW以上で150kWも設置。高速以外でも50kW以上を目安、平均出力を倍増(40kW→80kW)」とする方針を示しています7)。充電器設置に関する補助金も提供されていますので、今後は高出力化が進むでしょう。

 

 

急速充電器規格における3つの変動要因

画像:iStock.com/ RalfHahn

 

日本の急速充電器には今後もチャデモ規格が使われることになると思われますが、今後を予測するにあたって、3つの変動要因が考えられます。

 

①NACSの存在

ひとつはテスラの専用規格であるNACSの存在です。事例として、北米でNACSが標準規格を逆転した事象を紹介します。

NACSはテスラ車専用の充電規格として普及してきました。しかし、北米地域ではEV全体に対するテスラ車のシェアが6割以上にも達しているため、テスラ用の充電器(スーパーチャージャー)が、北米の標準規格であるCCS1の充電器よりも多く、充電インフラとして充実しているという状況が続いてきました。

その結果、北米ではテスラ以外のメーカーの車両がNACSを採用し、テスラはスーパーチャージャーを他のメーカーにも開放するという事態になりました8、9)。つまり、NACSがCCS1を逆転し、事実上デファクト・スタンダード(市場における業界標準)になっています。

日本においては、日本の自動車メーカーがシェアの7割以上を持っているので、NACSが標準化するということは考えにくいでしょう。しかしながら、少なくとも輸入車に関しては、チャデモに対応するコストを嫌がって、NACSを装備したまま日本に輸入されてくるケースが今後増えてくる可能性があります。

 

 

②自動車メーカーの専用充電サービスの増加

ふたつめは、テスラ社のようにメーカー専用の充電サービスの展開を計画する自動車メーカーが増えてきた、ということです。

これには、充電の際の煩雑な手順が問題視されているという背景があります。テスラ車の充電(NACS)は「プラグ&チャージ」と呼ばれ、充電ケーブルを挿すだけで充電が始まります。充電の手間がとても少ないため、ユーザーの満足度も高いものです。

一方、そのほかの自動車メーカーの車種で充電する場合、認証の手続きや課金の手続き、充電器のSTARTボタンなど、何かと手間が多くストレスを感じるものです。

その“ユーザー体験の差”を問題視する自動車メーカーが、独自の充電サービスを展開するというトレンドが世界的に見られます。メルセデス・ベンツは認証操作なしで充電できる「プラグ&チャージ」を世界中で1万基配備する計画を発表している10)ほか、フォルクスワーゲングループやレクサス、BMW・GM・ホンダ・ヒョンデなど7社連合なども専用充電サービス網の構築やプラグ&チャージの配備計画を掲げています11、12、13)

このような独自充電サービス網の整備が進むと、地域ごとの充電規格を搭載する意味がだんだん薄くなり、NACSを採用するケースもあり得るでしょう。となると、チャデモなど、地域ごとの充電規格のシェアに影響を与える可能性があります。

 

 

③日中共同開発の新充電規格「チャオジ(チャデモ3.0)」

3つめは、「チャオジ(チャデモ3.0)」です14)。チャデモ協議会は日中で共同開発中の次世代超高出力充電規格「ChaoJi(チャオジ)」を「チャデモ3.0」として規格化し、その際には充電口の形を変更することも計画しています。中国では現在、充電規格としてGB/Tが普及していますが、このチャオジ/チャデモ3.0の導入も決めています15)

ただし、いつ、どのくらいの規模でチャオジ/チャデモ3.0の普及が進むのかについては今のところは未知数です。まだしばらく先になるものと予想します。

 

 

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急速充電規格を意識する必要はないが、規格が増える可能性も

スタンド

画像:iStock.com/golfcphoto

 

周辺状況も併せて紹介してきましたが、ユーザーの立場としては、テスラ車ユーザーはスーパーチャージャー、それ以外の車種のユーザーはチャデモを利用しており、規格の違いを意識することはあまりないでしょう。それよりも、充電器の充電速度のほうが普段の利用では重要で、特に遠距離を走る場合は事前に調べておいた方がいいかもしれません。

また今後については、日本ではしばらくチャデモ規格がこれまで通り主流となると思われます。ただし、数年後には一部の高級車ブランドを中心に、テスラのようなプラグ&チャージの対応が始まりそうです。

 

 

この記事の著者
佐藤 耕一
佐藤 耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT業界に転じて自動車メーカー向けビジネス開発に従事。2017年ライターとして独立。自動車メディアとIT業界での経験を活かし、CASE領域・EV関連動向を中心に取材・動画制作・レポート/コンサル活動を行う。日本自動車ジャーナリスト協会会員。