電気自動車(EV)に興味があるものの、ディーラーで試乗するのはちょっと気が引ける、という人は多いでしょう。そこでおすすめしたいのが、手軽にEVを体験できるシェアリングサービスです。今回は、「ENEOSマルチモビリティステーション」を利用し、都市部における次世代の移動手段として注目を集める、超小型EVの試乗体験をしてみました。
- 6種類の電動モビリティが揃う「ENEOSマルチモビリティステーション」とは?
- 【体験】「乗り捨て」も可能。超小型EVをアプリで手軽にレンタル
- 【体験】EV初心者はもちろん、運転に不慣れな人でも扱いやすい超小型EVの魅力を実感
- 全国のSSを“マルチモビリティステーション”に。ENEOSが考える移動の近未来
6種類の電動モビリティが揃う「ENEOSマルチモビリティステーション」とは?
今回、超小型EVの試乗体験をしたのは、駒沢大学駅(東急田園都市線)から徒歩3分の場所にある「ENEOSマルチモビリティステーション」(世田谷区駒沢2丁目3-1)です。従来の自動車中心の交通システムに比べて、環境負荷の低減に貢献できると期待される施設で、ENEOSホールディングス(以下「ENEOS」)が運営しています。「HELLO MOBILITY(ハローモビリティ)」や「LUUP(ループ)」など、同社が出資する企業の多様なマイクロモビリティサービスを利用し、その利便性や楽しさを体験することができます。
ENEOSの担当者、未来事業部事業推進3グループの澤田拓朗さんによると、そもそも“マルチモビリティステーション”とは、自転車やスクーター、自動車など多様な移動手段を集積させることで、目的にあわせてスムーズに乗り換えができる場所を指すそうです。
「この施設は、持続可能なモビリティソリューションの提供を目指すENEOSの『モビリティプラットフォーム構想』から生まれたものです。目的地へ向かう際に、電車やバスといった公共交通機関だけではカバーできない“ラストワンマイル”の移動を、環境に負荷をかけず便利にする取り組みの一環として、2023年2月に開所しました」(澤田氏)。
冒頭でも解説したように、ENEOSマルチモビリティステーションのいちばんの特徴は、目的にあわせて複数の移動手段を選べること。この施設の場合は、電動アシスト自転車、電動キックボード、電動スクーターが各6台配備されています。施設は無人ですが、専用アプリを使うことで簡単にレンタルや返却の手続きができ、他のステーションでの「乗り捨て」が可能です。ちなみに取材時にも、電動アシスト自転車を利用する人が頻繁に訪れており、すでに街の移動手段として重宝されている様子でした。
電動アシスト自転車や電動キックボードのシェアリングサービスは、すでに珍しいものではなくなっています。ENEOSマルチモビリティステーションの注目ポイントは、それらの移動手段に加え、超小型EVも利用できることでしょう。2023年5月時点では、トヨタ「C+pod」と、FOMM「FOMM ONE」が各1台配備されていました。こちらもシェアサイクルやシェアバイクと同様に、レンタルや返却ができ、対応するステーションであれば、「乗り捨て」も可能です。
「シェアリングサービスの利便性は、乗り降りできるステーションの数で決まります。その点、超小型EVなら、普通車EVが置けないスペースにもステーションを作ることが可能です。運転も簡単で小回りが利く超小型EVは、ENEOSマルチモビリティステーションが目指す、“ラストワンマイル”の移動にも好適といえます」(澤田氏)。
キックボードや自転車、スクーターのような1人乗りのモビリティに対し、超小型EVなら複数人が乗れるほか、ちょっとした荷物を運ぶことも可能。たとえば、雨の日に駅から自宅まで子どもを送迎したい場合や、少し離れた場所にある商業施設まで買い出しに行きたい場合などに利用する、“ラストワンマイル”の移動手段として重宝するというわけです。
それでは早速、ENEOSマルチモビリティステーションで超小型EVをレンタルしてみましょう。
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【体験】「乗り捨て」も可能。超小型EVをアプリで手軽にレンタル
ENEOSマルチモビリティステーションで超小型EVをレンタルする際には、『HELLO MOBILITY』アプリを利用することになります。会員登録の手順は、他のカーシェアリングサービスとほぼ同様。利用料金の決済はクレジットカードで行うため、登録時にはクレジットカードを準備しておきましょう。
なお、『HELLO MOBILITY』で超小型EVを利用する場合には、アプリで運転免許証の登録が必要になります。登録から審査通過まで最大3日かかる(通常は数時間以内で完了する)場合がある点に注意が必要です。
審査に通過したら、すぐに超小型EVの予約が可能になります。アプリを起動すると、超小型EVのレンタルまたは返却ができるステーションが、地図上にアイコン表示されます。地図上のアイコンをタップし「ステーションを見る」ボタンをタップすると、予約可能な超小型EVの一覧が表示されるので、利用したい車種を選び「利用プランを見る」をタップし、プランを選択します。
超小型EVの利用料金は、15分220円から。今回は「3時間パック(2420円)」を選び、さらに事故の際の保険プラン「安心保障プラン(330円)」を追加しました。
予約が完了したら、1時間以内にレンタルの操作を行います。レンタルの操作も、他のカーシェアリングサービスとほとんど変わりません。強いて違いをあげるとすれば、開錠操作の後で、充電プラグを外すというEVならではの手順が必要になることくらいでしょうか。
では、いよいよ超小型EVを試乗してみましょう。
【体験】EV初心者はもちろん、運転に不慣れな人でも扱いやすい超小型EVの魅力を実感
今回レンタルしたのは、超小型EVのサイズでありながら、4人まで乗ることができるFOMM「FOMM ONE」です。
大きさは超小型EVサイズですが、規格区分は軽自動車になるため時速80kmまで出すことが可能なFOMM ONEは、高速道路の走行も可能です。ちなみに万が一水害に遭遇した際には、車体が沈むことなくある程度水上を移動できるという、非常にユニークな性能も有しているそうです。
いちばんの特徴となるのは運転操作でしょう。FOMM ONEは、ハンドルの左右にあるパドルでアクセル、足元のペダルでブレーキを操作するしくみになっています。これは、ブレーキの踏み間違えによる事故を未然に防ぐための工夫とのこと。通常の自動車とは異なる操作になるため、最初は少し戸惑ったものの、遊園地のゴーカートのような運転感覚で、すぐに慣れることができました。
スペースやバッテリー容量を考えてのことか、メーターパネルの表示も現在の速度とバッテリー残量が表示される程度のシンプルさ。その他の装備も必要最小限で、カーナビもついていません。とはいえ代替手段として、ENEOSマルチモビリティステーションでレンタルした車体には、スマートフォンホルダーが用意されており、スマホナビが利用できたので、不便に感じることはありませんでした。
実際に運転して感じたいちばんの魅力は、やはりEVならではの加速性能です。車体が小さく小回りが利くこともあり、たとえば停車中のバスを避ける際でも、スイスイとストレスなく進むことができました。
手元でアクセルを操作することから、最初は急加速、または思ったように加速できないことに対する不安がありましたが、慣れればペダルよりも繊細な制御ができる印象。敢えてたとえるなら、ゲームに近い感覚で操作できるので、自動車の運転が苦手な人には、街乗り用途として、むしろこちらのほうが乗りやすいかもしれません。細い道も安心なほか、狭い場所でも駐車に苦労しないことから、都市部の移動手段としては、特に便利さを感じるのではないでしょうか。
ちなみに、一充電走行距離は166km(NEDCモード)なので、近距離の移動が前提なら、レンタルから返却まで、充電不足で困る可能性も低そうです。
レンタル同様、返却の操作も、とっても簡単。車内のキーボックスに鍵を収納し、アプリのボタンをいくつかタップすれば、返却が完了します。
なお、返却後に充電プラグを忘れずに差し込むこと、そして簡単なアンケートに応えることを、くれぐれもお忘れなく。
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全国のSSを“マルチモビリティステーション”に。ENEOSが考える移動の近未来
このように、簡単な操作と安価な料金で超小型EVを利用できる、ENEOSマルチモビリティステーション。ただし、超小型EVのシェアリングサービスは現在実証実験中ということで、東京都内で超小型EVをレンタルできるのはこの1カ所だけです。このほか、さいたま市や神奈川県の一部に対応するステーションがあるものの、現時点では本来のメリットとなる“好きな場所で気軽に乗り降りできる”までには至っていません。
そこで気になるのが、ENEOSの今後の展望です。澤田さんによると、今回開所したENEOSマルチモビリティステーションは、超小型EVを含むモビリティ活用の未来を見据えた取り組みの第一歩だといいます。
「ENEOSは、全国約1万2000カ所のサービスステーション(SS)からなるネットワークを持っています。現在は、ガソリン車の給油やメンテナンスがSSの主な用途ですが、将来的には、マルチモビリティステーション機能を持たせることを考えています。すでに一部のSSではコインランドリーのような生活関連サービスの提供も実施しており、今後はSSで単なる給油所以上の価値を提供していきたいと考えています。進化したSSに加え、今回のようなマルチモビリティステーションを公共交通機関の近くに開所することで、環境に優しい“ラストワンマイル”の移動を実現する、ワンウェイ型のモビリティ網を構築することが、最終的な狙いです」(澤田氏)。
普及が進む電動自転車や電動スクーターに加え、EVのシェアリングサービスも拡大すれば、移動の選択肢がより拡がるうえ、環境負荷の低減も大いに期待できるでしょう。すでに全国約1万2000カ所のSSというネットワークを持つENEOSなら、シェアリングサービスの課題となるステーションの確保に対するハードルも低いはず。今後の展開に注目したいところです。
EVの試乗という観点でも、普通車の半分近くのサイズで、運転操作もシンプルな超小型EVは初めての体験に最適でした。静かな加速をはじめ、EV特有の運転感覚を手軽に楽しむことができます。ENEOSマルチモビリティステーションでの体験は、それだけではなく、環境に優しく快適なマイクロモビリティサービスの将来性を体感することもできます。興味がある人は、ぜひ体験してみてはいかがでしょうか。