電気自動車(EV)で遠出をする場合、多くの方は急速充電器を利用することになるでしょう。しかし、ガソリン車しか乗ったことのない方にとって、急速充電は不安やわからないことが多い存在に違いありません。この記事では、急速充電の特徴や、充電のコツなどを解説します。
※この記事は2023年6月13日に公開した内容をアップデートしています。
- 電気自動車の急速充電とは?
- 電気自動車の急速充電の所要時間と充電量の目安は?
- 電気自動車の急速充電の料金目安は?
- 急速充電器を探す方法
- 急速充電器を効率的に利用するコツ
- 【図解】急速充電器の使い方
- 効率よく急速充電を利用してEVライフを満喫しよう
電気自動車の急速充電とは?
急速充電とは、「急速充電器」で行われる充電のことで、直流の電気を使用し、普通充電(交流)と比較して高出力かつ短時間で充電を行えます。
普通充電の場合、バッテリーがほぼ空の状態から満充電までに数時間〜十数時間かかりますが、急速充電ならより速く充電することが可能です(実際の充電時間については、後述します)。
ただし、専用の急速充電器が必要で、数百万円と高価なだけでなく、一般的に変電設備も必要となります。そのため、急速充電器は家庭に設置するものではなく、高速道路のサービスエリア(SA)や道の駅、自動車ディーラー、商業施設などに設置されるものなのです。
急速充電と普通充電の違い
前述で軽く触れましたが、急速充電と普通充電は大きく異なります。その違いを一覧で確認してみましょう。
普通充電 | 急速充電 | |
電気の種類 | 交流(AC) | 直流(DC) |
充電器のおもな設置場所 | ・自宅 ・ホテル・旅館 ・ショッピングモール など |
・高速道路のSA、PA ・道の駅 ・コンビニ ・自動車ディーラー など |
おもな充電最大出力 | 3〜6kW | 20〜150kW |
充電時間 | 数時間〜十数時間 | 原則1回30分 |
充電料金 | ・自宅の場合:数百円〜2000円程度 | ・数千円の月会費+都度料金 |
おもな利用タイミングの違い
急速充電と普通充電の大きな違いは、おもな利用タイミングです。普通充電は自宅もしくは目的地で行いますが、急速充電は自宅から目的地に向かう途中の経路上で行うのが一般的です。
ガソリン車を長年利用されている方は、ガソリンスタンドと同様のイメージをして、「街にある充電スポット=エネルギーの補充場所」と捉えるケースがあるかもしれませんが、基本的にEVの充電は自宅で行うもので、急速充電は走行中に足りなくなったときに行う存在なのです。
つまり、時間をかけて満充電を目指すのが普通充電。電気を素早く注ぎ足して、目的地までに必要な分を充電するのが急速充電ということです。同じ充電でも、普通充電と急速充電は使い方が大きく異なるのです。
出力の違い
上記のような使い方の違いがあるため、急速充電と普通充電には求められる性能も異なります。
“継ぎ足し充電”である急速充電は、素早く充電することが求められ、普通充電はゆっくりでも安く満充電近くまで充電できることが求められます。
そのため、急速充電は「充電出力」が大きく、短時間で充電できる仕様になっています。普通充電器の多くが、3〜6kWの出力で充電する仕様である一方、急速充電器の多くの最大出力は50kW程度で、最近は90kWや150kWといった高出力器の設置数が増え、350kWの高出力器の開発も進められています1)。
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電気自動車の急速充電の所要時間と充電量の目安は?
急速充電器で充電する場合、どのくらいの時間でどれくらいの電力量を充電できるのでしょう。以下で詳しく解説します。
基本の目安時間は30分
国内の急速充電器のほとんどは「1回30分まで」と決められており2)、満充電にならなくても30分で停止するように設定されています。
例外はテスラの急速充電器「スーパーチャージャー」などで、これには30分の制限はありません。なお、現在テスラ車以外のEVでは、スーパーチャージャーを使うことはできません(テスラ車は変換アダプターを使用すればCHAdeMO方式の急速充電器を使用することができます)。
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急速充電の充電量の目安は?
急速充電の最大出力は、設置されている急速充電器によって異なります。たとえば、現在日本国内に設置されているCHAdeMO方式の急速充電器の出力は、おおむね50kW程度です。
そのため、単純に計算すると、最大出力が50kWの急速充電器で30分充電した場合、「25kWh」の電力量を充電できることになります。しかし、東京電力グループのe-Mobility Power(以下、「eMP」)の調べによれば、50kW充電器の場合、30分間で平均15kWh程度の充電が目安となるそうです。
なぜなら、高出力での充電は発熱などによるバッテリーへの負担が大きいこともあり、実際には急速充電器がEVと通信で情報をやりとりして、適切に制御されるので、常に最大出力で充電が行われるわけではないからです。
また、EVの車種毎に急速充電で受入可能な最大電力が車側で決められているので、急速充電器の最大出力がいくら大きくても、車側で制限されてしまうこともあります。
この点に関しては、以下の記事で詳しく紹介しています。ぜひあわせてご確認ください。
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電気自動車の急速充電の料金目安は?
急速充電を行う場合、原則として「充電カード」が必要です。
充電カードとは、公共の場所にある急速充電器などにかざすことで、機器を作動させ、カードに紐づいたクレジットカード情報等から利用料を決済することができるものです。
充電カードは、自動車メーカーなどが提供する充電サービスの会員になることで発行できます。会員になるには原則「月会費」が必要で、それに使用した分の普通充電と急速充電の「都度料金」が設定されています。
充電カードを持たず、“ビジター(ゲスト)”として急速充電器を利用することもできますが、都度個人情報を登録するなど、手続きが煩雑なうえ、充電料金は割高です。
レンタカーなどで一時的にEVやPHEVを利用するのではなく、マイカーとして所有するのであればあらかじめ充電カードを取得しておくのが、便利といえるでしょう。以下で、おもな充電カードの種類と加入条件、料金体系などについて説明します。
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おもな充電カードの種類と加入条件
充電カードは「誰でも加入できるカード」と「自動車メーカーが発行するオーナー限定カード」の2種類があります。
eMPやJTBが発行している充電カードは、所有する車種に限らず誰でも加入することができますが、自動車メーカーが発行するカードは、基本的には各メーカーのEVを所有している人向けです。
〈表〉おもな充電カードの種類と加入条件
加入条件 | カード名 |
誰でも加入可能 | ・e-Mobility Powerカード(eMP) ・おでかけCard(JTB) |
各メーカーの車を所有している人限定 | ・ゼロ・エミッションサポートプログラム3(ZESP3)(日産) ・EV・PHV充電サポート(トヨタ) ・三菱自動車 電動車両サポート(三菱) |
ちなみに、自動車メーカーが発行するカードの場合、新車購入時から一定期間は月会費などが無料となる購入特典が付くケースもあるので、購入するカーディーラーなどに確認して上手に活用してください。
急速充電の料金例
ここでは充電カードの一例として日産「ZESP3」と「e-Mobility Powerカード」の急速充電の料金について説明します。
日産「ZESP3」の場合
ZESP3は4つのプランが用意されています。どのプランを選んでも急速充電を利用することが可能ですが、プランに「無料充電分」がどのくらい含まれているかどうかで違いがあります。
プレミアム100、200、400では「無料充電分」が付いていて、たとえばプレミアム100なら月100分までの急速充電が追加費用なしで行えます。なお、無料充電分の時間を超えると、それぞれ1分あたり33〜44円の都度料金がかかります。30分急速充電を行うと、990〜1320円かかることになります。
一方、シンプルプランは月額基本料金は安くなりますが、急速充電の利用時間1分につき99円が都度かかります。つまり、30分急速充電を行うと、2970円かかることになります。
〈表〉ZESP3の料金体系3)
プラン名 | プレミアム100 | プレミアム200 | プレミアム400 | シンプル |
プランに含まれる充電回数※1 | 急速充電100分 | 急速充電200分 | 急速充電400分 |
設定なし |
普通充電600分 | 普通充電600分 | 普通充電600分 | ||
月額基本料金 | 4400円 | 6600円 | 1万1000円 | 1100円 |
充電料金※2 (急速充電器) |
44円/分 | 38.5円/分 | 33円/分 | 99円/分 |
充電料金※2 (普通充電器) |
3.3円/分 |
※1:急速充電の未使用分は翌月まで繰り越し可。普通充電は繰り越し不可。
※2:プランに含まれる充電分数以上に使用する場合
e-Mobility Powerカードの場合
eMPカードでは「急速・普通併用プラン」「普通充電プラン」の2種類を用意しています。
急速充電を利用したい場合、「急速・普通併用プラン」を利用する必要があります。このプランで急速充電を利用する場合、1分あたり27.5円がかかるため、30分充電すると825円(月額料金は除く)がかかります。
〈表〉eMPカードの料金体系4)
プラン名 | 急速・普通併用プラン | 普通充電プラン |
月額料金 | 4180円 | 1540円 |
都度利用料金 (急速充電) |
27.5円/分 | - |
都度利用料金 (普通充電) |
3.85円/分 |
ビジターとして利用する場合
前述したとおり、急速充電を利用するなら、原則として「充電カード」が必要ですが、カードなしでも利用できないわけではありません。
eMPネットワークにつながっている急速充電器の場合、ビジターとして都度個人情報を登録すれば、充電することは可能です。ただし、緊急措置に近い対応のため、充電料金はやや割高に設定されています。
たとえば、eMPが設置した最大出力50kW超の急速充電で30分充電した場合、2310円(月額料金なし)がかかります。eMPカードの会員料金だと825円(月額料金は除く)ですから、月額料金を加味しない単純比較では大きな差があることがわかります。
〈表〉eMPネットワークにおけるビジター料金体系
急速充電 | eMP設置の急速充電器※1 | 【1~5分まで】 A:385円 B:275円 |
【以降1分あたり】 A:77円/分 B:55円/分 |
||
上記以外 | ※2 | |
普通充電 | eMPネットワーク加盟充電器 | 【1~15分まで】 132円 |
【以降1分あたり】 8.8円/分 |
||
上記以外 | ※2 |
※1:Aは最大出力50kW超、Bは最大出力50kW以下の充電器
※2:料金は充電器毎に異なります。詳細は充電器に掲示されているご案内を確認してください。
急速充電器を探す方法
資源エネルギー庁の集計によると、2023年度末時点の給油所(ガソリンスタンド等)数は約2万7400カ所5)で年々減少しています。これに対し公共の場所にある充電器の口数は、約3万2000口となっており、このうち急速充電器は約1万口に上ります(2024年3月末時点ゼンリン調べ6))。なお、政府は2030年までに現在の10倍にあたる30万口に増やす目標を掲げており、急速充電器は3万口にまで増える予定です7)。
ガソリンスタンド数と充電器の口数を単純に比較するのはフェアではありませんが、このように年々充電スポットが増えている状況のため、ある程度走行すると急速充電器を見つけることができる環境が整いつつあります。
しかし、すぐに急速充電を行う必要があったり、出力が大きい急速充電器や複数口ある急速充電器など、お目当ての急速充電スポットを探したいなら、車載ナビゲーションやアプリを利用するのがおすすめです。
参考資料
5)経済産業省 資源エネルギー庁「令和5年度未揮発油販売業者数及び給油所数を取りまとめました」
6)経済産業省「第7回 充電インフラ整備促進に関する検討会 事務局資料」P8
7)経済産業省「充電インフラ整備促進に向けた指針」
車載のナビゲーションシステムで探す
EVやPHEVの多くは、ナビゲーションシステムを活用して充電スタンドを探せる機能を備えています。最寄りの充電スポットを検索できるほか、ドライブルートを検索すると、その途中で最適な場所で充電できるように誘導してくれるナビゲーションシステムもあります。
電欠にならないよう、こまめに充電スポットを経路に入れてくれるため、多くの場合は車載のナビゲーションシステムで事足りるでしょう。
充電アプリで探す
ただし、あらかじめ調べておきたい場合や、より自由に出力の高い急速充電器を選びたい場合などは、充電アプリを利用するといいでしょう。
e-Mobility Power アプリ
eMPが提供している「e-Mobility Power アプリ」では、eMPネットワークに接続している充電スポットを地図上に表示してくれます。また、充電スポットの検索だけでなく、満空情報の確認を簡単に行えて非常に便利です。
アプリ:App Store/Google Play
運営元:株式会社e-Mobility Power
EV充電エネチェンジ
「EV充電エネチェンジ」は、もともとエネチェンジの充電器を利用することを主目的としたアプリでした。しかし、2023年6月に22万ダウンロードの充電スポット検索アプリ「EVsmart」と統合したことにより、情報量が格段にアップ。「調べる」「充電する」「記録する」ことができる総合型のアプリへと生まれ変わりました。
アプリ:App Store/Google Play
運営元:ミライズエネチェンジ株式会社
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急速充電器を効率的に利用するコツ
日常のドライブで急速充電を利用する場合は、その日計画しているドライブの距離や、次に充電するスポットまでの距離を考慮しながら、休憩する「ついで」に充電するようにするのが賢明です。
急速充電の時間は基本的に30分です。給油に比べると長く感じられるかもしれませんが、高速道路のSAで急速充電をすることを考えてみましょう。トイレに行ってコーヒーを買うとか、普通に休憩しているだけで、30分はすぐに経ってしまいます。食事をする場合にはむしろ途中で充電が終了するEVを移動しに行かなければいけないくらいの短さであることを覚えておきましょう。
また、急速充電の場合、満充電に近づくほど、充電されにくくなるという性質があります。逆にいうと、バッテリー残量が空に近いほど、同じ時間で多くの量が充電されやすくなります。
そのため、ある程度充電が残っている状態であれば、30分間フルで充電するのではなく、充電されやすい最初の10~15分間だけを利用する、という方法を用いてもいいでしょう。
以下の記事では、専門家に急速充電のコツを聞いています。ぜひ併せてご確認ください。
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【図解】急速充電器の使い方
eMPネットワークの公共充電スタンドを利用する際の、基本的な手順や留意点を例に説明します。充電カードを使用する場合、おおむね以下の手順で充電を開始します。
【充電を開始するときの手順】
充電を開始する際の手順は、急速充電でも普通充電でも基本的に同じです。充電口へのコネクター挿入と、充電カードでの認証は、順序が逆の充電器もあります。あらかじめ、充電器に掲示された手順を確認しましょう。充電を終了する際には、以下が基本的な手順です。
【充電を終了するときの手順】
充電の停止タイミングは、車種により異なりますが、満充電で停止する場合や30分など時間経過で停止する場合があります。一般的に充電中は車から離れても問題はありませんが、急速充電器は基本的に30分が上限です。充電器が停止しているのに充電スペースに車を放置しないよう注意しましょう。
なお、電子マネーやアプリ決済に対応した充電器も一部ありますが、利用料金は基本的に充電カード作成時やビジター認証申込時に登録したクレジットカードに課金されます。市役所などで独自に設置している充電スタンドで、充電カードが不要な場合には、1回500円などの利用料を担当者に現金で支払う仕組みになっていることもまれにありますが、現金払いは難しいケースがほとんどと考えましょう。
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効率よく急速充電を利用してEVライフを満喫しよう
短時間で充電ができる急速充電は、ロングドライブのときには助かる存在です。遠出や旅行の際には、車載ナビゲーションや充電アプリを活用しながら、しっかりと充電計画を立て、快適なEVライフを満喫しましょう。
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