【徹底討論】2024年、どうなるEV! いまEVは買い時か?

座談会 前編

「ジャパンモビリティショー2023」で各社が新型EVを公開し、年が明けるとホンダが米ラスベガスの「CES2024」で次世代EVシリーズを発表。今後数年でEV(電気自動車)の新型車が続々登場することが予想されます。そうしたなかで、はたしてEVはいま買い時なのか、それとも別の選択肢があるのか? EVに知見が深い4人の専門家にEVの買い時について議論してもらいました。

 

eチャージバナー

 

多くの人が「軽自動車のEV」を待ち望んでいた

座談会の様子

左から新庄晶太(東京電力ホールディングス EV推進室。電力供給計画の基になる電力需要の分析・予測に⻑らく携わる。2020年10月よりEV推進室に配属)。井上久男さん(経済ジャーナリスト。NEC、朝日新聞を経て独立。近著に『自動車会社が消える日』『日産vs.ゴーン支配と暗闘の20年』などがある)。岡本幸一郎さん(モータージャーナリスト。自動車情報ビデオマガジンの制作や自動車専門誌の編集に携わったのちフリーランスへ。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員)。町田吉弘(EV DAYS編集長、東京電力エナジーパートナーお客さま営業部。社内新規事業コンテストを契機としてEVのサービス開発に携わり、現在はEV DAYSを担当)。

 

町田(EV DAYS編集長)「2023年は国内EV市場に大きな動きがなく、国産の新型車はレクサス『RZ』だけとなりました。しかし、軽自動車を含めたEVの国内販売台数は前年比5割増、乗用車全体に占めるEVの新車販売割合が初めて2%台に乗りましたね」

岡本(モータージャーナリスト)「もっとも大きな要因は日産『サクラ』の人気です。2023年の販売台数は前年比約70%増の約3万7000台と1)、『サクラ』だけでEV全体の約4割を占めています。それに続くのが同じく日産の『リーフ』ですが、ひと月の平均販売台数は『サクラ』の3分の1以下にすぎません」

 

座談会の様子

岡本幸一郎さん

 

井上(経済ジャーナリスト)「地方に行くと軽EVの需要が高いことが肌感覚でわかりますし、『サクラ』や三菱『ekクロスEV』が売れているという話をよく聞きます。一方、輸入車ではBYDから日本向きのコンパクトなEVが続々登場していますよね。中国のEVブランド・BYD が日本市場に進出したのは2023年1月のことですが、12月終わりまでに約1400台のEVを販売しました。コンパクト化がEV普及の起爆剤になるかもしれません」

 

井上さん

井上久男さん

 

岡本「私も同感です。ホンダ初の量産EV『Honda e』が2024年1月をもって生産を終了しますが、ホンダに何か失敗があったとすれば、ひとつは車両価格が高かったこと。もうひとつは航続距離が圧倒的に短かったことです。いっそのこと割り切って軽自動車にし、価格を大幅に引き下げたほうがよかったように思えます。軽自動車とEVというのは非常に相性がよく、『サクラ』の人気を見れば多くのユーザーが軽EVの登場を待ち望んでいたことがわかります」

町田「2車種の軽EVはともにバッテリー容量20kWhで、フル充電の航続距離は180km。この数字を見て電欠を心配する人もいるかもしれませんが、日本では1日の平均走行距離が50km以下のユーザーが約9割を占めています2)

 

町田さん

町田吉弘

 

井上「一般的に軽EVのユーザーは経路充電を何度もする必要があるような遠方までほとんど行きません。買い物だったり、子どもの送り迎えだったりの日常使いがメインだと思います」

新庄(東京電力ホールディングスEV推進室)「家族が『ekクロスEV』を使っているのですが、井上さんのおっしゃる通りで、本当にチョイ乗り中心です。買い物や子どもの送迎などで1日に何度もEVに乗りますが、走行距離はせいぜい数十km程度。たまに遠出するときや夜間に充電し忘れたときに急速充電器を利用することがあるので充電カードも所持していますが、基本的には自宅に設置した普通充電器で行う基礎充電だけで足ります」

 

新庄さん

新庄晶太

 

岡本「チョイ乗りするなら、ガソリン車よりEVのほうが適しています。ガソリン車だと十分に暖機されない状態で走るので効率がよくなく、燃費も悪いのです。トラブルにつながる可能性も増すでしょう。それにEVなら冬場もすぐに車内を暖めることができるし、遠隔操作であらかじめ車内を快適な状態にしておくこともできます。そこは大きなメリットです」

井上「軽EVは今後、物流など商用車の分野から普及が進んでいくでしょう。ダイハツの問題の影響でトヨタとスズキの商用軽EVは発売が延期されましたが、ドライバーの負担軽減や燃料コストの削減、もちろんカーボンニュートラルを目指す意味でも商用軽バンのEV化は待ったなしです。佐川急便は日本のEVベンチャー企業や中国メーカーと組んでEVの商用軽バンを共同開発しています」

新庄「物流企業様のEV化のご支援させていただいているなかで、EVの軽バンへのニーズの高さを感じています。また、東京電力グループでも、業務用車両を100%電動化する『EV100』に参画してEV化に取り組んでいますが、軽バンを数百台所有していて、EVの軽バンが早く発売されてほしいと思っていました。来年度以降、順次導入していこうと考えています」

※非営利団体The Climate Groupの主導のもと、自社車両のEV化や充電インフラ整備などを推進する企業が集結する国際イニシアティブ

 

 

 

ユーザーはEVを選ぶか?PHEVを選ぶか?

座談会の様子

 

町田「一方、普通車をみてみると、2023年販売実績で普通車EVが約4.4万台、PHEV(プラグインハイブリッド車)が約5.2万台と、PHEVのほうが好調で、ユーザーの人気を集めています。ガソリン車からプラグイン車に乗り換えるとき、EVを選ぶべきか、それともPHEVか。この点についていかがですか」

岡本「それを考えるとき、興味深いのが2023年11月に発売されたマツダ『MX-30 Rotary-EV』です。2024年は高級ミニバンのトヨタ『アルファード』のPHEVモデルが導入される予定ですが、私はむしろ『MX-30 Rotary-EV』に注目しています」

井上「試乗会で『MX-30 Rotary-EV』に乗ってきました。ロータリーエンジンを発電用として使い、モーターのみを動力源とするのですが、そこは日産のe-POWERと同じです。車名に『EV』が入っていますが、ようはレンジエクステンダーの発想ですね」

 

座談会の様子

 

岡本「車名のとおり、マツダはこのPHEVをEVとして捉えています。ほかのPHEVモデルと比べると、エンジンだけでなく観音開きのドアを持つクーペスタイルのSUVであることなどいろいろな意味で特殊な車ではありますが、『MX-30 EV MODEL』の売れ行きが芳しくなかったのに対してPHEVモデルはどんなふうに受け入れられるのか、非常に興味深いです」

井上「ドイツ政府がEV購入時の補助金を停止し、米国ではEVの販売が停滞するなど、海外ではEVの失速も懸念されています。しかし、PHEVの販売は好調で、世界最大の自動車市場の中国でもBYDがPHEVに力を入れている。これはHEV(ハイブリッド車)がEVに近づいているということなのでしょうか」

岡本「トヨタ『プリウス』のPHEVモデルをトヨタでは“充電プリウス”と表現していたくらいで、ポテンシャルの高いHEVをベースに、バッテリーを増やして外部から充電できるようにして、ついでにモーターの出力を上げて差別化しました。一方で、もともと欧州ではPHEVをEVの仲間に入れようとしてきました。PHEVのEV走行距離が30km程度の頃には違和感を覚えたものですが、時間の経過とともにだんだん伸びて現在のように100kmを超えてくると、たしかにEVの仲間と認識していいような気がしています。電欠リスクのない、いざとなれば長距離を走れるEVという捉え方ですね」

 

座談会の様子

 

井上「そうなると、いまPHEVに乗って評価しているユーザーが潜在的なEVユーザーになっていくのでしょう。EV普及を進めたいのなら、PHEVが売れるのは悪いことではありません」

新庄「EVだけでなくPHEVも国の補助金対象車で、地方自治体の補助金やエコカー減税などさまざまな優遇措置を受けられます。また、PHEVの購入時にV2Hを導入する人もいて、EVと同じように非常時の『動く蓄電池』として使うことも可能です」

 

座談会の様子

 

町田「EVの製造コストの3〜4割はバッテリー価格といわれます。車両価格を見ると、PHEVに比べてより大容量のバッテリーを搭載するEVのほうがまだ少し高い。バッテリー価格が下がってEVの航続距離がもう少し伸びれば評価が逆転する可能性がありますが…。いまは過渡期なのかもしれません」

 

座談会の様子

 

井上「車が1人1台の地方ならともかく、東京では一家に1台が一般的です。その1台がEVだとすれば、家族でドライブ旅行に出かけたとき、途中で電池が切れたら…と考える人もいるでしょう。どうしても航続距離の心配がついて回るので、そういうご家庭はEVを選ぶことに積極的になれません。私個人は、試乗するとPHEVよりEVのほうが乗り心地のよさを感じるし、長距離を心配なく走れるのならPHEVよりEVを選びます」

岡本「現状ではPHEVがユーザーの最大公約数ということになりますね。三菱自動車の人も『当面の間の電動車としてPHEVを最適解と考えている』という言い方をしていました」

 

 

eチャージバナー

 

心に響くエモーショナルなEVが求められている

座談会の様子

 

町田「ユーザーにEVを選んでもらうには、もっと車種の選択肢が増えていき、なにより乗ってみたいと感じる魅力的な車が登場する必要があると思います。ズバリ、2024年の注目車種は?」

井上「2024年春ごろにBYD『SEAL』が発売されます。スポーツカー並みの動力性能をもつファストバックスタイルのセダンなのですが、CTB(Cell to Body)という新しい技術が採用されていて、バッテリーとフロアを一体化している。私が知るかぎり、この技術を実用化しているのはBYDとテスラだけです。

衝突事故時などの際にバッテリーから発熱する可能性がありますから、日本のメーカーは万が一を考えてバッテリーを厳重に保護します。CTBは安全性と車体の軽量化を両立させる必要がありますが、非常にむずかしい技術だと業界では言われています」

 

座談会の様子

 

井上「バッテリーが車体と一体化すると、バッテリー交換という発想もなくなります。私も当初『それで大丈夫なの?』と思いましたが、デジタルネイティブである中国のZ世代(1990年代中盤以降に生まれた世代)には、EVが壊れたらスマホのように買い換えればいいという発想の人が増えているので、一体化でいいわけです。それがSDGsなのかと疑問も感じますが、EVには新しいライフスタイルを追求するツールという側面もあります」

町田「たしかにテスラなどにもそうした側面を感じます」

岡本「テスラはハードでもソフトでも販売形態でも、他社にないものをいち早く取り入れて魅力的な車をつくり、それによってファンを獲得してきました。非常にいい循環をしていると思います。テスラ車はどのモデルも運転席と助手席の間に大型ディスプレイが設置され、そこにすべての情報と操作系が表示されるのですが、けっして使いやすいわけではないんです。しかし、一度使うとユーザーを虜にし、もうほかの車に乗りたくなくなるそうです」

 

座談会の様子

 

井上「EVは加速性能などの数値だけでなく、スマートでかっこいいとか、環境に貢献できるとか、エモーショナルな部分で訴求してきたところがあります。スマホを使っているかのような楽しさがある。BYD『DOLPHIN』などもスイッチの形状がユニークで非常に楽しいんですね。そこは機能として数値では現しにくい部分であり、感性による価値なのだと思います。この『感性価値』という意味で私が注目しているのが、ソニーとホンダが共同開発しているEVです」

町田「ソニー・ホンダモビリティが2025年の受注開始を目指して開発している新型EV『AFEELA(アフィーラ)』3)ですね」

 

座談会の様子

 

井上「ソニーの責任者を取材したとき、その方が『車もエモーショナルな部分を追求していかないといけない』と話していたのが印象的でした。ソニーはゲームや音楽を手がけ、映画もやっているので感性価値に強い。『いまの時代、機能的価値と感性価値を融合させていくようなビジネスが車の世界にも必要だから、我々はホンダと手を組んだのです』と。そのときソニーの責任者は車で移動している時間の価値を高めたいとも話していました」

岡本「車とエンターテインメントの融合ですね。そこがソニーの得意分野で、私の見たところ、ソニーの思いを車として具現化するお手伝いをするのがホンダ、というニュアンスです。

『AFEELA』は「ジャパンモビリティショー2023」に出展されていたので実車を見たのですが、自動車評論家などの専門家は『スタイリングやEVとしての新しさがない』と冷めた反応が多かったように見受けられました。ところが、一般の来場者の間ではものすごい注目度なんです。やっぱりデジタルネイティブ世代にはソニー・ホンダの世界観が刺さり、共感されるのでしょう」

新庄「たしかにモビリティショーでは『AFEELA』に行列ができていて、一般の方からの注目度の高さがうかがえました。『Apple Car』と呼ばれるAppleが開発中といわれる自動運転EVにも同じ世界観を感じます。車の移動中は時間を取られてしまいますから、その時間にエンターテインメントを取り入れればタイパを重視するデジタルネイティブ世代にも刺さりやすい。井上さんの言う感性価値は今後重要になっていくでしょう」

 

座談会の様子

 

井上「よく言われる『若者の車離れ』が進んでいるのはたしかですが、その理由は彼らの所得の問題だけではなく、心に響く車がなくなってきていることも影響しているのかもしれません。その意味でも、ソニー・ホンダが開発している『AFEELA』は日本のEVの実力が問われるひとつの試金石になると思います」

 

 

 

この記事の著者
EV DAYS編集部
EV DAYS編集部